リレー作品3

200 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」   :2008/02/09(日) 23:09:12  ID:vg05C19u0
     「はぁ…」
     出るのは溜め息ばかりね
     気が付けばあいつのことばかり考えてるのよね、なんでなのかしら?
     いや…誤魔化すのをよそう、たぶんあたしはあいつのことが好きなんだと思う
     でも、なんで好きになったんだろう…
     ただ同じクラスでたまに話しをしたり、時々SOS団に顔をだしに行くくらいなのに
     でも一緒にいると楽しいし、なんか…落ち着くのよね
     だけど一歩踏み出すのは怖い、どうしたらいいかわからない
     それにあいつはなんだかんだ文句を言っててもいつもハルヒといるし
     あいつ、ハルヒのことが好きなのかしら?
     こなた「別に好きな人はいないみたいダヨ」
     かがみ「そう…よかった……って!! こなた!あんた人の心が読めるの!!?」
     こなた「そんなわけないじゃん、かがみんの質問に答えただけダヨ」
     かがみ「へ……っ!!?ちょっといい?こなた」
     こなた「なに?」
     かがみ「あたし、独り言言ってた?」
     こなた「すっごく言ってた」
     かがみ「えっ嘘!?」
     こなた「ふっふっふ…ついにかがみんにも、好きな人ができたみたいだネ」
     かがみ「べ、別に……」
     こなた「しかも相手はキョンキョンとみた」
     かがみ「ち、違うわよ!!」
     こなた「そう照れなさるな、キョンキョンは強敵ダヨ」
     かがみ「そうなの?」
     こなた「鈍感、無自覚、フラグクラッシャーの三点セットだしネ」
     かがみ「フラグクラッシャー?なにそれ?」
     こなた「えっいや、こっちの話 で、やっぱりキョンキョンなんだネ」
     かがみ「だから違うってば!!」
     こなた「じゃあ、キョンキョン以外に好きな人でもいるの?」
     かがみ「いないわよ!!」
     こなた「やっと自白したネ」
     かがみ「なにがよ!」
     こなた「今、キョンキョン以外って言ったじゃん」
     かがみ「ぐ……っ!あーーーもーいいわよ!!あたしはキョンのことが好き!!これでいいんでしょ!!」
     こなた「うおっ!見事な逆ギレダネ」
     かがみ「別に、本当のことを言っただけよ」
     

     思いつきで書いたから、続きが… 誰か続きを…


213 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」  sage  :2008/02/10(日) 00:17:28  ID:w9U+JypmO
    続きといこうか。


    「で、どうするの?」
    こなたは顔付きを変える。
    どうって言われても…
    「そりゃあ、さ、ベストは付き合う事でしょ?」
    「う、うん」
    「でも断られたらを考えると怖い。」
    あ…だから一歩踏み出せないんだ。
    「典型的な乙女、だね。かがみんカワイー!」
    反射的に手が出る。
    が、こなたの頭上数センチで握った拳を止めた。
    「およ?」
    こなたも頭を抱えてガードしていたが私の攻撃が当たらなくて驚いてる。
    我慢よ私。
    「ねぇ……どうしたらいいかな」
    「悩みは人を強くするんだってサ」
    病も強くなりそうね…
    「恋の病だネ。ある意味羨ましいよ」
    「こなたは好きな人いないの?」
    これでキョンの名前を出したら泣くわよ…
    「私?……実はキョンキョンが…」
    「えっ!?」
    思わず机を手の平で叩く。
    「冗談だよっ」
    ……アンタねぇ。
    「キョンキョンは優しい人だけどね。面倒見の良いお父さんって感じかな?」
    確かに優しいけど…、一回席が隣になった時も無愛想ながらも私に話して聞いてくれた。
    すぐにハルヒに引っ張られるんだけど。
    「キョンの好きなタイプってどんなだろ」
    はぁ、と溜め息をつく。
    「キョンキョンは男性として頬を赤らめても、恋愛感情の照れは見られないよね」
    それがある意味怖いのよね。
    既に付き合ってるから、かも知れないし…
    一応こなたが「いない」と言ってくれてるけど。


214 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/10(日) 00:18:25 ID:w9U+JypmO
    「ふむ、これは調査しがいがありますな」
    調査?
    「私もキョンキョンに興味が沸いて来たよ。あ、好きとかじゃなくてね」
    少し怪訝そうな顔をすると、こなたは笑いながら否定してくる。
    「かがみん、携帯光ってるよ」
    机に置いた携帯のランプが点灯している。
    私は手にして開き、メールを見る。
    ――キョンからだ。
    「え…えっ!」
    こなたも私の後ろに回り、キョンである事を確認する。
    「おおっ、フラ……まさかの以心伝心っ?」
    私はその無題のメールを開いた。

    『すまん、明日の英語の宿題の範囲教えてくれ』

    「…………はぁ」
    「キョンキョンのバカー」
    私はゆっくり机にうなだれる。
    顔だけを上げて英語の範囲を教えて返信しといた。
    「キョンキョンには女性の扱い方を教えないといけないネ」
    そうね
    「泉さん、かがみさん、お待たせしました」


215 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/10(日) 00:21:05 ID:w9U+JypmO
    みゆきが小走りで駆け寄る。
    後付けになったが委員会があって、私達は待っていた。
    「それじゃ帰ろー」
    私とこなたも立ち上がり、三人で教室を出た。

    「何を話してらっしゃったんですか?」
    みゆきが屈託の無い笑顔を向ける。
    「とある乙女の恋煩い話」
    こなたが人差し指を立てて言う。
    「かがみさん、ですか」
    えっ?知ってたの?
    「最近溜め息が多いので…やはりそうでしたか」
    「かがみんまた墓穴掘ったネ」
    穴があったら入りたいわよ…
    「お相手はどなたですか?」
    ばれてる気もするけど。
    私はキョン、とだけ言う。
    「キョンくんは今付き合ってる方はいらっしゃらない筈ですよ」
    「本当っ!?」
    「ええ、先日一緒に頼まれ事をしてる時に聞いてみましたが」
    良かったぁ…。


216 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/10(日) 00:51:36 ID:V6GjOrT40
    なんて、ほっとしてる場合じゃない
    「ねぇみゆき、みゆきはなんでキョンにそんなこと聞いたの?」
    そんな質問を異性に投げかける理由は大概2つ
    こなたのような興味か、私のような興味か
    つまりそれはそのまま私の今後を左右することになる
    そしてみゆきはもしもこなたのよりの興味をもったとしても
    そういうプライバシー的部分に関与する質問はしないんじゃないかと言う考えもあった
    「えっと…それは…」
    急に口篭るみゆきの姿は私の想像、予感が的中したことを如実に表していた
    「おぅ! みゆきさんもキョンキョンの事が好きだったの?」
    しかしこなたは臆さず突っ込んで聞く
    それは友人グループ内で三角関係ができかけていることなんか意に介さないような感じで
    危うく気まずいムードになりかけた私達は苦笑いを浮かべる
    「はい、かがみさんにはすみませんが、なんどかみなさんと一緒にお話して…」
    みゆきは普段から大人っぽくて、少し周りから浮いているところがあった
    私達は別に気にしてないが、それを近づきにくいと思う人だって少なからず居るだろう
    そんななか私やこなたを通して、キョンと仲良くなって
    キョンの大人な仕草、喋りかたを見て
    それでもたくさんの人とかかわって上手く立ち回るのを見て
    「…最初は多分憧れだったんです」
    「で、段々と恋に変わっていってしまったんだね~」
    腕を組んでうんうんと頷くこなた
    紅くなって小さく呟くみゆき
    そして私


217 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 :2008/02/10(日) 00:53:38 ID:V6GjOrT40
    「前途多難だわ~」
    帰りの電車の中、みゆきと別れてから
    私はつり革に全体重をかけるかのようにしながらため息と共に呟く
    「ちょ! かがみん豪快!」
    「だってみゆきがライバルよ?」
    言い方は悪いけど、あの完璧超人にどう挑めというのだろうか
    たまにドジなところもあるけど、キョンならそれだって当たり前のように受け止めるのだろう
    対して私は料理は出来ないしスタイルだって良くないし、勉強だってみゆきほどじゃない
    「大丈夫、かがみんのいいところは私がいっぱい知ってるよ」
    こなたが私の肩を叩きながら慰めるように囁く
    「あんたに慰められるなんてね」
    憎まれ口を叩いても、こなたの気持ちは素直に嬉しかった
    「ツンデレだし、巫女さんだし、なにより強いし!」
    前言撤回、もしこれであとからこなたが
    "これで元気になったね"なんて言葉を吐いたところで私は毛の先ほども感動しない自信がある
    だからといって無視するには散々な言われようなので
    私はこなたのちょうどいい高さにある頭に手刀を叩き込んだ


218 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 :2008/02/10(日) 00:55:00 ID:V6GjOrT40
    「じゃーねかがみん、私は立場上どっちかってわけにはいかないけど応援するよ」
    「ありがとね、みゆきにも同じだけ応援してあげて」
    そんな言葉を交わして別れて帰る
    今日は買い物も頼まれてないから早く帰ろう
    部屋に入ったらすぐに着替えて、ごはんたべて
    シャワーで疲れ全部流してから、ゆっくり寝よう


    バイブレーション、すぐに止まったからメールだろう

    『送信者:キョン
     件名:Re:Re:宿題

     いまからかがみの家行っても大丈夫か?
     ってかいま近くにいるんだけど』

    WHAT?

