月の旅路の物語

リーシュは、吸血鬼だ。
それで僕は狼男。
僕らは月の一族で、僕は13だし、リーシュは年齢教えてくれなかったけど、明らかに10歳は超えているだろうから、僕らは一番大切なものを失くしている。
僕は寿命を失くしてるからあと2年しか生きられないらしいし、多分リーシュは心を失くしている。
多分、と言ったのは彼が彼自身のことをあまり語らないから。
洞窟の中とかで寝ている時によく寝言は言ってるけど…。
そう、今だって…。
『ルルナ…ル…ルナ…』
ルルナ。
よく彼はその名を口にしている。
それが誰なのか、僕は知らない。
けれども、きっとその『ルルナ』は彼にとっての『ララ』だったのだろう。
ララって言うのは、僕の一番大切な子。
…死んじゃったけど。
彼は、ルルナを呼びながらいつも泣いている。
それに時折謝ってる。
『スマナイ…』って。
多分…リーシュが失ったものは大きすぎて、失くしきれてないんだろう。
僕は、目を閉じた。
普段のリーシュは、何も感じてないみたいだ。
今日の晩ご飯のときだって、僕が魚を捕まえて(モチロン生で)齧ってたらリーシュのヤツ、ズルズルと死体の首筋に牙を差し込んだままを引きずって心臓えぐりだして食べてたもん。
『…リーシュ、なんだよ、その死体…』
僕が聞くと、彼は一言。
『たべかす』
と答えた。
…眠っているときの彼は、どうなんだろう?
心が戻るのか、僕の知らない彼になるのか…。

夢を見た。
満月を背景にした公園のベンチで一人の少女が絵を描いている。
少女の背後には黒髪の少年がいて…ってゆーか、その少年はどっからどう見てもリーシュだった。
『ルルナ、今日は何を描いている?』
彼は、少女に聞いた。
「ん?向こうの教会よ。綺麗でしょ?」
『………。基督教は嫌いだ。十字架を見ると吐き気がしてならない…』
彼は不服そうに呟いた。
「あははっ。ゴメンゴメン、リーシュは吸血鬼だったよね」
少女は苦笑した。
…この子が、ルルナ…?
リーシュの、大切な人………。
彼女は、スケッチブックのページをめくった。
「じゃあ、違うもの描くよ。教会は昼間に描く。リーシュ、なんか描いて欲しいもの、ある?」
『………』
彼は、黙って道ばたの花を指した。
「…月見草?」
うなずくリーシュ。
『……おかしいか?』
「ううん、君らしいなぁ、と思ってさ」
ルルナはペンを動かす。
リーシュは、笑っていた。
僕が今まで見たことのない表情だった。

そこで、目が覚めた。

『ルルナ…スマナイ…ルル…ナ…』
リーシュはまたうわ言を呟いていた。


また違う日、死んだ小鳥を見つけた。
僕は無視したんだけど、リーシュはそれを拾ってしばらく眺めていた。
それで、僕は見てしまった。
リーシュが涙を流していた。
『………』
顔は、いつも通りの何の感情もない無表情なんだけど、たしかに涙は流れていた。


それから…、いろいろあった。
おもしろい子たちとも出会った。
バカみたいに必死な子たちだった。


僕は、死んだ。

『…まだ…若いのに…』
『いいんだ☆僕は…満足だよ』
僕は、迎えにきた死神に言った。
死神のくせに泣いていた。
『えっと…月の一族、ですか?』
『うん☆一族の代償でさ、大切なもの失くしちゃうんだ』
『…酷な話ですね…』
死神は言った。
『うん…』
連れてこられたのはだだっ広い部屋。
半透明の魂たちがたくさん浮かんでいた。
『…あの…魂の量が多すぎて死神の手が足りないんです…。順番が来たら呼びますから、ちょっと待ってて下さいね…』
死神はそう言って僕に一礼して出ていった。

ただボンヤリしていた。
『リーシュ…元気かなー…』
数日前、僕は彼と別れた。
寿命がなくなるから、どうしてももう一度、逢いたい子がいたから。
だから僕は彼と別れた。
彼は何も言わなかった、多分何も感じていなかったんだと思う。
僕は苦笑した。
きっとアイツのことだ、僕のことなんてもう忘れているだろう。

その時だった。

だだっ広い部屋にまた誰かがやってきた。
『………リーシュ…?』
僕は言った。
『…タスク、か…?』
彼は、答えた。
間違いなく、彼だった。
『どうしたの?ってゆーかなんで死んじゃったの!?』
『いや…話せば長くなるのだが…』
彼はしどろもどろした。
初めて見る反応だ。
『それに何故お前がいる?いきなり「もう君と一緒にいるのはやめよう」などと言い出して…。本当は、止めたかったぞ…』
彼は照れくさそうに言った。
『…リーシュ…』
僕は、話した。
僕が失ったもののこと、ララのこと、彼と別れた理由…。
ずっと旅をしてきて言えなかったこと、聞きたかったこと、全部話した。
『…何故、今まで黙っていた…?』
『だって、君に言っても何も反応しないんだもん☆おもしろくないよ☆』
『私は…』
彼は話し始めた。
『私は、あの日…心を失くしたあの日から、ずっと霧の向こうにいるような…なんと言うか…ずっと漠然としたところにいると言うか…』
彼は頭をかいた。
『………どうも…話すのは苦手だ…』
『いいよ、ゆっくりで☆』
『そうか…?で、続けるが、それで、お前の言うことにも反応したかったのだが、どうもできないと言うか、なんと言うか…』
『そうだったんだ…』
僕は軽く伸びをした。
『なんか…不思議な気分だよ☆』
『え…?』
『だって、リーシュとこうやって話したことないじゃん?』
僕はマジマジと彼を見た。
『ねぇ、リーシュ』
『…なんだ?』
『えへへっ、大好き☆』
そう言ったら彼はビックリするくらい大きくのけぞった。
『ちょっと待てタスク!悪いが…私にそんな趣味はないからな!』
『あの…変な意味じゃないんだけど…』
僕は、笑った。


<FIN>

オリキャラのリーシュ&タスクのお話。
最終更新:2010年02月19日 15:39
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