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メイクディナーwith...?――ななこ

「えっとなぁ、今日はどないしようか」
金髪のポニーテールに導かれるかのように後ろを歩く。
この時間帯は小学生くらいの子供が母親と一緒に買い物に来る。
店も頑張り所のようで、メガホン片手に大音声上げてる。
俺は未だ中身の無い籠を片手に女性と店に歩いている。
俺の担任の、黒井先生だ。
「なぁ、キョンは何でも食えるやろ?妹は大丈夫なんか?」
「俺の妹はその手にしてるピーマンがダメなんですよ」
「おっと、そうなんか。…じゃあ青椒肉絲は止めとこか」
手にしてるピーマンを元に戻す。
俺はとても食いたいんだが。

何故黒井先生が晩飯を作ろうとしているのかと言うと、だ。
今日は俺の両親がいない。
学校で談笑の中でその事を呟くと、先生が率先して「ほなウチがキョンの家の晩飯作ったろ!」と言い出したのがきっかけ。
今日は何をデリバリーしようと考えていた俺としては有難い限りだ。拒まず俺は感謝した。
そして、「じゃあ帰りに買い物付き合えよ」と言って終わった。そして、今がその時だ。

「おい、キョン行くで?」
気付けば先生は野菜コーナーを既に抜けていた。
手にしてる籠には人参と玉葱、モヤシ、キャベツ、ジャガイモ、キュウリが入ってる。
俺は小走りで俺を待つ先生の元へ行き、鮮魚コーナーに入る。
「焼き魚………要るか?」
俺は少し考慮した後、昨晩食った事を思い出し要らないです、と答えた。
先生は別にどっちでも良かったようで「そっか」とだけ言って次のコーナーに向かう。
豆腐やらのコーナーだ。
先生はハムを一つ俺に取らせてさっさと行ってしまう。
どことなく焦ってるのは俺の気のせいだろうかね。
若しくは避けられてるのか?ならわざわざ自ら晩飯作るなんて言わないだろうし…。
謎だ。
「キョンの家は卵あるんか?」
晩飯についてだろう。俺は「それなりに」と答えた。
先生の視線を見ると、500円以上で安売りになる卵のパックがある。
「ならええか。1つだけで」
先生は1つだけ取り、丁寧に籠と平行になるように入れる。
会話から察すると先生の分か。
「先生、何作るんですか?」
「んー?シンプルに焼きそばでえーかなとか思ってるけどな」
冷凍食品コーナーで美味そうな商品を探りながら答える。
焼きそばか。悪くない。妹も食べられるしな。
「それじゃあジャガイモとかは何ですか?」
「ん、ああ。ポテトサラダでも作ろうかと思てな」
そう言いながらフレンチドレッシングも手にする。
ポテトサラダか。
「ほな、キョン。ウチも小腹がすいてきたし、ちゃっちゃと済ませよか」
そう言って俺を手招く。
操られた訳ではないが先生の横まで行き、ペースを合わせ、レジへ入った。
金髪のポニーテールが揺れる。

