小泉の人◆R7FBcOZp9Q氏の作品です。
snarpens you up.
さて、日本人でテレビを持っていて民放以外は見ないぞって人以外はこの言葉に聞き覚えがあると思う。
シュガーレスなのに甘味料とは如何に。
そんなお菓子にまつわる一人の青年の"裏"のお話である。
シャカシャカ、と小気味よい音を鳴らせてコンビニから出た。
もうすぐテストだしそろそろ勉強もしなければならないので眠気覚ましの代わりとして購入したお菓子。
フリスク。
登校する前に買ってしまったが、もし放課後に買っても少しキョンや谷口にお裾分けする位でそこまで損をする訳でも無い。
だからまぁいいか、と思った。
容器をスライドさせて一粒口に入れる。
「…うん、」
心地よい舌を刺す刺激と、鼻を刺す香りがくすぶっていた眠気を追い払ってくれた。
さて、1日の始まりだ。
「オス、国木田」
「ああ、おはよう谷口」
僕が教室に入るとまず声をかけてきたのは谷口だった。
締まりのない顔と前時代的な髪型…いや絶滅危惧種かな?オールバックの学生なんて見たことないし。
そんな僕の内心を知ってか知らずか聞いてもいない先日のナンパの失敗談を嬉々として話す。
この男には恥という概念は無いのだろう。
僕ならそんな「私は顔が悪くお金もなく口も人並み以下おまけに空気も読めません」なんて言ってるような話はできない。
ただ、それを言えるという点においてのみ君を尊敬するよ。
谷口の話を聞き流しながら席に座る。
教室の端では今日もキョンと泉さんが気だるげな会話をしているのだろう。
「おっはよー」
教室の前のドアが開いた。
柊かがみその人である。
このクラスに属する柊つかさの姉である。
今日"も"キョンに会いに来たのだろう。
表面上は友達に会いに来たと言っているがそれは建て前で自分のクラスの友人を放っておいて友人を優先。
更にその友人よりキョンを優先しているのは誰から見ても明らかで気づいていないのは当人かキョン、あとはこの目の前の馬鹿くらいだろうね。
カシャッ、と容器を振りまたひと粒口にした。
CMでやるようなこのやり方は格好いいのでやった人も多いことだろう。
「お、少しくれ」
…この男は、本当に、恥を、しらない。
僕は谷口の「結局俺に見合う女はいなかった」という明らかにズレた結論を誇らしげに出して得意そうな顔をしたその手に二粒出してやった。
「センキュ」
中途半端な巻き舌が耳にへばり付くからやめて欲しいものである。
でも努めて笑顔にしている僕はやはり笑顔。
こういった地味な努力の甲斐あってクラスの隠れた人気を取っているのに目の前の誰かさんは「隠れてナニしてるんだ?」とやはり馬鹿な事を言われるから気が滅入る。
その後は何事もなく昼休みまで過ぎた。
食事とは合わないのでご飯を美味しくたべるにはフリスクは事前に食べるべきだ。
またひと粒口にした所でキョンにも勧める。
「キョンは食べる?」
おう、といつも通りのキョンの手にパッパッ、と振る。
四粒くらい出た。
それをキョンはガリガリ噛み砕いてお茶で流し込ん……
「ゲホッ!?」
あーやっぱフリスクってあんまり合う飲み物は無いよね。
どうにも谷口と違い、人を惹き寄せる魅力を持つキョン。
友達…いや、親友とは互いに学び、尊敬できる人物であるべきだよね。
僕はその事実を噛み締め
「…………」
苦虫を内心噛み締めた。
目線の先には谷口の手。
強欲にも僕のフリスクをまだ欲しがっているらしい。
無言で、しかし笑顔のまま振った。
「……ぁ」
「ラッキー♪」
ボロボロと七粒位落ちた。
え?いやいや別にショックなんて受けてないけど何?なんで谷口はそれを全て口にふくんで一気に噛み砕いてるの?
いくらなんでも多すぎたと思わないの?馬鹿なの?馬鹿ですね。
普通こういった場合は僕に少しは返そうとする姿勢しないかな?
