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As far as I am here. ―1―

私が彼女の前にいる。彼女はもう冷たく重い石の下で土に温かく包まれているだろう。
科学的な見解はそんなモノだ。至極当然。そして土に帰す。
けれど、私は何故かココに来る度、『天国』なんてものの存在を信じてしまう。
どうしてだろう。
私にそんな感情があったなんて知らなかった。

――――As far as I am here.


学校なんて観察の為の潜伏場所としてしか考えてなかった。
人間とのツナガリなんて、連絡網――新しく知るべく情報の伝達の為だと思ってた。
作る笑いなんて簡単。
それは私に与えられた任務の為に与えられたスキルとも言うべきモノだから。
私も今日は人が登校する時間帯に普通の学生のように現れて、トモダチと接触し、共に登校する。
出掛けに長門有希の家の呼び鈴を鳴らしたけれどいなかった。
相変わらず彼女は気配が読めない。行動も。
たまには一緒に横に歩いてみたいとも思うけれども叶わないのかしら。

「…子?ねぇ涼子?聞いてる?」
「へっ?」
我に戻る。どうやら長門有希のコトで意識がトんでたみたい。
インターフェースとしてこれは直さないと……
「あ、ゴメン。なんだっけ?」
「もー、たまーにあるよね。ソレ」
「え、ああうん。ちょっと考え事するとそうなるのよ」
頬を掻きながら笑って誤魔化す。
「涼子の両親は今日も来れないの?」
両親?来る?今日…?何かあったっけ。
脳内で情報を結合させてリンクさせる。


ああ、そういや今日は――――参観日だった。
その間1秒掛からず。
「うん…、やっぱり忙しいみたいで」
こういうしか無い。両親なんていないのだから。
私は宇宙に存在する情報統合思念体に生み出された生命体だから。
「んーそっかぁ。涼子の両親はどんなのか見てみたいんだけどねー
    にしてもさ、涼子の両親毎回忙しくて来れないんだよね?それって酷くない?」
「そうなんだよね。でもさ、それでお父さんやお母さんの仕事に支障出たら私が後ろめたくなっちゃうから…」
「そっかぁ、親思いなんだねぇ」
私の生み出された時の性格によっては『来て欲しくない』とか単純な拒絶もあるだろうけれど、これが適切だと判断した。
凡々たる会話、昨日のドラマの話とか今日の英Ⅰの宿題の話をしてると、体感時間としては早く学校に着いた。


「ご馳走様でした」
参観日は5~7時間目の全授業。
最近はパートとかやってる母親が多く、それを考慮して3時間全てを参観日に宛ててるそうだ。
「あれ?涼子。何処行くの?」
一緒に教室でご飯食べてたトモダチの1人が問い掛けて来る。
「ああ、岡部先生が親に渡す為のプリント取りに来てくれ、って言われて」
「んじゃ、私も手伝おうか? もう食べ終わっちゃったし」
別の1人がデザートの梨を食べ終えて立ち上がる。
「いいわよ、そんな量無いみたいだし」
「ん、そっかぁ。まぁ多かったら携帯にコールしてよ?」
「うん、わかった」
そう言って教室を去った。



1階の職員室のある廊下に下り着くと、ちらほらと知らない大人がいた。
首に特別な許可証とかを下げて無いから参観しに来た親だろう。
私は表情を変えること無く、人の良さそうな顔をして職員室に向かった。

「お、朝倉。ちょっと待ってくれ」
岡部先生はちょうど弁当を食べ終えていた。狙ったんだけどね。
机の棚が鉄の擦れる音を鳴らして開く。
中には『参観した親は、生徒の名前の横にチェックをお願いします』と書かれて、出席表を書かれていた紙を表紙に束であった。
「ん、コレだ」
そう言って、一番下の紙に書かれてる内容を確認してから私に渡して来た。
「頼んどいてなんだけどな、いつも悪いな」
「いえ、私の仕事ですから」
そう言ってニコッと笑った。
つられて岡部先生も口を閉じた侭笑う。
「それじゃ、それを後ろのロッカーの上に置いといてくれな」
「はい、解りました」
そう言って、職員室を出る前に1度頭を下げて退室しようと廊下の方を向いた。


