持てない花束

…俺は…アイツに笑うてもらいたいだけなんや…。


<持てない花束>


『――それでは週末お天気だYO!YA!MrシャインとMrブライド、共に師走の風邪DEお休みSA!よって当分全域曇り、時々キマグレ雨降るかもNE!全てはクラッコの気分次第SA!それじゃあ続いて他星のお天気ノリノリいってみよう!チェケラッ!』

ブチッ。

無駄にテンションの高い天気予報が流れるラジオのスイッチを、彼―――ポピーブロスSrは溜息をつきつつ消した。
「…お兄ちゃん…お空…晴れないの…?」
彼の弟であるポピーブロスJrが言う。
「…みたいですね…」
「そんなぁ…。せっかくお正月にヒカリモモバナが咲きそうだったのに…」
ポップスター原産の『ヒカリモモバナ』は一定の光を吸収することで花開くことで知られている。
ポピーブロスJrは屋上で育てている花の、その開花を心待ちにしていた。
今にも泣き出しそうな弟を兄はただ宥めるしかなかった。



「どーしても無理か?」
「どーしても無理だな」
ここは天空の地バタービルディング。
「いいか、大王。お前の言い分も分からんことはない。しかし、だ。俺には元旦に『初日出』という大仕事があるんだ。今無理をして、そちらを蹴るわけにもいかん」
彼―――Mrブライドは突然やってきたデデデ大王に対してこう言い放った。
その顔には無数の黒い点が浮かんでいる。
どうやら体調を崩した為、いつもより黒点が多いようだ。
「元旦に咲くヒカリモモバナの美しさは、天空の地である此処からでもよく分かる。それが見られんというのは少々残念ではあるが…仕方ないだろう?」
「確かに、初日出には代えられんからな…」
大王は立ち上がった。
「邪魔したな。風邪、さっさと治せよ」
「あぁ。貴様も風邪には気をつけてな」
「御生憎様だな。俺は馬鹿だから風邪なんかひかねぇんだよ」
「威張って言うことか?」
ブライドは苦笑した。
「次に来る時は菓子折りくらい持って来いよ」
彼が冗談混じりで言った台詞を大王は後ろ手で手を振ることで返した。



「あ、大王様!Mrブライドの具合は…どうでしたか?」
ブロスの言葉に大王は黙って首を横に振った。
「…そう…ですか…」
ブロスはハァッと溜息をつき、曇り空を眺める。
「…ポピー…毎年あの花が咲くの…楽しみにしとったのに…」
いつの間にか染み付いた方言が零れ出した。
「ホンマどーにかならへん?俺…アイツの泣き顔だけは見とぉないんや…」
「………」
俯くブロスに対して、大王はしばらく考えてから
「おい、ブロス。ちょっと耳貸せ」
と何やら思わせぶりな顔で言った。



―――数時間後、クラッコの本拠地クラウディパークにて…。

「クラッコさん、クラッコさん」
一人のスターマンが絶賛営業中のクラッコに声をかけた。
「なんだ?生憎シャインとブライドが病に伏した故、我には暇がない。用件は手短に願う」
クラッコは雲を生産し、分散させ、時折雨なんかも降らせながら言う。
「はぁ…じゃあ手短に言いますけどぉ…カービィが攻めて来ましたよぉ?」
スターマンはパークの入口を指差しながら言った。
「…何ッ?」
これにはさすがのクラッコも驚いた。
「何故カービィが攻めて来るのだ?その所以はなんだ?」
「知りませんよぉ。とにかく我らスターマン部隊はほぼ壊滅状態です。ブロンドバート部隊も時間の問題かと」
スターマンはピッと敬礼をして
「じゃあ私も身を投げ出して来ますね。もしカービィがここまで来てしまったらその時はすみません」
と言い残し、入口へと飛び立った。
「………」
クラッコはしばらく考えてからコクラッコを生み出し、入口に送った。
そして数分後、コクラッコの反応は消えた。
「………何故に此の地へやって来るのだ?カービィ…その所以は何だ?我は何もしておらんと云うのに…」
クラッコが独り言を呟くと実にタイミングよく声がした。
「見付けたよ、クラッコ!」
ハイジャンプをコピーしたカービィがそこにいた。



―――同時刻、ベジタブルバレー上空

「大王様、こっち側は回収完了ッス!」
「こっちも完了だ」
ワドルディとワドルドゥが白くて大きな袋をいっぱいにして言った。
「おぅ、ご苦労だったな」
大王は大王でそんな袋を5つも抱えている。
彼等はプププランドの空に浮かぶ星という星を回収していた。



―――さらに同時刻、レッドキャニオンにて…

「…出来ないことはない」
サスケは短く言った。
その隣でラッカも頷く。
「兄貴も人が悪い。『出来ないことはない』んじゃなくて『確実に出来る』んでしょ?」
大砲から上半身だけを覗かせて、ジャックが短く言う。
「…仕事に『確実』や『絶対』はない。いつ何が起こるか分からんのが人生の醍醐味だ」
サスケはそう言って向かいに座っているブロスを見た。
「…期日は?」
「大晦日までにお願いします」
ブロスは凛とした表情をサスケ向ける。
「…大晦日、か。来週末までだな。了承した」
サスケは立ち上がった。
「…いい『素材』を頂いてまで、仕事を蹴るわけにもいかない。不肖サスケ、この仕事確かに請け負った」
そして、そう一言。



