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彼の呼び方、彼女の呼ばれ方

「オッス、キョンキョン」
「おう。泉」
 朝。登校途中の坂道でキョンはこなたに声をかけられた。
 互いに軽く手を挙げ挨拶を交わし、キョンがこなたのぺースに合わせる形で隣同士になり歩く。
「今日は遅刻しなかったな」
「ふっふっふ。そういつまでも私を万年遅刻留年候補と考えて貰っていては困りますぜ」
「そんなにやばかったのか」
 こなたはネトゲのしすぎでここ最近連続して遅刻していた。
 さすがに担任から大目玉を食らったので今日は早く来たらしい。
「キョンキョンもどうだい? いいよー。あれは」
「遠慮しとく」
「ただ気を付けないとイケナイのはデジタル世界で自らを鍛えていると現実世界でいつの間にか周りに置いて行かれていることが」
「だからやらん。てかそんなんはよく分かってるわ」
 若干置いていかれかけていたのが目の前にいると口に出さずに心で呟いた。


 学校について下駄箱を靴を履き替える。
 すると目の前にキョンの見知った姿が見えた。
「げっ」
「キョンキョン? どしたの?」
「ん? キョンじゃない!」
 目の前にいたのはキョンの所属しているSOS団の団長であるハルヒだった。
「キョン、アンタと下駄箱で会うのは珍しいわね。あら? こなたも」
「おいっすハルにゃん」
「おいっす」
 ハルヒとこなたは挨拶を交わすその横でキョンは溜息をついた。
「あ、キョン。今から言っておくけど今日は大事な会議があるから絶対出席よ! サボったら死刑だから!」
「わかったよハルヒ」
 ハルヒは用件だけ告げるとさっさと教室へ向かっていった。
 キョンは再び溜息をつく。
 こなたはというとハルヒの後ろ姿をしばらく眺めていたが、キョンとハルヒを交互に見てこう言った。
「名前……」
「ん?」
 キョンはよく聞こえなかったらしくこなたを見た。
「いやさ。なんでもないよ。んじゃ、またね」
 クラスの違うこなたはさっさと走って行ってしまった。
 キョンも自分のクラスへと向かうことにした。


 昼休みになりキョンは弁当を食べ終わり自販機に飲み物を買いに行っていた。
 ついでに買ってきてくれと谷口から渡された小銭を手の中でジャラつかせながら何を飲もうか自販機の前で悩んでいた。
「うわ。ハバネロスープなんて出てやがる。谷口にでも飲ませるか」
 そう意地の悪いことを考えながらキョンはコーヒーを飲もうと小銭を自販機に投入した。
 搬出口からコーヒーを取り出していると会話をしながら誰かが自販機の横にやってきた。
「あ、キョンキョンだ」
「ん? 泉か」
 こなたが友人のかがみとつかさを連れて来ていた。
「あ、キョンくん。こんにちわー」
 つかさがそう陽気に挨拶する。
「ああ、こんにちわ。柊、昼休みになると姿を消すと思ったら妹の所に行ってたのか」
 そうキョンはかがみに話しかけた。
「え? ああうん」
「俺はハルヒみたいにどこかぶらいついてんのかと思ったぞ」
「涼宮さんみたいに謎な行動は起こさないわよ」
「あいつ他のクラスメイトからそんな印象なのか」
「あ、私は悪い意味で言った訳じゃないわよ」
 そうかがみとキョンはクラスメイト絡みの会話を弾ませる。
「おやおや。かがみんとキョンキョンは仲がよろしいですわね」
 こなたがそう間に現れ言った。
「べ、別に普通でしょ」
「ああ。クラスメイトの世間話だから別段仲が良いってわけでもないだろ。その逆でもないがな」
 キョンはぐいっとコーヒーを飲む。
「なあ、柊」
「なに?」
「はい?」
 そうかがみとつかさが同時に返事をした。
「あ、そうか。二人とも柊か……じゃあ、そのかがみの方だ」
「え、何?」
「この間の数学のノート、見せてくれないか。途中で力尽きてな」
「また? 全くこなたといい。まあ、いいわ。でも今度何かジュース奢ってね」
「すまんなかがみ。持つべき者はクラスメイトだ」
「う……」
 かがみは何故か顔を紅く染めて俯いてしまった。
 恐らくキョンが普通に名前で呼んだからだろう。
「……ねえキョンキョン」
 そこでこなたが意を決したように口を開いた。
「ん? なんだよ」
「今かがみって言ったよね」
「ああ」
 それがどうしたのだろうとキョンは不思議に思いこなたの話しに耳をかたむける。
「で、ながもんのことはなんて呼んでる?」
「長門」
「みゆきさんは?」
「え? ああ、高良か」
「私のことは?」
「はあ? 泉だろう」
 うむ。とこなたは頷いて言った。
「じゃあハルにゃんは?」
「ハルヒ」
「それだ」
 ビシっとこなたは指を突き刺す。
「なんでハルにゃんのことは名前で呼ぶの?」
 そう言われ、キョンは即答できなかった。
「それは……なんでだ?」
「私が聞いてんだよぅ」
 こなたは少し肩を落とし、更に言う。
「私やみゆきさんながもんは呼び捨て。今はかがみとつかさを区別するために名前で呼ぶ。でもハルにゃんは何で名前で呼んでるの?
「最初から名前では呼んでない。4月の頃は涼宮って言っていた。それが……あれ? なんで俺はあいつを名前で呼ぶようになったんだっけ……」
「特に理由無し……か」
 こなたはそう顎に手を添えて言う。
「うーん。なんでだ?」
「じゃあさキョンキョン。ここで提案なんですが」
 そうこなたが言ったところで時の鐘が鳴り響いた。
「あ、結局話し込んじゃってたんだ」
 つかさがそう言いながら時計を見る。
「わわっ。早く行こうこなちゃん」
「え? うーん。わかったよつかさ。んじゃかがみん、キョンキョン。まったねーん」
 駆け足で二人は教室へと戻っていく。
「私たちも戻りましょう」
「ああ、そうだな柊」
 一人になったからかキョンの呼び方は名字の呼び捨てに戻っていた。
 それを少し残念がりながらもかがみはキョンと教室へと駆けた。
 谷口の飲み物は買い忘れた。小銭はキョンの財布に滑り落ちていたという。
 後で返すさ。


