カスミは白い光の中を彷徨っていた。
暖かく、全く邪気を感じさせない光。
まぶしすぎて、却って場違いだとさえ思わせられる。
もう、どれくらい歩いただろう。
限りがあるのか、前に進んでいるのか、それすらもわからない。
『君……』
突如頭上で声が響く。
男と女とも判別できない中性的で、この光のように暖かい声。
ビクッと体を震わせ、頭上を見るカスミ。
そこには、サッカーボール大の紅い珠が浮いていた。
フワリとカスミの目の前に舞い降りる珠。
自分でも不思議だ、なぜか恐怖心といった感情が起きない。
この不思議な空間に慣れてしまったせいだろうか。
『君は……篠田シデンという人物を知っているかい? ここで働いているらしいのだが』
「はい?」
聞いたこともない名前。
第一、ここにいる人間のほとんどをカスミは知らない。
『知らないか……彼の反応がなかったのでもしやとは思っていたが。
では、単刀直入に言おう。私は君と同化しようと思う』
同化?
一体何のことだろう。
『私は地球上では、3分間しか活動できない。
以前は普通に活動することができたのだが、とある強大な敵との戦いで力をほぼ使い切ってしまった。
だから、普段は他人の体の中で体力を回復しなければならないというわけだ。
本来なら、勇気と熱い心を持ち、平和を愛する篠田シデンのような青年と同化したかった』
誰からも好かれそうな性格だとカスミは思った。
後ろ向きで、気弱で、特撮観賞くらいしかできない自分とはえらい違い。
話を続ける紅い珠。
『だが、時間がない。デズリーがすぐそこまで迫ってきている。
君で良いから、力を回復するまで体を貸してくれないか? 今の状況を救うにはそうするしかない。
大丈夫だ、君は体を貸してくれるだけでいい。あとは私が戦おう』
もう少し、歯に衣着せぬ言い方が出来ないのだろうか?
思わず苦笑するカスミ。
「そんな重要なこと僕にできるわけないだろ? 他の人に頼んでくれない?」
カスミは冷たく言い放つ。
『なるほど……。君は人を守る仕事についているから、了承してくれると思っていたのだが…』
「人を守る仕事って、僕はただの通信係だよ」
そう、戦闘には参加せずに、後方で援護をするしかない役立たずな仕事。
まさに、自分にピッタリだ。
再びする紅い珠の声。
『これを見るんだ』
途端に歪む、白い光。
その中に、通信指令室の様子が映し出される。
熱心に通信を受け取り情報を伝える隊員達。
モニターには、基地のすぐ側にまで迫るデズリーが映し出されている。
思わず目を見開くカスミ。
なぜ、彼らは逃げないのだろう……?
このままでは、基地と一緒に死んでしまうというのに。
『通信隊員だって、大切な仕事の一つだ。
通信隊員がないということは、情報がないということだ。
情報がなければ、作戦を立てることも、部隊を送ることもできない。
彼らは誰よりもその仕事を理解し、誇りを持っているのだろう。
だから、逃げ出さないんだ』
まるで殴られたかのような衝撃を受けるカスミ。
思わず、昼間の薩摩の言葉を思い出す。
通信隊員だって、人を守る仕事であることには変わりなかったのだ。
なのに自分は、ただ逃げているだけだった……。
自分のいい加減な態度に嫌気が差すカスミ。
初めて自分の仕事の責任を思い知った。
自分は、ここにいるべき人間ではなかったのだ……。
だけど、今までの罪滅ぼしとして、役に立ちたい。
だから……。
「力を貸して!!」
心の底から叫ぶカスミ。
その目は、さっきまでの卑屈な目ではなく、覚悟の光が宿っていた。
『ありがとう…、人間の青年……』
光の球がそう言うと、カスミの手の上にキラキラとした白銀の光が舞い降りた。
光は次第に形を無し、白銀の十字架となる。
中心には、氷のように輝く碧玉が埋め込まれている。
『それは『セイントクロス』それを掲げれば、いつでも私の力を借りることができる。
さあ、私の名を叫ぶんだ……』
「わかった……セイント!!!」


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最終更新:2007年03月13日 19:21