ちょっとしたこと

七誌◆7SHIicilOU氏による作品です。

 

 

さて、突然で悪いのだが俺は今非常にお菓子が食べたい
それも、何でもいいわけじゃなく
『何を食べているのかと聞かれた場合にそのお菓子の名称以外答えられないお菓子』という
よくわからない物が食べたいのだ
まぁ諸君にはこれを言ったところでいまいちよくわからないであろうことは承知であるからして
いくつかの例を出そうと思う
例えばコンビニでよくみかける、「かむかむ○○」なんてものを食べてるときに
何を食べているのかを聞かれた場合そのまま「かむかむ○○」と答えるであろう
またシゲ○ックスやポ○フルなどに関しても同様のことが言えると思う
つまりこれらの共通点を挙げると、身体に悪そうなよくわからないお菓子が食べたいのだ
なんとなく、理由がなくこれらが食べたい訳なんだが
いやはや、なんとなくというのは恐ろしい、強く惹かれる上に理由が無いため
当然抵抗するための防衛策も取れないのだからな

しかし現時刻はあと五分を持ってして日付が変わる頃合で
この時間帯に空いている店などそれこそ前述のコンビニくらいしかないのだが
一応首都圏内ではあるものの、いまだ中途半端な開発しかされてない我が生活圏には
悲しきかな、自転車を転がしてこの寒空の中を10分以上かかるというのだ
決して寒さに弱い訳では無い俺だが、それでも雲ひとつ無い冬の鋭い空気を頬に感じると
やはりそれなり以上に躊躇してしまうのである
どうしたものか本気で考えていると、愛用の腕時計がピッと一時間毎の電子音を鳴らした

どうやらこんなくだらない実にもならない思考に五分の時を不様にも消費してしまったらしい
そこでどっちつかずで優柔不断である俺の背中を押してくれる事実が現れた、曜日である
俺の腕時計はデジタルのため時間だけでなく年月日+曜日が一目でわかる仕様になっている
そして目に入った変わったばかりの曜日は木曜日、これはつまり数分前まで水曜日だったことを表す
いや、別に平日で明日が学校だと焦るわけじゃない、決して無い
それは今が年始であり、つまるところは冬休みという学生時代ならではの長期休暇中だからだ
べつに学校をあきらめて開き直ったわけではないことをここに明記しておく、よく覚えておけ
そもそも俺は確かに成績は芳しくないがそこまででは……、話が逸れたな戻るぞ

えっと、確か曜日の話だったよな?
そうなぜ木曜日と表記された時計が俺の背を押すのかというとだな
水曜日に俺の読んでいる週刊誌がでるのだ、先々週が合併号だったため二週間ぶりになるのだが
いやすっかり忘れていたわけだが、これを理由にして一緒になにか菓子を買ってくるとしよう
この二つを盾に自分を誤魔化せば深夜に出かける決心が作ってもんだ
俺は一人頷いてからいつもの上着を羽織って、ポケットに財布と携帯、あと鍵を入れておく
おっと、一応財布の中身を確認する、…こうなったら古泉の言う割のいいバイトにでも頼ろうかね
いや、それは少し気が早いな、何があるかわからないもんに手を出すほどには切羽詰ってない筈だ…
だめだこのまま独白を続けていると話が逸れてかなわない、とっとと家を出よう
俺は首を振った後にもう一度頷いてそっと音を立てないように部屋を出た

妹は熟睡していても些細な音に敏感だから困るな
あいつが起きれば必然的に母も起きてなんかしらの詰問を受けるのは明白だ
靴下で忍び足をして階段を下りる、当然真っ暗に程近い明るさではあるものの
そこは生まれ育った我が家、目をつぶって歩けるなら暗闇でも条件は同じさ
つまるところ無問題ってやつだ、力を入れると軋む段がどこにあるかも記憶している
俺は意味も無く誇らしげに地雷の埋まった段をとばして降りようとすると
ズルッ、と靴下で片足爪先立ちをしたためか思いっきり足を滑らした
咄嗟に手を伸ばして体制を整えようとしたものの
人間は平行感覚の大半を視覚に頼っており、俺もその例外ではないので暗闇では体制を整える隙も無く
そのままガンッ、と鈍い音を立てて後頭部を角に強かに打ちつけた
だがしかし、今の俺には妹が起きるかどうかといった考えはぶっ飛んでいて、ただ痛みに呻いていた
幾拍ほどたったのか、痛みが薄れるころにはそれなりに思考も戻ってきて、妹に危惧を抱いたが
呻いてる間に来なかったことを考えるとなんとかやり過ごしたのだろうと安堵する
こんどキーホルダーに安いペンライトでもつけとこうと決心して
残った玄関までの道を先ほど以上に気をつけながら歩く

