東葉高速鉄道の運賃は高く、お子さまが東葉高速で通学しているところにとっては家計を圧迫する悩みの種になっているかと思います。今回の市長選では候補予定者はいずれも東葉高速鉄道の運賃値下げを求めています。それがどのくらいできそうなのか、財政状態などから考えてみます。

1.東葉高速鉄道の財政状態と他社を比較してみましょう。

東葉高速鉄道(以下東葉高速と略します)は財務諸表を作成して公示しています。

現在入手可能な平成22年度以降のものを用います。東葉高速鉄道のサイトから入手しました。

www.toyokosoku.co.jp/info/financial-affairs.html

ただ問題点は東葉高速鉄道の財務諸表を眺めていてもわかりにくいです。そこで最近開業した路線2社とも比較してみました。ひとつは自治体などの手厚い補助があるといわれている首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)。以下「つくばエクスプレス」と略させていただきます。もうひとつは東葉高速と同じ年に営業開始した東京臨海高速鉄道(りんかい線)。以下「りんかい線」と略させていただきます。

いずれも公表されている財務諸表で2期分比較しました。

 

単位:百万円

東葉高速

 つくばエクスプレス

 りんかい線

  H23.3.31 H24.3.31  H23.3.31 H24.3.31  H23..3.31

H24.3.31

鉄道事業営業収益 15,065 14,906  35,398  36,074  16,216  16,086
営業利益 4,643 4,471  2,966  2,695  1,338  1,998
支払利息 4,365 4,027  1,410  1,345  ※1 ※1
経常利益 169 311  2,629  2,183  ▲1,650  ▲607
             
短期借入金(※2) 1,050 1,100  5,609  8,214  3,498  3,498
短期未払金(※2) 7,142 6,340  22,433  21,454  7,375  7,578
長期借入金(※2) 4,620 3,520  307,782  299,568  21,974  18,475
長期未払金(※2) 297,770 291,757  697,358  677,596  175,119  167,471

債務平均残高

(H23年度分の上記合計+H24年度分の上記合計)/2

 - 306,649  -  1,020,008  -  202,489
             

営業利益率

(営業利益÷鉄道事業営業収益×100)

30.821% 30.000%  8.380%  7.472%  8.251%  12.421%

経常利益率

(経常利益÷鉄道事業営業収益×100)

1.120% 2.089%  7.428%  6.052%  -  -

支払利息利率

(H24年度分の支払利息÷債務平均残高×100)

 - 1.313% -  0.132%  -  1.373%(※1)
             
 年間輸送人数  - 47,917千人  - 104,889千人  -  非公表

 一人あたり鉄道事業営業収益(鉄道事業営業収益÷年間輸送人数)

 - 311.08円  - 343.92円  -  -
 従業員数(※3)  -  298人  -  650人  -  非公表

 ※1 支払利息のみで表示されていないため、支払利息利率は営業外費用で計算しました。H24.3.31の営業外費用は2,780百万円

※2 鉄道事業以外のものも含まれていると思いますが、東葉高速鉄道の財務諸表には注記情報で当該情報の記載がありません。そこで公平に比較するため短期未払金、短期借入金、長期未払金、長期借入金として表示されている金額を使用しました。なお未払金を含めたのは割賦購入(分割購入)などで所有権が留保されており、借入金同様今後の運賃収入等で返済していく性質と考えられるためです。

※3 東葉高速鉄道は平成24年4月1日現在、首都圏新都市鉄道は平成24年3月31日現在のものです。

 2.金利が0.1%あがったら利益がほとんど無くなります。

東葉高速ですが営業利益は計上しております。しかも営業利益率でみると非常に高いです。しかしながら経常利益率で比較するとつくばエクスプレスに相当劣ります。この原因は支払利息額によると言えます。東葉高速が40億円超に対し、つくばエクスプレスは約14.5億円という点にあります。なおりんかい線は公表していませんが、営業外費用として約28億円を計上していますので、おそらくはこの大半が支払利息だと思われます。

