吊り橋 -4-

山登りは楽だった。そんなに高い山ではないし、これといって急な斜面もないので苦もなく登れる。
ただ、朝比奈さんとつかさは何度も転びそうになり、その度に朝比奈さんにはハルヒと長門が、つかさには泉とかがみが支えてやってた。

バレンタインイベントがあった中腹の広場にやってきた。
「ここでいいわね」
先頭を切っていたハルヒが足を止めた。
それに倣い、俺達も足を止める。

「わぁ、街が小さいね~」
「本当ですねぇ」
「でもなんか寂しくない?」
「かがみんは寂しがり屋だからねぇ」
「べ、別にそういう意味で言ったわけじゃないわよ!」
「こんだけ葉が落ちていたら、誰だって寂しく思うさ」
「何だよ~キョンキョンはかがみの味方するわけ?」
「何よ。良いじゃない」
「おいおい、また言い合うなよ」
「……分かったわよ。キョンがそういうなら」
「ニヤニヤ」
「こなた!何ニヤニヤしてるのよ!」
「何でも~」
「もうーー!」
やれやれ。

2人が2人しか知らない争いをしているうちに、ハルヒと古泉がビニールシートを広げていた。
「ここでお昼にするわ」

プレゼントを埋めた場所の目印となった例の石がシートの片隅とくっついていた。
やっぱりお気に入りの場所なのか。

「ほら、2人とも行くぞ」
「ほいほ~い」
「あ!こなた!まだ終わってないのに…んもう!」
と文句を言いながらも終わらせる辺り、かがみらしい。

秋空の下、枯れ木を背景に弁当を食べるのもまたオツなもの……かどうかはよく分からん。だが、一つだけ言えるのは俺は春の花見の方が楽しい。
ところが提案者はなかなか楽しいらしい。
「何も花が咲いていないと楽しくないってことはないわね。こういうのをわびさびっていうの?良い味出してるじゃない。弁当の味が愛おしく感じられるわ」
と、分かったような口を聞くハルヒに対し、イエスマン古泉も
「涼宮さんのおっしゃる通りです。枯れ木も山のにぎわいと言いますか…風情が感じられますね」
と調子を合わせる。
「さすが古泉君!分かってるじゃない!」
「恐れ入ります」
「『枯れ木も山のにぎわい』というのは元々は皮肉的な意味として使われていますが、最近では肯定的な意味としても捉えられていますね」
「へぇ、そうなの?さすが、みゆきちゃんね」
「高良さんの博学ぶりには脱帽です」
「いえ、そんな」
この3人の会話は楽しくないとは言わないが、気が滅入るな。
かがみ達はかがみ達で満足しているようだ。
「こんな山でピクニックなんて、アレかと思ったけど、なかなか楽しいわね」
「うんうん、外で食べるお弁当って何となく美味しく感じるよね」
「そうそう、海で食べるおにぎりは美味しい、とかさ」
「そうだよねぇ~。
ネトゲでレベル上げしながら渋々飲むコーヒーよりもマラソンした後に飲むぬるい水道水の方が美味いのと同じだよねぇ」
「…またあんたは分かりにくい事例を」
「でも、こなちゃんみたいな気持ち、よくあるよ~。同じ水でも、マラソンした後のはとても美味しいよね~」
「あんたらって…本当似たもの同士ね」

長門は相変わらず黙々と食べ続ける。
「……長門」
わずかに振り向く。
「楽しいか?」
「…………」
5秒ほどの沈黙の後、
「……コク」
と少しうなずいた。

一見、平和に見えたランチタイム。
ここから悲劇が生まれるとは誰も思わなかった。






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最終更新:2007年12月30日 00:47
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