かがみと買い物巡りした日の晩、古泉にいつ飲みに行けるか電話した。
いつでもどうぞ、と返事か来たので次の週末に設定して俺は電話を切った。
その週末だ。
場所はかがみの時と同じ駅前。
目的地も同様だ。
またもや暑さに苛まれながらも立っていると、2分くらいで古泉は来た。
「お久しぶりです、とでも言いましょうか?」
気軽に「よう」でいいじゃねぇかよ。
「そうですか、では改めてこんばんは」
古泉はスマイルは崩さずに肩を竦める。
ていうかなんでスーツなんだ?
「実は仕事帰りでして」
それなら電話すれば日にちずらしてやるのに。
「いえ、折角貴方とまた高校の時みたいに話せると思うと延ばしたくはなかったので」
そうかい。んじゃ行くか。
俺も懐が寒くなっていたが、酒依存になっているのか飲み合いながら話したいのは同じだ。
さっさと俺は居酒屋に向かった。
「では、仲良くだべりましょうか」
古泉が店員に中ジョッキを2杯と枝豆やらツマミを頼んで扉を閉めてから古泉はネクタイを緩ませてスーツを脱ぐ。
「何で峰岸とまた?」
とりあえず質問させて貰った。
古泉はびっくりした様子もなく、逆に嬉しそうだ。
「貴方は相変わらず直球ですね」
遠回りにして欲しかったのか?
「いえいえ、貴方が変わらずそんな人で安心しました。僕も気楽に話せます」
今この場では褒め言葉として受け取ってやろう。
「どうも。あやのとは大学生の頃ですかね。元の彼氏と上手くいってなかったようです」
奪い取ったてのかい。悪い野郎だ。
「すいません、ですが彼氏も僕とあやのが付き合う事に文句はおっしゃいませんでしたので。
寧ろ彼はあやのに土下座して謝ってたくらいです」
なんとまぁ。
話のネタ①が終わると中ジョッキとツマミが届いたので、古泉が乾杯と小さく言って互いにビールを一気に飲む。
さて次だ。
「今他の―――元SOS団の連中はどうしてるか知ってるか?」
箸を古泉に向けてからツマミを挟んで口にする。
「そうですね」
とスーツの胸ポケットから手帳を取り出して開く。
探偵かお前は。
「涼宮さんは北高の教師で」
そういや眼鏡くんに勉強教えてたな。
そういうトコはしっかりしてるから適任か。
「長門さんはとある企業のプログラマー」
これまた適職だな。
口数少ないのが難点か?
「泉さんは不明ですね、連絡つきません。
そして柊かがみさんは……わかってるからいいでしょう。
つかささんは」
パティシエだな、見習いの。
「ご明答。高良さんはー…保育園の先生のようですね」
こう言われると、皆の働いてるのが思い浮かぶから不思議だ。
「日下部さんは、一浪したので今年から就職のようです」
そうだったのか、それにしてもよ
く調べてるな。
「同窓会でも開こうかと思ってましてね、あとは彼女がいれば勢揃いだったんですが」
そう言って手帳を閉じて机の隅に置く。
名前を述べないトコロが古泉らしいな。
勿論"彼女"とはさっき古泉が言わなかった朝比奈さんなのではあるが、彼女は俺達が大学生になるちょっと前に長期留学という名目で………"帰った"のだ。
朝比奈さんから最後に貰ったお茶の葉はまだ戸棚に未開封放置だ。
「アレはブレンドしてるようで最高に美味しかったですよ」
美味そうにビールを飲みながら言われても説得力は感じないぞ?
「まぁ事実を述べたまでですから」
古泉は枝豆を敢えて上に飛ばしてから落下地点に口を持って行き食べる。
「ではコチラも質問させて頂きましょうか」
「なんだ?」と聞きながらビールを一口飲む。
「彼女、柊かがみさんとお付き合いなさらないのですか?」
ビールがむせ返って呼吸が止まる。
そんな様子を古泉は見てるだけだった、この野郎。
俺は落ち着いてから理由を聞く。
「先日、久々にお会いした時、彼女はとても嬉しそうでしたよ?」
そりゃ久々に休み取ったらしいしな。
俺も内面では嬉しかったさ。
そう言うと古泉は一つ溜め息を吐く。
「…まぁいいでしょう。僕が言いたいのは貴方のかがみさんに対する気持ちですよ」
かがみに対する気持ちだぁ?
