「戻せない!? どういうことだ、ガイスト!! なに? 戻れなくて困ってるハンターもいるのに、差別はいかん? 冗談じゃない!! わしはボス――おい、ガイスト? もしもーし!!?」
薄暗いハンター基地内部にある、ボスの部屋。
受話器に耳を押しつけ、体操服姿の幼女が怒鳴っている。里華被害に遇ったボスの、なれの果て。
「まったく……わしはこんな姿になるわ、78号が出動するわ、今日は厄日だな……」
黒塗りの机に手をつき、ボスは大きく溜息を吐く。肩まであるツインテールが揺れ、部下Aの心をくすぐる。
――って、私はなにを興奮してるんだ!? よりにもよって、ボス相手に。
部下Aは、慌てて妄想をかき消そうとする。しかし、桃色の霞は、ぺたぺたとまとわりついてくる。
今のボスは、本当に魅力的だ。
しっとりと艶やかな黒髪。虹彩を放つ澄んだ瞳。ブルマから伸びた脚は雪像のように白く、すぐ折れてしまいそう。
一見すると幼い少女だが、椅子の上で足を組んでいる態度は紛れもなくボスのもの。そのギャップが、また――
「――おい、なにをジロジロと見つめている?」
ハッと我に返る部下A。顔を上げると、ボスがいぶかしそうに自分を見ている。
部下Aは、急いで話題を変える。
「そ……その、命令に背き、本当に申し訳ありませんでした。ですが、やつも大分落ち着いてきましたし、大丈夫かと」
ボスは、しばらく間を置き、口を開く。
「……――今日が何の日か、覚えているか?」
ハッとする部下A。ボスは、言葉を続ける。
「札流し祭の日だ」
沈黙が、部屋を満たす。部下Aもボスも、まばたき一つしない。まるで、時が止まったかのよう。
しかし、無情にも時は流れていく。窓の外では、ゆるゆると、ゆきむしが漂っている。
――さぁ、いつまでもここに留まってはいられない。我々も、先へ先へと進まなければ。
振られた賽の目がいくつか、確かめるために。
最終更新:2007年05月28日 22:49