「…大王様」
体温計片手に、大王の秘書のポピーブロスシニアは短く言った。
「あン?」
当の大王はベッドの上で上体を起こした状態で頬杖をついていた。
「…39度7分…完全に風邪ですね。今日は安静にしてて下さい」
「…言われなくてもそうさせてもらう」
「…ったく…」
大王の言葉にポピーブロスシニアは突然口調を変えた。
「だいたい兄ィは昔っから無茶し過ぎなんや。ちったぁ自分の体のことも考えて下さいよ?せやないと、いちいち心配してるこっちの体力が保ちまへんわ」
そう言ってから彼はまた『営業モード』の顔に戻り
「じゃ、お昼になりましたらお粥持ってきますから、それまで寝ててくださいねー」
と言い残し、部屋を出た。
どうやら、デデデ大王が風邪を患ったらしかった。
<風邪引我侭僕之特等席>
「カービィさーん」
ワドルディがトントンと扉をノックした。
「ふぇ?」
眠気眼のままカービィがひょっこりと顔を出す。
頭にはナイトキャップ。…どうやらもう朝の10時だというのに、彼は寝ていたらしかった。
「…あ、起こしちゃったッスか?」
「ううん、いいよぉ」
カービィはそう言って目をこすった。
「ならいいんスけど…。ね、カービィさん、一緒に缶蹴りやりませんか?イマイチ人数揃わなくて…」
「うん、いいよ。…ってあれ?今日はお城の皆でハイキング行くんじゃなかったの?僕…夕べ一生懸命お弁当作ったのに」
「あぁ、それなんスけどねぇ…」
ワドルディは苦笑した。
「大王様が風邪を引いちまったもんッスから、お流れになったんスよ」
「…へ?」
カービィは驚いた顔でワドルディを見た。
「…デデデ…風邪引いちゃったの?」
「はいッス。ここんとこ忙しそうだったッスからねぇ…。まったく…頑張り屋と言うべきか、意地っ張りと言うべきか、無計画と言うべきか…」
そこまで言ってワドルディは不意に『しまった!?』と思い、カービィを見た。
「………」
案の定、カービィは今にも泣き出しそうな顔で立っていた。
「あっ、で…でもでも!たいしたことないッスから!せいぜい熱がちょぉーっと高いくらいッスから、安静にしてりゃあ直ぐ治るッスよ!だからカービィさん、そんな顔しないで下さい!」
「…ごめん、ワドルディ…」
「…はい?」
「僕、今日は君と一緒に遊べない!」
そう言うが早いか、カービィはナイトキャップを脱ぎ、リュックを背負ってワープスターに飛び乗ると、そのまま何処かへと行ってしまった。
「…やっちまったッス…」
ワドルディはその場ではぁっとため息をついた。
「…ッ!デデデッ!!!」
バンッ!と勢いよく扉をぶち破り、カービィが部屋に入ってきた。
「…なんだ?」
大王は上半身を起こした状態で読んでいた本から顔を上げた。
「…えっと…風邪って聞いたから飛んできた…」
カービィはへどもどしながら言った。
「…じゃあ、さっさと帰れよ。感染るぞ」
「ヤだよ!僕…今日はデデデと一緒にお弁当食べるって決めたもん!」
「はぁッ!?」
大王は思わず叫んだ。
次の瞬間むせる。
「げほっ…げほっ…。お前…ひょっとしてそれはアレか?ハイキングのことか?」
「そだよ。僕も一緒に行こうと思って用意してたんだ」
「………」
大王はふっと息を吐き出し
「…ちゃんと来週行くから安心しろ。分かったなら今日はもう帰れ」
と言った。
「ヤだよ」
カービィは即座に答えた。
「僕…、今日は特等席でお昼食べるって決めたもん」
「…特等席ぃ?」
大王が聞くとカービィは
「うん」
と言ってベッドの上に上ると、ひょいと大王の上に乗っかった。
「…っておい、そんなとこ乗ったら本気で風邪感染るぞ」
「いいもーん。風邪引いたってデデデに貰ったんなら悲しくないもーん」
「はぁ?何だよ、それ」
「へへへ…」
カービィはふわぁっと欠伸をした。
「デデデー、僕眠くなっちゃった。ちょっと寝て、御飯食べて、それから帰るから」
「…は?」
「じゃ、よろしくぅ~」
カービィはそのまますぅっと眠りに入っていった。
「…ってオイこら!」
大王が起こしても、もはや後の祭り。
「…参ったな…ったく…」
大王はため息をついてから、そっとカービィの頬をなでた。
「ったく…感染るんじゃねーぞ。来週はお前が風邪引いたってハイキング行くからな」
そして、そう一言。
<FIN>
花坂咲也さんへの相互小説ってことで、カビデデですよ、カビデデ。
純情なカービィと鈍感(でも保護者)な大王が大好きです(笑)
きっと翌週には皆で仲良くハイキングにでも行ったことでしょう。
最終更新:2010年02月19日 15:59