小泉の人氏の作品です
「おはよー…」
朝、疲れた顔をしたこなたが登校してきた。
見るからに猫背、少しばかり悪い顔色、覇気のない声色。
馬鹿は風邪をなんとやら、とは言うがそんなのは勿論迷信だ。
着席するなり机の上に腕を組み、それを枕に寝入るこなたを俺なりに少し心配した。
「具合悪そうだな」
後ろの席へと頭を回して声をかけた。
「いつも冷たいキョンキョンが優しい……さすがリアルツンデレ」
この野郎。人が心配してるのにボケるか普通?
「で、風邪でもひいたのか?」
「いやね、エアコンが少し調子悪いのにずっとネトゲしてたら節々が痛くてネ…」
本当に心配した俺が馬鹿だった。
「更に遅刻しそうで走ったり、眠気がヒドくて……ふぁ」
目の前で大口をあけて欠伸をするこなた。
そんなはしたない事をなんの躊躇もなくしているところから見るに俺は異性として意識されてないらしいな。
「疲れたし……眠いし……寒い…キョンキョン、アタシを暖めておくれ………」
むにゃむにゃと口を動かし、涙を目の端に貯めながら不躾な要求をする。
…で、だ。今の俺には3つ選択肢が目の前にある。
①無視する。
②真面目に要求に応えてみる。
③不真面目に要求に応えてみる。
…①は恐らくこのままコイツが寝て終わりだろう。それではつまらん。
次に②。この背もたれに掛かっているピーコートでも貸してやるか?カイロとかも。
③。いきなり抱きついて暖め…………………却下。無理。恐らくハルヒ辺りが俺を殺す。
「ふむ」
結果を考えてみると
①→このまま寝る
②→心地よく寝る
③→選択肢から外れる
既に規則正しく呼吸に合わせてほんの少し頭を上下させているこなたを後目に更に俺は考えた。
どうにも俺はこなたの世話係を兼任させられてるらしく、授業中にこなたが何かしでかすと俺に火の粉がかかる。
つまり、このままコイツが寝ていると俺はとばっちりをくらう。理不尽にも。
ならば俺は選択肢にない「無視をせずに(要求に応えて)こなたを起こす」
という無理難題をこなす必要があるわけだ。無理だ。
「…………オヤスミー」
マジで寝る気だ。
なにか対抗策はないのか?
「……………あ、」
あった。しかも俺の得意分野で。
俺の脳裏に電撃が走った。
まるで数学の難問を見方を変えたら最後までするすると解けてしまったような感覚。
しかし、これはあまりにも非道な
「……そういえばサ、キョンって言うとこまわり君思い出さない?」
いやむしろ生ぬるい。一瞬だが確かに今殺意が芽生えたぞ。
先程のためらいが今の一言で完全に消えた。
天国と地獄をみせてやろうではないか。
「あー…寒いヨ。眠いヨ。キョンキョンやい、人間カイロよ私を暖めておくれ」
「いいぜ」
「……え!?キョンキョンが壊れた!?デレ期がやっと来た!」
「…なんだか失礼極まりない事を言われた気がするがまぁいい」
席を立ち、こなたの背後へとまわる。
「では、俺のマッサージ教室を始める」
そう言ってこなたの席の背もたれを横へずらした。
「へぇ、キョンキョンってマッサージできたんだ?」
「親戚にも好評だ」
さて、今のこなたは机にうつ伏せになりぐだっ、と座りながら寝てる状態だ。
背もたれが無いので腰から背中、首筋まで晒している状態にある。
まずはオーソドックスに肩もみから入ろうか。
人差し指を首筋に当て、親指を伸ばして肩の筋肉のコリを探す。
ぐんにゃりとした少し固めのコリを発見。それを手を全体で動かし、しかし親指を軸に粘土をこねるように揉む。
「うひっ!?」
素っ頓狂な声をあげるこなた。
「どうした?」
揉むのには力が必要なのですぐに疲れる。なのでここで少し技術というか休みというか、違った動きを取り入れる。
「……気持ちいいんだけっど!?」
親指を横にスライドするようにして揉むより撫でつける、といった感じで指を動かす。
「なら問題ないだろ。大体だな」
次は首筋に当てた指を交互に動かし、首のコリをほぐす。更にその下で中指~小指で鎖骨の下から撫で上げる。
手の温かさを加えて血行を良くする手助けをする。
「肩こりとか節々が痛いってのは血行が悪いからなるんだぞ?年をとって関節がすり減ってるならともかくだな。
寒いってのもそれは体の末端で血流が滞っていて…」
両手を外側に移動。肩の関節を揉みほぐす。
それを終えたら肩甲骨の下辺りに手を添えて肩甲骨付近をマッサージする。
「わ、わかったからっ//////」
そして俺的にはメイン、背骨の両隣へと親指を移動させる。
背骨のラインに沿った隣は極楽だ。押せば命の泉湧く。
「~~ッッッ!!???」
腰の少し上あたりから肩甲骨の辺りまでか一番効くポイントだ。
このときの親指の動きを例えるなら、練り消しを親指で机にギュッと押し付けながら伸ばすような感じなのだが…まぁ、分かりづらいだろうな。
とにかく親指を押し付けながら押し込む感じだ。
「体を動かすと暖かいのはエネルギーを使う際の熱などだけでは無くだな、体の末端まで血液の循環が行われるのも大きい。
まぁ、交感神経とか」
「………っ!!!」
と、気づけばこなたの顔が真っ赤になっていた。
どうやら十二分にマッサージの効果が表れたのだろう。
ならこれ以上はする必要もない。
最後に床屋などで行う首筋に両手を組んで叩くマッサージをして終わり。
「ほい、終了だ」
「……アリガト///」
あれほど覇気のなかった顔に赤みが指し、全体的に生気が戻っていた。
随分短く感じられたが十分近く揉んでいたのか。
そろそろ先生が来る頃だろうし、俺は席へと戻った。
さて、授業が始まってから二十分が過ぎようとしている今、ちょっと生物の勉強をしようか。
まず人間には交感神経と副交感神経がある。
キーワードは「温度」と「眠気」だ。
交感神経とは興奮したとき、つまり活動中に働く。
副交感神経はリラックスしたときに働くのだ。
説明するまでもないだろうが、リラックスしたら眠くなるのはこの副交感神経が働くからだ。
交感神経と副交感神経は色々と対立していて……いや、ここから先は興味が無いなら必要ない事柄だな。
手早く言わせてもらおうか。
「寒さ」は交感神経を刺激する。
簡単に言えば寒いと眠れない訳だ。雪山で寝たら死ぬぞってのはそんな状態を超えた本当に瀕死の状態なんだ。
まだ回りくどい?ならこなたの顔でも覗き込めばいいさ。
「………………」
血行がいいと暖かくなるのはそのとおりではある。恐らく気持ちいい&暖かいで副交感神経はかなり働いていただろう。
しかし、慣れというものがあってだな。
朝のこなたは外の寒さに慣れていたからこの教室程度の寒さはむしろ暖かい部類だったろう。
しかし更に暖かくしたらどうだろうか?
「うぅ…………寒い……」
答えは目の前に。メチャクチャな寒さが襲ってくる。
隅々まで温まった体が見る見るうちに冷えていくだろう。
寒さに震えながら眠れない。
そんなこなたを視界に納めながら俺はホッカイロを内ポケットに入れ(足先にも常備)、コートを足にかけるという完全な防寒対策をしながら授業をうつらうつらと聞いていた。
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最終更新:2008年01月02日 22:34