まんじりと…

七誌◆7SHIicilOU氏の作品

 

 休日、やることもないので
ボケッと午後の陽気を全身に受けてベランダに寝転がる俺。
この辺りは比較的人通りなので、雑音に邪魔されること無くこうして日向ぼっこに浸ることが出来る。
チチチッと小鳥が囁き会う鳴き声が心地よく聞こえる、
釣られて直射日光を避けるために顔に乗せていた腕を少し避けて空を覗けば
雀が五羽ほど電線に乗っかってきょろきょろとしていた。
立ち上がって手を伸ばせば届くんじゃなかろうかと思えてくるほどの近さ、
ふだんあまり見ない小鳥の姿を眺めて俺はまた寝転んだ。
のと同時に、来訪者を知らせるチャイムが聞こえてきた、
のそのそと匍匐前進の要領でベランダから顔を出して
玄関の前に居るであろう来訪者をこの場から見下ろしてみる。

「おぉ、高良じゃないか」

 俺が呟くように言った台詞は思った以上に大きかったらしく、
下に居た高良みゆき当人にも届いてしまったようで、
一歩後ろに下がって頭上にいる俺を見上げてきた。
太陽が眩しいだろうにすみません。

「どうもこんにちは、キョンさん」

 しかし彼女は気にした様子もなく俺に微笑みかけてきた。
この陽気に浸ってたとき以上にその笑顔に癒された俺は
ちょっと待ってくれ、といってすぐに一階に下りていった。
現金なのはよくないが素直なのは歓迎すべきだと思う。

――――


 俺以外に誰も居ない家に、麗しき乙女であらせられるみゆきを自室にあげる。
その危険性に俺が気がついたのは、ニコニコと笑みを浮かべる彼女が
俺のベットにさも当然の様に腰掛けた時になってだった。
何食わぬ顔で隣に腰掛ければ絶対大丈夫だろうという悪魔な計算を
しかし俺はきっちりと冷静に処理して、ベランダに寝転んでるときに
使っていたクッションを持ってきて座った。
しかしそんな些細な男としての抵抗など虚しく。

「あら、キョンさんもこっちに座られたらどうですか?」

 そういって自分の隣をポンっとたたくみゆきに
俺は素直にうなずいて隣に座ることになった。
なんと脆い理性か、俺は情けなく思うぞ。
一人憤慨しつつ感激しつつみゆきの隣に座る俺、素直じゃなくて現金なのが俺でした。

 彼女のその長い髪の毛からはフローラルな香りが微かにして、
俺の動悸を激しく突き動かしてくれた。大好きです、そういうの。
ポニーテールにしてくれたらさらに愛なんだがなぁ、などという爛れた思考を隠し切り。

「高良はなんでいきなり俺んちにきたんだ?連絡ぐらいしてくれれば良かったのに」

 と当然の疑問をぶつけた、みゆきはハッとした表情になり
自分の持ってきてたバックから小さな箱を取り出し始めた。
その箱を俺の部屋のガラスで出来たテーブルに置き、
みゆきがそれを開いたのを横から覗いてみると
中に入っていたのはいくつかの小さめのケーキだった。

「これ私が作ったんです、よかったドライアイスを入れておいたので溶けてませんよ
 キョンさんに食べてもらいたかったんです、でも驚かせたかったので」

 なるほど、大体わかりましたよみゆき。

「じゃ、ちょっと皿とか持ってくるから」

 俺がそういって一階に向かおうとすると、そこはみゆきクオリティ。
バックの中からテキパキとティーセットやらなんやらと取り出して
テーブルに並べ始めた。こういうことはあまり言いたくないのだが、
流石はお金持ちというかお皿にもどこか高級感が溢れていて、
なるほどそれなりに高そうなのが伺えた。やることがなくなった俺は
おとなしくテーブルの前にあぐらをかいてみゆきを眺めることに専念することにした。

 彼女は手際よく皿とカップを並べて、保温瓶に入ってる紅茶をカップに注いでく。
湯気とともに部屋に紅茶の香りが広がりどことなく優雅。
俺は紅茶とか言うおしゃれワードには滅法弱いので
香りや色合いや、それどころか飲んだとしても銘柄なんぞわかりゃしないだろうが、
それでもティーパックとは比べもんにならん位のいいものということは理解できた。
いや、プラシーボ効果か? でもみゆきの事だから間違いではなかろう。