靴が見えないので玄関をあけると、月光と共に冷気がいっせいに雪崩れ込んできた
俺は身震いをしつつ、靴をはいてそっとそとに身を躍らす
ここまできてやっと普通に息が出来るというもんだ
俺はいままで息を殺してた分深呼吸をした、吐いた息は数瞬の間その身を白く彩らせて中を舞う
関係ないが北極とか言って深呼吸をしても白くならんらしい
確か息が白くなるほど空気が汚れてないとか言ってたが、よくわからんしどうでもいい
自転車を門から出して鍵をかけて跨る、露がおりてサドルが湿ってるが跨った後じゃ遅かった
二度三度ブレーキを握り締めて、足に力を込めて前に進みだす
そういえばストップウォッチ機能使って時間計ってみればよかったな
…帰りにするか

 

キー、と地面にタイヤをこすり付けて小さな駐輪場にチャリンコをとめる
数分の買い物とはいえ、それで痛い目見た友人をそれなりの数見てきた俺は鍵をキチンを閉める
だからといって俺が特に防犯意識があるわけじゃなくて、ただ単に習慣になってるだけだったりする
たった数分の間に赤くなった指先を眺めて、急いで店内に入ると

ピンポロー
来客を知らせるチープな電子音が店内に鳴り響いた、こんなに音がでかかったかとも思うが
深夜で人がいない所為だとすぐに答えを出して納得する
俺は雑誌のコーナーと菓子のコーナーどっちを先にするか逡巡したものの
本は買うこと決定済みなので、悩むであろう菓子コーナーに先に足を向けた
そこにはコンビニゆえの俺が求めていた類の菓子が所狭しと並べられていた
時間が時間だからか、棚にあるものはみなキチンと並んでおり
品だししたばかりな感じが出ていたりした
さて、どれにしたものかね、安易に選んでやはりもう一方にするべきだったと思うのは
俺的にもっとも最悪のパターンだ、ここは慎重に行くべきか…

ピンポロー
ん、この時間に客か、なかなか物好きな奴だ
まぁ俺もだが、俺には俺なりの理由ってものがだな…いやそれは今の人も同じだろうな
うむ、多少頭に異常を来たしてるかも知れん
顎に手を当ててまた思案し始めると
「あっ、やっぱキョンがいた」
かがみだった、なんてこったこんな時間にこんな所に来る物好きは俺のクラスメートとな
「それをいったらあんたもでしょうが」
「まったくその通りだ、返す言葉も無いとはこのことだな」
かがみはクスクスと笑っていたが、ここでふと先ほどのかがみの台詞に引っかかりを感じたので
逆転風に言うところの、コマンドゆさぶりをかけてみることにする

「待った!お前今やっぱ、っていったけど俺がいることが予想できたのか?」
俺は腕をビシッと伸ばして鋭く言う、決まったこれでは動揺せずにはいられまい
だが、かがみは俺の想像と違い普通に答えた
「うん、あんたの自転車があったからね、ってかあんまり大きな声出さないほうがいいわよ」
怒られてしまった
俺のほうが若干動揺してしまったので、適当に相槌をついて話を切り替えることにした
「かがみは何を買いに来たんだ?」
「眠れなくてね、ラノベ読んでたら喉が渇いちゃってさ、あんたは?」
「俺も似たような理由かな、ただ今週の分買ってない週刊誌があったからそれもついでに」
「ついで?」
「適当に菓子でも買ってこうと思ってたのが、大本だ」
自分が来た理由を曖昧に誤魔化そうとしたら、即効で追求されて吐かされてしまった
きっとかがみは俺よりもよっぽど逆転をうまくクリアするに違いない、プチおたくだしな
まぁそのかがみは、俺の理由を聞くとふぅん、と言って棚に目を向けた
しばらく俺はかがみを、かがみは棚を見ていると
「あった!これ、おいしいから食べてみなさい」
そういって黄色い袋のグミを俺に押し付けてきてニコニコしていた
「悩んでたってことはどうせどれにするか決めてなかったんでしょう?
 だったらいい機会だから食べて見なさい、拒否権は認めないわよ」
顔は笑顔だが有無を言わせないその迫力はどこかハルヒに似通っていて
俺は結局その提案を無言のうちに飲み、その後その菓子と週刊誌を取ってレジに向かった
レジにぽんとその二つを置くと、方向的に表紙の巻頭グラビアと同じ見知らぬ女性と目が合った
どことなく気まずくなった俺は店員が来る一瞬の間に雑誌の向きを変えて物言わぬ視線から逃げた

