クラッコさんのそれなりに長い一日

「………」
彼は鏡を見て唖然とした。
「…い…いったい…一体何が…?」
これは、ある男の長ーい一日のお話。


<クラッコさんのそれなりに長い一日>


「クラッコさぁん、どぉしたんですかぁ?」
ここは天空の地、クラウディパーク。
雲の化身、雷帝クラッコの本拠地であるこの地の天気はいつだって曇りだ。
そこに住む一人のスターマンがポテポテとパークの中央…クラッコがいる場所へとやって来た。
「く…来るなッ!」
ピシャリッとスターマンの足元に雷が落ちる。
「うっひゃあぁ!?」
スターマンは後ろに転んだ。
「く…クラッコさん?何かあったんですかぁ?」
「何も無いわッ!何も!」
「絶対なんかあるじゃないですかぁ」
スターマンはひょいっと起き上がり、またポテポテと歩き始めた。
「だから何も無いと言っておろう!?」
ピッシャアアアァァアンッ!
落雷第二段。
「ひゃあああああぁぁぁっ!?」
スターマンは黒焦げになって倒れた。
「父様、やり過ぎなんじゃないですか?」
コクラッコがフワリと浮かんでクラッコを見た。
「…そうかも知れんが…斯様な姿を晒せるわけ無かろう…!?」
当のクラッコは今にも泣き出しそうな顔でコクラッコを見た。
「…あー…これは酷いですねぇ」
コクラッコはその顔を見て思わず笑いそうになった。
が、今ここで笑ったらスターマンと同じ顛末を辿ることは目に見えているので、頑張ってこらえた。
「しっかし妙ですねぇ…父様が積乱雲になっちゃうなんて」
「…昨日までは…昨日までは何ともなかったのだ!今朝見たら斯様なことに…」
クラッコは普段の5倍は大きな体をふわふわと動かした。
その姿はコクラッコの言うように積乱雲…俗に言う『入道雲』にしか見えない。
「あららぁ…クラッコさんすっかり大きくなっちゃって」
「…あぁ、まったくだ。…スターマン、お前は何が原因だと思…って!?」
クラッコは下を見た。
体中の煤をパンパンと払っているスターマンがそこに居た。
「…貴様…気絶してたんじゃ…」
「何年貴方に仕えてると思ってんですかぁ。慣れましたよ、あれくらいの落雷。クラッコさん、ヒステリー起こしたらいつだってピシャンッですもん」
「………」
クラッコには返す言葉がない。
「しっかし大きくなっちゃってますねぇ」
「スターマン、どうしたら父様が元に戻ると思う?」
「そうですねぇ…」
スターマンは短い腕を器用に組んで「うーん」と唸り始めた。
「…そう言えば、雲ってのは水分の塊ですから、雨を降らしたら小さくなる…と言うことは聞いたことがあります」
「…雨、か…。よし…」
クラッコはパークの端から外へと飛び出した。
作戦その1。
雨を降らせてみよう。
「行くぞッ!」
ザ――――――――――ッ
「…どうだ!?少しは変わったか!?」
クラッコはパークの端に居るスターマンとコクラッコに言った。
「…どう思う?」
「うーん…あんまり変わってませんねぇ…。クラッコさぁん!もーっと土砂降りにしたらどぉですかぁ?」
「こうか?」
ザザザザザザザザザザザザザザザザ――――――ッ
いわゆる、『水がたっぷり入ったドラム缶をひっくり返したような雨』がプププランド全域を襲った。


