地球防衛軍通信指令室。
ここでは関東地方の状況が逐一報告され、異変があれば部屋の中央にあるモニターに映し出される。
通信隊員が24時間体制で配備され、危機に対して柔軟な対応が出来る。
「はい、そうです」
「すみません、もう少し詳しく」
「もしもし? はい、わかりました」
インカムを耳につけ、キーボードをカタカタと打つ通信隊員達。
その中に、1人の青年の姿があった。
耳にかかるほどの髪と海のように深い瞳を持ち、まるで高校生にも手が届いてないような外見。
通信隊員の1人「天宮カスミ」である。
カスミは未だに薩摩の言葉を気にしている。
「パシられてるようじゃ市民は守れない」
確かに、普通の隊員ならそれもあてはまるだろう。
だが、自分は通信隊員だ。
前線に出るわけでもなく、後方で情報を送り続ける存在。
そんな自分にまで、あのような精神論を持ち出されてもたまらない。
「そうだ、これでいいんだ――誰に迷惑をかけているわけでもないし」
小さく呟くカスミ。
その時、カタカタと音を立てるコーヒーカップ。
中のホットミルクがゆらゆらと小さな波を作る。
地震?
そう思った途端、激しく振動する指令室。
辺りに物が散乱し、椅子から転げ落ちるカスミ。
頭に感じる鈍い衝撃。
ぼやけていく視界。
だんだんと遠くなっていく意識。
気絶しかけたその時、カスミの視界に紅い珠が入り込んだ……。
地球防衛軍日本支部だけではなく、東京中を襲う振動。
それは、今までのものとは比べ物にならないくらいの大きさ。
響き渡る轟音、振動により倒れる電柱、絶叫を上げて地面に倒れこむ人々。
硝子が割れ、頭から容赦なく降り注ぐ。
振動は次第に激しさを増していき、アスファルトに亀裂が入った。
亀裂は段々と広がり、大きな断層となる。
その中から、巨大なものが突きあがる。
同時に、舞い上がる土煙。
それはまるで、ケラのようなハサミ。
次に出てくるのは、ところてんのように透き通った触手。
それらは次第に隆起していき、地底から顔を出す60メートルもの体格を持つ二大怪獣。
一方は、うつぼのように長い顔と肩まで裂けた口、魚のような背びれ、
にごった目と鋭いハサミと持つ土色の地底怪獣。
まるで月の光に透けるような半透明の青白いドーム状の体、傘から透けて見える、横に連なった紅玉のような目、
先端に槍のようなものがついた触手を持つクラゲ。
地底怪獣は地の底から聞こえてくるような雄たけびを上げ、クラゲを睨みつける。
それに応えるように、鈴を転がすような奇声を上げるクラゲ。
その様子を、崩れかかったビルの上から見ている者がいた。
歳は20代後半、足まで覆うようなコートを着た長髪の男。
目つきは鋭く、不気味な光が翡翠の瞳に宿っている。
「くくく。暴れろデズリー、我が兄弟よ。人間どもに我らが神『パンドラの箱を統べる者』の力を見せつけるのだ」
男は不気味な笑みを浮かべ、コートを翻した……。
最終更新:2007年03月13日 19:18