…そしてそれからしばらくの間、プププランドは太陽も月も星も雲も出ない不思議な天気が続いた。

…そして、1週間後の大晦日が来た。



「…はぁ…」
『今年』も残り数時間となった頃、デデデ城の屋上でポピーブロスJrはジョウロ片手に溜息をついた。
その先にあるヒカリモモバナは枯れてはいないものの、つぼみは依然として固く閉じられたままだった。
「…雲は何故だか晴れたけど…お星様も出ないなんて…」
ポピーは済んだ黒い色をした空を見上げた。
「…明日はお正月なのに…せっかく咲きそうだったのに…」
彼はその場に座り込んでしまった。
その時だ。
「ポピー!」
屋上の入口に兄が立っていた。
「…お兄ちゃん?」
「ポピーに…渡したいものがあるんです」
「…僕に?」
「はい」
ブロスはそう言って微笑んだ。



「クラッコさぁん、大変ですよぅー」
クラウディパークにて、頭に包帯を巻いたスターマンがパークの奥にいるはずであろうクラッコに言った。
「…何がだ?」
「………」
スターマンはしばし沈黙した。
何故ならそこには何やら仰々しい魔法陣の中央に張り付けられたクラッコがいたのだから。
「…クラッコさん、どーしたんですか?」
「…カービィにやられた。スマンが陣の円周上にある釘を1本抜いてはくれぬか?このままでは動けん」
「…はぁ…分かりましたけどぉ…ひょっとしてこの前カービィが攻めて来た時からずぅっと張り付けられてたんですかぁ?」
スターマンは釘を抜いた。
意外とあっさりと抜けたが、抜いた瞬間に魔法陣は崩れた。
「…まったく…カービィの奴め、何故に我の動きを封じようなどと…」
クラッコはモコモコと動き、パークの端に向かおうとしたが
「あぁ、クラッコさん。そういえば大変なんですよ。空見て下さい」
とスターマンが彼を引き止めた。
「…何?」
クラッコはパークの端へと赴き、下を見た。
「…なっ」
そして驚き、やがてニヤリと笑った。
「成る程…我を封じた所以は此れであったか…」



「見ろよ、シャイン」
「なんだ?ブライド」
Mrシャインは体を引きずり、ビルディングの端に来た。
「今宵の真夜中までにはまだ早いが?」
「違う。…見ろよアレ」
ブライドは下を示した。
「…おぉっ…!」
シャインが感嘆の声を上げた。
「…やってくれたな…大王…」
ブライドは下を眺める。
「…今年の花も美しい…」



「…ポピー、これ持って下さい」
ブロスがポピーに渡したのは丸めた紙だった。
ちょうど、花束を包むものによく似ている。
「で、ここに立って下さい」
「こう?」
ポピーは城壁の近くに立った。
「そうです。そしてその紙を持った手をこう伸ばして…」
「………?」
疑問詞を浮かべながらポピーは言われた通りにした。
すると…

…ォォォンッ…

塗り潰したような澄んだ黒い空に、桃色の花が咲いた。

「…わぁっ…!」

それは花火だった。

それも一輪ではない。

立て続けに打ち上がる桃色の花たちは、光のない夜空を光で溢れさせた。



「すごいすごぉい!」
カービィはぴょんぴょんと跳ねた。
「ホント、見事ッス!」
ワドルディも感心している。
「…ジャック…次…三尺玉…」
ラッカが玉を放り投げ、大砲にスタンバっているジャックに渡した。
「まさに職人技よねぇ…」
アドレーヌが呟いた。
「まったくだな。礼を言う。無理言って悪かったな」
大王はサスケに言った。
「…礼には及ばん。むしろ、職人として、これだけ完璧な舞台を整えて貰ったことに感謝している」
サスケは微笑んだ。
「…さぁ、やるぞ!年の納めにこの夜空に大輪の花を!」
そして空に花火を放つ。
「おーっし…じゃあ俺らも準備するか」
大王は白くて大きな袋を取り出した。
「OK!最後のスターマインが終わった直後にこの星たちを空に帰してあげるんだよね?」
カービィが同じような袋を持ったまま言った。
「あぁ。年の瀬の一大イベントだ」
大王はニヤリと笑った。



「綺麗…」
ポピーは花火を見ながらポツリと言った。
「ポピーの育てた花が見られないのは残念ですけどね」
ブロスは自嘲気味に笑った。
「うぅん。そんなことないの。だってお兄ちゃんがこんなに綺麗なお花を見せてくれたもん!」
ポピーは兄に飛び付いた。
「ありがとう!お兄ちゃん!大好きなの!」
「…ポピー…」
ブロスはゆっくりとその小さな肩を抱きしめた。
スターマインがパラパラと落ち、無数の光の粒子たちが空へと戻っていったのはそんなさなかだった。



「たーまやー」
カービィは空へと上がって行く星たちを見上げながらそう叫び、フと思い出したように大王を見た。
「あ、そうだ、デデデ」
「なんだ?」
「来年もよろしくね!」
「…まぁ、考えといてやるよ」
「何それぇー!」



皆さん、よいお年を!

最終更新:2010年02月19日 15:27
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