    「え? 嘘でしょ?」
    「いや、嘘じゃないんだが、まだ家に帰ってなかったんだな」
    声にあわてて振り返るとそこには私服姿のキョンがいた

    「よっ、まずかったか?」
    そんなわけないじゃない
    叫びたい気分だったけど、私はそれを抑えて静かにいった
    「大丈夫よ、一緒にいきましょ」
    

221 :雪茶 ◆yukichanHA sage :2008/02/10(日) 07:14:50 ID:GFYjFuN50
    やばい、心臓バクバクしてる…
    この音って相手に聞こえるのかしら…
    必死に胸に手を当てて押さえ込む。
    「なぁ、かがみ」
    「はっ、はいっ!」
    「……どした?」
    「えっ、いや、な、なんでもないわ。何?」
    「いや、本当に大丈夫なのかなって思って…」
    彼は頭を掻きながら照れ臭く笑う。
    「それは大丈夫よ?…なんでキョンは私の家に来ようと…」
    さり気無くキョンを横目で見る。
    精一杯学校で振舞ってる自分を作って話している…つもり。
    「いや、何故と言われてもなぁ……ちょっくらノート写させて貰おうかと…」
    ……………………………………ぇ。
    そう言って彼は鞄からノートを取り出す。
    「はぁ…アンタまた寝てたの?」
    また、っていうのは一度席が隣だった時に注意したから。
    「いや、宿題とかやってっと夜遅くなってな…軽く悪循環だ」
    なんか変に高まってた自分が馬鹿みたいだわ…
    今日何回吐いたか分からない溜め息をまた吐く。
    「悩み事か?」
    アンタでね。
    「何でもないわよ」
    「そうか?……俺でよければ聞き相手にくらいはなるけど…」
    だからアンタだってば。
    「ありがと。大丈夫よ」
    「そうか」
    「ねぇ、キョン。何で私からノート借りれば良かったのに私の家で写そうと思ってるの?」
    私としては少しでも近くにいれるからいいんだけど。
    「へっ、……そ、そだな。そんなやり方もあったな」
    思いつかなかった、と。
    「明日も授業あるから手早く終わらせてよね?」
    「なるべくそうするけど…白紙の部分多くてな…数日お邪魔するかも知れん」
    「一日で写せないってアンタ大丈夫なの?」
    「だからこうやって頼んでるんだ…頼む!」
    手の平を合わせて頭を下げて来る。
    恥ずかしいから止めてよ。
    「…明日はキョンの家ね。明日は私の家無理だから」
    「恩にきる」
    ………待って。今さらっと自分で凄い事言ったような気がする。
    何自分からキョンの家に行くって約束取り付けてんの!?
    ダメだ。こなたと話してる時から暴走し過ぎだ。
    「かがみ、家ココだよな?」
    「あ、うん」
    気付けばもう家に着いてた。
    

225 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 :2008/02/10(日) 12:21:06 ID:V6GjOrT40
    「いらっしゃいキョン君」
    私がただいま、キョンがおじゃましますとほぼ同時にそういうと
    たまたま近くにいたのかまつりお姉ちゃんが駆けてきて言った
    「おじゃまします、まつりさん」
    キョンは二回目の台詞を言って靴を脱ぐ
    ちゃんとそろえてる辺りこなたとは違うな、とかこの辺りもみゆきとの共通点かなとか
    「…ちょっと自己嫌悪」
    ゆっくりしてってね~とお姉ちゃんは早々に居なくなったので
    私は頭を振ってから、キョンをつれて部屋に上がった
    「なぁかがみ、つかさはいないのか?」
    「え? うん靴無かったし」
    なるほどと頷いてキョンは後ろをあるく

    部屋の前について気付く
    「…」
    「…」
    「…入らないのか?」
    「えっと、ちょっと待っててくれる?」
    私はキョンに手のひらを見せて"待ってて"を強調しながら
    あわてて部屋に入る
    「あ~、5分で片付けなくちゃ、ついでに着替えて…」
    言う間も手を動かして部屋を片付ける
    ベットのシーツも伸ばして綺麗にする
    読んでる途中の本とかは全部棚に戻す
    出来れば掃除機もかけたいところだけど、それは無理だからコロコロをかけておく
    最後に私の持ってる服の中でできるだけ可愛いのを選んで装着
    「入っていいわよ」
    扉を開けてキョンを呼ぶ
    着替えた私に一瞬目を大きくしたけどすぐに
    「へぇ可愛いな、その服似合ってる」
    多少期待してたけど、こうも正面から言われると非常に照れくさい
    「あ、ありがと、もう! 勉強しにきたんでしょ!」
    ついとんがった言い方になってしまう私
    それに気を悪くした様子も無くキョンは苦笑いを浮かべながら入ってきた
    「本が多いな」
    「ほとんどラノベだけどね」
    適当に会話、緊張してる私は変な受け答えしないようにどぎまぎしつつ
    机に置いたかばんからノートに教科書に、必要なものを出す
    「悪いなかがみ、恩に着るよ」
    「なら早くやっちゃってよね」
    キョンは自分のノートを取り出して書き写す
    私は時々アドバイスのようなものを入れながらキョンの横顔を眺めていた

    時間は過ぎていく


228 :◆TnzOi/YA0I sage :2008/02/10(日) 13:31:31 ID:dpntDWiq0
    「かがみ……おい、かがみ」

    「へっ!? あ、え!? な、何?」

    「どうした? なんだか上の空だったが」

    「な、何でもないわ。……うん、何でもない」

    しまった。いつの間にか意識がどっかにいっちゃってたみたい
    普段はこんな事ないのに……。やっぱり…キョンがいる……から?

    「やっぱり悩み事でもあるんじゃないのか?
     何があったのか知らんが俺に出来る事があれば遠慮なく言ってくれ、出来る限り力になるぞ。
     ……といっても俺がかがみにしてやれるようなことはそんなにないとは思うが」

    キョンがまた聞いてきた。そんなに私は変だったんだろうか
    でも悩み……か。ハァ……そんなの言えるわけないじゃない。

    「ホント、何でもないわよ。ほらそんなことよりも写せたの?」

    「いや、すまん。まだだ。というかまだまだだ」

    「じゃあ一々人のことなんか気にしてないでさっさと写す!」

    窓を見るともう外は真っ暗だった。さっきはまだきれいな夕焼けが見えてたのに
    そんなに長い間ぼーっとしてたのかな、……やっぱり私、どうかしてるわ

    「おっ、もうこんな時間か」

    キョンが時計を見ながらそう告げる。
    もう、ということはそろそろ帰るんだろうか
    それを考えると、何だか胸が痛むような気がした……。
    

234 :雪茶 ◆yukichanHA sage :2008/02/10(日) 20:01:31 ID:w9U+JypmO
    不意に二度、ドアが叩かれる。
    「誰ー?」
    そう返事すると当人はドアを開く。
    「失礼しまーす。お邪魔かなー?」
    まつりお姉ちゃんだ。
    少し嬉しそうな顔をしてるのは嫌味か…
    「別に。何?」
    多分少し無愛想な顔をしてたと思う。
    「今日私が料理当番でさ」
    あ、確かお母さんは同窓会だっけ。
    「作り過ぎちゃって…」
    軽く笑いながら。
    「キョン君食べていかない?」
    それを聞いて急に身体が熱くなった。
    お姉ちゃんの表情は私の後押しをしてるんだぞっ、て言ってる。
    そりゃ一緒にいれるのは嬉しいけどさ。
    「俺は構いませんがいいんですか?」
    お姉ちゃんが小さく拳を握ったのが見えた。
    「こっちは全っ然!お父さんの話し相手にでもなったげてよ」
    お姉ちゃんのごり押しは強力だ。次々と理由やら得な事とかを言い続ける。
    ある意味セールスウーマンに適してるかも。
    「それじゃ、ありがたく」
    お姉ちゃんはオッケー!とグーをして部屋を去った。


239 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/10(日) 21:53:42 ID:V6GjOrT40
    「あ~、家に連絡しなくて平気?」
    あまり静かとはいえない人物が居なくなり
    一拍置いてから私が聞く、夕飯を食べてってくれるのは嬉しいけど
    キョンのお母さんだって晩御飯を用意してるだろうし
    「そうだな、ちょっと電話するよ」
    上着のポケットから携帯を取り出して番号をプッシュ
    妹さんがでたのだろう、元気な大声が私にも聞こえ
    キョンは眉をしかめて携帯を少し離した
    「えっと、今日はかがみんちで夕飯食ってくから伝えといてくれ」
    『わかったー! キョン君ガンバレー』
    妹さんが意味深な言葉を残してプッ、と通話が切れた
    「え…っと、とりあえず行こうか?」
    促して部屋を出る
    …っ! なんでいのりお姉ちゃんまで隠れて見てんの!?
    キョンに気付かれないようにあっちいってとジェスチャーする
    「どうした?」
    「え? なんでもないよ?」
    あぁ、もう、4姉妹ってのはこういうとき困るわよね
    一人っ子ならこの辺気にしなくてもいいんだろうな…
    まぁお姉ちゃん達も居なくなったみたいだし
    さっさと行きましょうかね…


240 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/10(日) 21:54:03 ID:V6GjOrT40
    「キョン君召し上がれ~」
    まつりお姉ちゃんが普段なら絶対出さない猫なで声(?)で言う
    「ねぇお姉ちゃん、私ちょっとどういうことかわからないんだけど…」
    いつの間にかいるつかさが私に小さな声で説明を求める
    でもねつかさ、私にわかるわけないじゃない
    こういう時必要なのは思考放棄よ、ハルヒと付き合ってから学習したわ
    「えっと、じゃあいただきます」
    作ったまつりお姉ちゃん以外みんなでいただきますをいって食事開始
    もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ
    「おいしいですよ、まつりさん料理上手なんですね」
    キョンは手を止めて褒める、お姉ちゃんはにこにこして喜ぶ
    「ほんと? ふふん、いつでも食べに来ていいわよ」
    そんなに嬉しかったのだろうか、キョンに対してやけに甘い気がする
    そりゃ誰でも褒められれば嬉しいだろうが…
    「もぐもぐもぐ」
    「あらあらつかさ、お洋服汚れちゃうわよ?」
    のんびりしてるなぁ


241 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/10(日) 21:55:15 ID:V6GjOrT40
    「今日はごちそうさまでした」
    玄関先でキョンは恭しく頭を下げる
    「ほんとに明日にでもきていいわよ~」
    まつりお姉ちゃんのともすれば語尾にハートマークでもつきそうな台詞に
    キョンは苦笑とも微笑ともとれる曖昧な笑みを浮かべてから
    「ありがとうございます、おじゃましました」
    最後にまた頭を下げてでて行った
    「いやいやいやキョン君ね~、格好いいし大人だしいいじゃん」
    「ちょっとお姉ちゃん!」
    「別に付き合ってるわけじゃないんでしょ? そう怒らないでよ」
    お姉ちゃんは片手をひらひらさせて台所に戻った
    片づけをするのだろう、いつもなら手伝うところだけど今日は手伝わない
    「はぁ~、もうめげそうよ…」

    部屋に戻ってこなたに電話でもしようかしら
    

246 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/10(日) 22:55:40 ID:w9U+JypmO
    「……ということがあったのよ」
    キョンを見送ってからお風呂に入ってた。
    浴槽の中で今日の状況整理をしてたら逆上せそうになったわよ…
    今はこなたと電話中。こなたは遅くまで起きてるから気軽に話せるわね。
    「ほほぅ、まつりさんもキョンキョンに気が」
    「言わないで。疲れるから」
    こなたの発言は分かったから。
    「ふむ、…でなにゆえ私に電話?」
    「一人で溜め込んでるのが辛くてね…」
    つかさに話して、もしつかさも……なら嫌だし。
    「それは友人…否、心友としてありがたいセリフだね。頼られてるみたいだし」