「ほおー、ここがキョンの家か。羨ましいな」
少し薄暗い中、先生は家に着くなり、遠くの景色を眺めるかのように俺の家を眺める。
「何がです?」
「いや、一軒家がや。一人身だとそれはそれで寂しいねんけどな」
苦笑いしながら自己非難する。
冷たい風が吹く。
俺は先生を招いてさっさと家に入る。
「キョンくんおかー…えり?」
妹が暇を持て余して出迎えてくれる。が、俺と目を合わせて固まった。
そうか。コイツは先生を知らなかったな。逆も然り。
「おっと、この人は俺の担任だ。黒井ななこ先生」
「初めまして」
先生はいつも生徒に接する態度で軽く挨拶する。
「そして、先生。こっちは俺の妹です」
「あいよ。こんばんは」
「あ、こ、こんばんはっ」
珍しい反応をするもんだ。まぁ驚かせちまったからか。
「今日は先生が晩飯を作ってくれるんだ」
「まぁデリバリーするよりマシやろーからな。よろしゅー」
一通り挨拶を終えたと判断して、俺は先生のスリッパを出して家に上げる。
先生は軽く俺に礼をして、友達の家に入るようにすんなりリビングへ行く。
俺も入ろうかとすると妹が後ろから裾を引っ張る。
「ねぇキョンくん。あの人"アイジン"とかかと思っちゃった」
俺だけに聞こえる小さな声で話す。愛人て。
「ンな訳あるか。しっかりした先生だよ。将来お前も世話になるかもな」
「ふーん。あの人関西人?」
「俺も思ったけど聞くと違うみたいだ。昔憧れたんだってよ」
「そっかぁ。あ、宿題してくるね」
俺の返事を待たずに妹は階段を駆け上がり、隠れてしまった。
知らない人が来て焦ったのか?仕方ないか。
「おーい、キョン。早よ来ぃやー」
リビングから呼ばれる。
そういや手に袋持ってたな。
俺は返事をして、リビングに顔を出す。
「よし、ほなウチがさっさと作ってやるさかい。キョン。アンタは勉強でもしとき」
先生は脱いだスーツを食卓用の椅子に掛けて、カッターシャツを腕捲りしている。
やる気のようだ。
「俺も手伝いますよ?」
「いっつも一人やしな。別に大変じゃないって。ウチを手伝うなら成績伸ばしてくれたらええよ?」
「でも、折角だし…」
俺も行動を制限させる制服のボタンを外して脱ごうとする。
先生は俺を指さし、ニッコリ笑う。

「ほぉ。なら明日の世界史。テスト範囲の単語覚えてるんかいな?」

よし、勉強するか!

「ありがとうございます。俺は今から勉強しようと思います」
「よし、よく言った高校生」
俺はそのままブレザーを脱いで、着替えるべく自室に行った。

数分後、私服に着替えた俺は、「それでも…」という気持ちがあるからか、リビングに行って勉強の準備をする。
「なんやー?別にえーって言ってるやろ?」
台所から気配を察したのか声が聞こえる。
「それでも何か要るものが見つからない時とか困りますし」
「………まぁええわ。しっかり勉強しーや?」
『自室に籠って勉強』が効果の良い勉強である、というのが先生談なので悩んだんだろう。
その意見には賛成だが今回だけは反する事を許して貰おう。
音を求めてテレビを付けるとニュースでジミー・スミスとかいう奏者が三回忌だとか言っている。
ニュースは耳に入るだけでいいからな。
俺はノートと教科書を開き、出来る限り頭に詰めながらシャーペンを紙面に走らせた。

