お菓子な大騒動

それはある平和な春の日の話――
「うわあああああああああああ!」
カービィの家から、けたたましい悲鳴が聞こえる。
『か、カービィ、どうしたんです?』
グーイが尋ねるとカービィは冷蔵庫の前でわなわなと震えながら
「ぼ、僕の……僕の取っておきのショートケーキが失くなってるー!」
と叫んだ。たしかに、冷蔵庫はもぬけの空だ。
「誰が……一体誰が僕のケーキを……」
カービィはショックに震えているが、グーイは冷静に
(あー、前にもあったな、こんなこと)
と考えながら
『あのぅ、カービィ……』
と彼に話しかけようとしたが、カービィはまったく聞く耳を持たず
「そうか! きっとデデデだな! くっそぉ……あのワガママツンデレイタコペンギンめ!」
と勝手に断定する。
(あー、前にもこんなことが……)
グーイはそう思いながら再度カービィに声をかける。
『あの、ですからカービィ……』
しかし思い込んだカービィはもう止まらない。室内に置いてあったワープスターに乗り込むと
「そうと分かったなら、いざ鎌倉ああああああ!」
と、訳の分からない雄たけびを上げて、屋根を突き破り、デデデ城の方へと飛んでいってしまった。

一方そのころ、ふさの付いた帽子に、渦巻きの文様が付いたガウンを着たデデデ大王は自室にてタンスの中を調べている真っ最中だった。そこへ
「大王様ぁ」
と、ワドルディが走ってくる。
「どうした?」
大王が聞くとワドルディは汗だくで
「そのぅ……カービィさんがすごい顔で城内に……。大王様、何もしてませんよね?」
と言う。
「はぁ? 俺、何もしてねぇぞ?」
大王がそう答えるや否や、カービィが部屋に飛び込み、大王の頭に蹴りを入れた。
「デデデ! ケーキ返せえええええ!」
その見事な蹴りにより、大王の後頭部にこれはまた見事なたんこぶが出来上がる。
「何の話だ! いきなり人のことフルボッコにしやがって!」
大王が叫んだ。
「うるさい! ケーキは何処だ!」
カービィは聞く耳を持たない。
「俺が知るか! 前にもあったぞ、こんなこと!」
「ケーキぃ……」
「ボコる前に確認しろっての……」
にらみ合う二人を見かねて、ワドルディが
「まぁまぁ、お二人とも、お茶でも飲んで落ち着きましょう」
とティーセットを出して言った。お茶請けに羊羹とカステラが一切れずつ用意されている。
「――で」
お茶を飲んで幾分か落ち着きを取り戻した大王が言う。
「つまり、お前のケーキがまた失くなって、お前はまた俺を疑った、と?」
『また』を強調して大王が言う。カービィはうなずいて
「今日のおやつにと思って、昨日食べるのをグッと我慢した大事な大事なショートケーキなんだ。なのに朝起きたら……」
と言った。
「話は分かったが、何故俺を疑う」
「日ごろの行い」
「……」
大王は思わずカービィを殴りそうになったがグッとこらえて
「言っとくが俺は知らんぞ。大体俺だって探し物の最中なんだ」
と言う。
「え、そうなの?」
カステラを食べながらカービィが尋ねると大王は
「いつもと格好が違うだろ?」
と言った。
「デデデの格好なんていちいち覚えてないよ」
カービィがさらりと言う。その態度に大王は結構イラッとしたが、なんとか堪えて
「……朝起きたら、いつもの帽子とガウンが失くなってたんだ。だから今着てるのは予備だ」
と説明した。カービィは「ふーん」と呟き
「でもデデデじゃないなら誰がケーキを?」
と言う。
「いつぞやのネズミ軍団じゃねぇのか?」
大王が言うと同時に、その額に矢文が突き刺さった。
『冤罪だ。 ドロッチェより』
「……どうやら違うみてぇだな」
大王はワドルディに絆創膏を貼ってもらいながら言う。
「と、なると誰がそんな命知らずなことを……」
大王はそう言って羊羹を口に入れた。
「まったくだよ」
カービィも口をもぐもぐさせながら言った。
「……カービィ?」