247 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/10(日) 22:56:30 ID:w9U+JypmO
    「言っても中立で不干渉なんでしょ?」
    「まぁね、みゆきさんと天秤になんて架けたくないし、かがみんも嫌でしょ?」
    確かに。
    ライバルだけどその前に友人だ。
    「あ、でも私が動かないとは言ってないよ?それだけはしっかり覚えててね」
    みゆきさんにも言ったけど、と付け足される。
    ………何する気だろ。
    「因みに今やってるエロゲがさー、ヒロインの中にかがみんとみゆきさんの性格にむっちゃくちゃ似て」
    躊躇わずに電源ボタンを押した。確実に一回だけ。
    そのままベッドに横たわる。
    上を仰げばクリーム色の天井が見える。
    ゆっくり手を伸ばしても当然届かない。
    「みゆきなら届くのかな……」
    もう一方の腕を目の上に被せる。
    そのまま寝た。


248 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/10(日) 22:57:11 ID:w9U+JypmO
     
    ―――――――

    「いやぁ、キョン君は初やつだね」
    風呂上がりのまつりがリビングでテレビを見てるつかさに話し掛ける。
    「まつりお姉ちゃんはキョン君の事、好きなの?」
    元々暇潰しだったのだろうか、つかさはすぐさままつりの方を向き、直球で問う。
    「ん、好きだよ?」
    冷蔵庫から牛乳を取り出してグラスに入れる。
    「えっ!?」
    「好きって言っても色々あるでしょーが」
    牛乳を一口飲む。
    「LIKEとLOVEは決定的に違うわよ。私は前者。人として好きなのよ」
    「なんだ…」
    そのままソファの背もたれに顎を置く。
    「つかさ、キョン君好きなの?」
    「えっ、い、いやっ!私は違うよっ?」
    精一杯手を横に振りながら否定する。
    「かがみお姉ちゃんが最近しんどそうだから……」
    「ま、恋の病なんて自分でしか治せないんだからほっときなさい」
    飲み干したグラスを水道で勢いよく洗い流す。
    「あら、まつりにしては良い事言うわね」
    ずっと傍聴してたいのりが口を挟む。
    「二人は好きな人いないの?」
    「あら、私一応付き合って半年よ?」
    いのりは微笑ましく笑う。
    「私も……片思いだけど」
    まつりは少し躊躇いながら言う。
    「あんたは?」
    「私は…今のところはいないかな」
    つかさは苦笑して、欠伸をする。
    「ほら、もう寝なさい。明日また寝坊よ?」
    まつりが腰に手を当ててつかさを叱る。
    つかさは眼を掻きながら二人におやすみ、とだけ言って部屋に戻った。


249 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/10(日) 22:58:01 ID:w9U+JypmO
    「まつりも一途ねぇ」
    いい具合にぬるまったホットミルクを飲む。
    「う、煩いなっ」
    普段妹には見せない照れ方。
    さっき洗ったグラスに浄水を入れて一気飲みする。
    「いい加減あっちも気付いてるってば。当たってみたら?」
    「それができればくろうしないよ…」
    「バスケ部の子だっけ。大丈夫よ、男の子は可愛い子には弱いから」
    母が娘を甘やかすような優しい言い方で諭す。
    「それ、かがみに言ってあげなよ」
    「かがみはまだ若いからねー、悩みは乗り越えたら美貌の一部よ」
    まるで真理を知っていたかのように話す。
    「でもさ、さっき『可愛い子には弱い』って言ったけど……二人の可愛い子が一人を狙ってたら男の子はどうするんだろうね」
    まつりは最後に「なんでめない、おやすみ」と言って自室に戻った。
    

252 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 00:33:36 ID:m7Cv5IXG0
    「ただいま~」
    かがみにノートを写させてもらうだけのつもりが
    まつりさんに予定外の食事の誘いを受けてしまい
    自宅につくころにはずいぶんと暗い時間になっていた
    妹が俺の声に反応して足早に現れる
    「キョン君お帰り、首尾は?」
    どこで仕入れるのかよくわからん台詞だが
    本来の目的を考えるにノートは一文字残さず写せたのだから―
    「あ~、上々だ」
    すると妹はびっくりしたように目を見開いてから
    きゃーと笑いながら叫んでわき目も振らずに部屋に特攻をかましていった
    頭をかきつつ靴を脱ごうとする俺、そして気付く
    「あぁ、みよきちが来てるのか」
    この時間にも居るということは泊まりかな?
    まぁいい、気付かなかったんならまだしも
    気付いたのだからここは顔をだすべきだろう
    多分先ほどの妹が特攻した理由もその辺にありそうだし
    なによりみよきちに俺自身が会いたいからな
    靴を下駄箱にピットインさせて、冷たい廊下を歩く
    念のためノックしてから妹の部屋に入る
    「や、みよきち久しぶりだな」
    ちょいと会わないうちに背がまた伸びてるな、それ以外のところもな
    ……全体的に、総合的な評価であってやましいものはなにもないぞ、わかれよ?


253 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 00:34:12 ID:m7Cv5IXG0
    「お久しぶりですお兄さん」
    礼儀正しく頭をさげるみよきち
    才色兼備がしっくりくるみよきちだった
    「今日は泊まってくんだろ? ゆっくりしてけよ」
    横においてあるバックから先ほどの自分の予想がヒットしてることを確認して言う
    「ありがとうございますお兄さん、あの一つ聞きたいことがあるんですが…」
    みよきちがあらたまって俺に聞くこととはなんだろう
    妹のニヤニヤ顔がやけに視界に入るのがさらに気になる
    「あの、柊かがみさんってどんな人ですか?」
    「かがみ? ん~そうだなクラスメートでいい奴だよ」
    とりあえず当たり障りの無いことを言っておく
    みよきちが聞くのだからなんかしら理由があるのだろうし
    俺はみよきちを疑うつもりは毛頭ないのだが、妹のしたり顔が気になってしょうがないのでな
    「かがみ…ですか」
    うむ、なんだろう急に元気をなくしてしまった
    一体なにが悪かったのだろうかと思う、まだ対したことを言ってないのだが
    かがみ、呼び方か?
    「あぁ、双子の妹が同じ友人グループに居るんでな、柊だと紛らわしいんだ
     姉があと二人いるしな」
    いまいちどころかいまに程理解が出来てないが
    俺は自分の仮説を元にみよきちの元気をとりもどすべく言葉をつむぐ
    俺がみよきちを意気消沈させたと万が一母が知れば
    鉄拳制裁が来店ポイントのようにもれなくついてくるのだ、下手をすると凶器付きの大当たり
    俺のような一般高校生なんかひとたまりもないので
    口調は変えてないが、実は内心ハラハラ、心境ドギマギだったのだが
    「そうなんですか、大変ですね」
    なにが大変なのかわからないがみよきちはとりあえず蛍から豆電球程度には復活した
    これには俺も一安心、妹は相も変わらず笑みを俺にぶつけてる
    まぁいいさ、俺もみよきちには笑っててもらいたいしその程度は甘んじて受けよう
    「じゃあなんかあったら言ってくれ」
    出際にそういって妹の部屋から退出
    俺は階段を上って部屋に帰る、これでやっと帰宅って感じだ
    部屋の外はどこだろうと疲れる


254 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 00:35:17 ID:m7Cv5IXG0
    「はぁ…着替えるか」
    上着を脱いで、ポケットから財布と携帯を取り出す
    ~♪~~♪
    うぉっと、なんというタイミング、これは嫌な予感がする
    画面を開いて見ると発信元はこなた
    まぁハルヒじゃないだけましなほうかと頷いて出る
    「もしもし」
    『やふーキョンキョン、ちょいと聞きたいことがあるんだけどさ~』
    「なんだいきなり、あとボリューム少し下げてくれ」
    『まぁ~ノリの悪いキョンキョン! 姉さまに言ってもらわなくちゃ!』
    「切っていいか?」
    『あぁ~、まってまって聞きたいことがあるのは本当だから!』
    部屋に居ても疲れるじゃないか、どういうことだ?
    「早くしてくれよな」
    『この間貸したゲームあるじゃん、恋愛ものの』
    「あったなそんなのも」
    コンピ研からぶん取ったノートパソコンを俺が持ってると聞いたこなたが
    パソコンで出来るゲームを強制的に寄越したのだ
    『あれのキャラで隣の席の気の強いキョウちゃんと大人しい委員長のゆきとどっちが好き?』
    …いきなりなんだよ、なにを重要なことかと思ったら
    「切るぞ?」
    『ちゃんと答えてよ、キョンキョン』
    その声に一切の戯れも、一分の揺れもなかった
    完全なまでに真剣、完璧なまでに実直
    こなたは俺に本気で答えを求めている
    一瞬の逡巡の後、俺は


    「委員長のゆきの方が俺は好きだな」


    一片の妥協も無く、一抹の誤魔化しも無く
    故に真実、俺の中での一つの天秤の結果を確実にこなたに伝える

    『…そっか、ありがとう』

    プッ、と切断音、その後の電子音

    俺はため息をついてベットに横たわる
    短時間のこのやり取りが俺を疲弊させていた

    「…なんなんだよ?」


255 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 00:36:18 ID:m7Cv5IXG0
    私は作業を終えて、一つの結果を見つけて
    携帯を机にそっと戻した
    「ごめんねかがみん、みゆきさん」
    でも、動かないとは言ってないし
    そのことも強調した筈だよ

    「でも、これは言わないほうがいいよね…私は傍観者を気取ることにするよ」

    若干の疲労と、多少の満足と、多大の後悔
    もう、私の出来ることはないよね

    「こなたー、お風呂入りなさい」
    「はーい」
    お父さんの声に返事して頭を振る
    お風呂に入って全部流してしまおう

    「はぁ、ややこしいな…」

    この嫌な予感も流せたらいいのに
    

261 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/11(日) 09:24:21 ID:vI8Cm2OG0
    「お姉ちゃん?遅刻するよ?」
    つかさに体を揺すられて目を覚ました。
    「珍しいね」
    昨日のあんな事があったからだろうか。
    額に少し汗が残ってる。
    つかさはもう制服に着替えていた。
    「……今何時?」
    「んと…8時10分くらい?」
    慌てて私は寝巻きを脱いでアンダーシャツを着てカッターシャツを着る。
    つかさはその間に外に出て行った。
    「あぁもう……しんどいわよ……」
    今日何回吐くことになるか解らないけど今日一番の溜め息を吐く。
    普段より急いで制服をしっかりと着終える。
    私は朝ご飯の綺麗に焼かれた食パンだけ1枚取ってつかさと家を出た。