良い匂いが漂う。
肉が焼けて、野菜が焼けて。
先生の勢いをつける声も含まれて。
先生すいません。そこまで出来る人とは思ってませんでした。
「んー?何か言うたかー?」
「いえ、何も」
慌てて教科書に目を通す。
失礼ながら、2,3割しか頭に入ってなく、覚えてるのは内5割くらいです。申し訳ない。
ソースの匂いも漂って来た。
「キョンー」
「なんですかー?」
「そろそろ出来るから皿出してくれんかー?」
「わかりましたー」
教科書とノートを閉じ、文具を筆箱に詰め込んでソファに投げ出す。
一度伸びをしてから台所に入る。
フライパンとボールの中にある料理をそれぞれ一瞥してから、食器棚を開ける。
適当に大きな皿を3枚取り出してフリースペースに置く。
「おぅ、サンキューな」
先生は皿の位置を確認してからコンロの火を消す。
キャベツの千切りを皿の端に置き、その上にポテトサラダを乗せる。
「あ、ドレッシング出しといてくれや?」
「もうやってますよ」
手にはフレンチドレッシングの残りがある。
先生は「そか」と淡白に返し、ちゃっちゃと三人分のサラダを盛り付ける。
俺は冷蔵庫から麦茶の入った容器とコップを取り出してテーブルに持って行く。
そういや妹は上だったな。
テーブルに固めて置いて階段元へ行き、妹を呼ぶ。
緩い返事が聞こえたので俺はリビングに戻り、台所に入る。
先生はバランス良く焼きそばを盛り合わせていた。
「もういいですか?」
「おう、ちゃっちゃと持って行ってくれや」
とりあえず一本の腕で一皿ずつ持ちテーブルに運ぶ。
「なぁキョン」
台所から先生がやってくる。残る一皿を持ちながら。
「アンタの妹の横、座ってええかな?」
少し気まずそうに、作られたような笑顔を向ける。
俺は構わないんですが。
「さっき初めて会ったやろ?なんか避けられた気がしてなー…」
御明答です。とは言わなかったが。
流石と言ったところか。子供を見る仕事なだけある。
「俺の妹は好んでたら普通なんですけどね」
初対面に対してはやはり難しい性格なんだよな。
「よし!今日一日で好まれるようにするか!」
拳を固く握り、先生は誓う。
頑張って下さい。
妹がやって来た。
俺は妹を誘い、席に座らせる。
眼だけを動かし先生を見て、すぐに飯に落とすのがわかった。
「じゃあ先生、こっちへ」
俺はわざと妹の横の椅子を下げて先生を導く。
「え」と妹が短い声を発したが無視だ。
「わざわざすまんな、」
そのセリフはそこに案内したのも含めての礼だろう。
先生を椅子に座らせてから俺も向かい側に座る。
「ほな、手ぇ合わせてー」
先生が音頭を取る。
「「頂きます」」「いただきます、」
妹の声のトーンが40%程下がってるな。
緊張してるのか、正真正銘"嫌"なのか。
何にせよあとは先生の独力か。
俺はただの傍観者になりきる事を決意して箸を手にし、盛られた焼きそばに箸を通す。
「あ。」
妹が落ち込んでるのがわかった。
焼きそばの具に緑色の野菜がある。
少し光沢があって。少し焦げてて。
子供の好みワースト上位にあるだろう野菜。

ピーマン。

……先生止めたんじゃ?
「キョンがなぁ、妹ちゃんはピーマン苦手言うから、入れてみたんや」
手を動かさない妹に先生が話し掛ける。
それを聞いた妹が俺を俯きながら必死に睨む。知るか。
「食べてみ?食べたらそれはいつも食ってるピーマンとはちゃうから」
先生はこなたとゲームの話をするような口調で、友達感覚で、話す。
睨むのを止めた妹はずっと麺の山からはみ出たピーマンを見つめている。
「ほら、な?」
先生は笑ってる。
虐めて楽しんでる笑いじゃなくて、子供供を導く笑いだ。
妹は初めて先生の表情を見て、箸を持つ。
箸でピーマンを麺ごと挟み、ゆっくり持ち上げる。
まだ針に糸を通すような集中した眼で緑色の物体を見つめる。
一度唾を飲む。
俺は食う手を止めて、お茶をゆっくり飲んでいた。
妹から逃げたい気持ちが滲んでるのがわかる。
先生の表情も少し厳しくなっている。
妹は遂に口開いた。
箸はまだ震えているが。
先生が単発して応援する。
押されるかのように手がだんだん口に近付く。
そして、口に入る。
箸を素早く抜いて、目を閉じる。
眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰すかのように吟味する。
…? 妹は不思議そうな顔をした。
妹は何回も何回もよく噛んだ後、それを喉に通した。
「………あれ、食べれる」
妹はキョトンとして、しばらくしてから満面の笑顔を放つ。
先生もそれを聞いて安心したか、コップのお茶を飲み干す。
俺も自然に笑ってしまうが、すぐに飯を食い直した。
「えと……先生?」
妹の体は先生の方に向く。
中身の無くなったコップに再度お茶を注ぐ手が止まる。
「あ、ウチは"黒井さん"でも"ななこさん"でも。何でもええで」
妹は少し空気にその言葉を浮かべて考えた後。
「ななこちゃん!」
と命名した。大人ですが。
「……まぁええわ。何や?」
「このピーマン、苦くなかった」
妹は結果だけを伝える。
「ああ。実はな、ウチもピーマンは全ッ然アカンかってん」
先生はお茶を入れ直す。
「オフクロがなぁ、頑張ってこんなん作ってくれてんよ」
俺は黙々と飯を食う。聞きながら。
「教師になる時にな、オフクロに頼み込んだんや。子供を持つ職業やから…」
妹は箸を置いて聞いていた。
「しかし役に立って良かったわー。」
先生はもう一度コップの縁に口を付ける。
妹はほえー、と何処に惹かれたかは知らないがじっと見つめていた。
「ねぇ、ななこちゃん」
「何やー?」
先生の緊張の糸は解けたようだな。語尾が伸び切っている。
「私もお母さんの手伝いしたら…先生みたいになれるかな?」
先生は数秒考慮した後。
「せやな、頑張ればウチより立派なヒトになれると思うで」
それを聞くと妹は一人呟き始めた。やれやれ。
先生は俺にウインクで礼を言って来た……気がした。間違いないとは思うが。
俺は何にもしてないんだけどな。

