「さて、どんな案ありますかね」
「…うーむ」
一つのテーブルを挟み、男女が一組座っていた。
この風景だけを切り取れば恋人同士に見れるかもしれないが、どうにもそのような雰囲気は見て取れない。
その理由はこの二人が顔をつきあわせてるにも関わらず別段、甘い空気が流れないからだろう。
更に言えば二人が眉を曇らせているからであろう。
「…正直、キョンは知っているがお前についてはあまり知らん」
「ふむふむ」
「だから無理だ」
えぇー?と残念そうな声が上がった。
この二人、どうやら知り合って日が浅いようである。
「だから、そんな大層なことはいらないッスよ」
ドン、と机が叩かれる。
相談をするため、ファミレスの席を使う為に注文した机の端のコーヒーが揺らいだ。
それを見てまだ口も付けていないのに温くなって勿体無いな、などと考えた。
「先輩の趣味とか好みとか性癖とか」
最後の一つを知ってどうすると言うのだろうか。
…まぁ、それを置いておくにしても目の前の少女はそこまで悪くない。
顔はむしろ平均以上であろうし今時に珍しく眼鏡、ストレートロングで清純さもある。
少し貧相な体格は見方次第ではスレンダーと呼べる。
(…B+ってところか)
正直な話、小細工をするよりも真っ向から行けば大抵の男は落ちるであろう。
だが、相手が悪すぎる。
「キョンの好みは変な女だな。あとは知らん」
俺の親友にして天然フラグマスターのキョン。
あいつの周りには何故か美女が集まる不思議な磁場が形成されている。
「変な女ッスか…?」
きょとん。そうとしか言えないような顔をした。
「そーだよ。涼宮しかり、佐々木しかり」
あと長門しかり、と心の中でだけ付け足した。
どいつもこいつも一癖どころか二癖もある連中だ。
…なのにいつの間にかキョンの側に引き寄せられている。
「…他には何か無いッスか?」
色々自分で考えてみたが何も思い浮かばなかったらしいと見える。
暗い顔を俺に向けてすがりつくような目をしていた。
─*─
少し話しは前後する。
どこから話せばいいのやら俺には検討がつかないんだが、取りあえず今日の昼休み。
そこから回想させてもらう。
さて、いつも通りの三人で昼飯を食っていたのはまさしく、いつも通りであった。
だが女の動きには多少は目ざといと自負する俺には少し違和感を覚えていた。
その根源は泉を筆頭とする女四人組である。
いつもならどこか気だるげに仲良し友達どうしのお食事…とでもいった風なのだが今日は違う。
それどころかどこか張り詰めた空気すら感じられた。
「………」
不肖ながらこの俺、噂が好物であったりする。
更に言えばあの四人組はレベルが高いので興味も倍増である。
そんな俺の弁当を食べる手が止まっている事に気づいたキョン。
「どうした?口内炎でもできたのか?」
全くの見当違いな心配はおそらくからかい半分だろう。
しかしながらにこれでいて人を気遣うことに意外と長けている友人でもある。
「…いやな、なにやら泉達の様子がちょっと気になってな」
本音を"あわよくば泉達と仲のよいキョンから情報は得られないか"と思いながら言ってみる。
するとどうやら何か心当たりがあるらしく、キョンも弁当を食う手を止めて口を開いた。
「多分あれだ、旅行の計画じゃないか?」
「旅行?」
オウム返しに尋ねてみる。
「なんでもSOS団With愉快な仲間たち、という名目で鶴屋さんの別荘へ行くらしい」
それがどうかしたのか?とでも言いかねないような驚くほど普通の顔でそんな事を打ち明けた。
沸々とそれをさも当然のように受け入れているキョンに殺意が芽生えていく。
…それはともかく、その言葉で理解できた。
ちらり、といつになく真剣な顔つきの泉らを見る。
風の噂に古泉と付き合ったと聞くつかさ以外は眉を曇らせていた。
(…この機会に距離を縮めようって腹なんだろうな)
普段温厚な高良でさえ真剣になにやら考えてるところをみるに、かなり熾烈な戦いが起こるのだろう。
傍観者である俺が推測するにこの「旅行」は大きな分水嶺なのだろう。
おそらく、告白なり一大イベントがある筈だ。
メンバーはSOS団+4人+鶴屋さん。
本命ハルヒ
対抗泉
単穴柊
ってところだろうな。だがつかさは古泉つき合っているらしいから除外。
…ふむ、この水面下での激戦を予想しただけで恐ろしい土壇場である。
そんな俺の考えを知るはずもないキョンは俺の憐れみの視線に不思議な顔をした。
「どうかしたか?」
「いや…大変だなお前」
俺の心からの哀れみを全く理解できない我が親友は、怪訝な顔をして俺を見るのみであった。
隣で俺らを見ている国木田も軽く笑顔などをつくっていた。
「そうだね、頑張ってねキョン」
本気ともからかいとも嫉妬ともとれるような平坦な声で励ます国木田。
「お前もか。何を頑張れってんだ…」
コイツはコイツでとぼけてるのか天然なのか首を傾げやがる。
別段俺は好みの女が居ても好きな女が居る訳でもない。
だからキョンが涼宮と付き合おうが泉と付き合おうが柊と付き合おうが関係は無い。
…だがこの理不尽なモテ男を見ているとどうしようもなく腹が立つのだ。しかも無意識で。
ささくれ立った心は有害なので軽く心の中でキョンが修羅場に巻き込まれますように、と祈願しておく。
こんな程度で落ち着く俺の安さはどうなのかと疑問を覚えたりするが、これもまたいつもの事である。
まぁ、こんな昼休みだったのさ。
続く
最終更新:2008年02月02日 19:29