    程好い狐色になったパンは表面が心地よい音がする。
    私もさくさくと何とかなっていけばいいのに。
    「お姉ちゃん大変だね…」
    ホント、ある意味受験よりしんどいかも知れないわよ。
    駆けて行く友人に手を振る。
    「やっほ、つかさにかがみんっ」
    こなたに後ろから軽く肩を叩かれる。
    「おっす」「おはよー」
    気楽に笑ってられるこなたが羨ましい。
    「かがみん大丈夫かえ?」
    「とりあえずは、ね」
    食パンに噛り付く。
    少しの上り坂も辛い。
    交通量が多いから当然ながら道の端に寄って歩く。
    「で、今日はどんなフラグを立ててみますか?」
    「フラグって…」
    あれ、何でフラグの意味解ってるんだろ。まぁいいや。


262 :雪茶 ◆yukichanHA sage :2008/02/11(日) 09:25:01 ID:vI8Cm2OG0
    「自然よ、自然に振舞うわよ」
    「食パン食べながら歩いてる時点で普段通りじゃないけどね」
    つかさ、煩い。
    足はほとんど地面を引き摺ってる。
    …そういやみゆきがいないわね。まぁいっか。どうせ会うし。
    「かがみん足上げて歩かないと…」
    「きゃあっ!」
    こなたの忠告も間に合わず、私は足が絡まった。
    そのまま前傾で倒れ込み、前にいた男子にぶつかり、倒れないように相手の肩に手を置いてしまった。
    「おわっ!」
    「あ…ごめ、…ごめんなさい…」
    落ち着いてバランスを取れるようになってから手を離す。
    恥ずかしい…。
    前には3人の男子がいた。
    「ん?どした」
    「あれ、この人ウチのクラスの柊さん、だよね?」
    私がぶつからなかった2人の男子が口を開く。
    えっと、この2人は…谷口と国木田、だっけ。
    …って事は…
    「いつつ…ん、かがみ?」
    間違いない。キョンだ。
    「キョ、キョン…ごめんっ」
    目が合わせられない。必死に頭を下げて謝る。
    「いやいや、俺は大丈夫だから。かがみこそ怪我無いか?」
    「胸ガ痛インデスヨ…」
    こなたが横でさり気無くそんな事を言う。
    余計な事を…。ついでに食パン食べるな。
    「胸?」
    「だ、大丈夫よ!少し勉強し過ぎて疲れてるだけっ」
    一歩後退してから慌ててそう答える。
    …なんかいっぱいいっぱいだよなぁ…。
    「そっか。んじゃあまた学校でな…っつってもすぐだけど」
    キョンは谷口に急かされて私から離れて行った。
    「はぁ」
    「いやぁ、かがみん。そのまま胸触らせれば…」
    慌てて胸を押さえる。
    「うっさい。ていうかアンタ不干渉じゃないの?」
    「別に干渉してないよ。楽しんでるだけ」
    何その屁理屈…
    既に食パンはこなたによって全部食べられていた。
    「ほら、お姉ちゃんこなちゃん。遅刻するよっ」
    時計を見るともう30分近くだった。


263 :雪茶 ◆yukichanHA sage :2008/02/11(日) 09:48:40 ID:vI8Cm2OG0
    自分の席に着いて、大きく溜め息を吐く。
    「おはようございます」
    目の先にはみゆきが笑顔で立っている。
    普通に友達の対応でびっくりした。
    「お、おはよう」
    「私としては結果、どっちに転んだり、どっちも報われなくともかがみさんとは友達でいたいとは思ってますので…」
    無垢な笑顔で話されると嘘でも信じてしまいそうだ。
    多分今、昨日のこなたの引っ掛けのような会話されても対応出来ないし。
    「私もその方が良いわね」
    「かがみさんのアピールの邪魔をする気もありませんし…お互い頑張りましょうね」
    すっごくフェアプレー精神ね。
    「味方が一人の獲物を追うのに潰し合いをしては無意味ですし」
    そりゃそうだわ。
    一時間目の担当教師がやって来て、みゆきは私に一礼して席に着いた。

    「かがみ、本当に大丈夫か?」
    一時間目が終わってからキョンが離し掛けて来た。
    「えっ!?」
    「いや、胸が痛いとかどうこう言ってたから…ぶつかった時に痛めたのかと思ってな」
    谷口がキョンに早く来いと急かしている。
    「あ、大丈夫よ。さっきも言ってるけど疲れてるだけだから」
    「そうか?…ならいいんだが。今日ウチに来るの止めとくか?」
    !!忘れてた。
    「大丈夫よっ!」
    「お、おぅ…。それじゃ校門で待ってるからな」
    再三谷口が急かしてるのでキョンは渋々そっちへ行った。
    「ふふーん、キョンキョンは気があるんじゃないかな~」
    こなたが遅れてやって来る。聞いてたのか。


264 :雪茶 ◆yukichanHA sage :2008/02/11(日) 09:58:18 ID:vI8Cm2OG0
    「だったらいいけどね。アンタが言ったんでしょ『鈍感、無自覚、フラグクラッシャー』って」
    次の用意をしながらまた溜め息を吐く。
    「言えば楽なんだろうけどね…」
    「言えばいいじゃん」
    「気軽に言わないでよ」
    「2人きりで『好きです』って言えばいいんでしょ?」
    「言うだけはタダよ。楽なのよ。実行するのにしんどいのよ…」
    「どうせ今日キョンキョンの家に行くんでしょ?頑張ってみればイイジャン」
    他人事だと思って…。
    …でもこのまま引き延ばしてるとみゆきに取られるかも知れないし…。
    元々みゆきが好きなら終わりだしね。
    「……言ってみるわよ」
    小さな声で言ってみる。
    「おおっ! まぁキョンキョンの事だから言われて縁切るなんて事は有り得ないだろうし」
    頑張って!とこなたは終始人を玩んでるかのように喋って来る。
    何考えてるんだろ。
    「ほら、席に着け。あと1分だぞ」
    二時間目の教師がやって来る。
    こなたは軽快なステップで自身の席に着いた。

    ――――
    私は二時間目の授業内容は聞けなかった。
    …いや、いつも寝てるから聞いてないわけだけど。
    今日は寝れずに上の空だった。
    窓際ってのはいい。ぼーっと空を眺められる。
    「気楽に言ってても、胸中では何思ってるか分かってないでしょーが…」
    頬杖を付きながら、少し愚痴る。
    中立、不干渉とは言いつつも。
    キョンキョンとの電話を聞く限りじゃ辛い。みゆきさんの方が有利かも知れない。
    かがみんの"しんどさ"も言えば取れるのを信じてる。
    でも、みゆきさんも多分内面ではもやもやってしてるハズだ。
    ポケットに入ってた10円玉を取り出して、小さく上に弾く。
    机の上で2,3度弾き飛び、くるくると回転して、最後には鳳凰堂が上になった。
    「コインで決められたら楽なのにね」
    そのまま指で適当に机上を動き回らせる。
    自分も好きな人が出来たらこんなに辛いのだろうか。
    かがみんやみゆきさんは多分私の何倍、何十倍も辛いんだから。
    「そんなに辛かったらもう私は好きな人要らないかも、ね…」
    二時間目の終わりが告げられた。
    

271 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 12:44:21 ID:m7Cv5IXG0
    『私はどっちにも味方しない、不干渉を決め込むよ』
    それは昨日学校が終わり
    私の想いと、かがみさんの気持ちが白日の下にさらされた日の夜
    こなたさんからの一本の電話、その言葉
    「ありがとうございます、こなたさん」
    上手く言葉にはできませんでしたが、ただ嬉しかったんです
    いままでの友達関係が恋によって崩れてしまうなんてのは
    今時ありきたりすぎる結末、そんなのは決して望んでなかったから
    だから、ずっと私達は友達で居ることをなによりも前提としての勝負
    切れた携帯をそっと握り締めて、想ったのは彼女のこと? 彼のこと?
    わかりませんが、私はこれからもずっと同じ関係でいたい
    「おはようございます」
    普段どおりの挨拶、HR前のちょっとの時間に私は登校してきたかがみさんに声をかけます
    「お、おはよう」
    「私としては結果、どっちに転んだり、どっちも報われなくともかがみさんとは友達でいたいとは思ってますので…」
    思ってるだけじゃだめ、私は私の気持ちを真摯に伝える
    かがみさんならきっとわかってくれますよね
    するとかがみさんの顔にあった幾許かのこわばりが解けて
    「私もその方が良いわね」
    ため息をつきながらの笑顔、それはいつものかがみさんの笑顔でした
    「かがみさんのアピールの邪魔をする気もありませんし…お互い頑張りましょうね」
    私は始業の鐘がなったと同時に席に戻り、授業の準備を始めます
    「ふぅ、授業キチンと受けられるでしょうかね?」
    なぜかおかしくなって、クスッと笑う


272 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 12:46:13 ID:m7Cv5IXG0

    ~~

    「ええか! この時期は受験があるんやからしっかりと勉強に気ぃ入れや
     恋愛なんかにうつつを抜かしとらんと、テストでキチンと点とるんやで!
     うちなんか、まだ一人身やっちゅうに!」
    下校時のHRでのありがたい黒井先生のお言葉をいただき俺達はぞろぞろと席をたつ
    しかし、三年のこの時期に恋愛だの何だのって言ってる奴は流石に居ないだろ
    まぁそもそも俺には関係のない話だがな、今年のバレンタインも谷口と杯を交わすのだろう
    …それもそれでいやな想像だがな
    「さて、校門に向かいますか」
    ただ俺の家に行くだけなら同じクラスであることだし
    そのまま一緒に行けばいいんだが
    まぁこなたとかとも話すことがあろう、いつも一緒に帰ってるんだからな
    俺なんかに邪魔されて実はこなたは内心怒ってるのかも知れんしな
    今日は一日中あいつの機嫌が悪そうだったしな
    …そういやこの間の変な質問についても理由聞いてないんだよな
    今は聞けそうにないが明日にでも聞いてみるか?
    あぁそれともかがみに聞いてみるのもいいかもしれないな
    あいつらなら俺よりも付き合い長いわけだし知ってるかもしれん
    方向性が決まったので俺は下駄箱に多少軽い足取りで向かった


