d七誌◆7SHIicilOU氏による作品です。
レンタルビデオ屋というのは衰退の一途を辿っている。
というのも近頃は円盤ディスク型の記憶媒体が世の中に氾濫し、
VHSという存在そのものが旧世代の産物というレコードや白黒テレビや二層式洗濯機といった
懐かしの家電に分類されつつあるからだ。
だから個人でやってるようなレンタルビデオ店なんてものを俺は久方ぶりに見た。
TUTAYAを筆頭とするチェーン店はDVDを主として音楽CDのレンタルや販売などをしてる中
非常に稀有な存在であろうそのレンタルビデオ専門店。
俺はいつもと違う道を使って帰宅した際にそんなものを見つけてつい立ち寄り、
しかもなにを思ったか会員カード(なんと驚き紙製のカードだ。いかしてる)を作ってまで
一昔前に少しだけ流行った映画を一本借りてしまった。
物珍しさから来る好奇心というものは恐ろしい。
「星のWAWAWA」というのが借りたビデオの名前だ。
タイトルがやたらめったら頭に残って裏表紙のあらすじをあまり覚えてないが
確か孤児、というかストリートチルドレンが自らの境遇を嘆いた歌を歌い
それがきっかけで劇団に拾われるみたいな内容だったと思う。
所謂泣き系感動系なので俺の趣向とは合わないが、
まぁ二泊三日のレンタルで百八十円という格安だったので
仮にネーミングありきの流行だった三流の映画だったとしても問題はない。
俺は途中で飽きて投げ出さないように、道連れとして妹を部屋に連れてきて
共に部屋のデッキで鑑賞する事にした。
この際妹が内容を把握できるかとかは一切を気にせず合切を無視させてもらう。
結果として言うならば個人的には満足行くできだった。
感動系、泣き系と呼ばれる有名作品のなにを見ても欠片も涙を浮かべなかった俺、
流石に都合よくこの作品で初の涙を見せるなんて展開はなかったものの、
しかし珍しくこの手の方向性の作品で素直に良作だったと言えた。
「面白かったー」
妹も、俺とはベクトルが違うだろうが面白いと口にしていたので、
百八十円の観光地の自販機程度の出費は有意義だったと言えよう。
俺は折角だからとほとんど空の本棚にあるVHSスペースから新品のそれを取り出し、
一応「星のWAWAWA」をダビングすることにした。
まぁ次に見るのは一年以上経ってだろうけれどな。
次の日、学校にて話の種にと泉にその話しを振ってみたら
案の定と言うか「今更それ?」という反応をいの一番に頂いた。
「しかしキョンがその手の映画を褒めるってめちゃ珍しいよね」
「我ながら同意だ」
「ん~、しかし話し聞いてたら私も見たくなったかな」
「ダビングしたし貸そうか?」
「借りる~、いや、実を言うと私もあの作品地味に好きでね。正直泣いたよ」
「ほう、そうなのか…それこそ珍しい。いやでも実際いい物だったよな」
{うんうん、笑えるよねあれ」
「は…?」
「いや、面白いじゃん? 泣くまで笑ったのはアレ以降中々無いよ」
判明、映画の趣向は似てても感性は真逆である。
というか泉、やっぱりビデオは貸さん、見たいなら百八十円だしてこいこの野郎。
「えぇ!? なにその手のひら返し!」
「自分の胸に聞け」