いや返されても困るけど。谷口に。
「あの、キョン君これ少し食べてくれないかな?」
そんな僕の後ろに柊かがみがいた。
妹に頼んで少し豪勢にしてもらったであろう弁当箱を出し、キョンに食べてもらおうとしている。
何故そんなことがわかるのかと聞く奴は多分低脳に違いないだろうけど一応補足するなら柊かがみにはそんな料理の腕は無いし妹の弁当より豪勢だから。
多分「私が作ったのよー」的オーラを出してるからキョンに対するポイント稼ぎだろうね。
それと冬だし食べ過ぎた分のダイエットも兼ねてるんじゃないかな?
でも涼宮さんって存在を知ってるのによくできるよね。
涼宮さんはこの柊かがみと同じクラスだけどキョンに会いに来る口実が余りに無いので爪を噛んでるのに。
とりあえず僕はいつもの笑顔で柊かがみにもフリスクを勧めた。
「あ、ありがと…」
うん、実に心のこもってない返事をありがとう。やっぱりキョン以外から話しかけられるのは嫌なのかな?
正直男性経験どころか付き合った事も無さそう…っていうか無いだろうね。もったいない。
まぁ、キョンが誰を選ぶかは自由だし邪魔しない代わりに応援もしないさ。
そして放課後になった。
キョンはSOS団へ向かい、谷口はどこへ行ったかなんて知りたくもない。
例の四人組は普通に下校する。
僕は適当な、谷口に言わせればC+以下の女子と男子にさよならの挨拶をする。
さて、帰ろうか。
フリスクを取り出し、液晶画面の中の人物の真似をして口に入れた。
「あ、国木田君」
「うーん…こんにちは、かこんばんは、かで悩む時間帯だね。柊さん」
なんと柊かがみに家の近くで遭遇した。
四人組が普通のあのグループで単独行動とは珍しい。
「とりあえず、こんばんは。どうしたのかな?」
なにやら顔を少し赤らめてもじもじしているが余りに似合わない動作である。
しかもどうやら故意に待ち伏せていた節が見られるとはどういうことか。
まさかキョンから僕に鞍替えするつもりかな?無いとは思うけど。
「実はね…その…」
「うん」
早く本題を切り出して欲しいものである。
「昼間のあのお菓子って何かな?」
「……………………………………………………………………………………………うん?」
「いや、そのね、あれってなんかシュガーレスって文字だけ見えてね、その、」
…ああ驚いた。まさかフリスクを知らない輩がこの日本に居たとは。
こう…、スタンドも月までぶっ飛ぶこの衝撃!って感じだよね。
とりあえず先は読めた。
「つまりダイエット中で甘い物を欲しかった。だけど下手な物は食べられないけどコレなら大丈夫!……って所かな?」
「はぅっ」
図星だったらしい。
顔を赤らめるその姿は綺麗な人物なら人の心を掴んで離さないだろうけど僕は柊かがみのその姿には何の影響も及ばされなかった。
「コレはフリスク、って奴だよ。コンビニのガムの近くに置いてあるから探してごらん」
優しく言ってやると顔をパァッと光らせ、「あ、ありがとう!」と言って握手された。
「別にいいよ。他にもイチゴ味とかもあるからダイエット頑張ってね」
その手を取り、フリスクを二、三粒落としてやり僕は去った。
「ありがとー!」
と背中に再び声が聞こえた。
足も止めずに僕は家路を急いだ。
試験勉強も佳境に入ってこんな時間になってしまった。
少し眠気が酷いのでフリスクを制服から取り出して手のひらに向かって振った。
「……………?」
フリスクが出てくるどころか物音一つしなかった。
「……………」
ブンブンブンと振ってもほこり一つ落ちない。
つまり、中身が空。
好物であるフリスクが無いという怒りを全て谷口に約10個もあげてしまったことに結びつけて窓を開ける。
そして投球フォームに入り、
「五分の、一も、食べやがってぇ!!!!」
控えめに叫びながら遠くに全力で投げた。
どこか不幸な人に当たったらしく遠くで悪態をつく声が聞こえたが気にせずに眠気覚ましのコーヒーを煎れる為にキッチンに向かった。
「全く…」
その後にどんな言葉が続くかなんて自分にも予想はできなかった。
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最終更新:2008年02月12日 12:06