273 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 12:48:03 ID:m7Cv5IXG0

    ~~

    「キョンキョンは行ったね?」
    私は必要以上に声を潜めて言う
    いつもならこの状況を楽しむところなんだろうけど
    流石にみんなの知らない情報を秘密にしなくちゃならないってのは
    精神的に相当な負担になるらしかった
    何人かで秘密にするならまだしも、一人ってのはキツイんだよ~
    「行ったわよこなた、でみゆきに話があるんだけど…」
    かがみんが少しトーンを下げた声でみゆきさんに言う
    けど、内容は大体想像がついてるんだけどね
    「私は昨日学校が終わった後キョンと一緒に家で勉強してたの
     今日も私がキョンの家に行くの」
    やっぱりというかなんというか
    ま、条件を同じにっていうならそういう点ならかがみんが有利だしね
    「あぁ、そうなんですか、なら今度私も家にお呼びするとしましょう」
    みゆきさんはでも対して動揺やらそういうのをみせず
    なら私も、と簡単に言って見せた
    なんとなく一つの結論を持ってる私としては意味ありげな余裕に見えてしまう
    余計なことを一つ知ってるってのは、それ以上に悩むんだね
    「そういえば新しいお茶を買ったのでキョンさんにお出ししようかしら~」
    …あぁ余計な心配、みゆきさんは完璧超人だけどゆるいんだよね
    「まぁかがみんや、今日はのんびり行って来なさいな」
    「ん、ありがと」
    かがみんは手を振って下駄箱に向かった
    「みゆきさん、私達もそろそろ帰ろうか」
    「はいそうですね…つかささんは?」
    おうっ、三角関係の方に気をとられて忘れてたよ


274 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 12:50:16 ID:m7Cv5IXG0

    ~~

    「お待たせー、待った?」
    などと恋人同士の待ち合わせ定型句をかけられる
    言う相手も場所も違うんじゃないか、と思いつつ俺も定型句で返す
    その程度の社交性はあるつもりだ
    「いや全然、今来たところだ」
    「いま来たところって、さっきまで同じ教室に居たくせに」
    まったくもってその通りだが、それを言うなら俺も言わせてもらおう
    「だったら最初の"お待たせ"も若干場違いだろ?」
    「ま、そうよね」
    閑話休題、とりあえずは校門から離れることからしよう
    なるほどここで長話をしても時間を無為に消費するだけだからな
    「私あんたの行くの始めてかもね」
    「まぁかがみの家やみゆきの家に比べればごく普通の家だからな」
    あんな人数を収めきれるはずも無かろうと言うものだ
    「私の家だって古くて神社ってだけよ?」
    それをだけで済ませる辺りが根源的な違いだよな、とかしみじみと思いつつ
    俺はここで先ほどしようと思った質問を繰り出す
    この短時間に忘却するほどに俺の海馬は情けない状況だったか
    「そういえばさ、昨日こなたから電話があったんだけどさ」
    「うん、なんだって言ってたの?」
    えっと…確か、くそっどうしてこうも思い出すのに時間がかかる?
    シナプス信号が全部赤か?
    「あぁそうだ、この間借りたゲームのキャラでどっちが好きかって聞いたきたんだ」
    …ん、どうしたかがみ顔色が悪いが
    なんか知ってるのか?
    「え…と、昨日こなたが電話のときに似たようなこと言ってたから…
     なんて答えたの?」
    俺は多少かがみの態度を不思議に思ったけれど
    とりあえずは答える、ここまで来れば答に詰まることはない、流石に
    「あぁ、やけにこなたが真剣でな
     俺は委員長のゆきって答えたんだが…、本当なんだったんだろうな?」
    思案して無意識に空を眺めていた俺は視線をかがみに戻す
    顔色が悪い、なんでこう短時間で
    山の天気なんてもんじゃないだろ
    「おい、 かがみ大丈夫か?」
    「う、うん平気、ちょっと今日は帰るね、ごめん」
    「送ろうか?」
    「大丈夫、一人で帰るから」

    どうなってるんだ? わけがわからないぞ…
    俺はその場に留まり、分厚い雲が流れてくる様子を眺めていた

    「…一雨きそうだな」
    それはきっと天候のみを指してるわけじゃないだろう
    自分の台詞なのにやけに他人事みたいな感覚だった



290 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/11(日) 19:38:35 ID:obDpgU/1O


    『幕間:SIDE K&T』


    かがみん、キョンキョンといい感じになれてるかな?
    そんなことを考えながら私は通い慣れた通学路をつかさとのんびり歩いていた。
    そんなとき,道のずっと先に楽しそうに談笑するカップルを見つけた。
    「わっ、こなちゃ」
    とっさにつかさのてを引き手短な電信柱な駆け寄る。
    「おぉ…かがみん、なかなかうまくやっとりますのお…」
    ゲームは所詮ゲームだしやっぱりあのくらいの質問じゃわからないもんだネ…
    「キョン君もいつもより機嫌よさそうだね」
    いやいや、つかさ。キョンキョンはいつもは無気力なだけなんだよ…
    しかし、つかさの言う通り、キョンキョンもなかなかまんざらでもなさそうだね。
    「これはみゆきさんピンチか!」
    「でも…ゆきちゃんにはわたしたちにないものがあるよ?」
    む…それは何ぞや、つかさ?
    「えっ!え、えーとね……」
    ゴニョゴニョ……
    うっ。それは、私たちには、ない…私なんか……余計ね

    私とつかさは高速で電信柱から電信柱へ移動しつつそんな話を続けつつ
    普段と違い、ちょっと緊張ぎみのかがみんを眺めて楽しんでいた。

    「あれ?」
    私は空気が段々湿っぽく鬱陶しいものに変わっていくのを感じて思わず呟いていた。
    「どしたの、こなちゃん?」
    「つかさ、傘持ってる?」
    「ううん、持ってないよ?大丈夫そうなのにどうして?」
    「いや……しばらくした一雨来そうだから、ネ」
    自分の発したはずの一言の他人行儀さにちょっと驚く。
    …自分が関係ないわけではないのに。

    でも、ずっと雨が降り続けるわけじゃないもんネ。
    そう信じてかがみん観察を続けてるべく、また歩き始める。



309 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/11(日) 21:27:49 ID:vI8Cm2OG0
    「はぁ…」
    多分一番"重い"溜め息。
    遠回しにフられた。しかも本人自覚してないっていう…。
    「何やってんだ私…」
    こなたに怒る気力も存在しないや。
    空も私の心のように暗くなっていく…ってクサいか。
    「はは…」
    顔が上がらない。乾いた笑いしか出て来ない。
    そういやキョンの家に行くんだっけ。
    ……どうしよっか。
    私はもう家に行く気はしないけど…
    鞄からキョンに見せる予定のノートを取り出して眺める。
    キョンに渡そうか。
    ……どしよ。
    足は自分の家に向かってる。
    ぽつ。
    ノートに1つ円形の湿りが出来る。
    それは段々と増えていく。
    革の鞄にも水滴となっている。
    雨だ。
    やっと頭が上がった。
    漫画の集中線のように見える。顔に幾つも落ちてくる。
    ノートは鞄に入れる。
    「確かさっきコンビニを通って…」
    流石にこのまま帰るよりかはコンビニに行く方が早い。
    後ろを向いてコンビニを探そうとする。
    目の前にはこなたが立っていた。


310 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/11(日) 21:28:51 ID:vI8Cm2OG0
    「風邪引くよ?」
    手にはビニール傘。多分コンビニで買ったやつだ。
    「どしたの?」
    原因でもあるのに何も知らないから。
    こなたの勧める傘に入らせて貰ってから、私は今日の短かった会話を説明した。
    「………ごめん」
    私のを聞いて、俯いてそれだけ言った。
    「いや、いいのよ。アンタは悪くないから」
    こなたに話すとやっぱり楽になる。
    何かこなたを慰める形になってるけど。
    「ま、ゲームだしね」
    そうだ、ゲームだ。
    ゲームは単純な"表"での判断なんだ。
    私もみゆきも。まだ決まってる訳ではない。
    キョンのゲームをした視点での好みが『みゆき似』なだけなんだから。
    「ね、キョンに貸したゲームの『私似』のキャラってどんなの?」
    「ん?えっと。まずツンデレというか気が強くて。料理が少し下手で」
    煩いな。
    「……あれ?」
    「ん?どしたのよ」
    「かがみん似のつもりで貸したゲームって…あれ?」
    こなたは傘を持ってない手で、私が今まで、今後も聞くことの無いだろうゲーム名を挙げて行く。
    「…同名のキャラが出てる別のゲーム貸したかも」
    「…は?」
    「いや、もしかしたらディスクを間違えたかも、って」
    何よそれ。
    「よく考えれば昨日かがみんとの電話中にやってたんだからキョンキョンに貸したゲームは違うハズじゃん」
    迷わずに拳がこなたの頭を打つ。
    「~~~~!!!いったぁー…」
    ていうことは何よ。無駄に途方に暮れてたって事になるじゃない。
    夕立だったのか。雨も小降りになってきた。



409 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/12(日) 04:18:44 ID:bWGegVDeO


    『幕間:K&T&W&K in a shower』


    「あっ、あれキョンじゃないかい?女の子と一緒にいるみたいだけど…」
    あんの野郎…忌々忌々忌々しい!
    また無意識にフラグをお立てになりやがったのですか!
    「谷口、独り言が盛大に盛れてるよ…あとなんで崩壊した丁寧語?実はうらやましいの?」
    あぁどうせ、雨の中に佇む薄幸少女に優しく自らの傘を差し出す…
    とかそんなとこだろう、なぁ!?
    「同意を求められても谷口の独り言なんて聞いちゃいなかったよ。
    それよりさ、あれ。柊さんの妹の方じゃない?」
    「何だと。…あのキョンもついに双子の魅力に陥落しちまったか……凉宮もここまでだったな」
    「むしろこれから限界バトル勃発!な気がするけどね。面白そうだし行ってみる?」
    「もちろんだ!柊つかさはクラスでもAランクのかわいさだからな!!」
    「やれやれ……雨で声が響きにくくて良かったよ…」
    俺は国木田と雨に紛れて二人に近づいていった。


    かがみに声をかける間もなく帰られてしまったせいで呆然としていた俺だったが
    突然空から降り落ちてきた一滴の雨粒によって我を取り戻した。
    ふと道に目をやると雨粒によって描かれた細かな自然の水玉模様が数を増していっている。
    「まさに、備えあれば憂いなし、だな」
    そんな呟きとともに鞄の底の折り畳み傘を引っ張りだす。
    1ヶ月前からに惰性で鞄の奥に眠らせていたこの折り畳み傘も
    出ていきなり外が雨なら役立ててさぞかし嬉しいだろう。
    …そうでもないか。俺なら平穏を突然崩されてため息ついてるな。

    しかし、何でかがみの顔色が悪くなったんだろうか
    …急に体調が悪くなったにしては妙だったし。
    それになんだか胸がざわざわする。早く何かに気付けと急かすように。
    ……それからしばらく、その場所で、俺は思考の海に自らを流してみることにした。