それからは普通に飯を食って。先生と妹が主に談笑して。
ピーマンも綺麗に平らげて妹は自慢げだった。
俺は軽く褒めてやると、皿洗いという仕事を自ら進み出た。
先生が更にそれを褒めると妹は早足で作業する。
とは言っても心配なのでついていようかと思ったが、先生が「ウチに任しとき」と言うセリフに甘える事にした。
俺は勉強道具を持って、自室に戻る。
着替える際に机に置いた携帯のランプが光っている。着信か。
携帯のあった場所にノートを置いて携帯を開く。
「ハルヒか」
まさかの呼び出しか?とか思いながらも電話に出る。
「よぅ、どうした?」
「ねぇ、先生まだいんの?」
後ろから車が大量に走ってる音が聞こえる。外か。
「ああ、いるぞ。どした?勉強か?」
「ンなワケないでしょ。……アンタ。今日何日よ?」
ハルヒの溜め息が少々引っ掛かったが、気にせず壁掛けカレンダーを見る。
今日はー…金曜日か。
何かあった――――――
「あ」
「アンタ…折角居るのに」
また溜め息を吐かれた。
「そうか…すまんな。忘れてた」
「まぁいいわよ。せめて迎えに来てよね?駅前にいるからさ」
「もう買ってくれたのか?」
「当然でしょ。後で貰うわよ」
「払わない程馬鹿じゃねぇよ。それじゃあ先生が出次第…な」
「多分すぐじゃない?ご飯食べたらもう用無しだしさ。そんな気がするのよ」
指先を温める吐息が聞こえる。
「……寒そうだな」
「当たり前でしょ。後で手当も貰うからね」
「ああ」
覚悟はしてたさ。
小遣いも入ったからまぁいいか。
「キョーン!ほなウチ帰るでー!」
階下から先生の声が聞こえる。
ハルヒがそう言うからもしや、とは思ったけどな…。
「ね?私の勘は当たるでしょ?」
遠隔的に操作してるからな。そりゃ当たるさ。
「それじゃ、すぐ迎えに来なさいよっ」
断線音を聞いてから階段を下りた。