ドンッ!
「「きゃっ!」」
2つの小さい悲鳴が上がった。
振り向いて歩き始めたら、誰かにぶつかったみたい。
ぶつかった拍子に上に放り出されたプリントが上から舞い落ちる。
「いたた…あ、ごめんなさい…」
白いワンピースを着た女性はプリントを拾い始める。
「いいですよ。これくらいなら私がやりますから」
そう言って止めようともしたのだが、女性は頑なにプリントを拾う。
「いや、いいのよ。私が悪いんだし……」
まぁそれだけ言うなら拾って貰おう。そう思い、私もプリントを拾った。

「はい、これで全部かしら…」
周囲に紙が落ちてないことを確認して私達は立ち上がった。
「本当にごめんなさいね。はい、これ」
そう言って彼女が集めたプリントを手渡された。
その時に初めて顔を見た。…あれ?
「泉…さん?」
泉―こなた、だと思った。けど彼女は今日は制服を着て登校している。
コスプレ?いや、私の知り得る情報でこんなコスプレは存在しない筈…。
「え?…ああ、私はその泉の母親で。泉かなたといいます」
……母、親…?
嘘だっ!とでも言いたいくらい…失礼だが背は高く無いし…寧ろ姉妹と言われた方がよく納得出来る…
よく見ると泉さんと比べると目は穏やかで、所謂アホ毛が無い。優しそうな人だ。
「あ、そうでしたか。ありがとうございます。あ、これ貴女のです…よね?」
少し驚いたがすぐに状態を戻し、深くお辞儀して、こちらからも彼女のであろう白い帽子を手渡した。
「あ、そういや落としてたのね。ありがとう」
笑顔で応えてくれた。
「こんなことになっちゃって悪いんだけど、1ついいかしら?」
首を傾げて可愛らしく頼んで来た。
まぁ断るワケにもいかない。
「なんですか?」
「1年5組の教室って何処かしら?」
何故、と聞かれたら参観日だから、としか返せないしそりゃ当然来てる理由もそうだろうしね。
「それなら私のクラスですけど」
「あらそう♪それじゃあ…案内してくれるかしら?」
道案内人が都合よくいて良かったのか、嬉しそうだ。
「いいですよ」
「ありがとう♪」
淡々とした会話だった。

彼女は私の横を歩いていた。
身長は私と同じくらいだろうか。
「あなた、お名前は?」
「朝倉涼子です」
「あ、あなたが5組の委員長さんね」
「ええ、そうです」
「こなたは、学校ではどうなのかしら?」
よくある質問だ、と思った。
実際に聞かれたコトは無いけれど。
「とても元気で、クラスを盛り上げてくれる子ですよ」
嘘はついてない。それで実行委員とかしてくれる高良さんを内面で怒らせたこともあるけど…
「んーと…それじゃ、マイナスな方はない?」
「マイナス、ですか」
「そう。良いトコロだけ見てる親もいるけど、自分の子供のダメなトコロも見ないとダメだと思うのよねー」
親の鑑だと思えた。
最近テレビでもよく報道されてたりするけど、人間の恥ずべき行為だと思ってたから。
私はまぁスパッと言わせて貰った。
「授業中は8割方寝てますね。小テストとかもよく睡眠で潰してます。
    その割には定期考査取ってるので驚いてますが」
つっけんどんにトモダチに図星なトコロを言うように言った。
「もー、だからあれ程夜中に起きるのは止めときなさい、って言ってるのに…お説教ね」
溜め息を吐いて、腕を組む。
「あ、ここです」
着いた。