    黙考によって流れにあった情報がまとまり始める。
    ………簡単なことじゃないか。
    俺が、気づかぬうちに、かがみに、傷つけるようなことを言ったんだ。
    それなら顔色が悪くなったのは、俺の言葉で受けたショックのせいで。
    突然帰ると言い出したのは体調が悪くなったんじゃなくて
    そんなショックを受けるような言葉を言っても普段通りに振る舞う俺に居たたまれなくなったからで。
    「なんで、その時気付かないんだ、俺は……これは、鈍感って言われても仕方ないな」
    苦々しく呟いて、しかしまた更なる疑問が浮かぶ。
    「じゃあ、かがみは俺のどの言葉に傷ついたんだ?」
    しかし、疑問は考えても深まるばかりで底が見えることはなかった。
    …かがみに追い付くまでに考えよう。
    そう思いながら…雨の街を急いだ。
    

466 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」  sage  :2008/02/13(日) 02:32:57  ID:C7nTwKhDO
    私は降り出した大粒の雨の中、呆然と立ちつくしていた。
    ちょうど小路にいるせいか雨に追われて道を急ぐ人たちも見かけることはない。
    ……なんでこんなことになっちゃうんだろ。
    必然的に遭遇した、あの光景を目にして、そう思わずにはいられない。

    「あっ、かがみん!」
    キョン君から離れていくお姉ちゃんの沈んだ様子を見かねて、こなちゃんは駆け出した。
    私も一緒に追いかけようとしたけれど、赤信号に足止めされこなちゃんだけが先に走って行ってしまった。
    「こなちゃんの言葉なら、きっとお姉ちゃんも元気を取り戻してくれるよね…」
    そう信じて駆けていく友人の背中を見送った。

    もう背中も見えなくなり、ふと交差点の反対側に目を向けると、キョン君らしき人が呆然としていた。
    表情は遠くてよく見えないが、意外と大きな肩は心なしか下がって見える。
    ……キョン君、お姉ちゃんと話してていつもより楽しそうだったもんね。
    やっぱりキョン君にはお姉ちゃんの本当の気持ち、伝えた方がいいのかな…?
    でもゆきちゃんもキョン君のことを想ってるから、片方に味方するのは~………
    深い葛藤の中にいるとキョン君は考えが固まったのかお姉ちゃんたちが向かった方向へ駆け出した。
    「あぁ、ひとりになっちゃう!」
    迷いを携えたまま私も駆け出した。


    なんで予報で言ってたのに折り畳み傘持って来なかったんだろう……
    結局私は走り出したキョン君に追いつけず、気がつけば見知らぬ小路に自らを迷い込ませていた。
    制服も下着でさえもびしょ濡れで体が冷たくなっていくのがよくわかる。
    風邪、ひいちゃうな…
    そんな不安をよそに、大粒の雨はますます勢いを強め降り続けている。
    早く、キョン君に……伝えなきゃならないのに……


    突然、呆然としていた私の周りだけ雨がやんだ。

    「つかさ……大丈夫か?」
    後ろから心配そうな、しかし自身も疲れ切っているかのような、そんな声が聞こえた。


570 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」  sage  :2008/02/13(日) 23:47:04  ID:C7nTwKhDO
    かがみたちが向かった方向を探してみたが、立ち尽くしていた時間が自分で思うよりも幾分か長かったのか
    それらしき人影を見つけることもままならないまま、俺は雨の中を探すあてもなくさ迷っていた。
    雨は依然として降り続いているが、胸に渦巻く焦燥感を少しでも解きほぐしてくれるような、優しい雨に変わる気配は全くない。
    ……まっすぐ帰るルートはたどってみたから、一度戻ってみるか…
    そう考えを改めてまた駆け出す。
    もう自分にまとわりついているのが、小さな折り畳み傘で防ぎ切れなかった雨によるものなのか
    それとも必死に走り続けてきたための汗なのかも分からなかった。

    大通りを探していたのを小路を探す方針に変えてからしばらく
    誰の姿も見ることはなかった小路の少し先に
    道の真ん中で立ち尽くしている少女のような人影が俺の目に映った。
    かがみか?と話すことを何も考えていなかった自分に焦りを抱いたが
    幸か不幸か近づいていくとそれがかがみとは別の、しかし見知った友人の姿であることに気がついた。
    ………つ、つかさ。傘もささずにどうして…
    さっきまでとはまた違った焦燥に駆られてつかさのもとへ急いだ。


    目が覚めると彼の腕の中、なんて恋愛小説はよく見るけど
    目が覚めると彼の大きな背中が見えた、なんて恋愛小説は少ないんじゃないかな……
    ………いや別にキョン君と私が彼氏彼女ってわけじゃないけれどっ!
    内心わたわたしつつ私は大きく温かな背中に身を委ねる。
    いつもは無愛想そうで、でも実は心から相手のことを思ってるところが
    お姉ちゃんに……いや、みんなに好かれてるのかな。
    友人としても、一人の人間としても尊敬できる今最も身近にいる人に
    私はぼんやりとした思考を向けていた。


905 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/19(日) 19:16:21 ID:3cZQB8hMO
    俺はとんでもない非日常に巻き込まれた。
    しかし、普段ハルヒが巻き込むような非日常ではなかった。
    それは…

    「…すぅ………ふぅ……」

    同級生の女の子の寝息が静かに耳元で繰り返されるようなことが日常的に行われたら
    俺のただでさえひっくり返され続けている俺の常識は一瞬にして崩壊、瓦礫し
    加えて、男子高校生という名の本能の赴くままに行動する
    まさしく谷口のような、紳士という名の変態になり下がってしまうだろう。
    ……それだけは絶対に避けなければ…
    俺は意識を背中に向けないようにしつつ、そんな危機感を直視しつつ、雨の路上を歩いていた。

    しかし…女の子をこうやっておぶって歩く機会なんざそうないだろうな…
    その点で言えば、俺はラッキーな男なんだろうと他人事のようにつらつら考える。
    ただ……俺には安心して体を預けて寝ていられるほどの信頼を持たれる理由がわからない。
    ……つかさだからだろうか?
    そのとき不意に、首筋につかさの暖かい寝息がかかった。
    突然の出来事に俺の体は俺の意思を離れ、ビクッと飛び上がる。
    大袈裟な反応には自分でも失笑するしかなかったが、不可抗力とはいえ、寝ているつかさには申し訳なかった。
    結局今の情けない原因が作りだした衝撃でつかさを起こしてしまったようだ。
    「……うぅ……ん?…どうかした、キョン君?」

    「いや……何でもない」
    キョン君はあさっての方向みながらこう返してくれたが
    無理に無愛想に振る舞おうとする様子がとても微笑ましかった。
    結局、私はキョン君の背中ですっかり寝入ってしまったみたいだった。
    どこかキョン君がお父さんとも似た、周りを安心させる雰囲気を持っているせいだと思う。
    「………お父さん……」
    つい呟いてしまうがキョン君には聞こえていないようだった。
    ちょっと安心して…自分の大胆さに一人赤面した。


906 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/19(日) 19:24:52 ID:3cZQB8hMO
    私も起きたのでコンビニの前で下ろしてもらった。
    ちゃんと名残惜しかったけど、キョン君はお姉ちゃんを探すと言うし邪魔しちゃいけないと思った。
    キョン君がコンビニで一本のビニール傘を買って出てきた。
    「じゃ、かがみを探してくるよ。かがみは送ってくから心配しないでくれ」
    私は何か声をかけたいけれど、言葉は口から紡がれない。結局…
    「……お姉ちゃんに優しくしてあげてね。」
    「あぁ、そうするよ」
    それだけを言う勇気しか私にはなかった。

    「キョン、放課後デートかい?」
    「うわっ!」「きゃっ!」
    突然現れた闖入者に私とキョン君は思わずその場から飛び退いていた。
    落ち着いてその顔を見ると、男子なのに可愛らしいと言えうる同級生、国木田君だった。
    後ろにはいつもは騒がしい谷口君がにやつきながら黙って(不気味だ)立っている。
    「ちょうどいい、国木田。彼女を家の近くまで送って行ってくれないか?さっきも体調が悪いみたいだったんだ」
    キョン君がいつものようなばか騒ぎにならないようにと、場の主導権を握るべく先じて切り出す。
    「ふぅん……。キョンはどうするの?」
    「……ちょっと野暮用だ」
    「……わかった。任せてよ」
    国木田君は察したようでそれ以上は何も聞かず引き受けてくれたようだった。
    私としてはキョン君を邪魔するわけにはいかず、雨で暗い夜道も怖かったので内心安心していた。
    「いいの?彼は気にせず行っちゃうよ?」
    キョン君が谷口君のしつこい質問を受け流しているとき、国木田君が耳打ちしてきた。
    「お姉さんに遠慮するのもいいけど……自分に素直になってもいいと思うよ?」
    ただそれだけ言葉に私の気持ちは揺さぶられてしまった。
    さっき背中で感じた温かい想いが暴走しそうになる。
    「キョン君っ!」
    やっちゃいけないことなのに……自然と私の口からは呼び止める言葉が出てきた。
    「つかさ、かがみに伝言でもあったのか?」
    キョン君は何故呼び止められたかもわからないようだった。
    「……いつか傘、返しにいくね!」
    私は悩んだ末、お姉ちゃんの邪魔にならない程度で自分の想いを伝えた。
    「あぁ、わかった」
    想いはちゃんと伝わらなかったかもしれないけど、キョン君は……心から微笑んでくれた気がした。



311 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/11(日) 21:29:14 ID:vI8Cm2OG0
    「はぁ」
    と溜め息を吐いてみるものの、心中では嬉しい。…いや、救いの綱があったというべきか。
    「かがみっ!」
    後ろから聞き慣れた声が聞こえる。
    私も頭を押さえてるこなたも振り返る。
    やっぱりキョンがいた。
    「一緒にいたのはこなたか」
    私のすぐ近くまで駆け寄ってから、膝に手を置いて肩で息をする。
    髪は濡れて束になっている。頬を流れるのは汗か滴か分からない。
    「ちょっと、どうしたのよ」
    私は慌ててポケットからハンカチを取り出してキョンの額を拭く。
    「ああ、悪い。いや、雨降って来たし、かがみは急に落ち込んだから……」
    手にはこなたのと同じような傘を握っている。恐らく買ったんだろう。
    「すまん」
    まずそれを言われた。
    「どうしてかがみを落ち込ませたのかは解らない。けど俺の所為なんだろう間違いなく。
        理由を理解してない謝罪程信じ難いモノは無いだろうけど……」
    キョンは深く頭を下げる。
    「止めてよ。…なんで頭下げるかな…」
    そこまでされると許さない事が出来ない。
    「いや、俺の頭を上げさせたかったら一発殴ってくれ」
    そこまでしないと解らないんだ、と言う。
    「何なら私が……」
    ずっと黙り込んでたこなたが右手をぐるぐる回している。
    私はこなたの前に腕を伸ばしてそれを止めた。
    「一発…いいのよね?」
    「ああ」
    キョンは迷いの無い声でそう言う。
    私は一度深呼吸をしてから腕を振り下ろした。
    ぱしんっ、とハリセンのような音がした。
    「………え?」
    キョンはやっと頭を上げた。
    痛がる様子は無い。当然だけど。
    「一発よ」
    私はそれだけ言って、手に持つそれを突きつける。
    「謝ってくれてありがと。でも、今日はキョンの家に行く気分じゃないから…」
    キョンは私が突きつけるノートを受け取る。
    「じゃあね。ノートは明日にでも返して。 ――ああ、こなたありがと。それじゃ」
    私は二人をほっぽって帰る事にした。
    

