「磨智!! お前はヘルフェニックスを狙え!! 離れた場所にいる敵なら、射撃型のシアックの方が戦いやすいだろ!!」
「わかったっス師匠! ――シアック、『スナイプライフル』ッ!!」
「OK相棒!」
群青のボディーと頭頂部に閃くイナヅママークを持つ磨智の相棒――犬型メダロット「シアック」は手の甲からまっすぐ伸びた銃口を斜め60度へ向け、
「アディオス――焼き鳥野郎ッ!!」
弾丸を放つ。空へ。目標はヘルフェニックス。硝煙、空気、照りつける太陽光を突き抜けて飛ぶ。軌跡は一直線。しかし、ヘルフェニックスは大気を滑るように滑空。弾丸をひらりとかわす。
「SHITッ!!」
二発。三発。間髪いれず弾丸を放つシアック。いずれも紙一重に、しかし余裕で避けられる。あざ笑っているよう。
これほど素早い相手とは、今だかつて出会ったこと無い。他は劣っていても唯一自身のあった命中率が、まさか頼りにならないとは。
「シアック、落ち着いてしっかり狙え!!」
そんなことはさっきからやっている。シアックは内心舌打ちする。
「わかってらい!! この雌雄同体セーラーナメクジ野郎ッ!! テメェなんて進路希望調査の第一希望に『ゲイバー』とでも書きやがれッ!!!」
「ちょっ、こんな時に反抗期!? 僕、好きでこんな格好してるんじゃないよっ!! ていうか、攻撃が当たらないからってイライラしてたらダメだって!!!」
「オイラはそんな八つ当たりみてーなことしねーッ! あれだ、カルシウム不足ジャン」
「とらないだろお前ッ!!!」
磨智にツッコミを受けながら、シアックは四発目の弾丸を放つ。が、やはり当たらない。難なくかわされる。まさにその時だった。突如ヘルフェニックスは旋回。シアック目掛けて急降下する。同時に開け放たれるクチバシ。ヘルフェニックスの姿が陽炎で歪む。途端、火球が放たれる。一斉に飛び出し、シアックへ隕石のように降り注ぐ。
「オイオイ……獅子座流星群なんて時期はずれなネタじゃない?」
「ふざけてる場合じゃないよシアック!! 両腕の銃を自分の真上に向かって一斉射撃ッ!!!」
「ヒューッ! オイラそーいう大盤振る舞い大好きジャン!」
シアックは両腕を垂直に宙へ伸ばす。一斉掃射。無数の弾が空を裂き、炎を砕く。まるでシアックの真上を覆う防御壁。炎は風に散る桜のように弾け散る。砕け、塵のようになった炎は外気に溶けていく。脅威は去った。あとはヘルフェニックスの憎たらしい顔面にありったけの弾丸をぶち込むだけ。
が、ヘルフェニックスが見当たらない。
シアックは辺りを見回す。確か、ヘルフェニックスは自分に衝突するギリギリまで迫っていたはず。どこだ? 一体、どこに消えた? その時、
「志村ッ!! ……じゃなくてシアック!! 後ろだッ!!!」
喉の奥から搾り出された悲鳴に近い磨智の声が響く。
後ろ? そこはさっき見た――
何気なく振り向くシアック。その視界に飛び込んできたのは、
――――紅い疾風。
いや、シアックに猛スピードで突進してくるヘルフェニックス。
「――――ッ?!!」
金属同士がぶつかりあう鈍い音が周囲に響く。重い衝撃は痺れとなり、体の奥底に宿るメダルまで震わす。
「…………ぐぅ……っ」
高熱を帯びたクチバシによる一撃。なんとか左腕で防いだが、今更のように鈍痛が全身へと広がっていく。
攻撃後、ヘルフェニックスは地面スレスレを飛行。ブースターを全開にし、一気に上空へ駆け上る。
「シアック!!!」
「大丈夫…………とカッコつけて答えたい今日この頃ジャン……」
シアックは腕を押さえながら、磨智の声に応じる。左腕のダメージは78パーセント。半分以上持っていかれた。相手は、素早い上に中々攻撃力がある。
よく見ると、鋭利な刃物でえぐられたかのような深い傷が左腕に出来ている。しかも、チーズフォンデュのようにドロドロだ。もしかして、動作部分にも異常があるかもしれない。試しにトリガーをひいてみる。カチッと音がするだけで弾が出ない。
「うはぁ……ちょっちヤバイジャン……」
口調こそおどけているが、シアックの心根には余裕の二文字が無い。こんな攻撃、マトモに食らえばティンペット……いや、下手すればメダルまでイカれるかもしれない。
「こりゃあ……本気でいかんとマズイかも……」
銃を構え、再び戦闘体制に入るシアック。その後ろで、摩智はすまなそうに唇を噛む。
「…………ごめん……、僕がもっとしっかりしてれば……」
「オイオイ、気に病むなよ相棒。あんたのせいじゃないって」
シアックは臨戦態勢を解かぬまま、磨智を慰める。事実、攻撃を受けたのは磨智のせいじゃない。あの時、無数の火の粉によって覆われた視界は、薄霧がかかっていたようなもの。自分達と違い、相手は戦い慣れている。攻撃に気づかず、対処が遅れても仕方が無い。
「まぁ、どうしてもお詫びしたいってなら『よくできましたオイルコーラ味』で手を打つけど。――それより、そろそろ次の攻撃が来るっぽいゼ。敵の戦法がわかったからには、しっかり指示を頼むジャン?」
熱によりひしゃげた左腕の親指をビッと立て、シアックはエールを送る。それに元気付けられたかのように、摩智は力強くうなずく。
「う……うんっ!!」
磨智はメダロッチを構える。先程の失敗を引きずっている様子は無い。立ち直りが早く前向きなところが、自分の相棒たる磨智のいいところ。
――そうだ、それでいい。
――それでいいんだ磨智。
――心は熱いビートを刻むヘヴィメタルのように。
――頭脳はクールに冴え渡るアンビエントのようにダゼ。
シアックは心の中でソッと呟き、空中のヘルフェニックスへ砲門を向ける。
――さぁ、ここからが本番だ。
空中で、炎と弾丸が再び交差した。
最終更新:2007年11月10日 08:36