別に懐かしい友人、それでいいじゃないか。
大学進学の勉強をしてくれた心優しき女性だ、と言おうか?
「そうじゃないですよ、全く何処まで鈍感なんですか…或いは逃げてるのか…」
本題を言え、回りくどいのは頭使う。
「ふぅ、では言わせて頂きましょう」
古泉はビールを空になるまで飲み干して一息入れてからこう言った。
「―――貴方は柊かがみを愛してはいないのですか?」
……唐突過ぎて驚嘆すら出来ねぇよ。
「愛してる?何故だ」
「根拠……というのもおかしいですけども、判断材料は2つ程ありまして」
古泉はまたもやスーツの胸ポケットから取り出したのはペン。
「貴方も涼宮さんに頂いたでしょう?」
そう言えば貰ったな。
高校卒業の時にハルヒが「離れても思い出せるように」って言って団員全員に配った物だ。
「願いが叶うように祈ったからっ」とも言ってたっけ。
面接の時とかは必ず使ってるな。お陰で無事採用だ。
「そうですよ、そして涼宮さんは願いを叶える力がある」
過去の話だろ。今はない。
「ええ、ですが、あの頃はありました。
そして、今頃貴方の"叶えたい"事を"叶えた"のかも知れません。
少なくとも『柊かがみと会いたい』などと言う、ね。
知ってました?
貴方はかがみさんと共に行動してるとよくかがみさんを見てるんですが」
ダメだ、久々に会ったのに関わらずこいつペースに巻き込まれそうだ。
俺は呼び鈴を鳴らして、中ジョッキを更に2杯注文する間に頭を働かせていた。
「けど、何の理由にもならん。全部お前の憶測だろ」
それが出た結論だった。
だが古泉は裏の裏をかいていたようで、なんら普通にしている。
「こっち――2つ目がメインですよ」
と、言って俺の左手を握って机の上に置く。
手首にはあの日のブレスレットが付いているが。
「貴方は僕…それにあやのと会ったあの日以降働き詰めでしたね?」
ああ。あん時は有給休暇を2日取ったしな。
お前と飲む為にもノルマこなしてたさ。
それはどうも、と軽く礼を言って古泉は続ける。
「つまり、消去法でコレはあの日に買った物だ、ですね?」
そう言いながら古泉は俺のブレスレットを回して、付いてる宝石を確認する。
「ああ、かがみも一緒に買ったぞ」
「そして、失礼ですが貴方に色彩とかのセンスはあまり無い。
鮮やかなこのブレスレットはかがみさんがお造りになられた物…ですね?」
俺は再三認めた。
「センス無くて悪かったな」
と、冗談交じりに怒ると古泉は笑いながら謝る。
頼んだビールが届いたので、休戦して互いに一口飲み、俺は心落ち着かせる。
「…で、です。貴方は宝石言葉をご存知で?」
名前だけだな、サファイアとかの意味は知らん。
古泉は回転させ、グリーンのペリドットを指さす。
「このペリドット、意味は『生命力』『希望』なんですよ。
災い防止、内面的力の向上です」
そうかい、かがみが俺の身を案じてくれたんだな。
「そう考えてくれると話が早いですね」
古泉はまたブレスレットを回転させる。
「その通り、かがみさんは貴方を思って宝石を付けたんですよ」
順番に宝石の説明するのかと思いきや、藍色のアクアマリンを飛ばし、ある宝石を上にする。
「面白い事にですね」
古泉は俺から顔を反らし、震えて笑う。
「早く言え」
「失礼、ここに1つのダイアモンドがあります」
古泉はブレスレットを回して、ブレスレットに数個ある宝石で1つだけあるダイアモンドを上にしていた。
「恐らく、かがみさんのも1つ"だけ"ダイアモンドを付いてるでしょう」
かがみもつけてたな、唯一すぐ分かった宝石だから覚えてる。
「で、こいつの宝石言葉は?」
結露したジョッキを口元に持ち上げて喉を潤す。
古泉は俺が飲み終わり、ジョッキを置くのを待ってからダイアモンドの宝石言葉を言った。
