かがみのやつ、何をそんなに怒ってるんだ?
泉はニヤニヤ笑ってるし。
「まぁ気にしなさんな。キョンキョンよ」
「それでいいのか?」
「良いって良いって」
よく分からんな、お前らも。
「ところでキョンさん、実はつかささんの部屋でこんな物を見つけたのですが…」
ああ、そういえばつかさの行方不明について集まってるんだよな。
高良さんが差し出したのは何かが書かれたメモ用紙だった。
「つかささんの机にありました。そのメモ用紙には何も書かれていなかったのですが、泉さんが塗りつぶしの要領で書いた跡を浮かび上がらせました。」
「なるほどな」
なんとも分かりやすい説明だな。長門も少しは見習って欲しいもんだ。
と思ってしまったのがまずかったらしい。ふと気づくと、長門が今日の空よりも冷たい目でこちらを見ていた。
そんなに怒るなよ、悪かったから。
つぶやいたのは心の中だが、十分伝わったようだ。長門はいつもの目に戻った。
俺は長門の目からメモ用紙に視線を移す。
「これは…地図か?下には何か文も書いてあるな」
「たぶん、つかささんがいなくなったこととこの地図は何か関係があると思います。」
「そう考えるのが普通だな。ん?これは近所の地図か?」
「そうみたいです。ここはかがみさんとつかささんの家。ここはキョンさんの家。そして、ここは涼宮さんの家です」
ハルヒの家まで書かれてるのか。っておい。古泉に長門よ、「涼宮さん」という言葉にそんなに反応するな。
「また、各家は線で結ばれています。さらに結ばれた線で出来た三角形の中心にも何か印があります」
「確かに何かありますね。つかささんはここに行かれたのでしょうか?」
「それはまだ何とも…。何か関係はあるとは思うのですが…」
「この下の文章は何だ?」
「そこはまだ読んでないんです」
「じゃあ、ここに何かあるかもな。解読してみるか」
こうして俺達はつかさの残した文章を解読することにした。
その間、朝比奈さんはかがみの手伝いをすると言い、部屋を出た。
数分間、俺達はメモ用紙とにらめっこし、なんとか見える文字を拾っては書き出した。
泉の塗りつぶしが濃すぎたのか、つかさの筆圧が弱かったのか、解読できた文字はこれだけだった。
私 いの をし の?
悪く 何も てない
呪 呪って てや
や っ やる呪 てやる
必 もの
ハル 写
スコ
「これは…」
少なくとも良い文字列には見えないな。「悪」や「呪」という言葉はつかさからは程遠い言葉だ。
高良さんは悲しそうな顔をしており、泉ですら顔が沈んでる。古泉でさえ、笑顔が消えている。
「つかささん…」
「つかさ…やっぱり…」
「やっぱりって…何か心当たりでもあるのか?」
「いやね、この三角形、どこかで見たことがあると思ってたんだけどね。これ、呪印なんだよ」
「呪印?」
「といっても、あるラノベに載ってたノンフィクションのやつなんだけどね」
「お前、ラノベなんか読むのか」
「かがみんが読め読めしつこいんだよ。だから少しは読むよ。で、それが載ってた本は人気らしくて、みゆきさんやながもんも読んでたんだよね」
「マジでか!?」
高良さんはともかく、長門がラノベとは珍しいな。
そういえば最近、長門が読む本が薄くなってるとは思ってたがそういうことか。
「ってキョンキョン、どうでもいいじゃんよー。本題はそこじゃないんだから」
「そうだったな、すまん。それで、その呪印とは?」
「ええとね、そのラノベはホラーでね、主人公がその呪印をやるんだけどね」
泉が三角形を描き始めた。…言っちゃ悪いが、下手だな。
「まず、三角形を作るんだよ。頂点は自分の家と呪いたい相手の家と両方に面識のある家」
「最後の関係なくないか?」
「これがミソでね。なんでそのラノベでは…」
急にこなたが顔を上げた。その方向を見ると、長門が立ち上がっていた。
「どしたの?ながもん?」
「少し」
とだけ長門は言って、部屋を出た。
「長門のやつ、どうしたんだ?」
「きっと、トイレじゃない?」
宇宙人でもトイレをするのか、とふと思ったが、泉達はそれを知らないんだよな。いつか言わなければならないのだが。
