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原付免許

小泉の人◆R7FBcOZp9Q氏の作品です。


寝過ごした。

いつもの起床時間を30分も遅れて起きてしまった。
寝間着を速攻脱ぎ捨て、朝食も取らずに全力で走った甲斐あって、なんとか始業10分前に教室にたどり着けた。
「…ふぅ、ギリギリだ」
こんな季節だというのに額に汗して登校していたのは僕くらいのものだろう。
自分の机にカバンを置き、空腹を紛らわせるためにポケットに入っていたフリスクを口にする。
ポリポリ…と一応はお腹に溜まるけど決定的に量が少ない。
所詮は一時凌ぎ、と諦める他ない。
せめて空腹に意識が行かないようにと暇つぶしの相手を探す。丁度よくキョンが一人でなにか情報誌を読んでいる。
あわよくば何か口にできないかという希望も込めてキョンへと近づいた。
「おはよー」
「…ん?国木田か。おはよう」
何やらその雑誌を読むことに集中してたらしく、珍しくも周りが見えていなかった。
とりあえず腰を降ろそうとキョンの前の席を借りる。
「泉さーん、ちょっと席借りるよー?」
教室の端でいつも通りの四人組で談笑していた泉さんがこちらを向き、両手で頭の上に大きな丸を作った。
オッケーという事と見ていいのかな。
席に座る。
「で、何読んでたの?」
僕が聞くと、その答えの代わりにキョンは読んでいた雑誌の表紙を僕へ向けた。
「原付免許…?」
「うむ」
別に学校で禁止されている訳でも無いし、許可を取れば通学だってできる。
だから特に違和感なくただ興味本位でもう一つ聞いた。
「ふぅん………なんで?」
「なんでと言われてもな…強いて言うならアシが欲しかったからだな」
そう答えたキョンは普段通りだったし、これがアホの谷口だったりしたら話は別だっただろうね。
この時、違和感がメキメキと芽生えた。
そしてそれと同じくして上手くいけば空腹を満たせるという計算も立ち上がった。
僕はいつも通りの微笑を顔に貼り付け、キョンに話かけた。
「ねぇキョン」
「なんだ?」
「暇なんだけどどうしよう」
「…谷口にでも勉強を教えてやればこの時期異様に感謝されるだろうよ」
「あはは…キョンは面白いね」
何が悲しくて3年間しかない貴重な高校生活を谷口に割かねばならないのだろうか。
それはともかく。
「だからさ、ちょっと独り言でも聞いてくれないかな?」
「俺は勉強したいんだが…まぁいいが」
大人しく雑誌…ではなく原付免許の学科の教科書を畳んだ。
「いや、別に読んでていいよ。特に反応が欲しい訳でも無いしね」
「そうか?なら遠慮なく読ませてもらおう」
独り言、と言っているのにキチンと対応しようとしているのが全くキョンらしい。
そういう友達思いというか他人を思いやる、というか…そこにとても好感がもてる人物なのだ。キョンは。
だから少し心苦しい部分もあるが忠告という側面もある話をさせてもらう。
再びパラパラと教科書を開くキョンを尻目に口を開く。
「例えばの話なんだけど16、7の男子高校生が原付免許を取る場合ってどんな時だろうね?」
ピクリ、とキョンが強張ったのが少し見て取れた。
「例えばこの学校に通学するのにだったらどうかな?けど禁止されてるのは大型だけで普通二輪は禁止されてない。
原付と普通二輪ならやっぱ普通二輪だと思うんだ。だけど高校生にバイクって高いよね。
だから原付を選ぶのはなにも不思議じゃない、うん。でも理由がよくわからない。
それにここから徒歩で通学できる人が急にバイクってのもおかしいし…普通は自転車じゃないかな?まず変えるとしても。
だったら納得できる理由は何かな?
例えば…本当に例えばの話だけどその人にはつきあってる人がいる。
そしてその恋人がバイクを持ってたらどうかな?いや待てよ待てよだったら普通二輪で二人乗りとかの方がよくないかな?
いやいや高校生にはちと厳しい。それに必要なければどうだろう?
例えば車を持っている…そうでなくとも車の免許を持っている。これなら二人きりでデートするならわざわざ二人乗りなんて寒いし面倒なことをする必要はない。
オマケで原付にも乗れる。例えばその人の車は親の物で自分は原付バイクしか持ってなかったらどうかな?
二人で行ける場所が増える。いいことだよね。
さて、その人は高校生。年下、同級生では車の免許はとれない。三年生は?この時期は受験で忙しかったしこの学校には就職組は数人しかいない。
推薦で決まってるなら取っててもおかしくないけどね。
…どうしたのキョン?暑い?」
ダラダラと汗を滴らせて明後日の方向へと視線を向けていた。
「…あ、そうだキョン」
「な、なんだ?」
「香水つけたんだね。けどそれ女物っぽいから止めたほうがいいと思うよ?」
「…ッ!?」
慌てて自分の服の香りを嗅ぐキョン。
しかし、特になんの香りもしないのに気づいて、その様子を観察していた僕にばつの悪そうな顔をした。
「…」
「あーお腹へった。寝坊して今日の朝ごはん抜いたんだよね」
「あー…国木田さん?その、どこまで知っ」
「あ、涼宮さん」
ガバァッ!!とキョンは振り向くがそこには誰もいない。
「…には原付取るって言ったの?」
「…………」
なんとも色々と複雑な感情の入り混じった表情をしている。
けどあくまでも僕は友人だしそんな無粋な真似はしないよ?
何も言わずにキョンの鞄から差し出されたパンを受け取り、僕はにっこりと笑う。
「それじゃあ、柊さんに宜しくね。パン、ありがとう」
そして席を後にする………前に、一つだけ。
「あ、そうだ。せめて駅前じゃなく隣町のを使った方がいいよ?」



苦虫を噛み潰したと言うか己の失態に後悔したと言うような顔をしながら苦笑するキョンに見送られると同時にチャイムが鳴った。
まだパン食べてないのに…






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最終更新:2008年02月16日 12:47
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