Past 奪われた匣。
塗りつぶしたような真っ黒な景色が続いている。
時折見える点々はおそらく恒星だろう。
「………」
ドロッチェは窓枠を指でなぞり、ほくそ笑んだ。
目的の惑星まで、あと少しだ。
そこへ到達すれば『夢』が叶う。
彼はそう信じていた。
「団長。その星に行けば、俺らの探してるモンが手に入るんスか?」
サングラスの赤いスカーフの少年…スピンが彼に話しかけてきた。
「あぁ、勿論だ。『大いなる力を得られる秘宝』は…我々が頂く」
「…だん…ちょ…。そスたらオデ…かスこくなれっか?」
もたつくような舌足らずな喋り方はストロンだ。
「あぁ、きっとなれる」
「はやく…はスれるようになっか?」
「あぁ」
「ま、ストロンは速く走れたとしても、俺の方が速いだろうけどな!」
「…やってみな…わかんね…」
「分かるもん。それにさ」
スピンはひょいとストロンの上に乗っかった。
「お前は速く走れなくてもいいよ。お前にはその腕力があるんだから」
そしてこんなことを言う。
「ドロッチェや」
「ドク」
ドロッチェが振り返ると博士のドクがいた。
「ポップスターまでまと少しぢゃ。いよいよ叶うのかのぉ、主の『夢』とやらが…」
そう言ってドクは自慢のひげを撫でた。
「…そのつもりだ。スピン、ストロン。侵入ルートと作戦を確認したい。付いて来い」
「はいよ」
「…んだ」
…今日は平和だった…はずだった。
朝起きて、飯食って、仕事して、茶を飲んで、また仕事して…。
有意義なくらい有意義だったのに、なんなんだ?この騒ぎは。
「大王様!大変ッス!!!」
部下のワドルディが部屋に駆け込んでくる。
先ほどから、城内はやたらとかしましかった。
「何があったんだ?」
「か…か…かかかカービィさんがッ!!!」
台詞が噛み噛みだ。
「カービィ?カービィがどうかしたのか?」
「大王様、何もやってませんよね!?お星様盗んじゃったりとか、食べ物強奪しちゃったとか…してませんよね!?」
「してねぇよ」
「じゃあどうしてカービィさんが半泣きしながらファイター状態でここに殴りこみに来るんですかぁ!!!」
「はぁ!?」
俺はハンマーを担ぎ、慌てて廊下に飛び出した。
その時だ。
「うわぁ~ん!!!」
バギッ!
突如飛んできたカービィの左ストレートが、俺の顔面を襲った。
「………」
叫ぶ暇もなく、床に崩れ落ちる俺。
「デデデ!!!」
かまわずカービィは俺の胸倉をつかんだ。
「僕のおやつ返してよ!ふんわり甘ぁ~い、苺の乗ったショートケーキ!楽しみにしてたんだからぁ!!!」
「…何の…話だ…?」
俺は鼻血をガウンのすそで拭きつつ(幸いにもガウンは真っ赤なのであまり目立たない)言った。
「しらばっくれないでよ!デデデが盗ったんでしょ!?僕のショートケーキ!!!」
「この星の何処にお前から食い物を盗むなんて命知らずな芸当をする奴がいるんだ?」
俺は上体を起こした。
と、その時だ。
不意に、嫌な予感がした。
「………」
「デデデ?」
「…チッ」
俺は立ち上がり、階段を駆け下りた。
「ちょっ…何処行くの!?デデデー!!!」
向かった場所は地下室だ。
地下3階にある、俺しか入ったことのない…。
そこの扉が破られていた。
そして、その扉の向こうには…。
「…なんだ、てめぇら?」
見慣れない連中が居た。
「これはこれは…貴殿が大王閣下ですかな?」
赤いシルクハットを被った、リーダー格らしき男が言った。
「ふぇ…お城にこんな場所があったんだぁ?」
後ろからカービィが入ってきたのが分かる。
が、それどころじゃあない。
「…他人様の城に忍び込んで何の用だ?」
「いえ…少々気になる噂を耳にしましてね」
「噂?」
「この城に…『大いなる力が得られる秘宝』がある…という噂です」
「そんなもんはねぇ」
俺は言い放った。
「ここには…そんなものありゃしねぇよ」
「しらばっくれんなよ!おっさん!ネタは上がってんだぜ?」
シルクハットの後ろにいるサングラスのガキが言った。
「…だん…ちょ…。はこ…みづげだ…」
図体のでかい眼帯の男が宝箱を抱えて言った。
…ってあの匣は!?
「ご苦労、ストロン。では大王閣下。我々は先を急ぎますゆえ…これにて失礼!」
そういうと眼鏡にひげの男が何やら機械をいじり始めた。
…この野郎…瞬間移動でもする気か!?
「…させるかっ!!!」
俺は近くにいたカービィを引っつかみ、奴らに向けて放り投げた。
「…へ!?」
シュンッ!
次の瞬間、奴らはカービィ共々消えた。
「………。ちっ…またややこしいことに…」
俺は部屋に戻り、電話を掴んだ。
かける場所は…あそこだ。出てくれるかは分からないが。
………がちゃり。
『…もしもし?』
出たな。
「俺だ」
『………』
「…って待てこら。今切ろうとしただろ?」
『生憎貴様に構っている程暇ではない』
…相変わらず人付き合いの悪い奴だ。
「まぁ、聞け。今少々ややこしいことになった」
『私には関係ない』
「おおありだ。…っつか、このままじゃこの宇宙が危ねぇ」
『随分必死だな?』
「ったりめーだろ。…とにかく恥を忍んでお前に頼みがある」
『なんだ?』
「…俺の城に隠してあった匣を…取り返して欲しいんだ」
『…匣とは…例のあれか?』
「あれだ」
『………』
「俺が行ってもいいんだが…さっき手違いでカービィに襲撃されてな。部下の大半が怪我したもんだから、城を離れるわけにはいかねぇんだ。…頼む」
『…分かった、了解しよう』
「メタナイト、恩にきる」
俺は受話器を置いた。
「…ふーっ…」
ったく…何故平和な日は長続きしないのだろうか?
最終更新:2010年02月19日 15:31