 放課後。ハルヒの怒りを買うのは色々とめんどうなのでキョンは文芸室へ向かった。
「あれ? ハルヒのやつまだ来てないんですか?」
「はい」
 文芸部室には古泉と長門しかおらず、我らが団長様はまだいなかった。
 キョンは古泉の前に机を挟んで座る。
「朝比奈さんもまだか」
「ええ。どうです? メンバーが揃うまでこちらのほうを」
「新しいボードゲームか。いいだろう」
 それからしばらくしてみくるが顔を出し今日は外せない用事があるから出席出来ないと告げてきた。
「はい。わかりました。俺がハルヒを説得しておきますよ」
「本当にごめんなさい。それじゃあキョンくんお願いしますね」
 そう言ってみくるは帰っていった。

 それからしばらくキョンは古泉と勝負を続けていた。
 その途中ふとキョンは切り出した。
「今日泉のやつに何でハルヒだけ名前で呼ぶんだって聞かれた」
「おや。そうですか。そういえばそうですね」
「なんでだか自分でもわからん。なんか理由があったような気がするけど忘れた」
「成る程。確かにアナタは悲しいことに僕のことも名字で呼び捨てですね」
「ああ。それで充分だろ」
 キョンは視線をボードゲームから逸らさずに話しを続ける。
「泉の奴はなんでそんなことを聞いたんだろうな。あ、これ俺の勝ちか?」
「はいそのようです。……おそらくアナタが涼宮さんを特別な人として見ているのかと疑ったのですよ」
「特別?」
「はい。あなたは男女例外なく、知り合いの方を名字で呼んでいますね」
 キョンはしばらく考えてから。
「そういえばそうだな」
「その中で涼宮さんだけ名前で呼び捨てされている。泉さんはそこに目を付けたのでしょう」
「だから何でだよ」
「さあ? 僕にはそこまではわかりません」
 古泉はいつもの笑顔を浮かべゲームの後かたづけをする。
「んだよ……ハルヒの奴遅いな」
「ただ……」
 古泉がまだ話しを続けていたのでキョンは古泉を見る。
「あなたに名前で呼んで欲しかったのかもしれませんよ。彼女は」