実は同じ頃、地上ではカービィがグーイ達と共に、川で魚釣りをしていた。
「いやぁ~…今日はいい天気だねぇ…」
「ぐぅ~い!」
カービィとグーイは欠伸を噛み殺しつつ言った。
「今日はブライドが頑張って営業するっつってたからなぁ…」
リックが木陰の下でふわぁ~と大欠伸をしつつ言う。
「…なるほど…それでこんなにいい天……ん?」
木の上のクーが不意に空を見上げた。
「あン?どーしたぁ?」
リックがクーを見上げる。
「…見ろよ」
「あ?」
リックは空を見上げたギョッとした。
突如、空中を巨大な雲が覆い始めたのだ。
「ま…また闇の一族か!?」
「いや…多分違う…アレはただの雲だ」
「…じゃあなんで…」
ザ――――――――――ッ
そうこうしているうちに雨が降ってきた。
「わぁぁぁっ!?雨だぁ!」
「ぐぅぅぅっ!」
カービィとグーイがバケツと釣竿を抱え、リックたちのいる木陰に入ってきた。
「…通り雨かなぁ?」
リックが言った。
「…だといいがな…」
クーが言った、その直後。
ザザザザザザザザザザザザザザザザ――――――ッ
いわゆる、『水がたっぷり入ったドラム缶をひっくり返したような雨』が降り始めた。
「…通るどころかなんか激しくなってない?」
「…だな」
カービィの言葉にクーはやれやれと翼をひらひらさせた。
その時だ。
「んぼぉぉぉぉぉ――――――――――ッ」
彼らの目の前の川でカインが勢いよく流されていった。
「あぁ!?く…クー!た…たたたたたた大変だよ!カインが…カインが流されちゃった!」
「…カインが流されるって…どんなけ流れ速いんだよ…。追うぞッ」
クーは木陰から飛び出した。
「カイン―――――ッ!」


「んー…あんまり大きさ変わりませんねぇ…」
スターマンはクラッコを眺めて言った。
「冷やしたら小さくなんないかなぁ?」
コクラッコがスノッピーを連れて来る。
「あぁ、それいいかもです。クラッコさぁん!ちょっぴり冷やしますよぉ!」
「分かった」
「ではスノッピーさん、お願いします」
「りょぉかいですぅ~」
スノッピーは口からハァァァァァアッと冷気を吐き出した。
大雨はやがて、大雪に変わった。
作戦その2。
雪を降らせてみよう。


同じ頃、デデデ大王はウィリーバイクのドンにブロスを乗せて、ツーリングの真っ最中だった。
「…ったく…急に雨たぁ…ツイてねぇな…」
「ホンマやわぁ。…誰か洗濯物取り込んでくれてるやろか…」
「とにかくさっさと帰るぞ。ドン、飛ばして行く」
「了解でさ」
そう言ってドンは速度を上げた。
と、その時だ。
「…あン?」
大王は空を見上げた。
空から、ちらちらと光る白いものが落ちてきているからだ。
「…雪…?」
「雪ィ?こんな時期に?…ってホンマや…なんで?」
「…知らねぇよ」
ヒョォォォォォォォォオオッ!!!
大雨はやがて雪に変わり、雪はやがて大雪に変わり、大雪はやがて吹雪に変わった。
「旦那ぁ、あっし…チェーン巻いてねぇんですけど…」
「…あっ…」
次の瞬間、ドンはスリップして路面を滑り、3人(2人と1台?)は川へとダイブした。
「ぷふぁっ!んもぉ!なんやねん!この天気ィ!」
「俺が知るか!」
「だ…旦那ァ!あ…あっし…あっし泳げねぇんでさぁ!!!」
「わああぁぁぁっ!?ドン!大丈夫か!?」
大王は慌ててドンのマフラーを掴んだ。
「はぁ…はぁ…し…死ぬかと思いやした…」
「…そりゃあこっちの台詞だ。…ったくなんでこんな時期に雪が…」
「兄ィ」
「あン?」
大王の言葉を遮るようにブロスが彼を呼んだ。
「どーした?」
「…安心すんのは…まだ早いみたいやで」
「あン?」
「あれ、見てみ」
「あれ?」
大王がそちらへと首を傾けるとそこには…。
「んぼぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――ッ!!!」
鉄砲水と共に急速で流されてくるカインが居た。
「………。まずいな」
「…せやね」
「…旦那。とりあえず深呼吸しときやしょう」
「…潜水には自信あるぞ」
次の瞬間、3人(2人と1台)は鉄砲水に飲み込まれた。
雪は、尚も降りしきる。


「んー…ちょっと変わりました?」
「うん、若干小さくなった感じ」
コクラッコとスターマンはマイペースに言った。
「クラッコさぁん。その調子ですよぉ~」
スターマンがクラッコに声をかける。
「…うむ…」
クラッコは気合を入れなおし、さらに雨―――もとい雪を降らせた。
それはやがて大雪に変わり、風を伴いながら吹雪へと変化した。
作戦その3。
吹雪にしてみよう。


