――どうして書き手ロワをやるかって?
――そんなのは愚問じゃないか
――なら私は君達に問い返そう
――君達はどうしてロワを読み、ロワを書いてるのかと
――それが答え。それが全部なんだよ
目を覚ました時、彼らは真っ暗なホールにいた。
そこは見知らぬ場所であり、同時に余りにも見知った展開だった。
誰かは惑う。
なんだこれ、と。
誰かは思う。
まさか、と。
誰かは察する。
ああ、遂に自分たちの番が来たのだと。
全員が全員ではないが、しかし、彼らの多くは知っていた。
彼らは書き手だから。
バトルロワイアル・パロディ、通称“パロロワ”の名だたる書き手だから。
読んだことのあるなしや、書いたことのあるなしの差こそあれ、そういう企画があるのだと、その存在を知っていた。
書き手ロワイアル。
物語の、あるいはオリジナルのキャラクターではなく、書き手同士が殺し合う狂気の祭典。
どうして、などと最早誰しも問いはすまい。
答えなど、聞くまでもなく分かっている。
望んだから。誰かがそう望んだから。
自分たちが書きたいと筆を執り、読みたいと続きを待ち望んだように。
誰かが。
彼を彼女たち書き手を愛する誰もがこの物語を書きたい、読みたいと望んだから。
故に、書き手ロワはここに開かれる。
きっと、それは光栄なことなのだ。
パロロワ住民以外にこんなことを言えば気が狂ってるとしか思われないかもしれないが、しかし、事実、そうなのだ。
書き手ロワに出るということ。
書き手ロワで書かれるということ。
それは、その書き手を、その書き手のロワを。
本当に、好きで、楽しんでいて、愛している者がいるという証明なのだから。
書き手として、創作家として、それは一つの、この上ない勲章と言えるだろう。
だから、だろうか。
主催者――書き手ロワ4と称する存在が姿を見せることもなく、声だけで一方的に殺し合いの幕を開けようとした時、果敢にも一人、名乗り出るものがいたのは。
「ちょっと待った、書き手ロワ4」
その男は書き手だった。
白紙の原稿用紙を手にした書き手だった。
声の主へと視線を向ける数多の書き手たちは、しかし、首を傾げた。
これは書き手ロワだ。
ならば、極一部の例外を除いて、書き手たちは彼らが描いた物語のキャラクターの姿を模した姿になっているのがお約束のはずだ。
しかし、彼をその男の姿に見覚えがあるものは誰ひとりとしていなかった。
それもそうだろう。
もしたとえ、ラジオのDJとしての付き合いがあり、彼の人の現実世界での姿を知っているかの書き手でも、今の彼が誰だかは見抜けなかったはずだ。
何故なら確かに彼は、自分が描いた登場人物の姿を模していたのだから。
『何かな? FLASHの人。六代目。いや、この場ではこう呼ぶべきか。◆nucQuP5m3Y――リ・サンデーロワ書き手よ』
「どれでもいいよ。どうだっていい。どうせ俺のこの先を考えれば、俺が誰かは重要じゃない。重要なのは俺の役割だ。
……いや、違うか。やっぱ、今だけは◆nucQuP5m3Yって名乗っとくべきなんだよな」
一人そう納得して、彼は、◆nucQuP5m3Yは自分の首を指し示した。
そこにはお約束のように首輪が巻かれている。
それを手に取り、彼はまさかの言葉を口にした。
「見せしめは俺で頼むわ」
『……何?』
その一言に会場はざわめく。
それもそのはず、書き手4はルール説明すら知ってのとおりだと省き、見せしめについて触れることなく書き手ロワの開催を宣言するところだったのだ。
だというのに、わざわざならないでもいい見せしめに立候補するなんて、正気の沙汰ではない。
『なんのつもりだ……』
「いやさあ、うち、好いてくれてる奴らがいるのはありがたいんだが、企画上三話で終わっちまってるのばっかりだから、なんか申し訳ないんだよね」
それにさ、と男は続ける。
「俺、こいつの、“リ・サンデーロワ書き手”の姿をしている以上、この企画にはふさわしくないんだ。
借り物では満足できなくなってしまったこいつじゃ、さ」
リ・サンデーロワ。
三話完結ロワという結末に至るまでの三話だけを書く企画ならではの最終回で登場した書き手は、二次創作を否定した。
嫌いになったわけではない。
ただ、彼は、借り物では満足できなくなってしまったのだ。
こんな素敵なキャラや、設定や、世界を、自分の手で生み出してみたくなってしまったのだ。
そんな“リ・サンデーロワ書き手”としてこの場に呼ばれたからこそ、彼は、◆nucQuP5m3Yは。
このまま借り物の姿、借り物の世界で物語を紡ぐことを拒んだ。
借りてきたあの素晴らしき世界の全てに感謝をしながら、描けなかった続きを描くいつかは、いつかであって、今ではない。
『……本当に、いいのだな』
「ああ。物語は、作者が完結させるべきだと思ったときに完結すべきだ。俺は今ここで、俺の幕を下ろしたいんだ。
それに、さ。正直、俺はもう満足しちまってるんだ」
男は続ける。
「最高の名作の条件ってのはな、『読んだ奴の人生を変える』んだ。そして『人生を変えられた奴が、変えた本を名作と呼ぶ』んだ。それだけなんだよ」
彼が書き手として辿り着いた一つの答えを。
「だからよ、俺の、ここにいるみんなの物語は、パロロワは、間違いなく名作だ。
書き手ロワ4なんて企画をどこかの誰かに望ませて。こうしてOPを書かせたことで」
彼からあまたの書き手へと贈る祝福の言葉を。
「名作に、今、なった」
【◆nucQuP5m3Y@リ・サンデーロワ 死亡】
【主催―――――書き手ロワ4そのもの】
最終更新:2013年04月07日 17:52