菊田重工のプラント、と言っても、こんなものとは思わなかった。
(まあ、そりゃあそうか)
 売れなかったからか、人員的な問題なのかそこは寂れて誰も居そうにはなかった。
(菊田重工のプラントなんて、聞いたこと無かったしな)
「……」
 ここがどこか問おうとしたが、ノイジー今、巨大なヘッドホンからでも聞こえてくるような爆音で音楽聴いていることに気がつき、やめた。
 どこかで、聞いたことあるな。と思って、思い出した。昔、白黒のテレビで流れていたあれだ。
 リ・ビット「ドリームドリーマー」
 その曲名が出てくるのには時間がかかった。何も言わず、そのプラント内に入っていくノイジーを追いかけ、今、やっと追いついた所だった。
「……」
 沈黙の間を、ディストーションギターが右往左往駆けめぐる。
 目の前に現れたのは、巨大な色あせた銀色をしたハンガーが現れた。そこには、一機のアームヘッドがセットしてあり、その下に作業服を着た誰かが、横たわって何かをしていた。
 彼はノイジー達に気がつき、駆け寄った。
「君、来たんだね。」
 と彼が言うと、ノイジーはまるですべて分かっているかのように頷き、彼に言われるがまま何かを話し込んでいるようだった。こちらの方に、視線が来ることはない。それを疎外感を含んだ瞳で、久世は見つめていた
「……」
(それにしても、凄い機体だ)
 心からそう思う。
 アームヘッドの美しさとか、そういうのはよく分からないけれども、凄い、それだけは分かった。
 百戦錬磨と言いたげな、黒く、艶のある装甲の上にも細かな傷が入り、光を受けるごとに、それは目立って見える。
 肩に背負っている巨大なブレードは、アームヘッドの仰々しさを物語っているようだった
「どうだい? きみ」
 と、作業服の男が叫んだ。灰色の蓄えられた髭が目立つ。
「……そうか。完璧、か……このほかに、何か、追加して欲しいものはないかい?」
 ノイジーが、アームヘッド用のはしごから下りてくる。最後は二、三段跳び抜かして床に着地した。
「最近まで稼働していた工場だからね。レーザーサーベルが六、七本あるけど、格闘用にマウントしておくかい?」
 男がそういうと、ノイジーは口を動かさないが、会話は成立しているように思えた。
 事実、成り立っていた。
「え……? それは、凄いね。あと、遠距離用の……? わかった。動作が少なくてすむように、手首部と……うん、わかったよ。じゃあ、また二週間はかかると思う。何せ、つける量が量だからね。……うん、それじゃあ」
 ノイジーは何も言わず、そのハンガーから出ようとする。久世は、それを追いかけた。
最終更新:2009年01月30日 22:05