ロワオフ会。
僕はその日を待ち焦がれ、ついに今日めでたくその日を迎えることが出来た。
憧れの書き手さん達との邂逅。僕はその機会を利用して、精一杯自らの作品の昇華に努めようと考えていたのだ。
だけど、そういった僕の純粋なロワへの想いが間違っていたことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
当初は、僕は書き手さん達との出会いを喜び、子どものように無邪気にはしゃいでいた。
おそらくは、その場にいた皆も僕と同じようにその時間を楽しく過ごしていたと思う。
でも突如として、そこに冷たい水が差されることになった。
「では皆さん、早速会場に行きましょう♪ こちらでバスも用意しておきましたよ」
逆光故にか、顔が見えない。しかし間違いなく書き手の一人が、満面の笑みで皆にそう告げたのだ。
僕を含め皆に困惑が現れる。無理もないだろう。事前に決めていたプランには、そういったことは含まれていなかったのだ。
それにバスも用意したという。それに一体どれだけの金額が発生するのかは分からないが、とても一人で決めていいものではない。
僕は恐れ多いと思いながらも、皆を代表して抗議の声を上げることにした。
「あ、あの、えっと、どういうことですか? バスの貸切なんて、聞いていませんよ。そういうのって、やっぱり皆の……」
「……大丈夫」
「え?」
「ちょっとしたサプライズですよ♪ 勿論、バスのことで皆さんに金銭的負担をかけるつもりはありませんので、安心して下さい」
「え……と、どこに行くんですか?」
「秘密です♪」
どよめきが皆の間を走る。どうみても、勝手が過ぎる。
だけど、個人で金額を負担してまでの催しだ。ここで無下にしてしまうのは、どうにも気が引けるものだった。
そして僕たちは戸惑いながらも、そのバスに乗ることにした。
結果は――言わずもがなだ。
僕が眠っていた意識を取り戻して、目の当たりにしたのは、学校の教室とも思える場所だった。
それはロワの書き手にとって、原初の光景。それ故に僕らに風雲急を告げられた。
教壇に立っていた人物が、いきなり大きな声で宣言を行ったのだ。
「これから殺し合いをしてもらいます♪」
言葉の内容とは裏腹に明るく、ハキハキとした話の調子だった。
その戯言の真意を窺いたいが、当の人物は仮面を被っていて、表情を隠している。
あまりに不気味な雰囲気だ。とはいえ、僕ら書き手は文字通りロワを親しむ人間。
仮面の人物の異様さなど、どこ吹く風と現状の不満をかまびすしく並び立てた。
「大丈夫です♪」
仮面の人物は声を大にして言った。
「僕も参加します♪ 殺し合いに♪ 折角のオフ会ですからね。一人一人が楽しみ、有意義な時間を過ごさなきゃ、損というものです♪」
マジキチスマイル。それは仮面越しでも分かる笑顔だった。
誰もバトロワのメンバーに不満なんか述べていない。
ただ単にこういった悪ふざけをするのなら、もっと皆の時間を確認してくれという旨のものだったのだ。
それなのにこいつは自分もロワに参加するから、文句を垂れるなと言ってきているのだ。
意味不明である。だけど、そういった歪さは、僕に危機を悟らせてくれるのに十分なものだった。
(ヤバイ! 早く逃げないと。こいつは尊敬すべき書き手なんかじゃない。こいつは単なるキチ……!)
僕の心の叫びと逃走は、僅かな時間で終わりを迎えてしまった。
ピー、ピー、と甲高い警告音が、鼓膜を叩くように聞こえてきたのだ。
僕はまさか、と自らの首をなぞった。
「ロワとは言えば、見せしめです!」
僕の蒼くなる顔を嘲笑うように、仮面の人物は顔を上気させ、火照った身体から汗をも飛び散らせる。
そして感極まったかのように、僕に死の宣告を下した。
「君のような純粋な心を持った書き手の命を散らせるのは、残念でありません! ですが、君がここで死んでこそ、僕の信念はより堅固となるのです! それでは、さようなら!!」
「い、いやだ! だ、誰かたすけ……!!」
僕の声は、たった一つの爆音によって遮られた。
ああ、畜生。やっぱりオフ会になんか行くんじゃなかった……。
【主催 とある書き手】
【純粋な心を持った書き手 死亡】
最終更新:2013年04月07日 18:30