「あ、で、説明の続きだけどさ、この呪いは『仲介者』が必要なんだよ」
迷惑な呪いだな。
「まあ、『仲介者』自体に何も影響はないんだけどね」
とばっちりはごめんだしな。
「そして、この三角形の中心に呪いたい人の写真を灰にした物を埋める」
なかなか危ないな。
「それでおしまい」
「なかなか簡単だな。三角作って、写真燃やして埋めて終わりとは」
「でもラノベのウソ話なんだよ。もしつかさが見たとしても、やるとは思えないんだけどなぁ」
俺は知っていた。無論初期SOS団メンバーは言わずもがな。
さっき、長門が言っていた「具現化」とやらされた情報はこの「呪印」に違いない。
泉、高良さんはなぜつかさがウソ呪いを信じているのか、見当がつかないようだが仕方がない。2人は何も知らないからな。
「本」はそのラノベでこの家にあるとも知っている。かがみのラノベだから、つかさの目にも触れたのか。
ともかく、これでつかさが残した文と地図から行方不明後の行動が分かる。
まず、つかさはハルヒを呪うことを決意。動機は…後で考えるとして。
そして、地図と文章を作成。
地図から呪いをかける相手は俺かハルヒだが、「必要なもの」の文から、ハルヒの写真を用意していることかハルヒと判断。
その後、夜中に家を出て呪いを決行。で、今も家にいないわけだが…。
考えをまとめ、みんなに話した所で朝比奈さんと長門がお茶を持ってきた。おや?
「朝比奈さん、長門、かがみは?」
「あ、あ、その、かがみさんは」
「トイレ」
慌てる朝比奈さんに長門がフォローするように告げる。
「そ、そういえばそう言ってました。」
「そうですか」
俺は一応そう言ったが、どう見ても怪しい。だが、今は泉、高良さんの手前、後で聞くことにしよう。
「お、日本茶か~。誰製?」
「あ、私が淹れました」
「やっぱりね。かがみのお茶ってすごく渋いんだよね」
「そういや俺も1回飲まされたな」
「みくるちゃんに習うべきだよ。あ、みくるちゃん、とっても美味しいよ!」
「ええ。とても良い味ですよ」
「あ、ありがとう」
やっぱり、この朝比奈さんは何か隠してるな。
朝比奈さんのお茶で、少しは朗らかな気分が戻ったが、それはお茶が見せてくれた幻想だ。そろそろ現実に戻らなければならない。
「さて、お前らこれからどうする?この三角形の中心にでも行くか?」
泉、高良さんが固まる。
「え、何か分かったんですか?」
朝比奈さんが尋ねる。そういえば事情を知らないな。
「古泉、朝比奈さんに説明を。俺じゃ少し分かりにくいかもしれん」
「分かりました」
やっぱ説明係は古泉がいいな。俺には性に合わん。
「で、どうする?」
俺は再び聞き返した。
「どうすると言われましても…」
「そこに行ってもつかさはいないんだよね…」
「おそらくな。でも何か来た証拠があるかもしれない。そしたら周辺の人から何か聞けるかもしれないじゃないか」
「なるほど…」
「それは妙案ですね」
「だから、行ってみないか?」
「そうだね!」
「でもかがみさんが…」
「たぶん、かがみも行くよ!いや、無理にでも連れて行こう!」
「じゃあ決まりだな。古泉、悪いがタクシーを…」
「そう来るだろうと思って手配はしてあります。いつでも来ますよ」
さすがだな。
「後はかがみが来るだけか」
俺がそう言った瞬間、かがみがちょうど戻ってきた。
「ごめん、ちょっと遅れ…」
「おお、かがみん、ナイスタイミング!」
「ちょっと何よ、いきなり」
「今からつかささんの痕跡を辿りに行くんです」
「そういうことだ。そのまま神社に行くぞ。古泉、そこに来るように言ってくれ」
「分かりました」
古泉は携帯電話を取り出す。
「さ、朝比奈さんも長門も」
「あ、はい」
「…………」
2人も立ち上がる。
未だに事情が分からないかがみを泉が「続きは車内で」とたしなめていた。
俺も脱いでいた上着を羽織った。
「じゃあ行くか」
そしてつかさが残した痕跡なある場所へ向かった。
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最終更新:2008年01月25日 22:49