たった一度のまんまる真っ青お月様。
その蒼き月光にて、今宵の物語は大きく捩れる。
捩れた物語を正す、猛き月光は果たしてこの世界にあるのだろうか?
天空の城ラピュタ、その円卓に再びジョーカーたちが集う。
しかし、どの書き手も誰一人として椅子に座っている物はいなかった。
彼らの誰一人として、もうダラけて茶を啜っていられる状況になかったからだ。
こうして集まったのも仕事の合間を縫っての緊急会議である。
「現状の報告をさせて貰う」
七氏がペラペラとびっしりと文字を詰め込まれた紙を見ながら言った。
「まず、知っての通り孤城の主が発動された。アーカード役は皮肉にもあの地図氏だ。
それを包囲するハンターは
最後の空気王tu4氏。零号開放可能な真正アーカードミスターマダオ。
義手も手に入れて完全戦闘可能なDIE/SOUL。どう転ぶか予測がつかない
コロンビーヌ。
そして対主催として仲間を集めようとして一歩遅れた
漆黒の龍と
孤高の黒き書き手の計六人。
これに後追いをかけているのがご存知チートMAXの
影の繋ぎ師。
僕達の足止めを最短で抜けてきたネコミミスト、そして666の駒として動き始めた
熱血王子だ。
地球破壊爆弾は二方向からの強烈な一撃によって撃破された。
現在熱血王子が地図氏が去った席に座り、孤城の主を継続している」
「なんとも、壮観ですね……これで地図氏が朽ち滅んでくれれば助かるのでしょうが……予断は出来ないですね」
ガチホモが腕を組みながら映し出される映像に見入る。
地図氏こと地球破壊爆弾の電子戦能力を何より恐れたニコロワ勢にとって、この孤城の主こそが待ち望んでいた状況に他ならない。
「問題は、あいつだ。特に、既に手をつけられないほどに大きな存在となってしまった地獄紳士666がな」
ナナシが机の縁を指で小突きながら嘆息を漏らす。
サスペリアを通し、あえて主催者ではなく愛媛へのコンタクトを取ってくる大胆不敵さ。
既に彼女の驚きの黒さを蒐集されて、ますます手がつけられない存在となっている。
「ですが、彼女と私たちは利害が一致しています。彼女は最終的に対主催に倒されることを望んでいますからね。
影の繋ぎ師や真正面から戦う力があるとは言いがたい私たちは、彼女の思惑を利用して出来るだけ対主催戦力を削るしかありません」
ガチホモが自分でも納得していないといった顔を見せた。
参加者の直接殺害を固く禁じられている彼らに出来ることは、
対主催の力を削ぎ妨害しつつ理想的な戦力差で対主催ルートへ状況をシフトさせることである。
その点においてネコミミストに倒されることを本願としている666と彼らは利害が一致しているのだ。
地図氏、影の繋ぎ師といったあまりにも尖った戦力を削る方法として、666の行為は見事に機能している。
「現状は、やはり666に状況を任せるしかないでしょうね」
「不本意ではあるが、な。俺達が直接動けない以上それが一番効果的だ……で、七氏。俺達を集めた理由は」
ガチホモとナナシが七氏の方を向く。キールとしての顔に皺を刻んで七氏は言った。
「
バトルマスターと
蟹座氏が旅館に向かっている。ラブホテルから河岸を変えて何をするつもりかと思ったが、
どうやら旅館の将軍と魔王に合流する狙いだな。
ホテルへ寄り道をしたということは十中八九間違いない。したらば孔明氏の携帯電話だ」
二人が嫌そうな顔をする。
『柿テロ猥・R2‐ND』は主催者側の孔明が用いてこそ生きるものであり、対主催に使われると面倒極まりない。
既にジョーカー達の能力も彼らの知るところとなっているだろう。
孔明が死んだのだから、wikiを閉鎖してしまえばいいのだろうが、
彼らに情報が渡っていることを考えるとwiki管理人にその気はないらしい。
「これに
ギャグ将軍の持つノートパソコンと魔王の技術手袋を考えれば、彼らの集結は事実上脱出フラグの完成を意味する。
666の覚醒までは時間が要る…………まだ混乱は続けさせるべきだ。合流前に手を打った方がいい」