ピッ、という無機質な音の後に
「――円です」
店員の金額を告げる声、俺は小銭のみで重い財布を取り出して言われた金額ぴったりを出した
レシートを受け取って財布にしまいながら横に退くと
かがみが両手に紙パックのジュースを3本持っていた
俺の視線に気がついたかがみは照れたようにしながらレジにそれを置いて、弁解するように
「こっちのほうが得じゃない」
小さくつぶやいてそっぽ向いた
そんな態度を見て微笑みながら、俺はかがみの会計が終わるのをまった

本来別々に来た俺達だから、先に帰ろうと関係ないはずなのだが
なぜかそうすることに躊躇いを覚えての行動だった、そしてそれは多分間違いじゃないと思う
かがみと店員が小銭のやりとりをしたあと、二人でコンビニをでる
長い間中にいた所為か、そとがまた寒く感じるがこれは仕方ないのだろうとあきらめる
はぁ、互いの息が白くなり消えていくだけで他に俺達に会話は無かった
鍵を開けて自転車の前かごに荷物を放り込むと
「じゃあ私こっちだから、キョンまた始業式のときにね」
そういってかがみは俺に手を振りながら先に自転車にまたがって行ってしまった
関係ないが後ろをみながら片手運転は非常に危険だとこころの中で忠告しておこう
かがみの自転車のストロボが見えなくなってから俺も自転車に跨り自宅へ急いだ

気がつけば既に40分経っており、帰路にて+10分以上確実に加算されるのだ
計一時間もこの時間帯に外に出てるのはまずいだろう、きっと
別に誰かに何か言われるわけじゃないのだが、それでもなぜか気が逸る
たって勢いをつけながら来た道と同じ道をひた走る、そういえば時計で計るのをまた忘れたな
苦笑いとでも表現するのが適切であろう表情を貼り付けてこぐ

おかげで多少汗ばんだが、来たときの半分近いタイムを出した
いまはまったく寒さを感じないが、汗をかいたときが一番危険なことを知ってる俺は
とっとと荷物を持って家にもどり一息つく
バタン、そして聞こえてきたのは玄関の閉まる音、手で押さえるのを忘れて入ってしまったのだ
脳が危険信号をだすのと同時に、ぺたぺたと小さな音が迫ってきた
俺は今から靴を脱いで部屋に上がって寝たふりをするのは不可能だと理解してしまったので
ため息をついて、普通に靴を脱ぐことにした
すると、洗面所からすぐに妹がひょっこり顔をだして嫌な笑みを浮かべるのだった
妹はなぜ?とかどこに?とかをまったく聞かずにただ
「なんかちょーだい」とばかりに俺に向かって両手を差し出したのだった

俺は一瞬躊躇するものの、背に腹は変えられんと唯一妹に献上できるもの
つまりかがみに選んでもらったあのお菓子しかないのだった
本来の目的を考えるならばこれを妹に差し出しては本末転倒も甚だしいのだが
いやはや、深夜の無断徘徊が親に知られるのと天秤にかけるとわずかの差で俺は菓子を妹に渡した
えへへ、と天使のような笑みを俺に浮かべて音も無く踊りながら部屋に戻る妹の将来性を憂いながら
仕方なく残った週刊誌を脇に挟んで階段を上った
もはや最大の敵である妹の脅威がなくなってる俺は足音に気をつけることも無く部屋に上がった
ドアを閉めるときにだけ多少気を使い、本を机に放ると俺は早々に着替えてベットに横になる

まったく、結局骨折り損って奴になってしまった
これで菓子オンリーの買い物だった場合、俺はこんな時間に妹のために菓子の買出しをしにいった
なんとも妹思いの素晴らしい兄で終わってしまうところだったぞ

悶々とした思いを仰向けになって視線と共に天井に浴びせかけていると
床の上着から調子外れな音楽が流れはじめた
俺はあわててベットから跳ね起きて携帯をとりだすと、メールのようですぐにやんだ
ほっとしてメールを開封すると、送信者はかがみであった
『さっきのお菓子食べてみた?』
…スマンかがみ、せっかく選んでもらった菓子は妹に穫奪されてしまって欠片も口に含んでないのだ
ここは嘘をついて適当に返事をするべきか、本当のことを言うか
選択肢は二つ、いや寝たふりをしてスルーもあるが、やはりここはキチンというべきだろ
変な嘘をつくと後で自分の首を絞めることになるからな
『すまない、妹に強奪された』
端的に説明するならこんな感じだろうかね、送信っと
ふぅ、と携帯をたたむとすぐにまた受信音がなった、マナーにしとけばいいというのに
まったく俺の要領の悪さも堂にはいってきたな、ってかそれにしても返信早いな流石女の子
『馬鹿』
…うむまた怒られてしまった


結局そのあと謝りメールを折り返し送ってみたのだが返事はなく
俺はもやもやしたまま眠りにつく羽目になった

 

ブーンブーン
『メール受信中』

『一件柊かがみ』

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年01月25日 14:12
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。