「…兄ィ…」
「…なんだ?」
「…なぁんか川の流れが緩やかになってません?」
「…そうだな…」
「…しかも俺…なんか眠ぅなってきましたわ」
「…寝たら死ぬぞ。…多分」
大王は前方を見据えた。
そこには、巨大な巨大な氷の塊があったのだ。
氷塊というものは、水面に出ているのは実は全体の1割に過ぎず、残りの9割は水中に潜んでいるといわれている。
…つまり…。

ガンッ。

大王一行とカインは、水中で氷塊にぶつかった。

「…なんで…こんな季節に…」
大王は鼻血を拭いながら空を見上げた。
「…さては…」


「…やれやれ…やっと元の大きさに戻ったか…」
クラッコは深呼吸をして、再びクラウディパークへと舞い戻ってきた。
「お疲れ様です、クラッコさん」
とスターマン
「しかし結局原因は分からず仕舞いでしたね…」
とコクラッコが口々に言った。
「そうだな。…しかし今日は疲れた。早々に休ませてもらおうか」
クラッコはそう言って大きく伸びをした。
「了解です」
スターマンはそう言って敬礼をするとクラッコの休眠準備のためにその場を離れた。
が、直ぐにとんぼ返りをした。
「…ん?どうしたスターマン」
クラッコが聞くとスターマンは
「カービィと大王一行が鬼気迫る表情でパークの前に仁王立ちしてますぅ」
と告げた。
「…何ッ?」
クラッコはもこもこと動いてパークの入口へと向かう。
成る程、確かにそこにはソードを構えたカービィとその仲間、何故かずぶ濡れのままハンマーを携えた大王と爆弾を抱える彼の部下が仁王立ちで立っていた。
「…何用だ?あいにく今日、我は疲れているのだが…」
「…そりゃあ疲れるだろうよ、あんなに天気を滅茶苦茶にしたんだからなァ?」
大王がいつもの数倍低い声(いつも低いのだが)で言った。
「………ぁ」
クラッコは此処でようやく気が付いた。
今は春先ではないか。
なのに自分は豪雨だの豪雪だの、挙句の果てに吹雪まで降らせた。
「ホントに困っちゃったんだからね!カインは流されるし、釣った魚は逃げちゃうし!」
カービィは半泣き半怒り状態でソードの切っ先をクラッコに向けた。
「ま…待て!あれには理由がだな…」
「「問答無用!!!」」
カービィのソードと大王のハンマーがクラッコを襲った。


「あーらら…」
その様子をスターマンとコクラッコはパークの中から見ていた。
「…止める?」
「止めておきましょうよ。僕らが行くとカービィに食われそうです」
スターマンはそう言って微笑んだ。
「…まぁ言えてるけど…結局原因はなんだったのかな?」
「さぁ?」
スターマンは首をかしげた。


同じ頃、プププランドの端っこの方…カプセルJの工房では…
「むっふふー♪どぉ?新作の人工降雨剤。効果覿面でしょ?」
カプセルJはそう言って助手のギムに白い粉の入ったビンを見せびらかした。
『…強力すぎるだろうよ。雨どころか雪まで降ってきたじゃねぇか』
ギムはそう言って『サビキラーEX』を自分の体の随所に吹きかける。
「うーん…そうかもだけどさ。でもまぁ、一応成功ちゃあ成功っしょ?」
カプセルJは結果に満足しているようだ。
『…実験するのは勝手だが…ちゃんとクラッコたちには許可取ったんだろうなぁ?』
ギムは疑いのまなざしでカプセルJを見た。
「…あ」
カプセルJは短く言った。
『…ったく…』
ギムは呆れ表情のまま窓の外を見た。

雲の切れ間からは、Mrブライドが顔を出していた。

<FIN>


「ってちょっと待て!結局我は貧乏くじを引いただけではないか!」


<本当にFIN>



じゅらさんからのリクエスト『クラッコが出るお話』というわけで、書いてみましたが…
まず始めにごめんなさい(懺悔)
いや、私だってクラッコさん大好きですよ。
でもほら、愛ゆえに弄り倒したくなりまして…(おい)
最終更新:2010年02月19日 16:00
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。