かなたさんに扉を開けて貰うと、1,2人。どこかのお母さんが既に来ていた。
扉が開くと、一斉にこっちを教室内の人が向く。
その中には泉さん――こなた、の方。――もいて。
「のわっ!お母さん!!?」
「えへへ、来ちゃった」
手を小さく振り、無邪気な子供のように振舞う彼女を見てると………やっぱりお母さんとは思えないな。
泉こなたが駆け寄って来る。
「別に来なくていいって言ったのに~」
「えーでも、やっぱり娘の違う姿はみたいから、ね?」
そう言うとこなたは黙り込んでしまった。
そのまま、拗ねて自分の席に座って俯いてしまった。
その後には通称SOS団と呼ばれる涼宮さん――観察対象――を中心とした人達、
キョン、と呼ばれる涼宮さんの彼氏的存在に、柊姉妹。高良さんが来た。
「えーっと、こなたの属するSOS団団長の涼宮ハルヒです」
涼宮さんが礼をする。
「あら、あなたが。こなたから聞いてるわ。リボン、似合ってて可愛いわね」
涼宮さんの頬が紅潮する。
「へっ?……ぁ、ありがとうございます…」
もう1度礼をした。
かなたさんはフフと笑っていた。
「あ、えーと。そのSOS団の団員その1の……キョンです。あだ名ですけど」
「あなたも聞いてるわよ。その彼女とイチャイチャしてるらしいわね」
「……へ?…イチャ…イチャ?」
キョンくんの顔も紅潮していく。
「ばっ!……こなた!!」「おい、こなた!?」
涼宮さんとキョンくんが即座にこなたに詰問すべくかなたさんの元を離れて行った。
私は、陰に逃げるようにその会話を眺めながら出席表と案内の紙をロッカーに置き、トモダチの中に戻った。

―――――
「かがみちゃんにつかさちゃん、みゆきちゃんも久しぶりね」
「かなたさん大丈夫なんですか?」
かがみが開口一番それを聞く。
「ええ、最近は治ってるみたいに具合が良いのよ」
力こぶを示すように元気良さをアピールする。
「無理はなさらない方がいいですよ?」
「いいのよ別に。それに、こなたの参観なんてしてあげたコト……無かったから」
少し悪気を見せて、床を見て発言する。
「けど……倒れたりしたら…」
「大丈夫大丈夫っ。最近ずっと立ってたりしてたんだけど、結構いけるのよ」
「それならいいですけど……」
「ほらほら、そんな顔しないでっ。みんなが笑ってくれてる方が私も嬉しいし!」
3人は深呼吸した後、いつもの笑顔を取り戻した。
「解りました」
かがみが先に言う。
「ほら、それじゃこなたのトコロに行ってあげて。授業始まっちゃうけど」
「それでは」
みゆきが頭を下げて、3人はこなたの元へ行く。
こなたの前には2人のバカップルがこなたに詰問していたわけであったが。
―――――

チャイムが鳴った。7時間目終了の音だ。
私は7時間目の担当数学の教師に対して敬意を払う挨拶の号令をする。
泉こなたの方を見ると、3時間睡眠を抑えてたからか、持久走でもやり遂げたかのように疲れてる。
1日の授業が終わると、SHRを残すだけとなるので親は皆帰る。かなたさんも教室を出て行った。
「……。…おーし、ホームルーム始めるぞー」
扉を開けて岡部先生が入って来た。
入った始め、泉こなたの方を見てたので多分すれ違いざまに私と同じ感想を思ったのだろう。
後は何事も無くSHRは終わった。敢えて言えば、泉こなたが爆睡してたくらいかしら。
「ねぇ涼子。今日これから暇?」
授業が終わって教科書をカバンに入れていると1人が話し掛けて来た。
「あー…ごめんね、今日はちょっと…」
「んーそっかぁ。んじゃあまた今度ね」
詮索してくれない良いトモダチで助かった。
「うん、また誘ってね。本当にゴメン」
「いいって、忙しいんでしょ?」
そう言って彼女は去った。
一息ついて改めて鞄の中身を確認した後、私は自席を離れ、教室を出た。

忙しい、と言っても何をするわけでもなかった。
何となく、断った。
普段から付き合ってるからたまにはいいだろうと思っただけ。
することと言えば買い物くらい。
あとは宿題くらいか。
別に解らないわけないから困らない。
"作る"為に、出来る人間としている為に、やらないといけないからやるだけだ。
食事は別。
人間の要素がある分、こういうトコロは人間と同様になっている。
「今日の献立……何にしようかな」
一人帰り道、そんなこと考えてた。
長門さんも栄養を摂らないと――別に大丈夫だろうけれど――いつもレトルト製品ばっかみたいだから。
近所付き合いとして何ら至極普通だし。
「カボチャ、にしようかな」
橙色の空を見て思った。
時期的には遅いかも知れないけど美味しいし。
よし、そうしよう。
直接私はスーパーによることにした。