322 :七誌 ◆7SHIicilOU :2008/02/11(日) 22:59:09 ID:m7Cv5IXG0
    「えっと…ここは…、こうだな」
    俺は自分の部屋で机に向かって勉強中
    雨に少し湿ったかがみのノートを広げながら自分のノートに書き写す
    …カチャ、ペンを机に置いて珈琲を飲む
    かがみのノートは非常にわかりやすく、書き写しやすいし要点もまとめてある
    だがどうにも進まない
    自問、なぜ進まない?
    自答、先ほどのかがみの態度、自分の態度にやりきれなさを感じてるから
    「やっぱり、自分が理由をわかってないのに無位に頭を下げるのはいかんよな…」
    それはつまり頭さえ下げれば、謝りさえすれば済むと思ってる
    そういう風な考えをしてるようにも取れる行動だ
    「はっ、なっさけねぇよな…」
    自嘲じみた笑みを浮かべてしまうのも仕方あるまいて
    それでも投げ出さずにのろのろと書き写す
    かがみが俺を―内心どう思ってるのかは置いといて―許してくれた証拠
    自分で理解できてなくても、なんにしてもかがみは一応許してくれた
    このノートは許してくれた上に好意として貸してくれたわけで
    「だぁー頭まわんねー」
    頭を両手で抱える、こうも俺は馬鹿だったか?
    落ち着こうにも珈琲は飲み干してしまったし…
    「あのお兄さん、お茶どうぞ」
    「お、おぉ、みよきちありがとう」
    舌を刺激する熱さ、喉下を過ぎてなお熱の余韻を伝える
    「ありがとうみよきち」
    「いえ、さっきから悩んでいたようなので…」
    するってぇとなにか、俺は先ほどまでの痴態をみよきちに余すことなく観察されていたのか?
    あぁ、この感情を発露する先はいったいどこに…

    「…あの! なにで悩んでるのか知らないですけど、言ってくれれば私力になりますから!」
    しだれかかる様にみよきちが俺に抱きつく
    湯飲みを持っていた所為で防ぐことも交わすことも出来なかったのは
    はてさてみよきちの計算なのかどうか
    「だから、そんなに辛い顔しないでください、私も悲しくなりますから」
    何故、だとか どうして、だとか聞けるはずも無かった
    俺は湯飲みを置いてみよきちの艶やかな髪を撫ぜる
    「ありがとうみよきち、うじうじ悩んでいても格好悪いだけでなにもならないよな…」
    言い終えるかどうか、俺は強制的に口を閉ざされた
    数秒にも満たない"それ"を終えてみよきちは珍しい小悪魔的な笑みを浮かべて部屋を去った
    「私、初めてですから」

    そんな言葉を残して
    

382 :雪茶 ◆yukichanHA sage :2008/02/12(日) 01:39:38 ID:cby4OlqLO
    「それじゃおやすみなさい」
    ミヨキチは照れながら部屋を出て行った。
    よりによってミヨキチまでか…?
    しかもファーストを奪われる羽目になるとは…
    机の上に頭を落とす。
    シャーペンが衝撃で小さく揺れる。
    かがみかみゆきか――ミヨキチか
    ミヨキチはまぁ置かせて貰う。
    かがみもみゆきもいい奴だ。俺も好きだ。
    行動力も発言もしっかりしてる。各々の個性も。
    「二者択一、かよ」
    かがみのノートを斜めから眺める。
    多彩なカラーでマーキングされたノート。
    ―そういや今お茶はみゆきに貰ったお茶だっけ。
    顔を上げて湯飲みを手にして縁に口を付けて飲む。
    微妙にお茶の甘さが味わえる。
    茶の水面に写る自分を見ると、最悪な顔をしてる気がした。
    俺は全て投げやりになり、床に仰向けになって瞳を閉じた。
    

443 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/12(日) 22:31:12 ID:u/kZSij/0
    曇天ここに極まれり
    結局現実逃避さながら、早々に不貞寝を決め込んだ俺は
    現在の多大なる空腹感と引き換えに時計が五時を表す時間に起きた
    ゆっくり寝たのに疲れが蓄積してるような、この気分はずいぶんと久しぶりだった
    天井を睨みつけるように眺める俺
    いや、そんな気力も無くただ仰向けになってると言うのが正しいかも知れん
    頭は冴え、欠片とて眠気に犯されていないのだが
    身体には気だるい感覚が、重く圧し掛かっている
    きっと今この瞬間を鏡で見れば最高に不様な姿を拝見できるだろ
    「…鏡、かがみとみゆき」
    ベットに緩やかに沈んでいくような、亜光速で空へ放り投げられるような
    「あぁ、俺制服のままじゃねぇか」
    正確には学ランは脱いでYシャツとズボンなのだがまぁいい
    とりあえずはズボンはアイロンかけて、Yシャツは別のに変えよう
    寝汗で湿って不快指数が右肩上がりだ
    

444 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/12(日) 22:33:23 ID:u/kZSij/0
    「ふぅ、そういやミヨキチも考えなくちゃいけないことだよな」
    いくらかさっぱりした頭で考える
    幸か不幸か時間はまだそれなりに余裕がある
    昨日のミヨキチの行動、あれは俺にとって衝撃的と言っていい
    あまりにも不幸な顔面をしていた俺に対する励まし
    ―なんて風に馬鹿みたいな底辺の思考をするつもりはない
    それに関してはもう嫌というほど痛感した
    かがみにみゆき、あまり好ましいことではないが俺はもう少し自分を過大評価してもいいのかも知れない
    「少なくとも昨日かがみを悲しませた、これは消えようの無い事実だ」
    そして俺自身、あの事を過去で済ませ消すつもりは無い
    たとえかがみ自身が許してくれたとしてもだ
    かといってこれ以上謝るだとか、愚劣な行動を繰り返すつもりは無い
    「ここでの俺の最善、それは二人に―いや三人に答えを誠心誠意伝えることだ」
    そしてその上で今までと同じように付き合っていきたい
    それが俺の傲慢でずるい考えかも知れなくても、この居心地のいい場所を壊したくない
    

445 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/12(日) 22:35:25 ID:u/kZSij/0
    時計を見る、俺が思考―愚考を連ねてる合間に相当の時間が経過したようで
    朝一番、彼女達と話し合いをするには最適の時間といえた
    「まずはミヨキチだな」
    深呼吸、頬を力強くパンとはたく
    ここで尻込むな、怖気づくな、怯えるな
    「よし」
    気合注入完了、いざ出陣、向かうは学校という名の戦場

    ガチャ、俺が手をかけるより一秒早く扉が開く
    想定外の状況にいきなり驚き、気合が抜けかける
    「ミヨキチ……」
    儚い、俺が中学の頃から見続けた俺の好きな笑顔
    それに悲しさ、辛さ、悔しさを当分に混ざった表情
    ミヨキチは俺の前にそんな沈痛な面持ちで立っていた
    「お兄さんの言いたいことはわかります、今からなにしにどこに行くのかも…大体理解できてます」
    細く、それでも決してか弱くは無いしっかりとした声でミヨキチは紡ぐ
    まったく聡い子だと、思う 心身ともにこの子は成長している
    だから俺にはもったいない、答えられない
    俺は今まで女がもったいないだとか、もっといい人が見つかるだとかいう断りの言葉を嘲笑してきた
    …こんな感覚があったなんて、まるで娘がお父さんと結婚するというような気分か
    もしくは妹がお兄ちゃんのお嫁さんになるなんて発言をしたときの気分だろうか
    だからこそ、"だからこそ"残念で、腹立たしい
    自分の大事な少女を自分の手で傷つけなくてはいけない
    こんな所にこなくちゃ自分の立ち位置を理解できなかった俺が、腹立たしい、憎い、
    本当にいくら謝ってもすまないくらいだ
    俺なんかを好きになってくれたミヨキチもかがみもみゆきも
    「――あのさ、ミヨキチ…」
    言葉が出なかった、涙腺がぶっ壊れたのかと思った、決壊した
    たった今自分を奮い立たせたばかりでこの体たらく
    「ごめんな…本当に―」
    その先は言わせてもらえなかった、昨日とは違う
    人差し指でそっと唇を押さえて首を振るミヨキチ
    「ダメですお兄さん、それはまだダメです」
    ぽろぽろと涙をこぼしつつ気丈にミヨキチは言う
    「はやく行って、そしてかがみさんに言ってあげてください」
    ふっ、とそれを言い残しミヨキチは階下へ降りていく
    「私、愛人でも二番目でもいいですから!」
    追いかけようとした俺に階段の一番下からミヨキチはそういって今度こそ行ってしまった
    「は、コレじゃ本当に糞野郎じゃないか」
    俺はかばんも持たずにそのまま階段を駆け下りる
    妹の部屋の前に立ち、ごめん、一言謝ってから家をでる

    目じりを袖で強引に拭い空をにらみつける
    曇天の空の下、いつもより相当早い時間
    心境の所為か毛頭寒く感じなかった
    「人の目が前についてるのは前に前に進むためってか?」

    そして走る、決着をつけに


911 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/19(日) 20:25:00 ID:NNt8vyt20
    履き慣れた靴であっても素足の心地よさに勝てる筈も無い。
    しかし、コンクリート上を駆けなければならないとなるとやはり履かざるをえない。
    すぐに履けるように紐を緩ませた靴に足を突っ込み、紐を結ばずに扉を開ける。
    外界からの空気が一気に家内に入り込む。
    畜生、やはり寒いな。
    つっても、走れば暑くはなるか?
    上着のポケットに入ってた厚めの手袋を嵌めて駆ける。