「キョンさん、チョコケーキとショートケーキとチーズケーキどれがいいですか?」

 みゆきは俺にそういって箱の中のケーキを見せてきた。
さっきは遠目に見ただけだったが、
やはり手作りとは思えないほど上手に出来てると思う。
それはそうととりあえずはケーキのチョイスだったな。

「チーズケーキがレアチーズだったらそれで、違ったらチョコで」

 ケーキに関する好みは昔っから変わっちゃいない。
みゆきはわかりました、と微笑んでチーズケーキをとってくれた。
彼女は続いてショートケーキを自分の皿に置き
俺をそれを眺めてから、いただきますと手をあわせた。
照れたようにしながら

「召し上がれキョンさん、おいしいかどうかは保障できませんが」

 確かにこなた辺りが料理とかは数少ない不得意科目だといっていたが
皿に置かれたこの三角のケーキを見る限り、大成功としか見えないな
俺は巻かれてるフィルムを丁寧に剥がして食べはじめた
三角形の一番鋭い角、そこをフォークで崩していく
スッとフォークが入っていき、先っぽの部分が切り取れる
それをフォークの先で刺して口に運ぶ
この間みゆきさんは自分のケーキには手をつけず俺をジッと見ていた

「おいしいよ高良」

そういうと彼女はホッとした表情でやっと自分のケーキを食べ始めた
その後、談笑しつつケーキに舌鼓を打っていた
ついでにチョコケーキは二人で半分に分けた


「ご馳走様。本当においしかったよ高良」
「いえいえお粗末さまでした」

 そんなやり取りを交わしながら、さて使った食器はどうするべきかと思案していた
みゆきさんのことだからまたなにかだすのかと思いきや。

「えっとどうしましょう?」

 肝心なところで抜けてるのは、こなたのいってた通りかね?
俺は食器を持ってからみゆきを促して一階に向った。
目的は当然台所だ、やっぱり洗うしかないだろうここは。
俺としては本来ケーキのお礼にコレぐらいはやるべきだと思うのだが、
みゆきが譲らないのも見えてたりするので、手伝いするに止めた。
そもそも食器洗いなんてものほとんどしないしな、俺は。
彼女の洗った食器を俺が拭く、何処と無く新婚のようだなんて思っていると。

「ふふ、新婚さんみたいですね私達」

 なんとか自重して言わなかった俺を尻目に、
みゆきは平然とそれを口にした。
くすくすと笑いながら言う彼女の顔を見ていると
俺にはそうですね、としか言うことが出来なかった
なんというか頭がよくまわらなくなってしまったようだった


 そんなこんなで時間が過ぎて、気がつけば意外と周りが暗くなり始めていた
時間がどうのこうのというよりこの時間帯になると
俺以外のこの家の住人が帰宅してくる頃になるからな
みゆきがうちに居るのは全然構いやしないのだが
妹や母親に現在の状況を目撃されるのは何よりも避けなくてはならん
俺は気付かれないように思案していると

「では、そろそろ私はおいとまさせてもらいますね」

 みゆきはさっきから俺の思考を読んでるかのような発言をするな
まさか本当に読心術の心得があるんじゃなかろうか
仮にそうだとしても対して違和感が無いのが困る
まぁそんな特殊技術をもってるのはハルヒたちだけで十分だ
俺は立ち上がりみゆきを見送るために玄関に向かった

「今日はおじゃましました」
「送っていこうか?」

 言葉にすると社交辞令みたいな会話だが、俺は本心でいってるつもりだ。
だが、それをみゆきは断った
まぁ多分そうするのではないかと思っていたけど、多少残念だ
暗くなってるといっても、まだ夕方だしそう危なくないとは思うしな

「じゃあまた明日学校なみゆき」

 …やってしまった、モノローグが混ざって直接みゆきと呼んじまった
見るとみゆきさんもうつむいて黙ってしまった。

「いや、そのごめん、つい無意識に」

 俺は慌てて弁解しようとしたがそれはみゆき本人に遮られた
彼女は人差し指を俺の口にあてて

「別にいいんですよ、これからもそう呼んじゃってくださいね」

 そういって彼女は走って帰ってしまった。
あっ転んだ、食器は割れてないのだろうか心配だ。
姿が見えなくなるまでその背中を見ていると、
後ろから服の裾を引っ張られてることに気がつく、
振り向くとそこにはニヤつきながら立っている俺の妹君がいた。

 さて、口止め料にいくら払うべきかな…。

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最終更新:2009年05月23日 16:29
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