「カボチャカボチャ……えーと…どれがいいかしら…」
かごに鞄を入れて持ちながらカボチャを品定めする。
「ついでに肉野菜炒めでもしようかな。味気無いし」
スーパーは目的以外を欲しくなる魅力がある。
たとえインターフェースでもやはり限定と聞くと目がいくし安いと手に取ってしまう。
夕暮れの時間帯、スーパーも掻き入れ時。
店員も忙しくメガホン片手にヒトを呼び掛ける。
広いスーパーの特定箇所に群がる人を見るといつも驚く。
「いつも大変だなぁ。買う人も売る人も」
今日は何の特売品かしら。耳を傾ける。
《本日の特売品!特売品はぁ!牛肉!!全品5%OFF!》

躊躇わずに群集に突っ込んだ。


《完売ぃ!完売となりました!》
相変わらず死闘だな。
普段力仕事をしない女性の何処に力があるんだろうか。
私は5パックの牛バラ肉をかごに入れてふぅ、と息を吐いた。
流れで取り過ぎてしまった。
そんな食べないのに……長門さんは食べてくれるだろうからいいか。

切り替えて、前を見ると、溜め息を吐く長い蒼髪の女性がいた。
アホ毛がない白いワンピースは……
「かなたさん?」
泉かなたの横にまで歩き、声をかけた。
「はい?……あ、朝倉さんね、お昼ぶり」
近くで見ると尚更元気の無さが伺える。
「どうしました?」
「今さっき特売があったでしょ?買い逃しちゃって…」
彼女は困りながらも笑う。
「牛肉、要ります?」
「え?あ、別にいいわよ」
「取り過ぎたんで、私はいいですよ」
泉かなたは少し悩んで
「それじゃ頂こうかしら、ありがとう♪」
私は3パック渡した。
それでは、と一礼して挨拶して去ろうと思った。
「朝倉さん」
声を掛けられて、出来なかった。
「はい?」
「もし良かったら……ウチで晩ご飯、どう?」
人差し指を伸ばして泉かなたは言った。
「どうせ4人分作るんだし、お礼もしたいし――ね?」
返事に困った。
お礼なんて別に要らないと思うんですが…代わりに買ったわけでも無いのに。
私と会ったのは今日学校が初めてなのにどうしてだろう。
「あ、嫌ならいいんだけどね」
……これはよくある強制イベントかしら…
というかこれで断るのは人間(違うけど)としては駄目よね、
「いや、かなたさんがよろしいのなら……」
「じゃあ決定ね♪」
小さく跳びはねて喜びを表現する。
かごが重かったのか少々バランスを崩してた。
何がそんなに嬉しいのだろう。解らない。
「ご馳走になります」
深く頭を下げた。


「それじゃあ、すぐ来てね」
買い物を終えた後、店前で彼女とは別れた。
人の家にお邪魔するのに無駄な荷物を持って行きたく無かったから。
今は一人帰り道。
「……長門さん、どうしよ」
あそこまで言われると断れなかったから受けたのだけど、長門さんの存在を忘れていた。
カボチャ煮付けて渡すだけなのも…なんかね…。
しっくり来ない。
どうしようか。
うーん……
悩んでるとマンションの前の道、向かい側から長門さんが歩いて来た。
「あ、長門さん。実は…」
「私は涼宮ハルヒ達と共に夕飯を食べることになった」
長門さんは私の胸元の校章辺りを見ながら暗記した文を読むように言った。
「そ、そう。ならいいんだけど」
取り越し苦労だったようだ。
知り合い――それ以上の繋がりだけど――が孤独に食べてるのはなんか嫌だったから。
「言いたいことがある」
近付いて真っ直ぐに私の眼を見て言って来た。
「何かしら?情報統合思念体から?」
周囲には誰もいないのは解ってる。
「違う、私個人の見解から。」
思わず眼を見開いた。
「? どうかした?」
首を傾げられた。
「い、いや何でもないわ。で、何?」
「深く入らない方がいい」
謎めいた一文だった。
「入らない、って……プールか何か?」
でも秋風も過ぎるこの時期にプールなんて……
長門さんは首を横に振る。
「いずれ、解る」
そう言って、長門有希はマンションに入って行った。
「あ、明日はカボチャするからねー!」
私は長門さんにそう告げといた。
駆け寄ればいい、と後から思ったけど。
長門さんは私の声に反応して一度振り返り、また前を向いて歩き出した。

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最終更新:2008年01月03日 21:33
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