私がお嬢様に初めてお会いしたのは、お嬢様が6歳の時。
お庭の大木の上で幹を背もたれに、燦々と降り注ぐ日差しを浴びて輝くお嬢様を見上げた私は、感動に息を呑んだ。
下界を見下ろす、真っ直ぐで迷いのない瞳。
あの瞳に映りたい――その時から私はお嬢様に焦がれていたのかもしれない。
まるで誰かにその存在を主張するように、お嬢様は常に輝いていた。
当たり前だ。お嬢様以上に努力をする人間を、私は今までに見たことがなかった。
姫宮の娘であるという重圧など、感じているようには見えず。
――私は知りたかった。
お嬢様にそこまで努力させる決意をさせているのは、何であるのか。
いつもお一人で考え、お一人答えを出して、そしてお一人で解決なさるお嬢様が、何を感じ、何を考え、何を必要としているのか。
中学生になっても、千歌音は相変わらず輝いていた。
いや、女性としての魅力が具わって益々魅力的になっていた。
紅を引かずとも艶やかな唇。
憂いを秘めた双眸。
日々の鍛錬で引き締まった肢体。
繊細な音を紡ぐ細くて長い指。
真っ白な首筋。
抱いたら折れてしまいそうな華奢な腰。
着替えを手伝う度、入浴の世話をする度、乙羽は自分の邪な感情を思い知った。
同じ女性であり、一回り以上も年下である千歌音に抱く感情ではない。
ましてや乙羽は千歌音の侍女であり、名前を呼ぶことすら許されていない身である。
しかし、感情は日に日に募っていった。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
ノックからきっちり3秒。
立て付けの良い扉は、軋む音を立てずスッと押し開かれた。
足を一歩踏み入れると、特製紅茶にも劣らない香しさが乙羽を迎える。
窓際の椅子に腰を下ろし、書き物をしていた少女が顔を上げて微笑んだ。
「ありがとう、乙羽さん」
乙羽はテーブルにカップを置き、少女の向かいに腰を下ろす。
少女の指先がカップに絡み、艶やかな口元へと運ぶのを、乙羽はじっと見つめていた。
乙羽さんの入れるお茶はいつもおいしいわね、と少女は満足気に乙羽に笑いかける。
乙羽はハッとして視線を彷徨わせる。
「光栄ですわ、お嬢様」
「千歌音と呼んで欲しいと言ってるのに」
「いいえ、それはできません。なぜなら……」
少女――千歌音は乙羽の主人である姫宮氏のお嬢様であり、そして乙羽は千歌音の侍女なのである。
「またその話?そんな事気にすることないのに」
乙羽と千歌音様の身分の違いについての説明は、うんざり、といった音色にかき消される。
「ですが、お嬢様……」
「2人の時は、問題ないでしょう?」
「ですが……」
「貴女は、私のお姉さんのようだもの。――乙羽さん……ねっ」
真っ直ぐに笑顔を向けられ、頬に熱が集まる。
千歌音の催促するような視線に抗えず、乙羽は少女の名を紡ぐ。
「千歌音。千歌音……」
口に出すのももったいないような、紡ぐだけで幸せになれるような……素敵な響き。
「ふふっ」
嬉しそうに千歌音が笑うから――乙羽も笑った。心から。
――均衡が崩されたのは、2ヶ月後の事。
「ふふっ」
「千歌音、どうかなさいましたか?」
カップを置き、楽しげに笑う千歌音に、乙羽が尋ねた。
「この間、町に行った時に素敵な人と知り合ったの」
乙羽は嫌な予感がした。
こんな顔で笑う千歌音を見たのは初めてだったのだ。
「その方は……男性ですか?」
「いいえ、乙羽さんと同じくらいのお姉さんよ」
写真が生業で、紅茶色の髪をしていて、年上なのに見ていて危なっかしくて、優しく笑う人で、――私と同じネックレスをしていて。
女性であるということを聞いても、乙羽の胸の軋みは減らなかった。
その人物を語る千歌音の表情は幸せに溢れていて、対照的に乙羽の心は黒く染まっていった。
「土曜日に遊園地に行く約束をしているの。何を着ていこうかしら……」
「千歌音」
真剣な声に呼ばれ千歌音はきょとんと乙羽を見つめた。
乙羽は内心の動揺を抑えて言った。
「土曜日までに、お洋服を何着か選んでおきますね」
「ありがとう、よろしくね」
私を待っていてくれる人。
私だけを待っている人。
ずっと、ずっとずっと探していた人。
「千歌音ちゃん……」
姫子は簡素な自室のベッドの上で呟く。
明日が待ち遠しい気持ちと、怖い気持ちが交錯する。
また千歌音と一緒に笑い合える。
また千歌音の傍にいることができる。
でももし、千歌音が記憶を取り戻してくれなかったら……?
