◆L7FKF5fBuM氏の作品です。
息も随分と白くなり、冬真っ盛りと表現するのがまさにピッタリな今日。
まあ、息が白くなるのは大気中のゴミや塵に水蒸気が付着するからなのだが。まったく、排気ガスやらのせいだろうな…。
いつものように、とりとめもない事を考えながら学校への道を歩いていく。
思えばこの道を通り始めて約一年、と九ヶ月程度…俺はこの登校中の時間に考えることが癖になっていた。
無論、クラスメートも俺がぼんやりと登校している事にも慣れ、声を掛けてくる者は少数派。
恐らくナンパに失敗した次の日の谷口や、朝倉が転校した日に事情を調べまわっていた山根…その程度であろう。
俺は歩き、考えて…いるうちに寒さをも忘れ、何時の間にか北高へと続く坂道の麓へと差し掛かっていた。
ココからなら後…十分程度歩けば校門に差し掛かるだろう。一年と九ヶ月で培った感である。
長門にでも聞けば、正確すぎる時間を教えてくれるだろうが、聞くような事でも無く、聞いたら面白くないだろう。
自称、”北校への道のり時間に換算名人”の俺は背後から近づく影に気がついて居なかった。
「…悪役が迫ってくるみたいな言い方ね?」
うぉぅ…。そこにはツインテールが逆さまになるのではないかと思われるような形相のかがみが居た。
先に述べておくが、”かがみ”と呼ぶ事には何ら意味は無い。妹のつかさと分ける為である。
「あ、ああ。どうした?」
コイツも俺と出会って…いや、この場合は俺とコイツが出会って、と言うべきだろう。
…出会って、約九ヶ月が経とうとしているにもかかわらず、俺が登校中に記憶の彼方へと旅をしている事を知らないはずは無い。
「別に何でもないけど…のほほんと春に浮かれているタンポポみたいな顔をしたクラスメートがいたら、声もかけたくなるわよ」
なるほど。俺の顔は非常にのほほんとしていたらしい。今度から顰め面で歩く事にしよう。
「本当に捻くれてるわね…」
捻くれていて悪かったな。これも恐らく俺の社会的呼称にあだ名が定着してしまっている事が一因に挙げられると思うぞ。
「はいはい、もう分かったわよ。どうして私の周りにはこう変わり者が多いのか…悩ましいわね」
やれやれ…。封印していたはずの言葉を思わず使ってしまう。
何故”かがみ”にだけはこうもペースを崩されるのか、非常に謎である。
ハルヒにでも聞かせてやれば良いだろうか。恐らく最上級の飛び蹴りを頂けるに相違ない。
「ちょっと、人の話聞いてるわけ?」
先ほどから疑問符が多い会話のような気がする。
「ああ。で、なんだって?」
「…結局聞いてないじゃない。だから、今日家に私しかいないのよ」
ふむ、それで夜寂しいとか言うわけではあるまいな?
「バカ。だから…その、晩御飯作ってほしいのよ」
はぁ…?
「だから、私って料理苦手でしょ?つかさも居ないし」
「なるほど、大方話は分かった。で、何で俺なんだ?」
俺は当然とも思われる疑問を口にする。
途端!”かがみ”の目が白くなる…おお、神様。今目の前に恐ろしい形相の方がいらっしゃる。
「とにかく来てっ!いいわね?放課後逃げたりしたら許さないんだから!」
おいおい、同じ教室に一日中居るわけだから逃げられるわけが無いだろう―――。
俺がそういう前に、既に”かがみ”は姿を消していた。
やれ…言わないぞ。封印してるはずだからな。危ない危ない。
俺は自然と顔が微笑に変わるのを意識した。
ったく…。
ちなみに、教室で”かがみ”は俺と一度も目を合わせようとしなかった。
そして、放課後!
教室を飛び出し、校門に差し掛かったとき。
「逃げたら駄目っ!」
後ろから聞こえてくるのはツインテールを風に揺らしながら走ってくる同級生。
ま、待て。逃げるのではなくこれは戦略的撤退…。
「問答無用!天地無用!心配無用!」
いや、俺の中での心配バロメータはレッドゾーンを大きく振り切っているのだが…。
先ほどから俺に物凄い勢いで話し掛けてるのは、皆様方の予想通り”かがみ”である。
その勢いたるや俺が考え事を出来ないほどである。
「いいから…来てよ」
そのときの彼女の表情に、俺は「ああ」という何とも間抜けな答えを出すほか無かった。
「…ありがと」
彼女の表情が安堵に染まった。
その顔を見て…。
やはり、彼女にはペースを崩される。むう。
「じゃ、行きましょう」
俺と彼女は、夕焼け色に染まったいつもの下校道をいつもとは違う二人で行った。
彼女の家に着いたとき、既に漆黒のキャンパスには輝きを放つ星々で溢れかえっていた。
息が白くなるほどの空気でも、彼女の家の付近は星が良く見える。
ああ、妹と母親には既に遅くなるであろう旨を伝えてある。
「また考え事かしら?」
困ったような表情を彼女は浮かべながら、家の鍵を開けている。
「ああ、すまないな…どうしても癖でな」
「前から分かってるわよ。そんなこと」
鍵を開け、俺を家の中へと手招きする。
その手に導かれ、俺は柊家にお邪魔した。
「じゃあ、よろしくね」
ああ、任せとけ。
そんなこんなで、俺は彼女の家のキッチンで料理する事になった。
まぁ…最初はご飯から炊く事にしよう。真っ白の、な。
敢えて料理中の描写は割愛させていただく。
…集中したいんだよ。すまないな。
そんなこんな…二回目の使用だな、この言葉。
まあいい、取りあえず完成した料理を適当に盛り付け、俺はリビングの机に並べていく。
この並べる一瞬一瞬が楽しく感じる。
…よし、これでいいな。
後は彼女が課題という名の敵を迎撃し、二階から降りてくるのを待つばかりである。
まあ、もう数分経てば降りてくるだろう。
しかしそれを待つのも面白くないので、俺は彼女を呼ぶ事にする。
「おーい…飯出来たぞー…」
恐らくどこの家庭でもこんな感じではないだろうか。
「今行く!」
その声が聞こえたときには、彼女は既に俺の視界に入っていた。
…なんというか、足速いな。
どうでも良いことを考えつつ、俺は彼女のリアクションを楽しみにしていた。
柄にも無く、気持が焦る。
「おまたせ!って…凄いじゃない、この料理」
「ああ、少し頑張ってみた」
俺は平生を装い、答える。
「冷めると勿体無い。そろそろ食べようぜ」
彼女は満面の笑みで答えた。
「―――うんっ!」
いつか。
いつか、毎日こんな会話が出来るようになるだろうか?
彼女を、普段とは違う意味で”かがみ”と呼びたい。
そんな日が、来ればどれほど幸せだろうか。
このような考えも、彼女の笑みを見ていると自然に解けていくような気がした。
さて、先ずは真っ白なご飯から食べるか―――。
Fin
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最終更新:2008年01月27日 20:15