タン、トン。
そして少しの間隙。
タンッ、……トン。
文芸部室に無機質に。板を叩く音が静かに響く。
「ハルヒはまたか?」
目の前の状況を冷静に見つめ、待つ。
「ええ。先日は心霊スポットが県内にあると聞いてそこを訪れたようです」
古泉の手が伸び、黒い彫刻を掴む。
そしてその彫刻で白い彫刻を倒す。
タン。
「今日もいないってことは…」
俺も手を伸ばして彫刻を掴む。
但し、白い方だ。
トン。
「…今日もバイトが忙しくなります」
タンッ。
「そうか…まぁ、頑張れ」
トン。
「…ところでお聞きしたいのですが」
「何だ」
盤面はもう佳境に入ってきた。
この罠が成れば…
タンッ
「最近は随分と、機嫌が良いですね」
にっこりと爽やかな笑み。
…特に顔に表情を浮かべたつもりも無いのだが、俺が長門の表情を少し読み取ることができる程度には俺を読めるらしい。
いつからお前は俺の精神面まで取り扱うようになったんだ?
「最近は疲れるようなことも無いしな。それに、お前も普通の学校生活が望みじゃなかったか?」
トンッ。
「…感激です。あなたが僕のそんな些細な事を覚えているなんて」
タン。
「気持ち悪い事を言うな。そして1Bポーン、クイーンに変身だ」
「いやはや、照れ隠しにこれは痛い」
「だから気持ちが悪いと…」
あれから3日。
学校は火災報知器を鳴らした犯人を見つけられず、何事もなかったかのように普通だった。
手元の『T-note』を見る。
確かに凄いものではあるが、弱点も多い。
カチカチカチ、と操作して長門を調べる。
そこには名前と少しの身体データ。
そしてスキャンダルと言うには余りに些細な"俺との怪しい関係"(?)しか載っていない。
SOS団のこともある程度書かれてはいるが勿論使えはしない。
…要するに、過去が潔白な奴には使えないのだ。
同じく過去が無い者にも使えない。
俺は携帯を操作して長門、喜緑、朝比奈、の三人を消す。
また、この携帯の持ち主では無い俺には情報の更新は望めない。
よって、人に知られたく無い過去を持っている奴しか動かせない。
一応、1人1人見たが犯罪ギリギリまでの行為に手を染めた経験があるのは片手では足りず、両手では少なず、と言った状況である。
俺は自室で黒い携帯を閉じるとその側面を見た。
SDカードを挿入できる部分がパテで埋められている。
その後にヤスリを掛けられたのか、平らになっている。
そして赤外線通信の機能が壊されている。
……つまり、これは複製不可能だと言う事だ。
一見すると不利な状況でしか無いが、逆に考えればこれは自由に動かせる人間が十人足らずいるのだ。
その数人が人を使えれば実質数十人と扱えるのと変わらない。
しかも、この携帯にはありがたい事に誰がどんなグループに属しているかという情報さえ載っていた。
女のグループというのはあまり変動は少なく、でる杭は打たれる…否、討たれる。
そのグループにはトップが存在する場合にはトップの情報(誤情報でもいい)を流せばすぐに転落する。
「……ふぁ」
この3日間。
何もしていなかったと言えば、そうでは無い。
待っているのだ。
数粒の米が、稲穂となり。
稲穂が種として米を数十倍に返してくれるのを。
"K"がデビューするのを。
─生徒会─
「喜緑君、何か分かったかね?」
「フェンスを切り刻んだ犯人、ガラスを割った犯人、そしてコンピューターの配線を滅茶苦茶にした犯人は捕まえましたが…」
そのいかにも、とした眼鏡を掛けた生徒会長は頭に部費などが書かれた決裁書を浮かべた。
少子化が進む今日に余った金などなく、それらの損害を直すために部費を削らざるを得ない。
頭を悩ます問題である。
「どうかしたのかね」
しかし部下の前では常に不安な顔など見せてはならない。
冷静な顔つきで応対する。
「理由が無いのです。まるで誰かが命令したのでそれを仕方無く…と言った様子で」
理由が無い?
まさかストレス解消の為に内申点を下げて、調査書に傷を付けた訳でもあるまい。
しかも同日に、同時刻に。
「……誰か、」
そんな事をさせられる人物。
考えてみたが情報が余りに少なすぎる。
「あぁ、喜緑君。すまなかった。下がりたまえ」
生徒会室に二人きりだったが当人たちには甘い空気などは無く、ただひたすら事務的だった。
その女性が退室すると会長は眼鏡を外し、懐に潜ませていた煙草をくわえる。
だが火は付けない。
仮にも生徒会室であるのに煙草の匂いが付いてしまっては管理を疑われる。
あくまでも気休め。
フィルターを軽く噛んで溜め息のを吐く。
「………………ブッ殺す」
その声は誰にも届かず、当人の胸の内に秘めたる決意として根付いた。
最終更新:2008年02月27日 00:14