「おはよ」
「…ん?ああ、おはようさん」
ポリポリと寝ぼけた頭を掻いて、つい今し方登校したのであろう泉に挨拶した。
ふぁ、と大きな欠伸もつけてしまったがコイツならそんなに嫌な顔もしまい。
「キョンキョンがそんなに眠そうなのは初めてだねぇ」
「そうか?俺はいつも授業中に寝てるじゃねぇか」
「イヤイヤ、それは退屈だからであって本当に眠気があった訳じゃないよ」
「……よく見てるな」
「え、あ、まぁ、……実は私には後ろに眼があってね!よく見えるのさ」
「そうかい……ふぁ」
俺はもう一度欠伸をすると腕を枕にして机に寝た。
泉、か。
意外と曲者かもしれないな。
自分がそれほど人目を惹く奴では無いとは思うが、目立った動きは止めたほうがいいらしい。
内心歯がゆい思いが湧き上がったが、それ以上に『面白いゲームになりそうだ』という思いが強くなった。
誰にも見えない腕の中で俺は口だけで笑う。
昼休みになった。
いつも通りのメンバーで机を囲み、弁当に箸を伸ばそうとしたその時、
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!!!!!!!!!!!!!
と、火災報知器が鳴った。
突然の事態に一瞬だけ皆が固まる。
しかしそれもやはり一瞬の事で特に騒ぎもなく、マニュアル通りにのそのそと上履きのまま次々に校庭へと向かった。
むしろ「これで授業潰れる」だの「面倒くさいから帰らね?」と言った声さえ聞こえる。
俺らが丁度校庭に出た所でスピーカーから「只今校内で火災が…」云々と放送が流れた。
さて、これから教師が来るまで寒空の下で待たなくてはならない。
大事になったな、などと思いつつコートを持ってこなかった事を後悔して寒さに震えた。
帰宅すると制服を脱ぎ捨ててベッドにダイブした。
手の中にあるのは黒い携帯。白抜きの文字で『T-note』。
「本物だ……!」
携帯を開き、未送信メールを見る。
そこには数百にも上る人名が書いてあった。
すべての題名に人名。
しかし一つとして同じものは無い。
「ククク……」
そして送信済みフォルダと受信フォルダには新しく数通のメールが入っている。
カチカチカチ、と部屋に無機質な音が響く。
内容はこうだ。
「明日の昼休みに火災報知器をならせ」
「はぁ?アンタ誰?てか間違いメールうざぃんですけど?」
「Kとでも呼べ。お前の秘密を知っている」
「何?キモいから止めてくんない?」
「××××××××××、××××××××××××××?
これが知れ渡ってもいいのか?」
「なんでそれ知ってんの?私の兄貴がだれだか知ってる?殺すよ?」
「知るか。明日実行されなければ速攻知れ渡るので勝手にしろ。俺のことを誰かに言ってもバラす」
………ここで、終わり。
あとはメアドを変更して今日を待つのみだった。
そして結果、この携帯に書いてあるのは本当だった。
この携帯には男の名前は無く、代わりに女の名前は全て載っていた。
今日の寝不足はPTA会員名簿を引っ張り出して1人1人名前を確かめたからだ。
それだけの価値はある。
内容は嘘であっても他人の携帯なので、いざとなれば下水道にでも捨てればいい。
「フ、…フハハ……」
面白い。
全校生徒の半分をほぼ自由に動かせる権限を手に入れたのだ。
この携帯を持つ俺の顔は笑っている。
喜べハルヒ。
世の中にはどうやら不思議なことは実在したらしいぜ。
俺は黒い携帯を大事に握りしめ、ベッドの上で天井を睨みながら何ができるだろうかと際限無い妄想をした。
「…ク、……クク」
日常を蝕む退屈。
それを、ぶち壊してやる。
最終更新:2008年02月26日 21:51