止まったセカイ

 とある日の放課後。季節は真っ赤に彩られた紅葉が美しい秋真っ只中。程よくひんやりした空気が気持ちよい…
なんて事は勿論なく、まだ10月の29日だというのに激しく寒わけで、
もうコート無しじゃ外を歩けない程であったそうな。
しかしそんな寒い中でもうちの団長様は当然ながら休むことなど知らず、
団活が無くなることは無い訳であって…結局何が言いたいのかというと、少しは休みをくれというわけだ。
まあ、そんな弱音を吐いたところで今日の団活は始まってしまっているので意味はないがな。
さて、ただ今部室にはSOS団の面々だけでなく、泉、つかさ、高良、あやの、みなみ、小早川、田村達も来ていた。
ちなみに今日俺は珍しく部室に一番乗りで、みんなが来たのは4時半頃だった

 みなそれぞれが好きなように過ごしていた時、漫画を読んでいた我らが団長様が突如こんなことを言い出した。
「時間を止められたり操れたりしたら良いのに…」
おいおいおいおい。そういう発言はお前の場合まるで洒落にならんからマジで止めてくれ。
見ろ、これには古泉だって苦笑い。朝比奈さんに至ってはガタガタと震えてらっしゃるぞ。
あ~朝比奈さん。そんなに震えられると危ないですよ湯呑みが…
と心配したその矢先に、ポロッと湯呑みが机から落ちて、床に激突する瞬間…
湯呑みが空中で止まった気がした。何故気がしたなどという曖昧な言い方なのかというと、その瞬間に俺の意識はブラックアウトしたからである。

『……ン…ん…きて…』
……ん?
『キョン…ん起…て…』
んん?誰だ?
『キョンく…起きて…』
もう少し寝かしてくれぇ
『キョンくん!!!起きなさい!!』
むおっ!

誰かは知らないが女の人の大声が突然上がり、どうやら気絶していたらしい俺は正気に戻った。

 しかし正気に戻ったのは俺1人のようで、俺の周りの人間は揃って全員異常状態であり、その状態を端的に表現すると
誰1人として1ミリたりとも動かないのだ。いや、誰とかいう問題ではない、
先ほど机から落下した湯呑みを見てみると空中で静止していた。
この状況に心当たり有りまくりの俺は取り敢えず部室を出て校舎についている時計を見た。
はあ…やれやれやっぱりか。どうやら世界は俺の予想した最悪の状態になっているらしい。
そう、世界は今時間ごと止まっていたのだ。勿論ハルヒ奴が変な事言ったせいだろう…
空を見ると空中でピクリともしない鳥達や、動かない雲が有るため、これは非常に不気味だった。

取り敢えずただの人間である俺がこの状況を打破する方法などまるで思い浮かばないし、
手に負えないので暫くは俺以外にこの止まった世界で動いてる奴は居ないか探してみる事
にした。どうやら頼りの長門の奴も動けなくなっていたようだしな…

 大体1時間ほど歩いただろうか――時間が止まっているのに1時間というのは変かも
しれないが――これといった収穫も無く、俺は校庭の芝生の上で寝そべっていた。結局
俺以外に動いている奴は誰も居ないようで、俺は半ば諦め状態で不貞寝していた。
そもそも何故俺だけがこの中で動けるんだ?全く意味が分らん。ああめんどくさい。
このまま寝ちまうのも良いかもしれないな…
 そんな事を考えているとだんだん意識が遠のいていき、またも俺はまどろんで行った。
と、その時。突然俺の頭の中で声がした。
「おいっ! キョン吉てめー何また寝ようとしてんだよ!」
騒がしくもどこか心が和むような、そして俺の良く知る声だった。
「いま動けるのはお前しか居ないんだからお前が何とかするしかねーだろ!」
そうだ、この声は………みさおか!?
俺はがばっと起きて辺りを見渡す。しかし近くにみさおの姿は無かった。当然だ。さっき
そこらを歩いていた時に、チラッとだが動かないみさおを確認している。しかしみさおの
事が気になったので、とにかく俺はみさおのところに行く事にした。

 みさおの所に行くと、やはりみさおはさっきと全く同じ姿勢のまま立っていた。部活中
だったのか、みさおはジャージ姿であった。やっぱり他の奴らと何も変わらない。

しかしこいつ…

何故か俺はまじまじとみさおを見ていた。本当に何故かは分らないが俺はひたすらみさおの
姿を見続けていた。普段はこんなにじっくりと見る機会は無いからかもしれん。そうだな。
折角だしじっくりとコイツの顔を拝んでやるか。みさおは当然表情も止まっていて、優しく
微笑んでいた。

あれ?こいつってこんなに……む?

