出会い

これは今から少しだけ昔のお話。



――出会い――




戦争があった。
光と闇の大戦みたいな大袈裟なんと違て、もっとちっこいやつ。
けど、いくらちっこくても確かにあれは戦争やった。

そのせいでおとんとおかんが、亡うなった。俺と、幼い弟を残して。

ホンマずっこいわ。
たかだか10歳の俺にここまで背負わせてどないせいっちゅーねん。

戦争かて、そうや。

言い出しっぺの国王は、どっかでぬくぬく生きとるんやで?不条理にもほどがあるわ。

「あーうー」

あ、アカン。弟が腹空かしとる。
………なんかあったっけ…。

………って、あるわけないよな。

その辺、全部焼け野原やもん。

………ごめんなぁ、ふがいない兄貴で…。

「うー?きゃっv」
………なんで笑うねん。

………って、言うとる場合ちゃうわな。

………でも…アカン、めっちゃ怠いわ………。

「う?」

スマンの、弟。ちょい寝かせてぇな。お兄ちゃん疲れたわ…。







…………。







……あれ?なんやろ?

………なんか、えぇ匂いがする………。


「おぎゃあぁぁ!あぁぁぁ!」

………!?弟が泣いとる!

「だぁぁ!泣くな泣くな!」
ついでに知らん男の声もする。

「誰じゃ!俺の弟に手ぇ出すんは!」

俺は跳び起きた。

「あ?」
と、同時に固まった。
「おぅ、起きたか少年。もう少し待ったら飯食わせてやるぞ」
見ると、見知らぬ男が弟を抱えとった。
「しっかし、お前さんの連れのガキは元気だな…危うく竃に落ちるとこだったぞ」
…どうやら彼は弟を助けたらしい。
…いやいや、それよか…
「アンタ…誰?」
「お、よーし、野菜の煮物が出来上がったぞ、少年」
…ヒトの話聞いとるんか?
「アンタ、誰?」
俺は野菜の煮物を受け取りつつもう一度言うた。ちなみに、弟は哺乳瓶を吸っている。
「俺の名はデデデだ」
「でで…で?」
なんだか舌を噛みそうな名前やった。
「呼びにくいだろ?」
彼はケタケタと笑ろた。
「好きなように呼ぶがいいさ。まぁ、『兄貴』とか『兄ィ』が1番多かったかな」
「………」
俺は周囲を見回した。見ると何人かの子供がその場にはおった。
みんなボンヤリしとったり半泣きやったりしとるから、多分戦争孤児の連中やと思う。
デデ…いてっ、舌噛んでもうた、もう兄ィでええわ。兄ィは俺の弟を始め、何人かの赤ん坊を抱えて、順繰りに哺乳瓶を吸わせとった。
背中にはやっぱり赤ん坊のワドルディ族を背負いながら、兄ィは豪快に笑いつつ孤児たちに飯を配っとった。

兄ィの作った煮物は物凄く旨かった。

晩飯の片付けは孤児の連中皆でやった。

兄ィは「ありがとな」と言いながら数人の赤ん坊の世話をしとった。


その日から、俺達と兄ィの生活が始まった。


この…岩場に作られた俺達の『アジト』には14人(俺と弟含む)の戦争孤児がおって、うち半分はまだ赤ん坊やった。
兄ィの背負っとるワドルディは、兄ィいわく「俺の息子」らしい。多分どっかで拾ったんやと思う。

よく兄ィは俺達に
「お前らの親は死んじまったかもしんねぇが、だからってお前らが死ぬことはないんだ。むしろ生きろ。だってよぉ、お前らが生きてりゃ、お前らの親だって、お前らの中で生きてるってことになるじゃねぇか」
と、口癖みたいにこう言うた。
あくまで『親の死』という事実は受け止めさせた上で、俺達に『生きよう』って気持ちを持たせる兄ィは凄いな、と思うた。

兄ィは毎日どっかから食い物を調達しとった。
多分その食い物は盗品だろうと、皆分かっとったけど、誰も兄ィを咎めんかった。そうでもせんと生きてけん時代やったからや。

兄ィには不思議な力があった。
まるで見えとるみたいに少し先の事を予測するんや。
夕立が来た日でも、俺らは兄ィのおかげでずぶ濡れにならずに済んだりした。




せやけど、俺らの『アジト』での暮らしは長続きせんかった。




あれは、酷い嵐の日やった。
俺らは協力しながらアジトの掃除とか赤ん坊とかの世話をしとった。

兄ィは出掛けとった。多分また食い物を調達しに行っとったんやと思う。

そんな兄ィがいきなり息を切らして帰ってきたんや。

「兄ィ。どないしましたん?」
「………逃げろ、お前ら………今すぐに、だ!」
兄ィは叫んだ。
「え?」
俺は正直驚いた。
「あ…兄ィ…何言うて…」

そう言うて、俺が兄ィにつかみ掛かった。その時や。

―――…ピィンッ―――

なんや乾いた音がして、1つの映像が見えた。


場所は…アジトん中やな。何故か荒れとるけど。

中央におるんは…兄ィや。ワドルディ抱えて…傷だらけで泣いとる。

ワドルディはわけも分からず兄ィをジッと見つめとるな…。

で、兄ィの周囲におるんは…俺ら?

え?

なんや、これ。

俺らが…

俺らが死んどる…!