下りると先生はダッフルコートを羽織り、もう玄関にいた。
「んじゃ、ウチは帰るな。わかってるやろーけどしっかり戸締まりしときや?」
靴の踵部分に指を当てて踏まないように履く。
「わかってますよ」
「妹ちゃんもこれから頑張りなー?」
履き終えて膝を曲げて目線を合わせて笑う。
「うんっ任せて!」
胸をどん、と叩き張る。
先生は頭を撫でてから立ち上がり、ドアノブに手を掛ける。
「じゃ、明日学校でな」
「はい、さようなら」
「ばいばーい!」
妹と先生は扉が閉まり切る迄手を振り合っていた。
………さてと。
俺は瞬時にソファに移動してる妹を呼ぶ。
「今から出掛けるんだが一人で留守番ー…出来るな?」
「わかったー」
既にテレビを見入ってるので理解してるかどうかは別として。
俺は珍しくかなり厚めの上着を着る。
これでも寒いかも知れんが…まぁいいか。
…そういや先生、アレ忘れてるんじゃないか。
俺は袋ごと拾う。
手袋を嵌めて、外に出た。鍵は閉めといた。

 

「さっぶ……」
外気に曝された生身から冷え始める。
キョンの家が温かったリバウンドもあるだろう。
冬至は過ぎてるのに。
「ホンマに環境ボロボロやな…」
体をなるべく小さくして小走りで歩く。
せめて追い風ならマシだったかも知れない。
早く帰って風呂に入りたい。なんならコタツで寝るのも構わない。
温まりたかった。
「う"~……お、おあえつら向きやな」
直進100m先に小さく灯る光がある。
自販機の明かりだ。
それに向かいながらポケットマネーを確認する。
大丈夫だ。缶コーヒーくらいは買える。
自分に「頑張れ、後少しや」と言い聞かせる。
自販機に辿り着くとポケットから小銭を出して震える手で丁寧に投入する。
上段の温い缶コーヒーを選び、下から抜き出し頬に当てる。
「はぁ~…あったかいなぁ…」
全ての手の指の腹を缶に密着させて感覚を取り戻す。
そのまま手を缶ごと頬に持って行く。
気の抜ける息を吐く。
ゆっくりと石垣に体を預ける。
天を仰ぐと、視界には都市に近いこの街でも幾つか星が輝いてる。
「もうちょい温かったら堪能出来るねんけどなぁ」
独り言が増えて来た。アブナイかも知れないと思い自粛する。
タブを持ち上げて、開封する。
少し息を吹き掛けてからコーヒーを口にする。
喉元過ぎて熱さが体内に残る。生き返った気分だ。
人通りの少ない路地だからのんびり出来る。
唇が潤う。
耳の感覚が無い。仕方ないか。
「…楽しかったな」
{ちょっと!急ぎなさい!}
遠くから女性の叫び声が聞こえる。
「なんやこの時間に。こんなトコで」
自転車を爆走させてるようで、音がこっちに近づいて来る。
説教でもしてやろうか。時間を考えろっちゅーねん。
石垣から背中を離して、道の真ん中で仁王立ちする。
自転車の灯りが真っ直ぐにこっちにやって来る。
影から判断するに、二人乗りか。アカン事しよって。
女性は未だ叫んでいる。応援してるのか馬鹿にしてるのか分からないが。
「おい、そこの二人!」
そう声を掛ける。女性の声に掻き消されないように大きめに。
自転車は止まる。街灯をバックに。
ナリからして高校生か大学生か。
何にせよ、よく考えて行動しろってもんや。
後ろに乗っていた女性が声を出す。
「先生!」
「…は?」
運転役であろう男性は、息も絶え絶えに話しかけて来た。
「はぁ……せ、先生…はぁ…」
…まてよ。この声…。
女性が自転車を離れて近づいて来る。
「涼宮と、キョンかいな」
「そうですよ?」
男性、キョンも自転車のサドルから下りて自分の足ででこっちに来る。
「先生が、はぁ…何処に、いるか…探し回った、んですよ…」
キョンは自転車のスタンドを下ろすと、大きく深呼吸をする。
「で、何ですか?"そこの二人"って呼び止めましたよね」
「…あー」
怒るタイミングを逃した。
「お前達こそ何やってたんや?キョンもわざわざ外出して。妹はどうしたんや」
"逢引"という言葉が浮かんだが、言わない事にした。
「妹は留守番です。小学生が一人で留守番も危ないんですぐ帰りますけどね」
そう言って自転車の籠から一つのスーパーの袋を取り、ウチに渡す。
「ほら、忘れ物ですよ」
ん、何か忘れてたか?
クエスチョンマークを浮かべながら袋の中を見る。
中にあったのは卵だった。
「ありがとな。っつってもこれだけの為にか?」
それやったら涼宮がいるのが不思議だ。
「違いますよ。底に入ってるの、見て下さい」
卵のパックの下には、クリスマスプレゼントのようなラッピングをした箱があった。
「ん?何やコレ」
卵を割らないように箱を取り出して、外装を見渡す。
見ても分からなかったので涼宮の顔を見て、答えを聞こうとした。
そうするとハルヒはキョンの顔を見て、キョンと共に頷いて。
涼宮は合唱の時のように「せーのっ」と小さくタイミングを取る。

