七誌◆7SHIicilOU氏の作品です。
ある日、俺は珍しく一年の階に行った
他学年の階に入り浸るのはあまりよろしくないことで
俺自身先輩というだけ(まぁ実際はSOS団の方がずっとでかいが)で注目されるのが嫌なので
だからその日は本当に珍しく俺は一年の階に行った
「そういえば、最近Wiiのスマブラを買ったッス!」
でけぇ声だ、まずそう思った
次に誰の声だと考え、瞬間答えが出た
見るとなるほど俺でも何回か来た覚えのある、というかこなたに連れてこられた覚えのある教室だった
「ひより声が大きいぞ、廊下まで聞こえる
それともお前はそこのゆたかやみなみの鼓膜を破壊せんと画策してるのか?」
「あっ先輩! 聞いてくださいよ」
こいつ、全然聞いちゃいねぇぞ
なんで俺の周りの人間は聞く耳をこれでもかと地面に叩きつけるような奴ばかりなんだ?
「Wiiのゲームを買ったんだろう?」
「あれ、なんで知ってるんですか?」
頭が…痛い
「まぁいいですけど、そのスマブラを買ったんですけど
一人じゃつまらないんでやっぱり大人数でやろうと思って!」
なるほどな、確かにあの手のゲームは一人より多人数での使用を対象としてるからな
田村は一人っ子の筈だし、友人を誘ってやろうというのもわかる
だが頼むから声のトーンを二段階下げてくれ
「あっすんませんです、で先輩もどうっすか?」
「…ん? あぁゲームか、そうだなたまにはいいかもな」
今日は妹も親も居ないしまっすぐ帰っても暇なだけだしな
たまには後輩と交流を深めるのもいいだろう
印象の薄いつまらん先輩と思われるのも、付き合いの悪い奴と思われるのも嫌だしな
...それに単純に新しいゲームとかも興味がある
我が家にはあまりその手のテレビゲームがないからな
妹が最近の子供のようにゲームばかりやるような子供でなく
外で元気に遊ぶ健康優良児だからな、その辺は仕方ない
「じゃあ帰りに」
「おぉ」
授業間の短い休みだ、俺はそろそろと思い会話を切り上げて教室を出る
あの四人が居れば、まぁ退屈の二文字からはほど遠いだろうしな
あっというまに放課後、電子音の鐘が鳴る
中学時代の知り合いが行った高校に本物の鐘の音を使用してるところがあったが
あれはなかなかに良かったな、などと考えつつ下駄箱から靴を履き替えて外に出る
雲が4割未満1割以上なので今日の天気は晴れ
…いや、帰るときに晴れでも曇りでもあまり関係ないのだがな
校門の前まで中途半端な日差しの中をあるいてると
「先輩、待ってたっすよ」
ひよりが一人で立っていて、俺を見つけると同時にかばんを振り回しながら近づいてくる
…一人だと?
