時は近未来。
国連は、巷で相次ぐテロリストに対抗するため、「地球防衛軍」を創設した。
そんな時、事件は起きた。
異星人「アクエリアン」が人類に宣戦布告をしたのだ。
多様な巨大生物や兵器を武器として使用するアクエリアンに対して、
人類は多機能艦「轟天号」でこれを撃退した。
それ以来地球防衛軍は、異星人や巨大生物の脅威に備え、様々な兵器を実験投入するようになった。

それから数年が経つ。
緑色の戦闘服に身を包んだ5人の隊員が、地球防衛軍日本支部総司令室に集まめられた。
部屋の中央には、髪に白いものがいささか混じった50代くらいの強面の男が大きな椅子に腰掛けている。
深く顔に刻まれたしわ、がっしりした体つき、射るような眼光。
そのいずれもが彼の百戦錬磨の戦歴を表している。
日本支部総司令「上村研輔」だ。
その前に、横一列に整列する隊員達。
上村はその重々しい口を開いた。
「全員揃ったようだな……」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、上村は話を始める。
「お前たちを呼んだのは他でもない、人事異動についてだ。
例のアクエリアン襲撃事件から、地球防衛軍は巨大生物対策にも力を注ぎ始めている。
しかし、テロリストだけでも本部は一杯一杯だ。
そこで他国にならい、新たに巨大生物対策専門の部隊を作ることが会議で決定した。
お前たちにはその特殊部隊『特務隊』に異動してもらう。
これからはは陸海空の称号の変わりに『特』を使ってもらう。
つまり、特尉、特佐、特将という具合だ。」
「ちょちょちょ! 待つでぃす!」
いきなり異を唱える、らっきょ頭に眼鏡をかけた神経質そうな20代の隊員。
ひょろひょろとした体つきは見るからに頼りなさそう。
地球防衛軍二等空尉の「千葉格ノ進」だ。
「アクエリアンの事件以来、日本に怪獣が出たという記録はなかったはずでぃす。
もしかしたら巨大生物はこれから一生出ないかもしれないでぃす。
それなのに、わざわざ巨大生物対策の特殊部隊を作るということはなんか裏があるんじゃないでぃすか?」
千葉の言葉を聞いて、頷く上村。
「その通りだ。お前たちに早速初仕事ができた。
実は、大戸島の付近で船舶が破壊される事件が度々報告されている。
話によると、その事故で生き残った船員がこう呟いていたらしい。『ゴジラ』……」
「ゴジラ……?」
聞きなれない言葉を反復する、黒髪で目つきの悪い30代男。
その射るような視線が刃物のような光を帯びている。
三等海佐の「瀬戸内将太」である。
説明を続ける上村。
「ゴジラとは、大戸島に出没すると言われている伝説の魔物『呉爾羅』のことだ。
犯人がこの魔物なのかどうかは知らんが、破壊された船の状況からして、巨大生物の可能性が高い。
早速、事件の起きる時間帯である夜に新轟天号で大戸島に向かってくれ。何か質問はあるか?」
すかさず挙手して口を開く、20代くらいの女性。
背中まであるふわりとした艶やかな黒髪と琥珀色のパッチリした瞳。
人懐っこそうな表情は、一見するとどこにでもいるOLのよう。
一等海尉の「窪田澪」である。
「上村総司令、轟天号ということは、現場の指揮は神宮寺三等海将ですか?」
「いや、彼は別件で忙しい。よって、『特務隊』の隊長は薩摩、君に頼むことになった」
上村の声とともに、前に進み出る黒髪の30代男。
知的な雰囲気を持ち、その涼しげな目元はエリートとしての気品をうかがわせる。
「『薩摩竜一郎』一等陸佐、改め、三等特将。本日付けで特務部隊指揮官に就任してもらう。よろしく頼む」
「おお! よろしく頼むぜ、薩摩隊長!!」
そう言って、ごつい手で握手を求める長身の20代男。
筋肉質のがっちりした体つきで、これまで穢れたものを見たことがないみたいに純真な目。
硬そうな黒髪を紅いバンダナでまとめている。
三頭空尉の「篠田シデン」である。
敬語を使わないことが気になったが、初日なのでなにも言わずに握手を返す薩摩。
その時だった。
大地が激しく揺れ、窓硝子がガタガタと激しく振動する。
「じ、じ、地震でぃすっっ!!」
「キャッ!!」
振動はこの部屋の人間を無差別に襲う。
地震が止んだ時、床には机の上の書類やらペンやらが散乱していた。
「……おい、いつまで抱きついているんだ?」
軍人とは思えない華奢な体を震わせ、胸の中にいる窪田に対し、冷たい視線を向ける瀬戸内。
途端に窪田は顔を桃色に染め、慌ててそこから離れる。
その顔を不思議そうにじろじろとみる篠田。
「あれ、なんで紅くなってるんだ?」
「な、な、なんでもありませんよ!!」
わたわたとし、窪田はそっぽを向く。
その小学生のようなやり取りに、薩摩は苦笑を禁じえなかった。
「そういえば、最近地震が多いでぃすよねぇ。こりゃあ東京大地震の前触れかも……」
眼鏡をずりあげながら、机の下から顔を出す千葉。
上村は薩摩の肩を叩いた。
「薩摩、こいつらは確かに使える。しかし、どいつもこいつも癖のあるヤツばかりだ。これ、こいつらの資料ね」
薩摩に紙束を渡す上村。
「あー、そんなこと言うんですかぁ!」
「まったく、失礼にもほどがあるでぃす!」
頬を膨らませて抗議する隊員たちを見て、大きく溜息をつく薩摩。
なるほど、確かに一癖あるかもな……。
そんな薩摩を、瀬戸内は眉間にしわを寄せながら見つめていたことに誰も気づかなかった……。

この日の昼休み、薩摩は資料を読みながら食事を取っていた。
「なになに…。副隊長の『瀬戸内将太』三等特佐は冷静沈着だが、反骨精神が強く度々上司と問題を起こす。
『窪田澪』一等特尉は頭はいいが、瀬戸内とのトラブルが多い上天然。
『篠田シデン』三等特尉は正義感が誰よりも強く、武器の扱いにはセンスが感じられるが、猪突猛進で周りが見えなくなる。
『千葉格ノ進』二等特尉は様々なものを発明する発明家でもあるが、臆病でおちゃらけたところがある。
これは一癖どころの騒ぎではないな……」
正直、彼らをまとめられるかどうか不安がある。
これまでも、連隊長としてたくさんの隊員を導いてきたが、団長の命令があってこその話。
これからは完全に1人――現場の総指揮も全て自分に任せられる。
そのようなことを考えながら、薩摩は部屋から出た。
その時、1人の青年が大量のジュースを抱えながら、薩摩の横を通り過ぎようとしていた。
「おい」
薩摩に呼び止められ、振り返る青年。
青年は身長160数センチくらいの小柄な体で、肌は透けるように色素が薄い。
その中性的な顔立ちには緊張が走っている。
「お前1人が飲むには多すぎる量だな。誰かにパシられているんだろ?」
静かだが、厳しさのこもってた薩摩の声。
青年はまるで氷漬けになったかのように硬直したまま、黙りこくっている。
「そんな連中に負けているようなやつが、人々の平和を守れるわけないだろ」
再び前を向き、黙って去って行く青年。
敬語を使わないやつ、小学生のようなやつら、地震くらいで狼狽するやつ、おまけにいじめいじめられ……。
本気で日本の未来が心配になってくる。
再び大きく溜息をつき、薩摩はそのまま去っていった……。


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最終更新:2007年03月13日 19:16