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酒食徴逐 2

 

ピリリリリリッ、ピリリリリリッ
いつもと変わらない時刻のアラームに反応して体を起こす。
頭が痛い、飲み過ぎたのか。
体もソファを使った所為でキシキシ痛む。
洗面所にタオルを持って行き、顔を洗う。
そういや、かがみは起きてるのか?
俺はかがみのいる部屋にノックして入った。
「かーがみー、起きて…ないな」
睡眠時間長過ぎだろ。
かがみの頬を摘んで伸ばし、これでも起きないので、普通にかがみの上半身を無理矢理持ち上げた。
かがみは寝言を2、3言いながら目を掻いて大きな欠伸と伸びをして、目を開けた。
「…………ぇえっ!?」
第一声が驚嘆かよ。
かがみは俺と距離を置くようにベッド上を後退り、開いた口を震わせながら俺を指さす。
「な、なんでアンタが……」
かがみが酔い潰れたんだろうが。
しばらく待っても固まった状態なので俺が先に話してやることにした。
「かがみ、あのな……」
「……わかったわよ」
何が
「酔って覚えてない私が悪いのよね」
そりゃそうだが。
「責任とらないとダメよね」
だから何の。
かがみは深呼吸して、真っ直ぐ俺を見て。
「結婚して」
と言った。
…………………は?
「待てかがみ、どういう」
「酔って覚えてないのは悪いと思うわ、けどこんなんで私ハジメテを…………」
…………ああ、そういう事か。
まだ酔ってるのかと思ったがシラフだからの判断だったのか。
俺はかがみの言葉を遮って、昨日の流れを説明して……さっきの話を否定した。
かがみは状況を理解すると、顔を赤くして枕に埋めて、動かなくなった。
確かに俺の今のシャツ1枚しか上に着てない格好も悪いとは思うがな。
俺は風呂に入ることを告げて、風呂場に向かった。

風呂から出た後、部屋にはいい匂いが満たされていた。
料理の匂いで、リビングに行くとかがみが朝飯を運んでいた。
「あ、出て来たの」
なんだ、出て来たら悪いのか。
かがみは料理を置き終えると、椅子に座る。
早くしてよ、という目で見られたので俺も急いで向かいの椅子に座った。
かがみ、お前こんな料理作れたっけ?
白飯に味噌汁、キャベツの千切りサラダという素朴でこそあったが、千切りもしっかりと雑なトコロもなかった。
「そりゃあ成人してあの下手さだったら嫌だからね…頑張ったわよ」
聞くところによると、かがみは今日も休み取ったらしい。
俺も二日酔い出勤はたまらんので有給休暇を取っていた。
味噌汁の味を確認してきたかがみに「大丈夫だ、美味いぞ」と言うと安堵の息をついた。
自分以外の味噌汁も久しぶりだったしな。
その後、かがみも二日連続その格好は嫌そうなので、俺は男物でいいなら、と女性が来ても大丈夫そうな薄着とバスタオルを手渡してかがみを見送った。
俺は携帯に入った妹からの新着メールに返信して、煙草を吹かした。
テレビを点ければ、天気予報では快晴。
その上風がよく吹くらしい、涼しければいいのだが。
窓を開ければ煙草の煙が部屋に入って来る。

今日も暇だな。
かがみとどっか行くか。

『2日目』

かがみが風呂と扉をスライドする音が聞こえたので、灰皿に火種を押し込んで消化した。
女性の前で煙草は吸わない事にしてるからな。
頭を拭きながら出て来たかがみには俺のシャツはでかかったみたいで、半袖なのに肘くらいまであった。
下は流石に俺のジーンズを渡しても裾が合うと思わないので悪いがスカートのままだ。
「今更だけど案外綺麗にしてんのね」
まぁな、つっても必需品とその他漫画とかしか無くて広く見えるだけだ。
かがみはそのまま冷蔵庫に入ってる麦茶を俺の分もコップに注いでテーブルに置いた。
いつまでもこんな質素なトコロにいるつもりもない。
久々に友人に会ったんだ。俺はかがみを誘ってみた。
返事は軽く、いいわよ、の一言だった。
それじゃこんなトコロに用はない。
かがみはすぐさま動こうとするので、麦茶を一気飲みして俺も用意をした。
金なんて飯と定期に使うくらいだ。こんな時に使わんかったら無駄に決まってるからな。
コップを洗って乾燥機にかけてると、かがみに急かされた。
俺も返事をして玄関に向かった。
……そういやかがみは二日酔いないのか?

