島民達は、漁業で日々の生活を営んでいる。
その夜も一隻の漁船が漁から帰ろうとしていた。
黒々と波打ち、月の光を静かに反射する海。
波面は穏やかで、一定のリズムを刻んでいる。
船内はまるで揺り篭のようで、船員の1人である「大田喜助」は心地よさげの顔をしていた。
その節くれのある手には、1枚の写真が握られている。
「なんだい、奥さんかい?」
横から聞こえた仲間の船員の声に、照れくさそうにそちらを向く喜助。
「ああ、もうすぐ子どもが生まれるんだ。俺も、がんばって働かないと……」
実直そうな目を細め、喜助は顔を上げる。
空には硝子を散りばめたような満天の星空。
その時、突如それを切り裂くかのように、目の前を横切る2つの光。
思わず喜助は目を開く。
それは、紅と蒼の球体だった。
硝子玉のようなそれは発光しながら、空中で静止する。
何かの見間違い。
そう思い、しきりに目を擦る喜助。
だが、何度目を開けても2つの光は消えない。
夢?
いや、この感覚は現実のもの。
頭に考えを巡らせているうちに、何度も空中でぶつかり合う2つの球体。
そのような非現実的光景に、喜助は呆然とする。
「おい、早く逃げようぜ!! 本土の地球防衛軍に連絡だ!!」
仲間の声により、我に返る喜助。
そのたくましい腕で、急ぎ、舵をとろうとする。
その時だった。
今まで静かだった海面が、次第に激しく波打ち始める。
途端、まるで雷のように水面が発光した。
次の瞬間、そこから放たれる青白い熱線。
熱線は光の速さで、正確に紅い球体を狙い撃ちする。
バチバチと激しく火花を散らす紅い球体。
それはよろめきながら、熱線の放たれた方向にふわりと向かっていく。
その隙に逃げ出す蒼い球体。
「早く!! 早くするんだ!!」
恐怖に駆られ、狂ったように叫ぶ船員。
喜助の日焼けした顔にも焦りの色が見えてくる。
早くこの場を去ろう。
そして、愛する妻に迎えてもらうんだ。
今の彼の頭には、それしかなかった。
その時、再び発光する海面。
それは船の真下。
次の瞬間、漁船は轟音や水しぶきと共に、木っ端微塵に吹き飛んだ……。


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最終更新:2007年03月13日 19:14