俺は兄ィから手を放して叫んだ。
「あ…兄ィ…なんや?なんなんや!さっきの映像!」
すると、兄ィは心底驚いた顔をした。
「お前…見えたのか…?」
俺は頷いた。
「あれは…未来予想図だ…」
兄ィは静かに言うた。
「…未来…?」
「俺は少し先の事を予測することができる。…あの映像が見えるんだ。…だから…」
兄ィは俺の肩に手を置いた。
兄ィは俺よりでっかいから片膝をついて。
「あんな未来は変えなきゃなんねぇ。なんとしても、だ」
「………」
俺は黙って他の連中の元へと向かった。
連中は…そろそろ遠くにいる親戚の元に向かおうとしとったらしいから、あまり揉め事はなかった。

兄ィは麻袋に食料を分けて詰め込み、俺達に配った。



「達者でな」



兄ィはそう言うて笑うた。
そして、弟を抱える俺にワドルディを背負わせた。
「食料、多めに入れたからな。悪ぃが…こいつのこと…頼む」
「分ぁった」
俺は頷いた。





俺達の暮らしはそこで終わりを迎えた。









「ちょっとポピー」
アジトを出てから数分後、俺は呼び止められた。
「なんや、チィとマァか」
「あたしの名前はチックよ。いい加減覚えてよね」
…ふたつも年下なのにしっかりした生意気な奴や。
「でもってコイツはマンビーズ。…ちゃんと覚えてよ?」
「発音しにくいだけでちゃんと覚えとるわ」
俺はそう言ってから二人を見た。
「で、なんや?」
「あたしたち、行くアテがないの」
チックはマジマジと俺を見た。
「…付いてっちゃ…ダメ?」
「………俺も行くアテなんかないで?」
「だからよ。3人で暮らす場所見つけましょ」
…そーゆーことか。
俺はフイッとそっぽを向いた。
「勝手にせぇ」
「やったぁ!マンビーズ、行こ行こ!アンタの探す『幸せの国』を見つけにさ!」
「…幸せの国?」
俺はチックに聞いた。
「うん。マンビーズの探す場所」
「ふーん…」
と、俺が生返事を返したその時や。
「君達…お家のヒトは?」
いきなり大人に声をかけられた。鎧を着とるから、お国の兵隊さんやろう。
「えっと…あたしたち、こ…」
じ。と言いかけたチックを遮るように俺は答えた。
「遠くの国に住む親戚の家まで向かっているんです。親はここから山ふたつ越えた地に住んでますからここにはいません」
と、思いっきり嘘をついた。
「そうか」
兵士は納得したように頷いて
「ならさっさとこの国を出た方がいい」
と言うた。
「どうしてですか?」
俺が聞くと彼は
「国王の政策でね、孤児を殺すことになってしまったんだ」
「………へ?」
思わず頓狂な声を出してもうた。
いやいや、せやかて…。
「そりゃ反対意見もあったけどね…。王の命令には逆らえない逆らったら殺される」
まぁ近いうちに革命が起こると思うけどね、と兵士は苦笑しながら言うた。
「だから早めに国を出た方がいいよ」
兵士はそう言って去ってった。
「………ポピー…」
チックが俺を見た。
「…なんや?」
「デデさん…分かってたのかな?さっきの話」
多分そうやろ、と俺は答えて歩き始めた。早く国を出なアカンからや。

幸いにも俺らは無事にその国を脱出することができた。



そして国を出て、3日が過ぎた。
雨がよぉ降る日やった。
俺らは洞窟で雨宿りをしとった。幸いにも、計算して食っとった食い物はまだ2週間分くらいは残っとった。
「雨、よく降るね」
チックが言うた。
「…せやな」
俺は弟のマンビーズはワドルディのお守りをしとった。

そんな時やった。

ドォォォォ…ン…

遠くで低い爆音がした。
「…なんや!?」
外に飛び出すと3日前まで俺らがおった国が火の海になっとった。
「…かくめい…」
マンビーズがポツリと言うた。

あぁ、これが争いなんや。

赤々と燃える炎は醜くも美しく、そして怖かった。



その火が消えるまで、さらに3日かかった。
怖いもの見たさに行ってみれば、そこには文字通り『なんもなかった』
「…こんな世界ってないよね」
チックがポツリと呟いた。
「あっていいわけないよ。争いは…何も生み出さないじゃない」
彼女は泣いとった。
「………あ」
短くマンビーズが言うた。
「…あ…そこ…」
「あン?」
俺が見るとそこには…
「…兄ィ?」

兄ィが傷だらけで転がっとった。
「兄ィ!!!」
「と…とにかく手当てしないと!」
駆け寄って兄ィを見る。
傷だらけで、尚且つ瀕死ってとこや。
「多分…デデさんは革命のこと分かってた。だからあたしらを逃がして、そして…」
自分は革命に巻き込まれた…っつーことか。
と、その時、また俺に例の『映像』が見えた。
でも、今度のは何かが違う。
兄ィが…血まみれの子供を抱えとる。

――もしさ…王様が兄貴みたいな奴だったら…俺ら…こんな死に方しなかったかなぁ?…もっと幸せになれたかなぁ?――

そう言い残して子供は絶命。聞こえるのは兄ィの叫び声。

…これは…兄ィの過去?

「…そや…」
俺は息も絶え絶えな兄ィに向かって言うた。
「兄ィ…王様になろ…」
俺は泣いとった。
「俺…そーゆー国やないと…もう嫌や…。こんな…血で血を洗うような国は…やめにしよ…」
兄ィは答えない。もう息も絶え絶えやからしゃーないっつったらしゃーない。
「のぉ…兄ィ…」





………。





「フフッ…」
「あン?どーしたブロス、ニヤニヤしやがって…」
「いえ、ちょっと昔を思い出しましてね」


俺は今を生きている。


「大王様…いえ…兄ィ」
「…何だ?」
「これからも…よろしゅう」
「…こちらこそ、な。ポピー」


彼の傍、彼の隣で。



俺はこれからも歩き続ける―――



<FIN>

ポピデデですよ、ポピデデ。
『追憶』と微妙に繋がってます。
最終更新:2010年02月19日 15:25
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