chocolate or baseball manager?

泉どなた ◆Hc5WLMHH4E氏の作品です。


バレンタインと聞いて最初に浮かんでくるのは
若い女からいい歳こいたオバハン連中、さらにはお婆ちゃんまで
世の女性が好きな男性にチョコレートやその他プレゼントを渡す
なんともこそばゆい日のことではなく
2005年、我等が千葉ロッテマリーンズを31年ぶりに優勝に導いた偉大なる監督
皆さんご承知のボビー・バレンタイン監督や
かといって前者に興味が全くないわけではない
私も生物学的には♀やし、独身で27歳を迎えた今でも心は乙女
手作りチョコなんてもう久しく作ってないし、市販の物でさえ贈ってないけど
それは相手がおらんからであって、対象者がおればそんくらいは出来る
ただ仕事が忙しくて相手を見つける時間が無いってだけや

「先生は誰かにチョコ贈るんですか?」
「せやからな、相手がおらんからどうしようもないねん」
「寂しいですねぇ」
泉、ウチはアンタをそない失礼な奴に育てた覚えは無いで?
かといって同情されても困るけどな
「そういう泉はどうなんや?」
「もちろん贈りますよ。 今日作ります」
頭にもちろんを付けたのは、ウチに対する当て付けと見ていいんやな
「で、一体誰や?」
「キョンキョン」
キョンキョンって……小泉今日子?
「あ、そうそう古泉君もです」
話が噛み合ってないような気がするけど、キョンと古泉ね
「手作りなら頑張りや」
「そうだ!」
握り拳を手の平に打ち付けるアクションしながら声を張る泉
「相手がいないなら先生もキョンキョンに手作りチョコ贈りましょうよ!」
まてまてなんでそうなんねん!?
「これを機に仲良くなって、そのまま結婚できるかも」
こんなんで結婚できるなら早よからできとるっちゅーねん
「作らんからな、絶対」

そんな会話をした今日はバレンタイン前日
早めに仕事を切り上げて、まっすぐ家に帰るつもりが
気が付くとスーパーのお菓子コーナーに立っている自分がいた
頑なに否定していたことは棚に上げて、大量のチョコをカゴに入れる
やるからには本格的にやって、泉をギャフンと言わしたる
こんなにワクワクするのは学生の時以来やな、帰ったら早速作ろう

「完成でーっす」
たった一人ではしゃぐのも、一人暮らし暦が長いと抵抗なんてないない
ただ出来立てを誰にも見せれないのは少し寂しい
今回作ったのは、丸く形作ったチョコを砕いたアーモンドの上で転がしたチョコクランチと
イチゴやバナナにチョコをコーティングして固めたフルーツチョコ
中々上出来やな、こら店で出したら結構な値がするで
それをタダで食われるんやから、キョンは恵まれとんなぁ
冷蔵庫を開け、真ん中の棚に大量に置いてあるビールを野菜室に追いやり
箱詰めの完了したチョコを入れて閉め、二回手を叩いて拝む
大げさやけど、溶けたりなんかしたら元も子もないからな



「さて、そろそろ行くか」
目覚ましより早く起きたのは、今日を楽しみにしていたからだろうか
普段はお目にかかれない爽やかな目覚めを味わうことが出来た
冷蔵庫からは昨日のチョコを、冷凍庫からはカチカチに凍った保冷剤を取り出す
職員室の冷蔵庫を借りるつもりやけど念のためや
忘れ物が無いことを何度も確認し、結局家を出た時間はいつもと変わらなかった

正直今日やった授業の内容は自分でも覚えていない。 教師が言う台詞や無いけどな
でもしかたないやん、どうしてもキョンが目線に入ってしまうんやから
泉はなにやらニヤニヤ笑てたけど、ウチの異変に気付いとったんやな
HRを終えるとどの生徒よりも先に教室を出て職員室へと急ぐ
理由は簡単、そこにチョコがあるからや
何とかキョンが部活に行く前に渡しておきたいからな
他の職員に見つからないように鞄の中からチョコを取り出す
保冷剤がまだ効いていて、袋は少し汗をかいていた

職員室を出てとりあえずさっきまでいた教室へと向かうも、
その足は途中で止まることになった
それに加え、これを渡そうという気さえ無くなってしまった
キョンを探す私が見つけたのは、泉達仲良し四人組だった
普段は談笑しながら並んで歩いている四人やけど今日は違った
特に印象強いのは泉の真剣な顔
普段の眠そうな顔ではなく、授業中一度も見せたことが無い思いつめたような緊張した面持ちだった
それは他の三人にも言えることで、これから起きることに対する期待と不安の入り混じった
なんとも言えない複雑な気持ちでいるのが見ただけでわかった
そんな四人の姿を見て、遊び半分でチョコを渡そうとしていた自分が恥ずかしくなった
そして自分は彼女達にとって邪魔な存在だという気がしてならなかった
「やーめた」
これは家に帰って一人で食べよう
私は踵を返して職員室に戻った


粒の大きな牡丹雪がフロントガラスに当たって溶け付く
カーステレオから流れるラジオの曲を口ずさみながら走っていても
放課後見た四人の顔が頭から離れない
「アイツら、上手くいったんかな」
明日学校に来たときにはいつもの笑顔に戻っていて欲しいもんや
『他人の心配をする暇があったら自分の心配をしろ!』
心の中で自分自身に突っ込みを入れてしまい、思わず笑いが漏れてしまう
気が付くと、降り続くかに思えた雪はいつのまにか止んでいた

家に帰りつき一番にパソコンの電源ボタンを押す、
完全に立ち上がるのを待つ間にチョコを頬張った
「うん、結構イケるやん」
いろんな菓子メーカーのチョコをブレンドした甲斐あって
どこにも属さないオリジナルの深みある味を醸し出している。 我ながら天晴れやな
パソコンが立ち上がり、ネトゲを始めると早速泉からメッセージが入ってきた

konakona: こんにちわ
nanakon: よっ(^3^)/無事にキョンに渡せたみたいやな
konakona: はい、先生はどうして渡さなかったんですか?

やっぱりこの質問か……どうしてって言われても返答に困る
少し考えた末、イチゴのチョコを口に入れてカタカタとメッセージを打ち込んだ

nanakon: これでいいのだ>w<b
konakona: ボンボンバカボンバカボンボン♪
nanakon: 的確な受け答え感謝するw
konakona: ところで今チョプロン村近くの洞窟にいるんですけ、狩しませんか?
nanakon: 明日も学校あるし、少しだけやで
konakona: ……じゃあゲート近くで待ってますから

次の日
結局夜遅くまで……いや、朝早くまでと言ったほうがええかな
とにかく止めるに止めれず狩りしてしまい、泉はいつもの笑顔に戻るどころか
その日一日を私と二人仲良く魚のような目をして過ごした
早起きは三文の徳と言うけど、夜更かしは何文の徳にもならへんな






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最終更新:2008年02月16日 14:02
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