なれば、これが合流する前に削る。それがジョーカー達の結論だった。
「だが戦力はどうする? 正直な所、動かせる人材が無いぞ」
ナナシが当然の疑問を口にする。現在愛媛は当の666の手によってリンカーコアを蒐集され、大分衰退している。
ネコミミスト達を足止めするだけだったはずのえーりんは重傷、挙句の果てに軍勢も半壊している。
「各人の状態はどうなっています?」
「今全力で破られた固有結界と魔術回路を繋ぎ合わせている所だ。
666の通信後すぐにまた気絶したからな。本人の傷も直さなければならん」
「僕も結界内の軍勢の再構築に手一杯だ。えーりんが万全なら容易いが、そうもいっていられない。愛媛さんの方は?」
「そうですか……こっちも似た様なものです。バルサミコ酢を飲ませたりきしめんを食べさせながら看病していますが、やはり本人の頑張り次第でしょう。
二人とも、どんなに頑張っても最終決戦までに全快になるかどうかという所ですね。
エコノミーでさえなければもう少しなんとかなるんですが」
既に夜になり、彼らニコニコ勢が最も恐れるエコノミー帯になってしまった今、彼女達の治りは遅い。
愛媛とえーりんは今後を見据えて動かすわけにはいかず、ナナシ、七氏、ガチホモも看病で動けない有様だ。
「なら、切るしか無いな。残りのカードを。ニコニコの方は?」
「もう少し時間が欲しいですね。現在人外は戦力の最終調整に入っています」
「ならば、名無しに稼がせるか。七氏、あれは用意出来ているか?」
「特急で仕上げた。いけるさ」
その時だった。サスペリアから再び連絡があったのは。
ホテルの一室で、サスペリアが正座して俯いていた。
その向こうにはガラス一枚隔ててシャワー室があり、水音が連続的に続いている。
「つまり、あんたが主催のwiki管理人と繋がってるってことでいいのね?」
サスペリアは足の指をふるわせて頷いた。なんか昼もこうして正座させられたような気がする。
無論ここで頷いたところでシャワー室でお湯を全開にしている彼女には見えないのだが、
沈黙を肯定と取ったのか、ふーんと鼻を鳴らした。
「んまあ、普通に考えたらどう考えてもそーなるわよね。管理人が同一の私が野放しにする訳ないし」
今までキャラに引きずられていた思考がサスペリアという客観視点によって一気に萎えて醒めるのを彼女は感じていた。
(でもあんたティアナに引きづられてたってより、十常時の方じゃん)
「なんか言った?」
「なんも言ってません! 言ってませんとも!!」
ガラスの向こうの影ははっきりせずとも、サスペリアには睨まれているという核心があった。
「……まあいいわ。んで、あの管理人の目的は言えないのね? お話、聞かせてもらえない訳だ」
お話=殺されるまで飛躍して聞こえそうな発言にサスペリアは魔力で出来た自分を拡散させてしまいそうになるが、ギリギリでこらえた。
喋ってしまえばwikiに載る。載ってしまえばあの携帯電話で対主催の連中に伝わる。
そうすると今度は完全に管理人に見切られるだろう。何より、666の条件を飲んだ意味が無い。
「ふーん。ま、それはいいわ。で? これからどうするかに関しては私の一存で決めていいのね?」
「まあ、そりゃ……」
この期に及んで『精々手のひらの上で踊ってくださいね(はあと』なんていえる訳も無いだろうに。
蛇口を捻る音がして、床を打つ水音が止んだ。
「決めたわ。このままマーダー路線で行きましょう」
「え?」
彼女の言葉に思わずサスペリアは言葉を上げる。
バスタオルで水気を拭く衣擦れの音に嘲りが混じる。
「そんな馬鹿みたいな顔しないでよ。あんたみたいな一段上の視点を持ったキャラには分からないでしょうけど、
生憎私はティアナだからね。実力に見合った地に足の着いた考え方しか出来ないの。
初志貫徹ってやつよ。私はマーダーとしてtu4を倒す。
メタ視点なんてのに一々振り回されてたら、それこそ
エロ師匠に笑われるわ」