俺の借りたマンションは、駅や街とは上から見ると少々隔離された感じの場所にある。
理由は、仕事場と値段を見ると、ここらが適当だったからだ。
…まぁどうでもいいんだがな。
俺の少し前を歩くかがみは久々の休みらしく、鼻歌が聞こえて来た。
俺も仕事に追われる事なく街を行くのは久々だ。
せいぜい満喫させて貰おうか。
予報通り風がよく吹くお陰で汗もあまりかかなくて済むのは嬉しいな。
「ねぇ、何処行く?」
そうだな、かがみはどうしたい?
「んー…服買いたいなっ」
ならデパートでも行くか。
こう歩くと妹と一緒に歩いてるみたいだな。
「何笑ってんの?」
かがみは覗き込むように俺を下から見る。
何でもないさ、過去を懐かしんでるんだよ。この二日間。
「私もよ、高校に戻ったみたい」
くるくると回るかがみは清々しいくらい元気で。
俺はあの不可思議現象もあった高校生に戻りたいとか思っていた。

大通りに出ると、車もスーツを着た人達も忙しく駆け回り、俺は仕事しなくていいのか再確認してしまった。
高めのビルに付けられた温度計は38.6度を示していた。
人も車も多いと気温が高いな。
自然と浮き出る額の汗を拭う。
やっぱりこんな日はデパートやらゲーセンの冷房にあたってたのが学生時代だ。
俺は足早にかがみを引っ張ってデパートに向かう。
扉が開くと、冷たい風が飛び掛かってくる。
かがみは相変わらずはしゃいで、涼しくなった所為か更に活発になっていた。
「キョン、早くっ」
急かされてもあくまで走らずに俺はかがみを追った。

 

「…………あれ、キョン…くん?」
温厚な声が後ろからするので振り返る。
俺は呆気に取られた。
今週は出会いの日か?
そうなら嬉しいが。
淡い橙色の髪に前頭部にしたカチューシャ。
俺はそいつの名を口にした。
「峰岸、か」
峰岸あやのだった。
「久しぶり」
ニコッとこいつも昔ながらの笑顔を見せてくれる。
俺は峰岸の言ったことを復唱するように返事して、先を行くかがみを呼び止めた。
「あ、あやのっ!?」
「あら、柊ちゃんも久しぶりね、髪切ったんだ」
峰岸はかがみを見ても驚きはせず、嬉しそうだった。
しかしな、俺は社会人になってからずっとここにいるがお前達を見掛けた事はなかったぞ?
「私はつい最近転属になったのよ」
と、かがみ。
「私は転勤で……」
と、峰岸。
俺は転勤という言葉が気にかかり、職業を聞いた。
すると峰岸は言いにくそうに、左手を見せてくる。
その左手の薬指には、1つの指輪が嵌められていた。
「って、あやの…もしかして」

今の真意はすぐに解ったが、こいつ、そんな嫌味みたいなことする奴だっけ?
「籍、入れちゃった」
………………………マジか
「うん。転勤は私の旦那さんの仕事の事」
「それなら連絡入れなさいよ……付き合ってるのしか知らないわよ?」
「あ、籍を入れたのは最近だよ?式は…もうちょっとお金にゆとりが出来てから、ってことだけど」
落ち着いてから連絡するつもりだったようだ。
結婚したなら、次の質問は決まってる。
Who、結婚相手だ。
「あの人なら駐車してるから…あ、来た」
扉の方を見ると、こいつもまた懐かしい奴だ。
スマイルをほとんど絶やさない野郎。
俺達を見掛けるとやや小走りで話し掛けてきやがる。
「おや、お二方久しぶりですね」
峰岸、お前はなんて奴とくっついたんだ…
あくまで心中で突っ込ませて貰った。
俺は少し頭が痛くなったのを二日酔いの所為と思い込んで、返事をした。
「ああ、そうだな……古泉」
「古泉くん、あやの、結婚おめでとう」
改めてかがみが二人にそう言うので、俺も似たようなことを言ってやると、二人は嬉しそうに笑った。
まさか、古泉とはな。
「転勤、だって?」
「ええ、前の職場で仕事の成績が良かったので上司に推されまして」
俺はこいつの要領良さは認めてるので、まぁ当然か、と笑ってやる。
「あ、他の方には内緒でお願いします。ビックリさせたいので」
本気でまだ教えるつもりはなかったようだ。
まあ他のやつに教えるにも何してるかわからんので構わないが。
より
てか、式より先に車買うか?
「これは叔父から頂いた物ですよ」
そうかい。
「二人は付き合ってるの?」
峰岸が悪戯な顔で聞いてくる。
かがみがその発言に顔を赤くさせるので俺が否定しておいた。
昨日久々に会った酒飲み仲間だ。
「そうなんですか。僕はてっきり」
てっきり、なんなんだ?
「いえ、続きは言いませんよ。ご想像にお任せします」
ご想像とか言っても続きは1つしかないだろうが。だから否定すると言ってるだろ。
「まぁそうですね、すいません」
そう言って名刺を抜き出して俺に渡す。
受け取ったはいいが、生憎俺の名刺はスーツの中なので持って来てなかった。
「構いませんよ。それより成年にもなったことですし今晩お酒でもどうですか?」
うへ、昨日飲んだばっかだぜ。
「それは残念。では、またの機会に呼んで下さい」
分かったよ。
そう言って古泉は一方かがみと仲良く会話してた峰岸を呼んで去っていった。
…そういや、峰岸は"峰岸"じゃなくなったわけで、どう呼ぼうかね。
「あやの、でいいんじゃない?私を呼んでるみたいにさ。」
そうか?
まぁ峰岸に聞いてから変更を試みることにしよう。

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最終更新:2008年02月19日 19:32
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