鈴を鳴らすかのような奇声を発しながら、次第に日本基地に迫るデズリー。
炎をその体に映して突き進んでいく様子は、まるで幽界からの使者。
それをモニターで見ながら、ギリギリと歯軋りをする上村。
その節くれ立った拳に爪が食い込み、にじみ出ている血。
以前、アクエリアンとの戦いでも世界は滅びるかのような危機を迎えたことがある。
だが、あの時は轟天号の活躍で未遂に終わった。
しかし今、あの頃より軍備を強化した東京が滅びかかっている。
世界でもトップクラスの軍備力を誇るここが、たった一体の巨大生物のために。
「総司令、もうここは駄目です!! すぐに脱出しましょう!!」
背中に響く、若い女性通信隊員の声。
だが、上村は静かに言い放つ。
「お前達は、もう負けたと思っているのか?
基地はまだやられていない、兵器は残り少ないがまだある。」我々が逃げたら、そこでお終いだ……お終いなんだよ」
そう、逃げるわけにはいかない。
自分達は希望――日本という小さな国の最大の希望。
正直、勝てる気はしない。
だが、希望である自分達は最後まで戦わなければいけない。
希望よ、現実になれ。
上村がそう念じた時、夜空にまるで真昼のような光が満ちた。
目を剥き、モニターを凝視する上村。
空に広がる白銀の翼。
その光は東京中を徐々に、柔らかに包み込む。
途端に降り注ぐ雨。
キラキラと星のように光り輝く雨は、地獄の焔をあっという間に消し去った。
地上に舞い降りる銀の翼。
次第に形を成し、人型を形成する。
それは、体長50メートルほどの白銀の巨人。
戦闘機にある垂直尾翼のようなものがついた頭。
菩薩のような顔には、水晶のように透き通った卵型の目。
流線型の体に走る蒼いライン、胸に輝く金色の十字架。
額と十字架の中心には碧玉のような青いランプが灯っている。
「天使……」
思わず呟く上村。
巨人が敵か味方かはわからない。
だが上村は、それが希望の光であると直感的に感じていた。

デズリーに顔を向け、そのしなやかな足で大地を蹴る巨人「セイント」。
鈴の音のような奇声を上げ、槍状の触手をセイントに向けるデズリー。
セイントに迫る紅きミサイル。
セイントは空中で静止し、腕を前に突き出す。
次の瞬間、空から降り注ぐ雨がセイントを包み込む。
セイントを包んだ三角形の水の箱は、飛んでくるミサイルをそのまま受け流す。
そのままセイントを攻撃せずに、空で爆発を起こすミサイル。
デズリーは直接攻撃の方が効くと判断したらしく、その槍状の触手で一斉にセイントを貫こうとする。
今度は周りの水を両手に集中させ、水による刃を作るセイント。
槍を回避しながら、触手を切り裂いていく。
そのセイントに、突如襲い掛かる虹色の光線。
体を痙攣させ、地面に真っ逆さまに落下するセイント。
辺りに粉塵と瓦礫が舞う。
地面に手をかけ、セイントはよろめきながら起き上がる。
その時だった、胸の碧玉が紅く点滅を始めたのは。
それを見て、焦っている様子を見せるセイント。
中性的な掛け声を上げ、素早くデズリーに走り寄るセイント。
迫り来る触手を回避しながら、その勢いを利用して傘に蹴りを入れる。
蹴りはデズリーの真正面に決まり、傘がグニャリと歪む。
そのまま豪快に倒れるデズリー。
辺りにビリビリと響き渡る地響き。
その隙を利用し、一気に触手を?んで地面に張り巡らされている触手を引き千切る。
そのまま本体を振り回し、空の彼方に放り投げるセイント。
これでは、やつも身動きが出来ない。
セイントは両手を水平の高さに広げる。
途端に両手に集まる白い光。
そのまま十字を組んだ次の瞬間、セイントの腕から白銀の光線が放たれる。
全く混じり気のない白色の光線は、性格にデズリーを捉えた。
光線に飲み込まれ、耳をつんざかんばかりの甲高い声を上げるデズリー。
断末魔の悲鳴が止んだ頃、デズリーは完全に消滅していた。
辺りは先程のことが嘘のように静まり返っている。
だが、倒壊したビルや教会などはその破壊の爪痕を残していた。
それを見届けると、空を見上げるセイント。
掛け声をかけ、セイントはそのまま夜の星空に吸い込まれるように消えていった……。


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最終更新:2007年03月13日 19:21