そういってサスペリアから強奪した666から手渡されたという衣服に袖を通す。
そしてスカートのフックをかけて、煩悩寺はシャワー室から姿を現した。
死者を超えるというあまりにも高い志半ばで死んでしまったエロ師匠の姿を意識してか、竜宮レナのセーラー服を纏っていた。
はいているかどうかは各人の想像と今後の展開にお任せしたい。
(エロ師匠……貴方と私の勝負はまだ終わってないわ。決着はいずれヴァルハラで。できれば三女神孕ませつつ)
なんか最後に北欧神話に対し盛大に物騒なことを口走ったような気がするが、サスペリアは聞かなかったことにした。
「で、どうなの? ……正直なところ私で勝てる相手いるの?」
煩悩寺の問いにサスペリアは口を渋る。
最近は666祭りで意識しなくなったが、現在危険な対主催もマーダーも大分減ってしまった。
もし孤城の主で軒並み消えてしまえば、残るマーダーは666と彼女だけになってしまう。
そして順調に覚醒イベントをこなす対主催陣相手に、だんだんとエロスの鐘の効果が弱まっているきらいがある。
「となるともう仕方ないわね。対主催の中に潜り込んでステルスするしかないわ」
エロ師匠というベストパートナーを失ってしまった以上、もう今までのような力押しの攻めは難しい。
じわじわ中からエロオーラで対主催どもを操っていくのが最上の策だろう。
「でも、もうみんな徒党を組み始めてるわよ? 今から入り込むには機会が……」
心配そうに俯きながらも目を上げて彼女を見るサスペリア。
ステルスなんてそう簡単に行くものではない。ましてやこの後半では、よほどのアクロバティックを決めなければ。
「で、僕が呼ばれた訳ですか」
ヴォンと空間が歪み、ラブホテルの中に突如一人の黒マントが現れる。
「サスペリアが向こうと話せるってのは本当だった訳ね。あんたがジョーカー?」
「ええ、テイルズロワの名無しです。ご注文の品っちゅうもんは、これでいいんですか?」
黒マントの名無しが小瓶を差し出す。煩悩寺は一瞬戸惑ってからそれを受け取った。
「(何、今のもしかしてダジャレ?) え、ええ……ありがとう。手っ取り早くエロパワーを補充しておきたかったのよ」
彼女が受け取ったのは言わずと知れたシャリダム汁である。
それが持つエロ力は
お姉さまの件で言わずもがなだ。
(これさえあれば、とりあえず今までの悪行は何とかごまかせる……問題は、どうやって連中に取り入るか)
額に手を当てて煩悩寺は考え込む。最大の難関を前にして、失敗は許されない。
何かいい火種でも転がっていればいいのだが。
「じゃあ、僕はこれで失礼しますよ。少し時間が無いんで」
そういって踵を返した名無しのマントの裾を思わず彼女はつかんだ。
「ちょ、ちょっと待って! あんた私にこれを渡しに来たんじゃないの?」
「いえ? 丁度話があったんで、これ幸いと降りてきただけですよ。本当の任務は別にあります」
名無しの言葉に目を輝かせて、彼女はその内容を問うた。
最初は渋っていた名無しも、管理人端末であるサスペリアの連名では口を割らざるを得ないと観念し白状する。
その内容を聞いて、煩悩寺は眼を輝かせた。
「ねえ、じゃあその前にお願いがひとつあるんだけど」
「いいですよ。僕がこのキャラである以上こうやってまともに会話できるのもこれが最後でしょうし」
もうどうにでもしてくれといった様子の名無しをみて、
エロスの鐘の煩悩寺は、飛び切りの猫なで声で言った。
「じゃあ、『このホテルを壊してから』行ってくれないかな、かな?」
その言葉を聞いた名無しは、フードの中の口元を歪めて笑った。
「いいだろう。城だろうが人だろうが俺には関係ない。斬って殺す、それだけだ」
意思疎通を果たしたらしい二人を見ながら、サスペリアは遠い目をする。
(いいわよ。どうせ私の扱いなんていっつも空気なんだから気にしないわよ)
ガンバレサスペリア! 喋る支給品は鬱陶しいジンクスなんかに負けるなサスペリア!!