「みなみやゆたかは一緒じゃないのか? 遊ぶんだろ?」
「…いえ? あれ言ってませんでしたっけ、みんな都合が悪いって急にキャンセルされたッス」
つまるところ二人だけか、まぁ相手がひよりなら間違いも起こさんだろうし
大して気にすることでもないだろうさ
俺はぶつかりそうになったひよりのかばんを奪い
自分のかばんと合わせて持つ
ひよりは俺の行動に首を首をかしげていたが
「じゃ、さっさと行こうぜ、お前の家行くのは初めてだな」
「はい! ではいきませう!」
調子のいい奴である、が悪くは無い
「ちょっち待っててくだせぇ、片づけしますんで」
ひよりがそう言って俺を玄関前に残して自宅への帰還を果たしたのは5分前
俺は仕方ないので、空と田村と表札の書かれた家を交互に見やる
普通の一軒家だ、俺の家と大して変わりはしない普通の家だ
まぁこんなところに奇抜性を求める人間なんていないだろうがな
「あっ、先輩どうぞ!」
ボケッと手をポケットに突っ込んだまま立っている俺に
ひよりが顔を出して入室許可をだした
俺はそれに片手で答えてお邪魔させてもらうことにした
「じゃあ私の部屋こっちですんで」
「おう…それ似合ってるな、可愛い」
ひよりはこの数分間に服を着替えたのだろう
シンプルだが可愛らしい服に身を包んでいた
ミニスカートから覗く足がなかなかに健康的でよろしい
「ありがとうございますです」
照れたように先を行くひよりについて行き、部屋につく
「…あれ、お前」
「ん、どうかしたっすか先輩?」
二度目、さっきは後ろに俺が居たため気付かなかったが
部屋に入って向かい合うとわかった
ひよりの少しだけ期待したような表情と合わせてな
「それ、化粧―でもしたのか? へぇ…いいじゃん」
「えへへ、薄くですけど、気付いてもらえて嬉しいッス」
服装と合わさって、やけに女らしくというか女性的というか
非常に魅力的にひよりが目に写る
…まずいな、この状況は非常にまずいな
下手すると無いだろうと高をくくっていた事が起きうるかも知れん
「じゃあ! はじめるッスよー!」
…大丈夫だな、多分
二つのコントローラー
幾つかのボタンを操作して画面では小さな色々なキャラが踊る
飛んで跳ねて細かにあちらこちらへと移動する
そしてまた俺の操作するキャラが画面外へと高速で飛ばされる
…まぁ単純なことを無理に長蛇に書くのは愚鈍な人間のやること
簡単に言えば俺はひよりにまた負けただけだ
「というか、今日始めてやる奴が相手なんだぞ、もう少し手加減てものをだな」
「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とす!」
「さっきから突き落とされてるのはピンクの丸い奴だ、もしくは青いハリネズミ」
言って聞くとはもとより思っちゃ居ないがな
ピッ、と突然テレビの電源が落ちてゲームの音が消える
しかし突然と言っても俺から見た感覚がそれであるだけで
実際にはひよりがリモコンで普通に消したようだ
「…どしたひより」
急に黙ったひよりに俺は不審気に声をかける
「突然で悪いですけど、先輩って付き合ってる人や好きな人って居ますか?」
「…いや、居ないが」
本当に突然だったのはこっちか
俺は質問の意図を上手く理解できないままに、とりあえず真実を語る
気付けば窓の外はずいぶんと暗くなっていた
「それじゃあちょっとだけいいですか?」
ひよりはそういって俺ににじり寄ってくる
変な予感はした、嫌な予感とは言いがたいものの
直感というか家に入った直後のひよりの服装だとかで考えて否定したもの
「私は先輩が好きです」
そう独り言の様に呟いてぐっと顔を寄せてきた
それがなにを意味するものなのかわかって俺は、動かなかった
一瞬の感覚、温もりの後ひよりはいつもと違う少し儚げな笑みを見せて
「返事はいつでもいいです、今日は楽しかったッス」
潤んだ瞳を少し伏せて、先ほどまでゲームをやってた時の調子をどこかへすっ飛ばしたような
俺は艶やかな黒い髪を上から少し乱暴になでて
「また明日、学校で」
そういって部屋をでる
靴を履いて外に出ようとするとひよりが走ってきて
「…また遊んでくれますよね?」
「あぁ、いつでも呼んでくれ、俺は暇人だからな」
ようやくいつもの笑みを浮かべたひよりを残して俺は今度こそ家をでる
帰るとしよう
「お帰りキョン君…」
いつものように帰宅して、いつものように妹が走ってきたのだが
いつものように俺にタックルをかます前に妹はダッシュで台所に向かった
「お母さ~ん、キョン君が口紅つけてる~」
…さて、どう弁解したものかね?
俺はひよりのあとを求めるように、唇に指を滑らせた
最終更新:2008年02月23日 08:30