 それからしばらくしてハルヒが台風のように現れて言った。
「今日は会議の予定だったけど調子が載らないから中止ね! その代わり明後日の不思議探しは徹底的にやるから!」
 そう言って帰っていった。
 相変わらず身勝手だとキョンは溜息混じりに洩らした。
「まあ、いいじゃないですか。では僕は帰りますね」
 古泉はそう言って軽く頭を下げ帰っていった。
 最近のあいつは妙にさっぱりしてるなとキョンは思った。
「長門、俺も帰ろうと思うが、いいか?」
「……いい。あなたが帰るなら私も帰る」
 長門は珍しく分厚い本を途中で閉じて帰り支度を始めた。
 その後校門で長門と別れ、キョンは何をしようかと考えながら歩き出した。
「そうだ、久しぶりに本屋にでも行くか」
 そう考えキョンは本屋へと向かった。
 本屋に入り雑誌のコーナーへと向かう。何か面白げな雑誌はないかと物色した後、適当に選んで漫画雑誌を一冊購入することにした。
「あれ? キョンキョンだ」
「あ? 泉」
 本日三回目の遭遇であった。
「おやおや。キョンキョンが、若き男子高校生が本屋で何を買いなさるのかなあ」
「お前が思っているようなものではないことは確かだな」
「なんだ。普通の漫画か。つまんないの。キョンキョンにはもう少し向こうに言った所にあるコーナーの漫画をお薦めするよ」
「エロ本じゃねえか」
 こなたはそうとも言うと笑った。
 手には数冊の雑誌が抱えられている。
「お前それ全部買うのか?」
「うん。最近忙しくて雑誌チェックしてなかったんだよ」
「そうか」
 レジで会計を済ませ、二人は本屋から出た。

 並んで歩きながらキョンは雑誌を開いた。
「キョンキョンはどんな漫画を読むのかな?」
「ん? 別にこだわりはないけど……というか漫画自体そんなに読まないしな」
 キョンはぺらとページを捲りながら言う。
「泉は読むのか?」
「あたぼうよ。私を舐めて貰っちゃ困りますぜ旦那」
「誰が旦那だ」
「旦那さまーん。私目を見捨てるのですかー?」
「なんだその声は」
「おや。キョンキョンは私の超キューティクルボイスに萌え萌えかな」
「たまにお前はわからん」
 キョンは雑誌を手に持ち。こなたは大事そうに雑誌を両手で抱えている。
「……なあ、泉」
「なんだい?」
「お前さ、昼に名前の呼び方の話ししたろ」
「ああ、したねえ」
「古泉がアホなこと言ってたんだがな」
 ――――名前で呼んで欲しかったのかもしれませんよ。
 こなたの動きが止まった。
 キョンは何故突然停止したのかわからずこなたを振り返る。
「泉?」
「……勘が鋭いんだねぇ。古泉くんは」
 こなたはキョンに聞こえないように呟いた。
「泉。どうした?」
「ねえ、キョンキョンは名前の呼び方にこだわりはあるの?」
「いや? 別に……」
「じゃあさ、私のこと名前で呼んでよ」
 そうこなたは言った。ぎゅっと買った雑誌に力が入り少し包装が崩れる。
「は? なんでだ?」
「なんでもだよ。私のこと泉じゃなくて、こなたって」
「はあ」
 キョンは何故突然こなたがそう言い出したのかよくわからずきょとんとしていたが。
「こなた」
 そうこなたの名前を呼んだ。
「も、もう一回」
「こ、こなた」
 こなたはうはーっと顔を紅く染める。
「お、思った以上にくるねこれ……」
 そうペチペチと火照った自分の頬を叩いた。
「大丈夫か?」
「もう一回!」
「いい加減にしろ」
 キョンはぷいっとそっぽを向いて歩き出す。
 その後をこなたは追った。
「ああん。待ってくださいご主人様ー」
「それはバイト先のマニュアルか?」
 それからしばらくして二人はそれぞれの帰路についた。
 こなたは歩きながらも先ほどのキョンの声を脳内で再生する。
"こなた"
「……えへへ」
 こなたはぎゅっと雑誌を抱きしめた。
 そしてもう一度脳内で声を再生する。
 世界で一番愛しい人の声を、もう一度。




 翌日。キョンは相変わらず坂を上っていた。
「おいっすキョンキョン」
 後ろから声がかかりキョンは振り向いた。
「おお」
 後ろにいたこなたに手を挙げ。
「よう。泉」
 と言った。
「こら!」
 ぱしっとチョップがキョンの頭に決まる。
「な、なんだよ」
「な、ま、え」
「あ? ああ。えっとこなた」
「よしよし」
 こなたは満足そうに頷いた。
 それからキョンはこなたと名前で呼ぶようになった。
 このことでまだ何も変わりはしなかったが、彼女にとって一歩前進となったのは言うまでもあるまい。
 その後、名前の呼び方が変わっていることに気付いたハルヒがしばらく二人を不審そうな目で見ていたのは別の話である。

 終わり

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最終更新:2007年12月24日 20:36
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