最終話 夜明けの結末・後編

バクスは正彦の腕を肩にかけてゆっくりと歩いてきて屋敷から出てきた。正彦はデーモンとの戦闘で右足に少し怪我を負ったからだ。
だが、バクスと正彦が外に出ると正彦はバクスから離れ、走り出した。正彦がある光景を見たからだ。
ゲッシュの死体、狂戦士の血が固まっている刀、そして、ラックが持ってきていた剣。正彦はすぐさまゲッシュの死体に向かって走り出し、バクスはラックの姿が見えないとわかると顔中に驚愕の色に変わってラックの剣がある場所まで走り、ラックの姿を必死で見つけようとする。
そして、バクスは崖の近くにやってきて、地面にラックの服の敗れ着を見つけた。

バクス「・・・・兄貴・・・まさか・・」
ラック「おい、人の心配してたら、その本人を早く救出しようと思わないかい?バクス君?」

バクスがその声を聞いて驚愕の顔のまま崖を見ると、崖の岩を両手で必死に掴んでいるラックがいた。

バクス「・・・・兄貴・・。よかった、よかった・・」
ラック「ゴメン、泣く前に助けて。もう腕の感覚ないわ・・」



それから数時間後、もう日が地平線から少し出かけている。もう夜明けが近い。
ラック、バクス、正彦は屋敷から遠くない場所で座っていた。3人の近くにごつごつした石がそびえ立っていた。その石には文字が彫られていた。

『ゲッシュ・アンダー』

そう、彼らはゲッシュの墓を作っていたのだ。見かけは立派ではないがこれが3人が精一杯の努力だった。

正彦「ゲッシュには申し訳ないが、今この国じゃろくな墓も作れないし、火葬をしたくても、失礼な言い方だが後始末が大変で・・・我慢してくれな」
バクス「でも・・これで一件落着だ」
ラック「ゲッシュは最後の最後で英雄になったんだな」

3人は再び屋敷近くにやってきた。そして、互いの戦闘について話し出した。最初にラックと狂戦士の戦闘、次にバクスと正彦のデーモンの戦い、そして、「デット・クロス」の完全に破壊されたことを話した。

ラック「完全に破壊されってことは、もう狂戦士は現れないだろ」
正彦「生きていたらそれはそれで厄介だな」
バクス「夜明けが近いな・・」

バクスがそうつぶやくと、日がだんだんと差してきて黒き夜が少しずつなくなっていく。後数十分もしたら夜明けになるだろう。
夜明け前の光景を見て、ラックとバクスが立ち上がった。

正彦「何処行くんだ?」
ラック「ミルに弁当箱返しに」
バクス「ハンターは・・人が何事もなく人生を過ごすために悪魔を狩る。名誉と利とは無縁・・だ」
正彦「もし・・世界がお前らの存在を知ってたら、間違いなく英雄だよ」

それを聞くと、ラックとバクスがくすくすと笑い出した。

ラック「悪いな。『24』を楽しみに人生生きてる英雄なんて俺は知らないな」
バクス「同感。女とろくに付き合ったことがない英雄も自分は知らない。そして、今から幼馴染のお気に入りの弁当箱を返しにいく英雄も知らない」
正彦「そうか・・。俺らみたいな形だけの正義の奴らよりもお前らのほうがよっぽど正義をかかげているよ」
ラック&バクス「そりゃどうも」

そういうと、ラックとバクスが自分たちが乗ってきた車のほうへ歩いていった。


しばらくして、正彦も立ち上がった。正彦の耳にはラックとバクスが乗っていた車が走り去った音が聞こえた。
正彦は最後にゲッシュの墓を見ると、歩き出した。彼はラベスタの墓参りに行こうとした。

ドシュッ!!

正彦が音がした場所を見た。正彦の腹に刀が貫いていた。貫かれた傷口から血がドクドクととどまることを知らないように流れてくる。
正彦は最悪の想像をした。そして、後ろを振り返った。
右足は砂となって消えかかっており、右手は完全に砂となり消えていた。顔半分は砂となっているが、砂となっていない顔半分には憎たらしく歯をむき出しにしている顔が見えた。

正彦「・・しつ・・こい・・よ・・お前・・」

狂戦士が乱暴に刀を抜き、口から血を出した後、眼をとじ正彦は倒れた。
狂戦士は正彦の死体を見ると、正彦に喰らいつこうとして顔を正彦の体に近づける。
だが、狂戦士の両足が完全に砂をなった。狂戦士は空中を浮いたような状態になった。
狂戦士は右、左を見た後、自分の最後だとわかり、高笑いをし出した。
その声はフランス中にも聞こえるほど大きな高笑いだった。もし、ラックとバクスが乗っている車で音楽を聴いていなかったらこの狂った笑いが聞こえただろう。だが、彼らは正彦の死も、狂戦士の高笑いも知らずに進んでいく。
高笑いによって大地が揺れ、日が昇るいつもの光景も変わりそうな錯覚を呼び覚まされそうな声だった。
だが、その声も完全に聞こえなくなった。
フランスの海岸沿いに夜明けが訪れた。
屋敷の近くのここに雑な墓と1人の男性の死体、そして狂戦士の残骸である積もった白い砂があった・・・・


完結


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最終更新:2007年12月31日 17:37