 と、みさおの顔のある部分が俺の目に止まった。そこは健康的な薄いピンク色で、とても
柔らかそうに見えた。そう、いわゆる唇で…って、なんて事考えてんだ俺は! 変態か
このヤロウ。相手が動けないのを良いことに無断で唇を奪おうなど…
しかしどんなにソコから意識を遠ざけようとしてももう俺はみさおの唇に釘付けだった。

なんだろう…なんかもう、我慢が…
 そして俺は……

「……ん…」
「…ん……ふぇ?」
「……ん? って!!」

 なんと言うことだろう…結局俺はみさおにキスをしてしまい、そして俺がみさおに口付け
をしている間にどうやらみさおの時は再び刻み始めたようで、目をまん丸にして驚いた表情
をつくり、真っ赤な顔で俺の事を見ていた。かくいう俺の顔もトマトの様に真っ赤なんだろうがな…
ちなみに、みさおは動き出だしたが、他の奴らはまだ止まっているようだ。
「ぇ? ええ? キョッ、キョキョキョキョキョキョ」
「え、と……すまんかった!!!」
 何が起きたのか分らずひたすら狼狽し続けるみさおを見るのに耐え切れなくなった俺は
思わず逃げ出した。なんて最低なヤロウだ俺は! 友達の唇を奪っておきながらそのまま
逃げ出しちまうんなんて……っ!!


「っ!!? ぐわっ!」
 逃げ出した俺に突如訪れる浮遊感。ふわっとした感覚の後、地面に叩き付けられる俺。
何が何だか分らないまま仰向けに倒れた俺を襲ったのは、さっきも味わったばかりの唇への
柔らかい感触だった。そして目の前には、目を閉じて俺にキスをしているみさおの姿があった…
「……ん…」
「…んちゅ……んん…」
 俺たちはお互いにお互いの唇の味をじっくりと味わった。その時は本当に時間が
止まっている様な感覚に陥った。いや、実際に止まっているんだが…
「ん…ぷはぁ……はぁ……はぁ…」
 そろそろ呼吸が苦しくなって来た頃に、俺たちはお互いに口を離した。(恐らく10秒ほど
の間の出来事だったんだろうが、俺には何分もそうしていた様に感じた)
「はぁ……はぁ…さっきの、お返しだ…」
 みさおは荒い息のまま言い、そのまま立ち上がった。俺もそれに習い立ち上がった。
「……ったく、乙女の唇を勝手に奪いやがって」
 みさおはそっぽを向いて吐き捨てるように言った。やっぱり怒っているのか…
当然だな。これでコイツに嫌われてしまっても俺は何も文句が言えない。

「ま、それでも初めてがキョンで嬉しかったぜ!ありがとぅな。キョン」
 みさおは振り返ってそう言った。その時のみさおは、にっと心底嬉しそうな顔で笑って
いた。その時俺は本当にみさおのことを何の掛け値なしに可愛いと思った。
 なんて事を考えていたのがいけなかったのか、みさおはいきなり俺を突き飛ばした。
その先には池が…
「おいみさ――」
「涼宮に漫画を読ませんな。絶対だからね」
みさおの意味の分らない言葉を聞きながら俺は池に落ちた。最後に見たみさおの顔は酷く
寂しそうな顔をしていた。
 次の瞬間、俺は気付いたら俺は部室の机に突っ伏していた。
携帯を見てみると10月28日16時10分だった。他の団員たちはまだ来ていない。
 アレは夢だったのだろうか……?しかしそれにしてはリアルな夢だった。キスの感触も
まだ…
 と、その時。ふと俺の目に入った物があった。団長席に置かれた漫画だった。
確か夢(?)の中のハルヒもこれを読んでいたな。
『涼宮に漫画を読ませんな。絶対だからね』
 みさおの最後の言葉を思い出す。
「ま、一応従っとくか」

 俺はみさおの指示の通りにハルヒに漫画を見せないように隠しておいた。その効果なのか、
その日は時間が止まるなんてことはなく、平和な一日が過ぎた。
 更に付け加えるとこの日の活動は、団員達が来た時間から、それぞれが取った行動まで、
俺が夢の中で体験したものと一緒だった。ハルヒが漫画を読んで時を止めた事以外はな。
本当に不思議な夢だったな…

 しかし、まだ解決していない事がある。一つは、あの夢みたいなものはなんだったのか?
そしてもう一つは、あの夢の中のみさおは何でハルヒが時を止める原因を知っていたのか。
これを知る事になるのはまだ先の話で、ここではまだ話せない。ま、機会があったらその時
にでも話すさ。

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最終更新:2008年01月12日 02:23
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