――要するにだ。

  お前らは、自分たちがいかに「異端」であるのかを、いつの間にか忘れてしまっていたんだ。




……その日。
『大東亜共和国』の各地で、年齢性別職業、およそ共通点らしい共通点のない人々が、一斉に姿を消した。
若い男性が中心ではあったが、そこに留まらぬ者も多い。

中には、黒服の男たちに攫われる姿を目撃された者もいた。
が、警察の捜査にも関わらず、一切の手がかりは得られなかった――
なお、警察が本当に捜査をしたのかどうか、一般人には知るすべもない。




「君たちは、危険分子として密かにマークされていたんだ」


教壇に立った男は、おもむろに言った。
大きな、しかし学校の教室としか思えない椅子と机と黒板のある部屋。立ち並ぶ武装した兵士たち。
そこで目覚めた人々は、自分がなぜここに居るのかも把握できないまま、男の言葉を聞くことになった。


「我が国の『プログラム』を模し、小説や漫画のキャラを戦わせる『パロロワ』なるジャンル。

 そう、君たちが耽溺していた、パロロワだよ。

 所詮は架空の出来事だ、表現の自由の範囲内だという意見もあるだろう。
 近年の大東亜共和国の自由化の動きの中、この程度は笑って許すべきだ、という声もある。

 しかし、社会不安を増幅する危険な連中だ、という見方もまた、根強い。
 それが極めてマイナーなジャンルに留まっていればよかったのだが……
 どうやら君たちは放置されてるのをいいことに、いつしかそれを、当たり前と思うようになった」


男の言葉に、教室の中がざわつく。
不安の声。恐れていたことが現実になったのか、という懸念の声。教壇の男は構わず続ける。


「本来であれば、一斉検挙の上、国家の存続を危うくする政治犯として投獄するのが本来の筋だが……
 おそらくその先には、処刑台か、一生続く苦しい苦役の生活が待っているはずだが……
 我々は、恩赦の『チャンス』を与えようと思う。
 君たちの良く知る、君たちの専門分野とでも言うべき方法によって」


男はニヤリと笑う。集められた人々の顔が引き攣る。
それはどう考えてもチャンスなどではない。
あまりにも容易に想像できてしまうその先の言葉は、そして、予想に違うことはなく。


「殺し合え。最後の1人になるまで殺し合え。

 君たちが物語のキャラクターたちに強いてきたのと、同じように。

 優勝者には、恩赦のみならず、今後一生の生活の保障と、絶大なる名誉を与えることを約束する」


沈黙。
参加者として集められた者たちは、ちらちらと互いの顔を伺い合う。
首元を探る者もいる。そして予想通りにそこに首輪の存在を確認し、顔面が蒼白になる。

冗談として笑い飛ばせない程の、重い空気。
周囲を取り囲む、完全武装の軍人たち。
これが安っぽいドッキリなどではないことは、誰にでも分かる。
先の言葉の意味が参加者たちの心に浸透するのを待って、教壇上の男は口を開く。


「諸君らの中には、複数の『パロロワ』に作品を投下している、と『自称』している者もいるだろう――

 が、安心して欲しい。
 ……いや、絶望して欲しい、かな?

 諸君らが同じPCから、あるいは同一のIDから投下していた数々の作品。
 政府の目を誤魔化すため、もしくはほんの悪戯心から『同一人物』を偽っていたことは……
 我々には、全てお見通しだ。
 全て、綿密な内偵の過程で明らかになっている。

 同じPCを利用していたお仲間、あるいは家族、親兄弟も、全て調べ上げてこの場に招待している。

 ま、君たちにとってはお馴染みのシチュエーションというわけだ……
 『パロロワ』でも多いのだろう? 親しい者が複数参加を強いられる、というのは」


「ふ、ふ、ふざけるな!」

ついに一人の男が立ち上がる。


「あ、あれを書いてたのは全部俺だ! い、いや、そうじゃなくって……
 こ……これって『書き手ロワ』だろ?!
 なら、『異能』の1つや2つ……あるんだよな?! そうだよな!?
 そんでもって最後は、全部無かったことにでもして……」

「異能? そんなものある訳ないだろう。お前は自分を何だと思っているんだ」


銃声。
教壇上の男は溜息ひとつついて拳銃を抜き放つと、無造作に発砲した。
立ち上がっていた男の額が撃ち抜かれ、教室に悲鳴が響き渡る。


「お前は、ただの『書き手』だろう?
 空想と現実を混同するのも、いい加減にしろ。
 そんなんだから、排除しようってことになるんじゃないか」


名前すら分からなかった男の身体が、どうっ、と倒れる。
進行役は顔色1つ変えずに続ける。


「我々もこの催しを開くにあたって、君たちのことについてはそれなりに勉強している。
 いま撃たれた彼のようなつまらない勘違いは、やめてくれたまえ。
 まあ、そうそう数を減らす気はないんだが……いわゆる、『見せしめ』って奴だ。
 その意味では彼も、役には立ったのかね」


もはや、集められた人々に声もない。
教壇の上、男は両手を大きく広げる。


「君たちの流儀で呼ばせてもらうなら――『書き手ロワ』。
 そうだな、過去3回の架空のフィクションに続くものとして……
 『書き手ロワ4th』とでも名付けることにしようか。

 これより、『特別枠プログラム』、『書き手ロワ4th』を、開始する。

 ルールなどの詳細は支給品に入れておくので、現地に配置後、追って各自で確認してくれたまえ――
 君たちなら、『ロワ書き手』ならできるだろう?
 普段から、愛するキャラクターたちにやらせてきたことなのだから」


教師役の男はそう言うと、おもむろに取り出したガスマスクを装着した。
集められた書き手たちが何か反応するよりも早く、教室の中は催眠ガスに満たされて――



――たぶん、彼らが次に目覚める時には、『殺し合い』の真っ最中にいることだろう。

彼らが書いてきた数多のキャラクターたちと、同じように。



【死亡者:不明】

【主催:大東亜共和国政府】



※現代日本とよく似た、大東亜共和国が舞台です。原作小説の時代よりは自由な社会の模様
※基本的に異能などのない一般人ロワです
※「中の人」が同じ場合、家族や知り合いなどで「同じPCから投下していた別人」の設定になります

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最終更新:2013年04月07日 18:10