長野
とある雀荘
安永 「……よし、これで全員揃ったな?」
マホ 「……」
佳織 「……」
京太郎 「……」
安永 「えー、一応自己紹介といこう。俺は安永萬。全雀連の理事をやらせてもらってる」
マホ 「ゆゆゆ夢乃マホですっ」
佳織 「せ、妹尾佳織です!」
京太郎 「須賀京太郎っす!」
安永 「なんで集まってもらったか有り体に言わせてもらおう」
安永 「君達はいわゆる初心者だ。まだルールすら覚束ない者、ようやく役を覚えた者……まぁ様々だが」
安永 「……とにかく、そんな初心者である君達を鍛えてくれと依頼された」
京太郎 「マ、マジっすか!? 一体誰に……?」
久 「ハァーイ♪」 フリフリ
京太郎 「……」
安永 「あー、うん。察しの通りあいつだ」
安永 「妹尾さん……だったな。君については加治木さんから依頼されてね」
安永 「『自分達3年が抜けてからはビギナーズラックだけでは厳しくなる。基礎的な雀力の向上が必須だ』……と」
安永 「……で、夢乃さんは久…清澄のところの片岡さんと原村さんから依頼された」
安永 「聞いたところでは君は色々な打ち筋を持っているようだが、彼女らに言わせるとまだまだ基礎力が足りないらしい」
安永 「本来、君達にもそれぞれ教わるべき相応しい相手がいるかもしれん。だが頼まれた以上はできる限りの事をするつもりだ」
久 「またまた謙遜しちゃってー。安さんを信頼してるから頼んだのよ?」
安永 「……そいつはありがたいがな」
―――――――――――――――――――――――――――
安永 「――で、ここ1週間の君達の牌譜を一通り見せてもらった」
安永 「全体的に言えるのが……そうだな。極端に1着か4着かのどちらかに分かれてるってところか」
安永 「個人的に言わせてもらうなら、まずは須賀くん」
京太郎 「は、はい!」
安永 「……君は放銃率が高いな。愚形二向聴で親リーに押すなんてのはナンセンスだ」
安永 「もう少し押し引きを学んだ方が良い。オリるのも立派な戦術だからな」
京太郎 「ウッス…」
安永 「次は妹尾さん」
佳織 「はいっ」
安永 「君も基本的には同じだ。だが加治木さんから聞いていたように君に限ってはいわゆるビギナーズラックがある」
安永 「確かに1半荘で役満2回ってのは滅多に無いが、問題はその強運が崩れた時だ」
佳織 「は、はぁ……」
安永 「それこそ基礎力の多寡が勝敗を決する事になる」
安永(……世の中には相手の運を奪ってくる奴だっているしな)
安永 「――で、最後は夢乃さん」
マホ 「はいっ!」
安永 「君の牌譜は正直言って説明不能なものばかりだ」
マホ 「」
安永 「親リー相手に大明槓やらラスト一巡でツモ切りリーチやら連続副露の高速和了やら……」
安永(ところどころどっかで見たような打ち筋が混じってるのは気のせいだと思いてぇぜ)
安永 「あとは……この、なんだ。『少牌にて和了放棄、流局』ってのは」
マホ 「あうう……それはその……」
安永 「これじゃ初心者の烙印を捺されたままになるぞ?」
――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
安永 「―――さて、今日君達に教えたいのは相手の捨牌読みについてだ」
安永 「君達が1着・4着ばかりなのは、基本的に自分の手しか見ていないからだ」
安永 「……無論、状況によってはそれで良い時もある。実際に上手く嵌まって1着を取れてる半荘もある訳だしな」
安永 「だが統計では圧倒的にラスや3着を引く事の方が多い。全ツッパは長期的に見るとデメリットが大きいンだ」
久 「でも先生、完全にオリてても相手にツモられたら結局は負けてしまいまーす!」
安永 「……」
安永 「ま、まぁ……久が今言ったように、かといって完オリするのが正しいとも一概には言えない」
安永 「故に、君達に必要なのは全ツッパと完オリの中間―――回し打ちの技術だ」
京太郎(回し……)
佳織(打ち……?)