一方支払利息のもととなる元本はどうでしょうか。債務額(未払金と借入金の合計額)ですと平成24年度末時点で東葉高速3,027億円に対し、つくばエクスプレスは1兆68億円と雲泥の差があります。東葉高速と同時期に開業したりんかい線は1,970億円です。つくばエクスプレスのほうが債務額で東葉高速の3倍超あるにも関わらず、支払利息は東葉高速の約3分の1です。

これを如実に表しているのが支払利息率です。

東葉高速は1.313%に対してつくばエクスプレスは0.132%です。

この1.313%ですが、平成24年3月末時点での長期プライムレートである1.35%にかなり近い数値です。東葉高速のホームページを見る限り利子補給や減免などもされているようですが、それでも銀行などに対して相当額の利息支払額があることが推察されます。

この低金利はいつまでも続くものでしょうか?少なくとも10年単位で考えれば金利上昇する可能性は考慮すべきです。すでに千葉県議会議員の水野氏のブログでも触れられている通り、1%上がれば30億円の利息費用増加となるとも言われているのです。

www.fmizuno.jp/blog/1673

なお上記の計算だと金利が0.1%上がっても3億円の利息費用増加で今期の経常利益の大半が消えますよね。わずかな金利上昇にも耐えられないのが東葉高速の現状と言えます。

3.初乗り30円下げると輸送人数1日当たり30,000人以上増加させないと収益減!

ではもっと収益を稼ぐために乗る人を増やすためにあえて運賃を引き下げるという手もあるかもしれません。単純ではありますが、初乗り運賃を30円引き下げることを仮定しましょう。

現在八千代緑が丘から西船橋まで片道490円、往復で980円です。定期ですが1か月あたりの通勤定期20,560円で通学定期だと13,220円です。だいたい通勤定期で21日分、通学定期で13.5日分です。そうなると片道460円、往復920円で定期代は通勤で19320円、通学で12,420円となります。定期だと1か月あたり通勤で1240円、通学で800円の値下げが考えられます。家計にはちょっとうれしいと思います。

ではこの引き下げが東葉高速鉄道の収益にどのように影響を及ぼすのでしょうか。初乗りですので単純に今乗っている人から稼いでいる営業収益から30円×2=60円を引いてみましょう。営業費用は変わらないと仮定します。1人当たりの鉄道事業営業収益を出してみると東葉高速で311.08円、つくばエクスプレスでも343.92円です。

単純に上記の1人あたりの鉄道事業営業収益から60円引いて年間輸送人員がそのままだと、鉄道事業営業収益は2,841百万円減少した12,065百万円となると仮定できます。これだとの利益が吹き飛びますよね。

むろん値下げした分、乗車してくれる人が増えてくれれば収益が増加します。仮に上記値下げ幅ですと現状の年間輸送人数47.917千人から59,368千人に増加となれば現状の収益が確保できます。1日あたりの輸送人数に換算すると162,650人となり、現在の1日あたりの輸送人数(132,000人)と比較すると30,650人の増加です。

さて、この人数を仮に輸送するのはどのようにすればよいでしょうか。電車の増発によって現状の混雑程度を替えないとした場合を計算しましょう。増発すれば当然営業費用は増えますが、ここでは輸送力だけに着目するため、営業費用の増加は無視します。

現在走っている東葉高速の車両(2000系…橙色の車両です)で、1編成(10両)で定員1,518名(座席504名、立席1,014人)です(WikiPediaより)。仮に30,000人以上の増加ですと朝夕あわせて20編成以上増加しないと今以上に混雑する計算です・・・。

これらを考えると一律的な値下げというのは現状では全く現実味がないと思います。

4.八千代市は東葉高速への援助ではなく市民への助成に注力しては?

運賃負担の減少という点では通学定期の助成を八千代市が実施することでしょうか。あとパークアンドライドや自転車置き場の整備、バス路線の拡充などで東葉高速鉄道を積極的に使うような街づくりでしょうか。

あと営業収益拡大への協力という点では東葉高速の駅前に商業だけでなく行政機能を集約させるというのはどうでしょうかね。

 

最終更新:2013年05月22日 23:39