    「おや、キョン。お早う」
    交差点の死角から自転車に乗った国木田が現れる。
    これが谷口や古泉ならスルーだが、昨日の件がある。
    俺は急いではいたが、立ち止まることにした。
    「昨日はありがとうな」
    国木田は露出した指に息を吹き掛けて擦り合う。
    「友達の頼みだもん、暇だったしね。……野暮用は無事済んだかい?」
    ニコッと笑みを向けてくる。
    俺は少し蒸れた手袋を外して国木田に渡してやる。
    「いや…まだ終わってない、な」
    国木田は小さく礼を言って手袋を嵌める。
    「そっか。……"ちゃんと"終わらせるんだよ?用事ってのは後々引っ張ると積もれていくから」
    「ああ―――解ってる」
    自然に目つきを鋭くさせてしまう。
    国木田は朝比奈さんのような笑顔をして俺の背中を叩く。
    俺は思わず声を出してしまった。
    「――――頑張って」
    国木田はそれだけ言うと自転車を降りて、曲がり角に消えて行く。
    「ありがとよ」
    誰もいなかったが俺はしっかりとお礼を言って、自転車を跨ぐ。
    ペダルを思いっきり踏み付ける。
    自転車は前に進む。ゆっくりと加速する。


912 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/19(日) 20:26:10 ID:NNt8vyt20
    「あっ、キョンさん」
    今度は真正面からみゆきが歩いて来た。
    当然だが俺はペダルを漕ぐ足を止めて、左手を握りブレーキを掛ける。
    みゆきの顔は、何処か楽しそうで悲しそうにしている。
    いや、表面を楽しそうに繕ってるだけというのかな。
    声を出したいが思いっ切り漕いでた為に息が荒い。
    みゆきに手の平を向けて「待ってくれ」と暗示して、大きく深呼吸をする。
    「いや、いいんです。聞いて下さい」
    みゆきはその俺の手を取り、真っ直ぐ俺を見る。
    「…あぁ…」
    俺はそれだけを言って、見つめ返す。
    「………これからも、よろしくお願いしますね?」
    首を傾けて、口を小さく広げる。
    俺が感じる胸の痛みは過度の運動量が原因じゃないだろう。
    自分自身のあほらしさ、忌々しさに歯を噛み締める。
    「…解ってて、好きだったんです。ゼロパーセントは存在しないと信じ続けて…」
    みゆきは終始俺に微笑んでいる。
    「でも」
    みゆきは少し俯く。
    「…言わないと、ダメなのか?」
    俺がやっとこさ言葉を出せた。
    こんな事言うのが最低な事くらい解ってるさ。言わせるのは普通ではあるが……
    わざわざ言って悲しむみゆきも見たくないんだよ、俺は。
    みゆきはただ俯いた侭、俺の手を握る手を震わせる。
    「…………………………………ごめ、…さい…」
    コンクリートに円形の滲みが幾つも出来る。
    「…………すまん」
    掛ける言葉が見つからない。本当に最低だな、俺は―――――
    「すまん」
    もう1度同じ言葉を言う。
    「………お願いがあります」
    みゆきは鼻を一度啜ってから、顔を上げる。
    「今度、是非家にいらして下さい、」
    吹っ切れたような表情で俺に半分問い掛けて言う。
    「…ああ。 そういやあのお茶美味しかったよ。今度みゆきの手で淹れてくれ」
    「――はい」
    俺はこの期に及んで何言ってるんだろうね。放したくないってか?
    嘲笑えるね。助けてくれよ。俺から俺を解いてくれ。
    ……そんなワケにもいかないか。
    「じゃあな、また学校で」
    そう言うとみゆきは唇を動かさずに返事をして、俺の手を放してくれる。
    俺はみゆきを横切り、そのまま走り抜ける。…振り返らずに。


930 :七誌 ◆7SHIicilOU   sage  :2008/02/19(日) 23:04:00  ID:s5/lJEch0
    ダンシング、つまりは立ちこぎの事だが
    普段大した運動なんてしていない平凡たる男子高生がそんな状態で坂を上っていれば
    まぁ当然息は切れるし、鼓動は早くなる
    いつもは下の駐輪場においてるため
    坂を自転車で上ることになれていない俺は現在
    校門の横にもたれかかり、肩を上下させて汗を流し呼吸を整える

    考えるのはもちろん彼女達のこと
    ミヨキチに続きみゆきも泣かせてしまった
    確かに今日言うつもりだったが、俺から言うはずだったのに
    なぜ、彼女達はこうも気丈に自ら俺の前に立てるのだろうか
    ゼヒュー、気管が突然の酷使に悲鳴を上げている
    「あんたなにやってんの?」
    それは文字通り俺が待っていた声
    「……お前を、待って、たん、だよ」
    みゆきさんを目視して停めた数分前より、なお身体状態がよろしくない
    それは緊張状態が身体に及ぼす影響だろうか
    全身の筋肉に溜まった乳酸が訴える疲労は安定したにもかかわらず
    俺の心臓は俺の意思に従わず延々と素早い動きで全身に血液を送っている
    まぁ不随意筋の心臓が俺の意思どうこうで動きを変える筈も無いのだが…


931 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」 sage :2008/02/19(日) 23:04:21 ID:s5/lJEch0
    かがみが返事をしない
    切れぎれで聞き取りづらかっただろうが
    もし意味が汲み取れなかったなら、かがみは即刻聞きなおしてくるだろう
    「おい、かがみ?」
    まがりなりにも山と評されるものの上に建設された我が母校
    ひんやりとした空気を肺に感じつつ
    ようやくノーマルな会話が出来る程度に直った俺は、不信感を隠してかがみの方を向く
    「……」
    「かがみ?」
    かがみは俯いて表情を隠そうとしている
    でも、壁に寄り掛かってる所為で普段より低い目線の俺はそれを捕らえてしまった
    数十分前のミヨキチと同じ、そしてさっきのみゆきと同じ
    辛い、悲痛の表情、まだなにも言ってないのになんでそんな表情をするんだ?
    「おい、かが―」
    「ごめんねこなたかなんかに聞いたんでしょ? 迷惑だよねいきなり」
    俺の台詞を遮り、二の句を告げぬ速さでかがみは無理な笑顔で勝手に言う
    なにをいってるんだ、俺はまだ何も言ってないしその言葉は不適当だ
    「かがみ!」
    「ごめんね」
    意味もわからない、訳もわからない、理由が理解できない謝罪を言ってかがみは逃走しようとする
    俺は咄嗟に名前を怒鳴るように呼んで止めようとする
    その声に登校中の同輩、後輩連中が足を止めてこちらを伺うようにしているが
    そんなものを気にしてる暇は無い、俺はそのまま逃げようとするかがみを追いかける
    「くそ、こんなことなら自転車で無茶するんじゃなかったぜ」
    しかし後悔を先に立てられるほど器用な人生をしてない俺はこうするしかない
    疲れた足をさらに動かすものの、かがみの姿は一向に近くならない


934 :ハルヒ「ちょっと!名無し!」  sage  :2008/02/19(日) 23:06:02  ID:s5/lJEch0
    …と、かがみが急に動きを止める
    俺はペースを上げてかがみとの距離を一気に詰めて
    「みゆき…」
    さっき別れたばかりで会うのは非常に気まずい
    ことがことだけに余計だったが、みゆきは少し紅くなった目を細めて
    いつもと同じ柔らかい笑みを浮かべる
    「かがみさん…一体何があったのかは聞きません、でもキョンさんの話を聞いてあげてください」
    「みゆき…?」
    「私は先に行きます、先生には遅れるかもしれないといっておきますから」
    かがみの肩に手を置いて目を見てみゆきは行ってしまった
    かがみに有無を言わせず、俺もやはり何も言えずじまいだった
    心の中でみゆきになにかを言った気がするが、わからない
    「…なぁかがみ」
    「なによ?」
    「お前は自分の中だけでなにかを完結させて、答えを勝手に出してるだけだ
     俺はまだなにも言ってないのに、なにをそんなに泣いてるんだ?」
    もう隠しようも無いほどに涙を零すかがみ
    自分の中の憤りや俺に対する怒りも見え隠れするものの、俺は続ける
    「俺はお前に言わなくちゃならないことがあるんだ
     だから聞いてくれ、逃げないでくれよ」
    「だって! 私知ってるのよ!? キョンはみゆきの方が好きだって!」
    「誰に聞いた?」
    「あんた、みゆきの方が! そういったじゃない!」
    拙い説明、感情に身を任せて先の俺の声と比べられない声量で怒鳴る
    周囲の人間は遠巻きに眺めて、だが危うきに近寄らずとすぐに目を逸らし足早にさる
    この高校の人間で俺達を知らないものは居ないだろうからな
    …しかしこなたか、なるほどこの間のゲームの質問はこれの複線か
    「なぁかがみ? それは本当に俺が、かがみより、みゆきの方が好きだって本当にいったか?」
    かがみを落ち着かせるため、ただ訥々と確認するように問う
    「それは……違うけど」
    「だよな、確かそれはゲームの話だった筈だ
     今まで気付かなかった俺も馬鹿だが、いまはかがみとみゆきが俺のことを好いてくれてるのも知った」
    「……」
    「で、俺はさっきみゆきを振ってきて、泣かせてしまったんだ」
    かがみはもう目を逸らさない
    真っ直ぐ俺の目を見て、不安と期待を当分に混ぜて不安定な表情を見せてくる
    多少手順が変わったが、ここからは最初の予定と変わらないはずだ
    俺は深呼吸をして時間を稼ぐ
    「俺はなかがみ、俺は、お前と一緒にいたい
     他の誰でもなく、お前とこれからの時間を過ごしたい」
    はっきりと明瞭に自分の考えを意思を伝える
    「でも、あの時の…」
    「あれはゲームだっていってるだろ? 俺はお前が好きなんだっていってるんだ
     何度も言わせるなよな、結構恥ずかしい」
    白昼堂々、学校の通学路で同じ高校のやからの前での告白
    考えてみればとんだ羞恥プレイもあったもんだ


937 :七誌 ◆7SHIicilOU sage :2008/02/19(日) 23:11:05 ID:s5/lJEch0
    『結局私の勘違いで空回りってことかしら?』

    『まぁそうなるな』

    『…はっきり言うわね』

    『わかりきってることを聞くからだ』

    『ふぅん』

    『そういえばさかがみ』

    『なによ?』

    『さっきの告白の答え、聞いてもいいか?』

    『…それこそわかりきった事よ、キョン』

    『それは、オーケイってことでいいんだよな?』

    『もちろんよキョン』



    『"大好き!"』






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最終更新:2008年02月20日 15:29
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