マホ(回し打ちくらいならマホ知ってますよ!)フフン
安永 「じゃあ実践といこうか」
ガラガラガラ…
安永 「……まず、相手がこんな河でリーチしたとする」 チャッ
西南中9p8p三
一46(リーチ)
安永「……で、こっちがこんな感じの手牌だ」
三三四五五六九九455發發 3
安永 「相手は牌効率を重視する打ち手だとして、須賀くんなら何を切る?」
京太郎 「えーっと、索子で面子が出来たから5索かなぁ」
安永 「」
京太郎 「あ、あれ? 駄目っすか?」
西南中9p8p三
一46(リーチ)
京太郎 「だって4、6って切ってるし……」
安永 「……いや、スマン。1つ大事な事を伝え忘れてた」
安永 「相手の待ち牌を読む為にまずする事は危険牌の筆頭を挙げる事だ」
安永 「まぁいきなり一点読みしろとは言わねぇ。大雑把で良いからいくつか候補を挙げるんだ」
安永 「その時点で個人差は出るだろうが……後は消去法で待ちを絞っていくのが基本だな」
西南中9p8p三
一46(リーチ)
安永 「今回の場合だと字牌を連打して端牌の辺張・嵌張を嫌ってるって事で、俺はタンヤオだと読む」
安永 「……とりあえず俺の中では第1候補は5-8索あたりか」
京太郎 「そうなんすか……」
安永 「相手がデジタル派だったら……が前提だからな。4667と持ってたら4→6の順で切るだろう?」
佳織(なるほど……)
マホ 「いわゆる傍聴ってやつですね!」
京太郎 「で、でも5-8索を引き入れての聴牌かも……」
安永 「そう。その可能性も充分にある。だからこそいくつか候補を挙げるんだ」
安永 「……ぶっちゃけ今回の場合だと中張牌は全体的に切りたくねぇわな」
佳織 「じゃあ三萬か4索切りですか?」
安永 「順子手にしろ対子手にしろ一向聴だが……聴牌した時に出ちまう牌を考えると、七対子狙いで4索切りの方が後々の安全性は高い」
安永 「または發を対子落としして様子見する打ち手もいるだろうな」
安永 「このいずれもが回し打ちに当て嵌まる訳だ」
マホ 「皆さん色々考えてるんですねー」
安永 「……さて、じゃあ放銃せず追い付いたとしよう」 チャッ…
三三四五五六九九345發發 四
安永 「相手の河はこうだ」
西南中9p8p三
一46(リーチ)九北
京太郎 「六萬切りでリーチっすかね」
佳織 「私も六萬切りです。折角の一盃口だし……」
マホ 「マホも六萬切りです!」
安永 「……そうだな。いわゆる中筋だし通る確率が高い」
安永 「慎重な打ち手は三萬切るだろし、ここはどちらでも良いと思う」
安永 「それに、役有りだし現物待ちでダマにする奴もいれば即リーする奴もいる。点棒や他家の状況によりけりだろうな」
京太郎 「そんな色々考えてたら頭がパンクしちまうぜ……」
――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
安永 「―――さてと、じゃあ全員座ってくれ」
安永 「特に縛りはなしだ。セオリー通り打とうが引っ掛けようが構わない」
安永 「だがリーチを受ける側は今日話した事を参考に出来るだけ回し打ちを意識してくれ」
3人 「「「はいっ!!」」」
安永 「……久、お前さんも打つか?」
久 「んー……遠慮しとくわ」
ガラガラガラ…
東 ・・・ 須賀京太郎
南 ・・・ 妹尾佳織
西 ・・・ 夢乃マホ
北 ・・・ 安永萬
東一局、ドラは3p。
京太郎(親番だ! ここはドカーンとアガって良いとこ見せてやるぜ!)
1p6p一五九九389東南白發 4p
京太郎 「」
久(あっちゃあ~、相変わらずツイてないわねぇ須賀くん)
十巡目
安永 「リーチだ」
東東北北9p1
2西二七(リーチ)
久(どれどれ……)チラッ
安永 「……」
一一四五1p2p3p7p8p9p345
久(東・北残してチャンタにも三色にも受けられたのにあえてこの形……)
久(3人の為に典型的な間四間を無理矢理作ったのね?)フフッ
久 「優しいわねぇ安さん。ホントに先生に向いてるんじゃない?」
安永 「……柄じゃねぇな」
次巡……
マホ 「……揃いました! カン!」 ゴッ
■中中■
マホ 「嶺上……」 スッ
安永 「……!」 ザワッ
マホ 「ツモれませんでした……」 コトッ
三
萬
安永 「…………ロン、だ」
一一四五1p2p3p7p8p9p345
安永 「これは典型的な間四間だ。三-六萬は危険牌の第1候補だぞ……」
安永 「それにリーチ相手に字牌の槓は賢明とは言えないな」
マホ 「は、はい! 気を付けますっ!」
―――――――――――――――――――――――――――
安永 「……」 タンッ
86九4赤五4
八七314北南
四8p
久(……すっごいのが育ってそうね)
安永(まぁ、リーチしてもいいンだがな)
1p1p2p3p3p6p6p7p7p8p8p9p9p
安永(ここはあえてダマでいく。終盤に相手の河をしっかり見てるかどうかを確認してぇしな)
佳織(安永プロは筒子を全然切ってない……)
京太郎(染め手作ってるんだな!)
マホ(筒子は切れないですね!)
チャッ…
京太郎(よーし。教わった通り……)
3p赤5p7p一一二二四六七八九九 6p
――打、九萬
久(今までの須賀くんだったら筒子の面子が出来たーとか言って3pを切ってたかもね)フフッ
佳織 「……あ、そ、それ! あたりです!」
京太郎 「へっ」
安永(……ほう? 躱されたか)
パタッ…
發發發白白白中中中六七八九
佳織 「えーっと、役牌が3つと……混一でしょうか?」
京太郎 「」
安永 「」
久 「 Oh… 」
――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
安永 「……さて、これで一通り教え尽くしたがどうだった?」
京太郎 「回し打ちも捨牌読みも奥が深いっすね!」
佳織 「楽しかったです」
マホ 「マホ、強くなった気がします!」
安永 「その心意気は大切だが今日教えたのは基本中の基本だ。油断は禁物だぞ」
安永 「世の中にはセオリー外の捨牌でセオリー外の手をアガってくる奴もいる」
安永 「……須賀くんの所の部長さんなんかはそっち側に含まれるな」 チラッ
久 「……」 ニッコリ
京太郎(笑顔がこわい……)
安永 「だがそんな奴らと打つのもやはり勉強になる。色々な捨牌パターンを見りゃ回し打ちの引き出しも増えるしな」
京太郎 「なるほどなぁ。染谷先輩が言ってるのってそういうアレなのか―――」
…カランカラーン…
安永(!)
久(……あっ)
安永 「……」
安永 「……ちなみに今来たアイツもそっち側だ」 ボソッ
傀 「 ……打てますか? 」 ニヤリ
最終更新:2016年06月29日 09:48