深夜。静まり返った漆黒の街を、疾走する一人の少年。ハッ、ハッ、と短く息を切らし、街灯の下を駆け抜ける。
 「よう少年。そんなに走ってどこ行くんだ?」
 突如、背中にかかる声。少年は、足を止める。振り返ると、そこには、よれよれのコートを着た中年男「山川夏夫」が。
 嫌なやつに出会ったものだ。
 「はは! ようやく、自分の気持ちに従うようになったか。ったく、最初からそうすれば、終里ちゃんも救われたんじゃないのか? あの娘は、心の奥底で、ずっと仲間を欲しがってたのに」
 ニヤニヤとした笑いを浮かべながら、山川は言う。相変わらず、人を小馬鹿にしたような態度。少年はムッとし、思わず言い返す。
 「うるせえよ。どうせ、あいつの心の支えになることなんてできないんだよ。オレじゃあ……三四郎先輩の代わりは無理だった」
 「お前が、全力でぶつかることにビビッてたからだろ」
 これまでのふざけた口調から一転し、ピシャリと言ってのける山川。少年は、思わずグッと言葉に詰まる。
 「好きになった相手をまた失いたくない。だから、誰も好きにならないし、誰の味方もしない。そうやって、自分の気持ち誤魔化そうとしてたやつを、誰が好きになるっつーんだ」
 少年は、言い返さない。ただ、山川をジッと睨んでいるだけ。
 本当に、つくづく人の心を見透かしてくる。
 「だけどよ、お前は変わった。ちゃんと自分の気持ち、伝えられたじゃねえか。まあ、振られちまったけどよ。もしか、今のお前なら、お友達レベルにはなれるかもしんねえぞ?」
 再び、ニヤッと笑う山川。少年は、それを無視し、再び先を目指す。
 そうだ、こんなのに構ってなんかいられない。急がないと、間に合わないかもしれない。やっと、自分の気持ちに気づいたのだから。


 「あ~あ、行っちまったよ。さぁて、俺もボツボツ行きますか。確か、朝風ここみの新刊が今日出るんだったっけ。いや、エーテルワークスの取材がまず……」
 山川は、独り言を呟きながら、コートを翻す。
 あと、五時間くらいで夜が明ける。胸に思いを秘め、各人は「旭小学校」へ。


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最終更新:2007年03月20日 20:11