大王が怪訝そうな顔で言う。
「なぁに?」
相変わらず口をもごもごさせながらカービィが答えた。
「お前、さっきカステラ食ってたよな?」
「うん」
「ここにあったのは羊羹とカステラだ。羊羹はさっき俺が食ったから……お前、何食ってんだ?」
「……」
大王の問いかけにカービィは答えない。見ると、救急箱を片付けていたはずのワドルディがいない。
「だいおーさまぁー……」
カービィの口の中から、か細い声が聞こえた。
「吐けええええええ!」
次の瞬間、大王の肘鉄がカービィに炸裂したのは言うまでもない。勢いよく吐き出されたワドルディの体をタオルで拭きながら
「ったく、油断するをすぐこれだ!」
と大王が怒鳴った。
「ごっめーん。雑魚見るとつい食欲が」
「人の部下を雑魚言うな!」
「あ……あのぅ、大王様ぁ……」
ワドルディがびくびくしながら言う。
「おぅ、どうした?」
大王が問いかけるとワドルディはよだれまみれの帽子を取り出して
「これ……カービィさんのお腹の中で見つけましたぁ……」
と言った。それは大王が失くしたはずの帽子だった。
「あっれー? なんでそんなものが?」
カービィがきょとんとした顔で言う。
「……カービィ、ちょっと向こう向け」
大王がただでさえ低い声をさらに低くして言った。
「こう?」
カービィは大王に背を向ける。
「ああそうだ。それでいい」
大王は静かにハンマーを構え、カービィの背を強打した。途端にカービィの口の中から、大王のガウンが吐き出される。
「何でお前の腹ン中に俺の帽子とガウンがあるんだよ!」
「いやぁ、僕にもさっぱり」
カービィは殴られた頭をさすりながら笑顔で言った。
『ああ、やっぱりここでしたか』
そこへやってきたのはグーイだ。
「あ、グーイ。どしたの?」
『「どしたの?」じゃありませんよ、カービィ、帰りますよ』
グーイは平然と言う。
「え? で、でもでも、まだケーキが……」
カービィが言うとグーイは呆れ顔で
『ケーキなら昨日の夜中に自分で食べてたじゃないですか』
と言った。
「え?」
驚くカービィと大王。
『僕は見ましたよ。真夜中に冷蔵庫からケーキを取り出してほうばるカービィの姿を。……その後、いきなり外出して、一時間くらいしてからふらふらと戻ってきて何事も無かったかのように寝ていたじゃないですか』
「ぜんぜん覚えてなかった」
カービィが「てへっ」と可愛らしく笑った。
「……夜中のうちに城まで来て、俺の帽子とガウンまで食ったってことか」
大王が呆れ顔で言う。
『僕は今朝から何度も説明しようと思ったのですが……』
グーイはため息をついた。
『カービィがご迷惑をおかけしました』
そして彼は大王に頭を下げる。
「また来るねー」
カービィは笑顔で言った。
「当分来るな」
大王ははき捨てるように言う。


「あー、今日も一日楽しかった!」
その日の夜、カービィは布団を用意しながらそう言った。
『まったく……カービィ、今度から人の話はちゃんと聞いてくださいよ?』
グーイが言うとカービィは
「うん、分かってる分かってる」
と答えて、くしゅんっ、と軽くくしゃみをした。
『風邪ですか?』
「わかんない」
そう答えてカービィはくしゃみとともに口から飛び出した物体を見て
「あ」
と小さく呟いた。それは、見覚えのある丸い仮面だったのだ。


「艦内中探しても見つからんとは……一体何処に行ったんだ、私の仮面……」
「き……きっとそのうち見つかるだスよ!」
「メタナイト様、ファイト!」


<FIN>



MLのお題小説です。
テーマは『お菓子』のはずなのですが、なぜかこんなことに。
カービィは絶対にトラブルメーカーだと思う。
そしてグーイは苦労人。
旦那はもっと苦労人。
最終更新:2010年02月19日 15:35
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