「これは、『清純無垢』それに―――『純愛』を示しますよ」
表情にこそ出してはいないつもりだ。
それを聞いて、酔いが醒めた。
「かがみさんが意識せずにやったとは僕は思い難い。
女性は特にそういうのが好きだと―――」
「――もういい」
俺は古泉の流れをぶった切った。
俺はビールを一気飲みして軽くむせた後、腰を上げる。
「何処に行くんですか?」
そんなワザとらしく聞く質問には答えたくはない。
「古泉、今日の酒代借りてていいか?」
足は早く動きたそうにしてるのが分かる。
だが、こういうのもしっかりしとかないといけないのも分かってる。
「構いませんよ、でも何故ですか?」
コイツの解りきって澄ました顔に拳を捩込みたいが、それは我慢だ。
「帰るのに金が必要なのを忘れてた。悪いな、そして急用だ」
「そうでしたか、お気をつけて。また飲みましょう。貴方の奢りで」
分かったよ。
とりあえず話はついたので、俺は急ぎつつも走らずに居酒屋を出た。
出た後は勿論―――全力疾走だ。
彼はさっきまでもう1人いた個室で、1人胡座を掻いていた。
「何処まで鈍感で単純なんでしょうね」
その笑いは、安堵の笑み。
ジョッキにまだ沢山入ったビールを半分程飲む。
「おめでとうございます、お二人とも」
天井に吊り下がる丸い電球にジョッキを向けて、ビールを飲み干した。
残された男性は手帳をスーツに入れてきっちり着た後、伝票を持って支払って店を後にした。
外はやはり暑かった。
一目散に駆け出したはいいが、アイツの家を俺は知らない。
名刺に書かれたソイツの仕事場も近くはない。
極力したくなかったが、携帯に登録したソイツの電話番号に掛けた。
「ん、キョンどうしたの?」
走った所為で言葉が続かない。
一度深呼吸して俺はかがみに自宅の住所を聞いた。
場所は駅二つ先の住宅地にあるらしい。
俺は短く感謝の言葉を言って携帯を折り畳んだ。
さて、どうするか。
この時間帯は帰宅ラッシュも終わって電車本数も激減してる筈だ。
だからと言ってタクシーで行く金も無い。
ただでさえ俺の家迄の距離をあんだけ払ったんだ。
倍以上かかるに決まってる。
……ということで俺は一つの選択肢しか無かった。
「やれやれ」
俺の自力だ。
線路に沿って二つ分走りながら電柱に貼られている番地を確認する。
かがみの家のあるトコロは駅を過ぎた辺りだった。
時計を見ると、古泉と別れてからえらい長いけと走ってる事を実感して、笑う。
俺もバカだねぇ。
立ち止まって呼吸を整えると汗が噴き出る。
腕で拭って、俺はまた駆け出した。
最近は住所の書かれた家があって助かる。
正確に現在地を確認することが出来るからな。
かがみは自分ちは賃貸マンションだと言っていた。
あくまで自活してるのだろう。
かがみはしっかりした性格だからな。
俺みたいな親の臑かじりとは違うんだろう。
大体の位置に来ると、何処かにマンションらしき大きな建物はないか見回した。
1つあった。
点々と部屋の明かりが見える。
俺は更に力を振り絞ってマンションに駆け出した。
「あ、やっぱり来た」
マンションの入り口を入ると、かがみが階段に座っていた。
俺の肺も流石に久々に走ったので限界を訴え続ける。
「それにしても走って来るとはねぇ、凄い汗。大丈夫?」
とりあえず入って、と言って立ち上がって階段を上ろうとするかがみを俺は呼び止めた。
「ん、何?」
頭の中で素早く清算する。
高校での事。
初詣に行ったり、ハルヒに引っ張られて映画作ったり野球したりな。
古泉が仕立て上げた生徒会長との対決で文集作らされたりもした。
授業終わったらお前はこなた達と話す為に教室に来る。
それが楽しみの1つだったんだぜ?
俺は知らない間に溜め込んでいた1つの感情の中身を凝縮させて、1つの言葉をかがみに告げた。