吸血鬼の理由

『………』
リーシュは深刻な顔で考え事をしていた。
『…リーシュ、どしたの?只でさえ恐い顔、さらに恐くしちゃってぇ…』
『………』
タスクが聞いても無反応。仏頂面は変わらない。
彼等が現世に戻って3日が過ぎた。
タスクも始め(と言っても彼の場合は初日の30分だけ)は戸惑っていたけども、3日も過ぎるとさすがに慣れる。
でも、リーシュは…
『…なァ、タスク…』
ようやくリーシュが口を開いた。
ほとんどが白と黒のその体がゆっくりと上体を起こす。
『なぁに?』
『例えば、の話だぞ?いいな?』
『だからなぁに?』
『いいか?一度お前が誰かに殺されたとして、で、もう一度生き返って、その殺したやつと出会ったら…どうする?』
何を聞きたいかはサッパリだったが、タスクは一言。
『僕なら殺し返すけど?』
と答えた。
『…そうか』

この時、タスクは知らなかった。
この一言がどれほどまでにリーシュを傷つけたかを…。

「ねぇ、この辺で黒髪の男の子見なかった?10歳くらいなんだけどさ」
タスクが森でそんなコトを聞かれたのは夕方。
リーシュはまだ寝ている。
『見てないよ☆』
彼は正直に答えた。
「そう…ありがと」
タスクに声をかけた少女はそう言って哀しそうに微笑んだ。
『大切な人なの?』
「うん、まぁね」
『僕の大切な人も黒髪なんだぁ☆歳は18くらいだろうけど』
タスクは微笑んだ。
「へぇ…どんな人?」
『えっとねぇ…冷静沈着なのに、どっか抜けてて、ちょっぴりオジン臭くてぇ…でも大好きなんだ☆』
タスクはたまにストレート過ぎる気がするが狼なのでしかたがない。
「そうなんだ…。アタシの大好きな子もね、オジサン臭いの、アタシより年下なのに」
少女は苦笑した。
『へぇ…僕はタスク☆よかったら僕も探してあげるよ、君、なんて名前?』
「あ、いいの?ありがと!アタシはルルナよ。探して欲しいのはリーシュって男の子」
『…え?』
タスクは固まった。
「…どしたの?」
ルルナが聞くと彼は深呼吸して答えた。
『…リーシュって…僕の言ってた人なんだけど…』
「…え?」


「じゃあリーシュのお友達なんだ?良かったぁ…アイツ仏頂面だから友達いるのか不安だったの」
ルルナは微笑んだ。
洞窟内で、事情を聞いた二人はすっかり打ち解けていた。
『えへへっ☆でもビックリだなぁ、リーシュにこんな可愛いカノジョがいるなんてさ☆』
「かっ…かのっ…て…そ…そんな…!!!」
『アッハハー☆ルルナってば真っ赤っかー☆』
「……///」
と、その時だった。
奥の方からギギィと音がして、リーシュがやってきた。
『あ、リーシュおはよう☆今宵は可愛いお客さんが来てるよ☆』
『…む…?』
リーシュはフッとルルナを見た。
しかし、その表情に変化はない。
「久しぶり、リーシュ」
ルルナが笑顔で挨拶しても、彼は何も言わない。
やがて…
『…ルルナ、スマンが帰ってくれ』
リーシュはそう言うが早いか、再び奥へと引っ込んだ。
「…え?」


『リーシュのバカァ、なんであんなつれない態度取っちゃったのさ?』
タスクは言った。
『彼女も月の一族なんでしょ?だから戻ってきたんでしょ?しかもカノジョなんでしょ?あの娘、この世に戻ってきてから真っ先にリーシュのコト探してたのに、君と来たら…』
『タスク』
ベラベラと喋りまくるタスクにリーシュは静かに言った。
『…彼女は、純粋な月の一族ではないんだ…』
そう、一言。
『…へ?』
タスクは固まった。
『彼女は本来人間だったんだ。なのに、私が殺してしまった。だから…彼女は…本当は戻って来れるハズがなかったんだ。だが、その人間としての自分を捨てることで、彼女は戻ることができたんだ…。私が…私が殺さなければ…そんなことせずとも良かったのに!』
リーシュは叫んだ。
『………殺したの?』
タスクは聞いた。
『…ルルナに聞かなかったのか?』
コクンッとうなずくタスク。
『一言も言ってなかった』
『そうか…』
リーシュは短く言って、続けた。
『思い出したくないのかもな…。あのような忌ま忌ましい出来事…』
リーシュは額に手を当てた。
『…夢を見るんだ、繰り返し…』
『…夢?』
『満月の夜の公園のベンチにルルナがいる。私は彼女に駆け寄って、彼女を食らう。大量の彼女の血液が飛んできて、私はいつも目が覚める…』
フッと彼は息を吐き出した。
『…夢の中で、私は何度も何度も彼女を殺めるんだ』
『…だから会いたくないの?』
『会わせる顔がない』
『…ふーん』
タスクは立ち上がった。
『あ、そうだリーシュ』
『なんだ?』
『ひょっとして夕べの質問てこのこと?』
その問いに、リーシュは結局、何も答えなかった。


『ルルナ』
タスクは彼女を呼んだ。
夜の岬の崖っぷちで、彼女は絵を描いている。
「あら、タスク。どうしたの?」
『リーシュにいろいろ聞いてきた。あの、リーシュさ』
「分かってる。アタシを殺しちゃったこと…まだ悩んでんでしょ?」
ルルナは微笑んだ。
「バカよね…リーシュってば…全然気にしてないのに…」
『そうなの?』
「えぇ、だって大切なモノを失くすから、アタシを殺したんでしょ?つまり、リーシュはアタシのコトを一番大切に思ってくれてたってコトじゃない」
ルルナは笑った。

『…本当に…怒ってないのか?』
そう言って物陰から不意にリーシュは現れた。
「やっぱいたんだ?」
ルルナは微笑んだ。
『ほらァ、やっぱルルナ怒ってないじゃんかぁ!』
タスクは叫んだが、リーシュはゆっくりとルルナに近寄る。
『本当に…何とも思ってないのか…?憎くないのか?殺したいとは思わないのか?私のこと…』
「う~ん…」
ルルナは頭を掻いた。
「何とも思ってないことはないんだけどね。私にも心がある」
彼女は微笑んで背伸びしてリーシュをマジマジと見た。
「大きくなっちゃって…前はアタシのが高かったのに、なんか悔しいなぁ。でもあどけなさはそのままよね、やっぱ可愛い」
『…他は…?』
「他?あるわよ、一番大切な感情…」
彼女はゆっくりとリーシュの唇に自分の唇を重ねた。
『………!?』
突然のコトに戸惑うリーシュと口笛を吹くタスク。
「……また会えて嬉しいの、大好きよ、リーシュ!」
そう言って彼女は彼に飛びついた。

<FIN>



現世に戻ってきてから、リーシュとルルナが再会するまでのお話。
タスクとリーシュはすぐ会えたんだけど、リーシュはルルナに対して様々な葛藤が…。
どうでもいいけど、ルルナって大人だよなぁ…。
最終更新:2010年02月19日 15:40
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