追憶

「ねぇ、どうして旦那は王様になったの?」
いつものように屋上から夕焼けを見ていたデデデ大王は「急に何だ?」と首を傾け、アドレーヌを見た。
「あ…聞いちゃダメだった?」
アドは思わず縮こまる。
思えばこの質問は誰もが考えるものだ。なのに誰も答えを知らないということは、きっと触れてはならない場所なのだということは容易に想像がつく。
「ごめん!忘れて!」
アドはパンッと両手を合わせて頭を下げた。
ところが大王は
「いや、別に話してもいいが…」
と言ってポリポリと頬を掻いた。
「聞いて気分の良くなる話じゃねぇぞ?」
「いいよ。教えてくれるなら」
アドは微笑む。
「…じゃ、ちぃとばかし長くなるが…聞いて貰うとすっか…」
大王はそう言って語り始めた…。



追憶
 ~ひとりぼっちのおうさまのおはなし~



実は生まれは知らねぇんだ。
気付いたらやたらめったら金持ちの親戚の家に居た。
なんでもそこら一帯の地主だったんだと。
まぁ、その家にも子供が居て…、貰われっ子だった俺は相当邪険に扱われててな。
なんだその…『金はやるから後は好きにしろ』みてぇな扱いを受けてたわけだ。
ほら、俺ってその頃からなんか妙に勘とか良かったから…気持ち悪かったんだろうな。

…あン?アド、お前大丈夫か?…だから言っただろ、『聞いて気分の良くなる話じゃねぇ』って…。…ホントに大丈夫か?…なら続けるが…。

――で、何処まで話したか?…あぁ、そうだ。その辺だったな。
まぁ、なんだ。
とにかくそーゆー家庭で俺は育ったわけだ。
『金はあるけど、欲しいものはなかった』っつーわけだな。
だから堪りかねて12の時に家出したんだ。
肉親が唯一遺したハンマー1本引っ提げてな。
…あ?肉親の職業?俺が知りてぇよ。親父は船大工だったみたいな話は親戚が漏らしてたけどな。…お袋?1番謎なんだよなぁ…。俺の名前はお袋が付けたらしいがな。…お袋も結構な家柄の出身っぽかったが…詳しくは分からん。

――まぁ、そんなわけで俺はそれから旅に出た。
幸せに暮らせる場所が欲しかったんだ。
2年ほど旅をしてるとな、同じような境遇のやつと…結構出会うんだ。
それで俺達は皆で住む場所を求めて旅を続けた。

…あン?その時出会った奴らか?
…死んじまったよ、俺を遺してな。
…そんな顔すんなって、過去を悔やんだってなんも出ねぇよ。
………そりゃあ、哀しかったさ。…あと悔しかったな。
なんも出来なかった自分に腹が立った。
…何で死んだのか?
そう焦るなよ。今から説明すっから…。

殺されたんだ、途中立ち寄ったある国で。
その国?…もうねぇよ。20年くらい前になくなっちまった。
…なんでって…戦争だ。ったく、酷ぇ話だろ?
そのせいで奴らは死んだんだ。

…アド、お前にはやっぱきつかったか?
…そうか?なら話すが…。

16の時だ。その日は夏の暑い夜だった。
俺は食料探しに行ってて…難を逃れたんだが…。
アジトにしてた洞窟に戻ってみれば…仲間が血まみれで倒れてた。
その時、戦争はもう始まってたんだが…なんでも国軍の奴らが『政策』とかほざいて孤児を皆殺ししようとしたんだと。

『ふざけんな』

正直そう思った。
こんな国があっていいわけねぇだろ?

とにかく俺は息がある仲間を手当てしようとしたんだ。

…だが、遅かった。
助けようとしたが…助かりそうもなかった。

俺は自分が憎かった。

自分の無力さに腹が立った。

なんで俺だけ生き残って、あんなにいい奴らが死ななきゃなんねぇんだって。

全てが消えちまえとも思った。そんなことを考えるくらい、俺の心はグシャグシャだった。

でもな、アド、そんな真っ黒に塗り潰された俺を救ったのはなんだと思う?

…それはな、仲間の一人が死に際に遺した言葉なんだ。

…なんて言ったかって?それは秘密だ。

…ケチとか言うなよ。まぁ、とにもかくにも、その一言を胸に俺はまた旅に出た。

目的は少し変わった。

国を作ろうと思ったんだ。

しがらみも争いもないような自由の国を…。

それからしばらく経って…ハタチを過ぎたくらいにワドルディを拾ってブロスたちに出会ったんだ。

まぁ、紆余曲折を隔てて今に至るわけだが…

………ん?



「…なんだ、アド、泣いてんのか?」
大王に指摘され、アドは彼を見た。
「…悪ぃ。やっぱ気分悪くしたか?」
その言葉にアドは首を振った。
「…違うの…」
彼女は城壁にもたれかかった。
「ねぇ、旦那ぁ」
「…なんだ?」
「欲しいものは見つかったの?」
「…あ?」
「今…幸せ?」
「………」
大王は空を見上げた。
すでにちらほらと星が瞬いている。
「…ったりめーだろ?」
やがて彼はポツリと呟いた。
「ほら、戻るぞ。この時期…夜は冷える」
そう言って一歩踏み出した彼のガウンをアドが引っつかんだ。
「…アド?」
「…しないから…」
「…?」
「…アタシは…旦那を独りにはしないから…。旦那は…もう独りじゃないから…!」
「…分ぁーってる」
大王は微笑んだ。
「…もう大丈夫だ」

空には満天の星。

微笑みかけるように星が瞬く。

「ね、旦那」
立ち上がってアドは聞いた。
「なんだ?」
「どうして食べ物盗んだの?」
その質問に大王は笑う。
「食い切れねぇ量ってのを感じたかったんだ」
「旦那らしいね」
そしてアドも笑った。



…今の俺には帰る場所がある。

…1番欲しかった『家族』がいる。

「…兄貴ぃ…兄貴みたいな王様が居たら…王様が兄貴みたいだったら…俺…こんな死に方しなかったかなぁ…?…もっと幸せに生きられたかなぁ…?」

死に際に…仲間が遺した『約束の言葉』

「…王…?俺が?」

「うん…兄貴が王様だったら…きっと皆を幸せに出来るよ…。…俺…生まれ変わったら…そんな国に住みてぇなぁ…」

「…馬鹿ッ…死ぬなッ!」

「…ごめんなぁ…兄貴ぃ…俺たち…兄貴を独りにしちまうけど…見守るからなぁ…兄貴が…王様になるの…ずっと……」

そして奴は倒れた。

「…王か」

俺は泣いていた。

「畜生ッ…!なってやろうじゃねぇかッ!」

俺は立ち上がって仲間の葬儀を一人でやった。

「…お前らに誓う。…もう誰も…亡くしたりはしないから。…だから安心して生まれ変わってこい。…それまでには作ってやるよ、国のひとつやふたつ…」

燃え盛る炎を前に、昔の俺は誓いを立てた。


だから俺は王になった。

大切な奴を守るために。


<FIN>






捏造過去話。
これを書いた後「おめーはどんだけデデデ好きなんだ」と知人に呆れられました。
最終更新:2010年02月19日 15:25
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