私、かがみ、みゆきさんの3人はつかさがいなくなった手がかりを探すためにつかさの部屋を調べることにした。
部屋に入るやいなや、みゆきさんはかがみに質問をした。
「かがみさん」
「ん?何?」
「この部屋はつかささんがいなくなった時のままですか?」
「あー…うん。私が1回部屋に入ったけど、布団を少しめくっただけで他は何もしてないわ」
「そうですか」
それだけ言うと、みゆきさんは真剣な顔で部屋全体を見渡していた。
「みゆき……?」
「みゆきさん…?」
沈黙は数分続いた後、みゆきさんは口を開いた。
「……お待たせしてすみません。では、調べましょうか」
何となく不思議な気はしたが、今はそうも言ってられない。
私達は「う、うん」とぎこちない返事だけして、部屋を調べることにした。
つかさの部屋は結構散らかっていた。どうやら棚や机の引き出しの中身を色々ぶちまけたようで、マンガや小物やお菓子などが床に散らかっていた。
「かがみ…つかさっていつもこうなの?」
「いや…そんなことないはずよ、私もそれが気になって…」
そう言いながら、かがみはゴミをまとめながら手がかりを探している。
「それにしても…つかさのやつ、よくここまで散らかしたわね…」
その言葉を聞いて私は少し嫌な考えをひらめいてしまった。
「ねぇ、かがみ…散らかしたのがつかさじゃないとしたら…?」
「え…や、やめてよ…」
「いやいやだって、つかさはこんなことしないでしょ?ということは他にした人がいるってことじゃん」
「確かにそうなるけど…」
かがみは視線を落とした。
しまった、もう少し言い方があったか。私が少し後悔していると、みゆきさんがかがみに話しかけてきた。
「かがみさん、ええと…なんて言えばよろしいのか……この部屋を荒らしたのは赤の他人ではなく、つかささんです。誰かが入ってきたのではないか、という心配はしなくても大丈夫です」
「……どういうこと?」
かがみが首を傾げる。それは私もだ。
「説明してほしいよ。みゆきさん」
「…分かりました。これは私の推測ですが」
とみゆきさんは前置きをして説明し始める。
「まず、つかささんの部屋は2階にあります。ここに外部者が侵入するとなれば…あの窓か…あのドアしかありません」
そう言ってみゆきさんは窓とドアを交互に指さす。
「ところが、窓の外枠にはホコリが積もっており、ドアの鍵穴には傷一つありませんでした。つまり、外から侵入した形跡が全くないんです。なので、誰かが侵入したとは考えられません」
「ちょっと待って、みゆき。窓はまだ分かるけどさ、ドアの鍵穴に傷がないだけで何で分かるの?その侵入者はものすごくピッキングが上手いのかもしれないじゃない」
「その可能性は否定できませんが」
みゆきさんは慌てることなく続ける。
「それでしたら侵入者は鍵穴の形を完璧に把握していることになります。ということはその鍵穴を調べるために何度か侵入していることにもなります。
しかし、侵入者はそんなリスクを犯す必要はありません。最終的な目的がつかささんの拉致ならば、最初の侵入でそれをやってしまえば良いわけですので。
このことからも、ドアから侵入した形跡はないと言えると思います」
むう…なるほど。どっかの少年探偵のような名推理を繰り広げるみゆきさんには脱帽だ。
かがみはただただ驚いた顔をしていたが、しばらくして口を開いた。
「…ということはつかさは家出したということ?」
「そうともいえません」
みゆきさんはあくまで冷静に答える。
「かがみさん、つかささんには共に失礼でしたが、こんなものを発見しました」
みゆきさんがそう言って差し出した物は銀行のキャッシュカードと通帳だった。
名義は「柊 つかさ」と書かれている。
「家出を行う人にとって一番必要だと思われるこれが残っています」
「……ということは、つかさはいずれ帰ってくるということ?」
「はっきりとは言えませんが、その可能性が高いと思われます」
「なるほどね…」
かがみは腕組みをして床を睨んでいた。だけどすぐに
「よし、こうなったらつかさの行き先がどこなのかをこの部屋から探しましょ」
「え?でも、みゆきさんの推理だとつかさはすぐに帰ってくるんでしょ?」
「いえ…推理なんていう大それたものでは…」
みゆきさんは思わず否定する。
「何言ってんのよ、こなた。あくまで推測なのよ。それに一時的に出てるとはいえ、夜中にこっそりと抜け出すってだけでも問題なんだから」
「確かにそうですね。つかささんらしくありませんし」
「だからこの部屋に何か手がかりが残ってないか、探さなきゃ。ほら、動いて!」
かがみはそう言って机の上を物色し始めた。
みゆきさんは棚を探り出す。
私は少し慌てながらも床にある本を調べていった。
数分して、かがみが私とみゆきさんを呼び出した。
「ねえ、2人ともこれを見て」
かがみが指さしたのはメモ用紙だ。
「これ、つかさが何か書いた跡じゃないかしら」
メモ用紙には…なるほど、何かを書いた跡がうっすらながら残っている。文章と絵のように見える。
「確かめてみようかしら…」
「ええ。きっと手がかりかもしれません」
「じゃあ、ここはあたしが」
私はメモ用紙の隣にあったシャーペンを取る。
「あ!こなた!」
かがみの言葉には耳を貸さず、私はメモ用紙を黒く塗り始めた。
シャッシャッシャッシャッシャッシャッ………………………………………………
浮かび上がったのは…地図だった。
地図の下は文章が何行か書かれていたが、それらを読むのはちょっと無理そうだった。
「ええと…これ、近所の地図ね…ほら、これが私達の家…これはこなたんち…ハルヒやキョン君の家もあるわね…」
なるほど、確かに線と四角以外にも、うっすらと「こなちゃん」や「ハルちゃん」、「キョンくん」といった字が見える。
「あれ?かがみ、何かおかしくない?」
「ん?どうしたの?」
「ホラ見てよこれ、ハルにゃんの家のとこ、×印が付いてる。そしてさ、ハルにゃんの家とかがみ達の家が線で結ばれてて…その線が三角形を作ってる…三角形の頂点を作ってるのがハルにゃんの家、かがみ達の家、そしてここは……」
そこまで言って私は気づいた。これ、どこかで見たことがある―そう、あれは――。
チラっと盗み見すると、かがみもみゆきさんも驚いている。
どうやらこの三角形の中心に気づいたらしい。それは私もだ。
私は地図の下の文章に目を向ける。
ほとんど読めないが、頑張って目を凝らすと――。
つかさ…本当なの…?
私はこれがつかさによる釣りだと本当に思いたかった。
しかし、私は知ることになる。これが釣りじゃないと、そしてまだこれが悲劇の序章に過ぎないことを。
最終更新:2008年01月03日 08:40