◆TnzOi/YA0I氏の作品です。
さて、突然なのだが俺は今、かがみと共に祭りに来ている真っ最中である。
何故か、と問われると説明が長くなるので割愛させてもらおう。聞くんならまたの機会にしてくれ
はてさて、ともあれかがみと二人きりで祭りに、
つまりは俗に言うデートと呼べなくもないこの状況を楽しんでいた俺であったのだが
事件はかがみが、とある夜店を見つけ―――
「あっ、あれかわいい」
とつぶやいたところから始まった。
一体何を見つけたのだろうと首をかがみの目線の先へと巡らせてみたところ、そこにあるのは果たしてくじ引きの屋台であった。
ガラガラと呼ばれるデパートなどで使われているものではなく、箱の中に入っている紙を引くタイプのものだ。
そして恐らくはその景品の中に何かかがみの目に適うようなものがあったのだろう
といっても女性の感性などというものが分かろうはずもない俺には、全くもってどれのことかの判別はつきそうにないが
「ほら、あれよあれ。あのクマの……」
かがみにそう言われ、改めて景品の棚を見る。
確かに熊のように見えなくもない、デフォルメされた動物のぬいぐるみらしきものがその棚に鎮座しており、
ぬいぐるみの下には大きく「3等」と書かれているのが見て取れる。
かがみがこういうことを言い出したのは少し意外ではあるが、かがみもやはり女子高生だ。
かわいいものには弱いのかもしれない。そこで、挑戦してみるか? と試しに聞いてみたところ
「そうね……うん、じゃあちょっとだけ」
と、肯定の意を示した。
俺はこのとき、少しはにかんだ様子を見せたかがみを見て、それだけでも今日ここに来た意味はあった、などと思っていたのだが
しかし、俺がこの質問をしたことを悔やむ時が来るのは、そう先のことではなかった―――
「なぁかがみ? もうやめたほうがいいんじゃないか」
「いやよ! ここまできたら取るまでは帰れないわ」
そう言って、恐らくはバイトなのだろう若い店主に金を渡し、もう何度目になるか分からないくじを引くかがみ
数えてなかったので正確な事はわからんが、かがみの財布からは既に英世先生が少なくとも二人はいなくなったはずだ。
かがみが負けず嫌いである事は知ってたつもりだったんだが、どうやら俺の想像以上だったようだな
「ああもうっ! 何で当たんないのよ!」
かがみの声が聞こえ、思考を止めそちらを見てみると、どうやらまた外れてしまったようで
憤った様子で「もう一回よ!」と店主に声を荒げるかがみの姿が俺の双眸に映った
このまま放っておくと、かがみの懐が、冬将軍に襲われたナポレオン軍のように凍えきってしまうのも
時間の問題かもしれないと俺は結論付け、再度の説得を試みる。
そして俺の再三に渡る説得が功を奏したか、かがみに譲歩させ、「じゃあ、あと一回だけ。ね? お願いっ!」と
次が最後の一回である事を確約させるに至った。
「それじゃ、いくわよ……」
かがみが箱に手を突っ込み、何か念じるかのように目を閉じる。
精神統一でもしているのか、それとも神にでも祈っているのだろうか
といってもこの世界の神はハルヒになるんだったな、古泉によると
となればまず拝んでも何かしてくれる事はないだろう。
あいつなら、そんなもん自分で何とかしなさいよ! とでも言って自身を崇める者たちを
千尋の谷へと突き落とすぐらいのことは平気でやってのけるかもしれない
俺がそんなことを考えている間に、かがみは引くクジを決めたようで
勢いよく腕を上に掲げ、手の中にある紙を開いた。
「…………」
長門ぶりの沈黙と、ハルヒと見紛うような不機嫌オーラを醸し出すかがみ。
それはつまり最後の望みをかけたクジがはかなくも外れてしまったと言う事だ
まぁ漫画や小説じゃあるまいし、ラストで当たりを引き感動的なエンディング、というのは現実にはそうそうあるもんじゃない
ハルヒならもしかすればそんなことが起こり得るのかもしれないが
あくまで俺と同じ一般人であるかがみにそんな芸当が出来るわけもない。
そんなわけで、このような結果になってしまうのもある意味当然と言えよう
しょうがないさ、運がなかっただけの話だ
「分かってるわよそんなこと」
そうは言いつつもどうやら未練はあるらしい
目線が時たま件のぬいぐるみの方へと向いているのがその証左と言えるだろう
拗ねている女子と言うのも中々趣があるな
「おう、にーちゃん。あんたも一回やらないか」
突然、今までかがみから金を受け取る時以外何も喋らなかったくじ引きの店の主人が声を発した。
どうやら俺に言っているらしい。しかし何故俺なのだろうか
たった今かがみが大損するのを見ていた俺としてはむしろ御免被りたいところなのだが
「おいおいにーちゃんよ。何情けない事いってんだ? ここは彼女のためにもガツーンと一発挑戦するところだろうが!」
つまりはかがみのリベンジをしろ、ということか
確かにかがみの雪辱を果たすと言うのであれば挑戦するに吝かでないが……
というか彼女ってなんだ?
「なっ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 私は別に、キョン君の……その、彼女ってわけじゃ……」
「はっはっはっ。照れちゃってかわいーねぇ」
かがみが顔を真っ赤にして店主に反論するが、照れ隠しと取ったらしい店主によって軽くあしらわれてしまっている。
バイトとはいえ客商売に慣れているのだろう。客の扱いを心得ているようだ
しかしかがみよ、そこまで必死になって否定されると流石の俺も少し傷つくぜ
「さて、どうする? やるのか、やらないのか」
店主がもう一度俺に決断を促す。
やるならやるで俺にもう異論はないが……かがみはどう思っているんだろうか
勝手に自分のために、なんて言われても迷惑なだけだろう。
そう思ってかがみに聞いてみたところ
「私は別に……キョン君がいいんなら」
という返事が返ってきた。かがみがいいんなら俺に否やはない
そして俺は店主に金を渡し、先ほどまでかがみが何度も手を突っ込んでいた箱の中へと手を入れ、これだと思う紙を掴んだ――――――