 

「「先生、お誕生日おめでとうございます」」

 

―――――ああ。
「こんな時間になってすいません。けど、学校で渡すのも何だったんで」
「とは言っても今日まで何にしようか決まってなかったんですけど」
そうか。
「要らない事言わない!それで、早速なんですが開けて見て下さい」
自然と手が、ラッピングのシールから綺麗に剥がし始める。
姿を現した箱を開ける。
中身はマフラーだった。
「先生マフラー汚しちゃったんですよね?」
そういやこの前そんな事をさらっと言ったな。
「だから2つあったら楽じゃないかと思いまして」
「あ、別に今使ってるやつに特別な思い入れがあるんだったら……すいません」
アカン。これは…。
「二人とも、ありがとうな」
その言葉しか出なかった。
涼宮とキョンはそれを聞くと顔を見合わせて笑ってる。
「でもな…、二人乗りであんだけ騒いでたら迷惑や。次ウチの目の前でやった時は覚えときや?」
「「はーい」」
頬が緩む。
「それじゃ、帰るわよ。先生も邪魔そうだし?」
涼宮がキョンの手を持って、自転車の方へ行く。
「え?あ、おう。でもちょっと待て」
キョンは涼宮の手を払い、ウチに近寄る。
「先生一つ、いいですか」
「何や?」
「なんで先生は俺の家の晩飯を作るって言い出したんですか?」
急に何を言い出すんやと思ったら―――。
ウチは答える。
「ウチが作った方が宅配のヤツより色々いいと思ったんやけどな…。不味かったか?」
「いや、そうじゃなくて…」
キョンは少し頬を掻く。
「…いや、そうですか。ありがとうございます」
「キョン、早く帰るわよ!寒くて仕方ないわ」
涼宮はキョンを急かす。
「わーったよ。先生、それじゃまた明日」
「おう、二人とも、また明日な」
袋を持たない手はキョンの自転車が視界から消えるまで振り続けた。
「………ふぅ」
涼宮に感謝――やな。気付いてたのかは分からんけど。
目の下をまた冷えた指で拭う。
涙は指を伝って、結局頬を流れてしまった。
まぁええか。誰も見とらんし。
拭うのを止めて、自然に涙のしたいようにする。
言葉で表せないけど、嬉しかった。
自身も自分の誕生日を忘れていた。
しかも生徒から貰えるとは。
携帯が鳴り出す。
開いて確認すると、5件程のメールが一斉に届いている。
「ん…」
件名だけに目を通すと、泉こなた・柊かがみ・高良みゆき・長門有希・古泉一樹と書かれていた。
「あいつら…」
要約すると内容はどれも同じ。
『誕生日おめでとう』だ。
「…ありがとな」
マフラーの包装を外し、首に巻いて改めて帰路を歩き始めた。
涙の痕が心地良かった。
「しっかし、柄にもない事言ったなー」
キョンへの回答。あれも1つだけど。
「ウチもあんぐらいのガキが欲しくなる時はあってもええよな?」
誰に言ったのか。

 

*黒井ななこの誕生日は2月8日です。

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最終更新:2008年01月25日 19:47
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