「…ねぇ、今日って12月24日じゃない?世間はクリスマスよねぇ…」
アドレーヌがしみじみと言った。
「クリスマスって何でしゅか?」
不思議そうにリボンが尋ねる。
「え?リボンちゃん、クリスマス知らないの?」
アドが逆に聞き返すと、彼女は「はいでち」と言った。
「元々はチキューの宗教行事らしいからな。一般にはマイナーだろ?」
デデデ大王がそう言うと、アドは納得したように「あ、そっか」と呟き
「ま、今はクリスマスって言ってられないけどね」
と微笑む。
彼等一行は今、ポップスターを遠く離れた地、ブルブルスターに居た。
クリスマス・プレゼント
~いつか君に届く歌~
「カービィ、前見て歩けよ。確かこの星は豪雪地帯だから…油断してると足取られるぞ」
「へーきへーき!だいじょーぶだって」
次の瞬間カービィは後ろに転んだ。
「ほぉ…それの何処が大丈夫なんだ?」
大王が白い目でカービィを見る。
「いたた…」
カービィはひょいっと立ち上がり雪が降りしきる空を見上げた。
「…寒いねぇ…」
「そりゃあねぇ?」
アドもはぁッと手に息を吐きかける。
「前は暑い星だったんスけどね…」
ワドルディが苦笑した。
その時だった。
突如として雪の中から大口を開けてパックンチョが飛び出して来た!
「うわぁ!?」
辛うじて先頭のカービィはそれを避けた、が。
バキンッ!
「…へ?」
「…あ?」
1番後ろにいたアドと大王。
その二人の足元が砕け、二人は氷のクレバスに放り出された。
「きゃああぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
…どうやら、そこは元々地割れしていた部分のようだった。
「あ…アドしゃん!」
「大王様!?」
リボンとワドルディは慌ててクレバスを覗き込んだが、そこには闇が広がっているだけだった。
「…んっ…いったぁ…」
アドは目を覚ました。
そこは崖の途中にある洞窟の中だった。
奥には深い闇が広がっているが、上から光が差し込んでいる。
どうやら、それほど落ちてはいないようだ。
「気が付いたか?」
「え?」
目線を上げると大王がいた。
アドは彼の腹に頭を乗せる恰好で横になっていた。
「…ケガは?」
「…ない…よ」
「…そうか」
それだけ言うと大王はフッと息を吐き出した。
「………」
アドは目線を落とした。
「…旦那?」
そして気付いた。
「…足…どうしたの?」
彼の右足はパックリと割れていた。
「あぁ、それか。見た目の割にたいしたことねぇから」
彼は笑うが、どう見てもたいしたことある。
「…痛くないの?」
「…まぁな。…でもな…どーにも力が入らねぇんだ…お前を抱えたまま…空を飛べそうにもない…。悪ぃな」
「…旦那は…悪くないよ…」
アドは起き上がってポケットからハンカチを取り出し、大王の右足に巻いた。
「悪い」
「お互い様よ」
アドは膝を抱えて大王の隣に座る。
「あーあ…今日はクリスマスなのに…」
わざとらしく彼女は言った。
すると
「故郷を離れて遠く…主の元に星は導く…行く手には煌めく星が新しい夜明けを告げる…」
と、突如大王はポツリポツリと呟くように歌を唄い出した。
「何?その歌…」
アドが聞くと大王は
「昔…チキューから来た奴が教えてくれたんだ。なんでもクリスマスってのは救世主が生まれた日なんだと」
と答えた。
「ふーん…」
アドはあまり興味がないようだった。
その時だ。
「チチチッ」
一羽の小鳥のシャーベスが二人の前に現れた。
「旦那、あれ…」
「迷子…いや、迷小鳥か?」
「チチチッチッチー、チーチーチーチーチーチーチ」
小鳥はさえずり出した。
その旋律は先程大王が唄った歌のものだった。
「あ、上手ー。ね、旦那。この子…きっと一緒に唄いたいのよ」
アドは大王を見た。
「はぁ?ま…まぁ構わねぇけど…俺、音痴だぞ?」
「私も一緒に唄うわよ、唄える曲なら」
アドは微笑んだ。
「ったく…しゃーねぇなぁ…じゃあ…」
大王は一旦息を止め、唄い出した。
「真っ赤なお鼻のトナカイさんはー…」
「もっと難しいのでも唄えるよ」
アドは「馬鹿にしないでよね」と言ってぶぅっとふくれた。
「悪い悪い」
大王はニヤリと笑い次の歌を唄い出す。
「清しこの夜…星は光り…」
「あ、それなら知ってるよ!」
今度はアドも同調して
「…すーくいーいの、みぃーこーはーまーぶねーぇのなーかーに…」
唄い出した。
歌詞の分からない部分はそれとなくごまかしつつ。
「チーチッチーチチーチー」
小鳥も旋律を奏でた。
ひんやりとした洞窟に、温かい雰囲気が流れる。
…やがて…
「二人共大丈夫!?」
巨大なシャーベスに乗ったカービィたちがそこにやってきた。
「なんか歌が聞こえたから…良かった…無事みたいで…」
カービィはへらりと笑った。
「チチッ!」
小鳥が巨大シャーベスに飛び付く。
「キュイッ!」
巨大シャーベスは大きく哭いた。
「…母鳥か?」
大王が言うと、それに応えるように小鳥は
「チチッ!」
と鳴いた。
「ね、デデデ。ここでクリスマスパーティーしようよ」
カービィが提案した。
「外さ、吹雪が凄いんだ。止むまででいいから…ね?」
「あ、それ賛成!」
「オイラも同意ッス!」
「アタチもクリスマシュやってみたいでしゅ!」
「…ま、反対する理由がねぇな」
大王は微笑んだ。
「そうと決まったら!」
アドは筆を握り、ケーキやツリーを描き出した。
歌を唄い、鳥の声と鐘が響く。
リップルスターを救いに行く途中で起こった小さな小さな物語…。
「MerryMerryX'mas!」
<FIN>
クリスマス小説。
ウチの旦那はツンデレです。
最終更新:2010年02月19日 15:26