童話『機関車トミー』
やあ、ぼくはとみたけ。フリーのきかんしゃ。
いつもはカメラマンだけど、ほんとうはきかんしゃとしてしゅっぽしゅっぽ走ってるのさ!
「ねえ、ししょー。お月様が綺麗だね」
「そうですね。本当に……こんなバトルロワイアルなんて、嘘みたいに」
せんろがなくてもきにしない。
本当のきかんしゃってのは、せんろを走るからきかんしゃなわけじゃあないんだ。
どんな場所でも、どんなことがあっても走りつづける。それが本当のきかんしゃってものなのさ!
「お姉さまたちも、見てるのかな……この月を」
「蟹座氏……」
でも、たいせつなものをはこぶぼくにはいっつもじゃまが入るんだ。
たかのさんっていうきれいな人といつもいっしょにいるから、しっとしてるのかな? ハハッ。
「見てますよ、きっと。ですから私達も見られて恥ずかしくない様、一生懸命戦わないとね」
「…………うん! ……って、ししょー!! あの浮かんでるのって」
ほうら、もう直ぐやってくるんだ。ぼくをかくほしに『やまいぬ』が。
いきをひそめて こちらをうかがいながら。絵ものをまっテゐる。
「ラピュタ……wikiではまだ闇に隠れて見えないはずですが、どうやら誰かが更にフラグをこじ開けたようですね。
こうして月明かりに晒されてはっきりと見えている。僕達も、急がないと……!!」
「どうしたのししょー……って、ししょー! 前に誰か立ってる!?」
でもだいJOうぶ。き死 ゃの ぜんPOUに人がいたらけい敵をならすのはなぜダか知ってるるるかいいいいいい?
きし ゃがきづ 吐く殻じ ゃナい。相手が ハねハネハネ飛ばばばばばされるるるるから DA☆!!
「くっ、回避してる時間は無いですね……轢き殺……いえ、突破します!!」
「言い換えてもやってることは同じだよししょー!!」
満月の光が物語を狂わせる。月の光を浴びた天空の城で、物語が狂うのを眺める男がいる。
「バトルマスター……前原圭一と倉成武の因子保持者。残念ながら☆の力を持つお前の思い通りには行かない。
反撃のターンはまだ先だ。手並みを見せろ、漆黒の狂気が御相手する」
謎の男が一気にその外装を解く。
現れたのは栗色の髪、赤いバンダナ。そして風に靡く赤マント。
白を貴重としたその鎧に刻まれた傷は、さぞや練達の剣士であることを物語っていた。
だが、何よりも異彩を放っていたのはその瞳孔の開ききった凶眼。
清廉とは懸け離れたその瞳は、彼が薬物にどっぷり浸かっていることを教えている。
テイルズロワでシャーリィと双璧を為す最強マーダー、クレス=アルベイン。
毒に塗れながらもしっかりと大地に立つ名無しの姿はまさしくそれだった。
機関車トミーがもう20m先にまで来ている最中、その手に握られた一振りの刀が天に向かって突き立てられる。
それと同時に蒼い闘気が名無しから迸り、その刀身に集い剣を実物以上に伸ばしていく。
機関車が眼と鼻の先まで近づいた瞬間、名無しは肉食獣の如き笑みを見せてそれを一気に振り下ろした。
「次元斬!!」
最終更新:2008年04月15日 01:06