もしも、千歌音に拒絶されたら……?
窓の外には白く光る三日月。
姫子は大切な写真が綴じられたアルバムを抱きしめて眠りについた。
夜半。
乙羽は千歌音の寝室にいた。
初めてではない。
眠れない夜に千歌音の寝姿を求めては、何度も忍び込んだ。
「千歌音……」
眠っている千歌音は、穏やかだ。
乙羽は千歌音の寝顔を見ては自分に言い聞かせてきた。
千歌音は女の子で、年下で、こんなに幼い顔をして眠るのだと。
自分は女で、千歌音は姉と言ってくれるが姉にしては年が離れていて、そして自分は千歌音の侍女なのだと。
「愚か者、ですね」
囁くような自嘲に反応したのか、千歌音が身じろぎをする。
ベッドから離れようとしていた乙羽に、切ない響きが届いてしまった。
「ん…ひめ…こ……」
ひめこ。ひめこ。ひめこ、ひめこ、ひめこひめこひめこひめこひめこ
それは明日一緒に遊園地に行くという人物のことだろうか。
千歌音はその人物を呼び捨てで呼んでいるのだろうか。
夢に、見ているのだろうか……。
――いくら私が千歌音と呼んでも、私が千歌音の侍女に過ぎないことには変わらないのに。
私のものには、ならないのに……。
乙羽は固く目を閉じた。
瞼を上げた乙羽は、千歌音の足元からそっとベッドに上がる。
寝乱れた千歌音の髪を掬い上げ、口付ける。
千歌音の頭の両脇に肘を下ろして、耳元で囁く。
「愛しています。お嬢様」
千歌音は眠っている。
人差し指で、千歌音の緩んだ唇を撫ぜる。
「ん…」
くすぐったいのか、千歌音が顔を背けようとする。
乙羽は許さずに、ゆっくりと唇を重ねた。
――柔らかい。
何度も夢想した千歌音の唇。
押し当てるだけでは物足りなくなって、千歌音の唇をちろちろと舐める。
「…?」
千歌音がぼんやりと目を開いた。
何をされているのか、わからないといった表情。
「乙――」
乙羽は舌を潜り込ませて、声を封じた。
寝起きで少し乾いている千歌音の口腔を、濡れた舌でかき混ぜる。
「んっ…!」
振り払おうとする千歌音の腕をつかみ、シーツに押し付ける。
鍛えているといっても、まだ子供。千歌音を押さえ込むのは簡単なことだった。
肘に支えられていた乙羽の体重が被さって、千歌音の身動きを封じる。
「ん……はぁ…お嬢様。貴女は、私のもの……大人しく、なさってくださいね」
「はっ…はぁっ……」
声を出せないでいる千歌音の唇を、再び乙羽が塞ぐ。
奥に引っ込んでいる舌を探り出し、無理矢理絡める。
――熱い。そして、柔らかい。
千歌音を感じて、乙羽の息が乱れる。
千歌音が苦しさに顔を歪める。
押さえつけた手首が、逃れようと力んでいるのを感じる。
今はそれさえも、乙羽の胸を高鳴らせるだけ。
舌を伝った唾液が千歌音の口内で混じり合うのを感じて、乙羽は恍惚とした。
乙羽の膝が千歌音のネグリジェを捲り上げ、太腿の柔らかさを感じた瞬間――
「っ!」
乙羽は跳ね起きた。鉄の味が口に広がる。
「乙羽、さん」
身動きが取れない状況なのに、千歌音の瞳は真っ直ぐに乙羽を見つめて。
「放して。乙羽さん」
何がそこまで、貴女を強くさせるのか。――手折ってしまいたい。
「乙羽さ――」
千歌音の言葉を遮って、乙羽の冷静な声が告げる。
「大声をお出しになられても、誰も気づきません。喉を痛めてしまいます…お静かになさってください」
乙羽は千歌音の両手を左手だけで持ち替えた。
自由になった右手で、千歌音の首筋を撫ぜる。
「や……乙羽さんっ」
ネグリジェの上から弾力のある胸に触れると、千歌音が身を捩ろうとする。
「柔らかい…」
指の中で形を変える感触をしばらく楽しんで、てっぺんのしこりを指の腹で撫でると、千歌音の身動ぎが大きくなった。
「ふふ……ここ、感じやすいのですね」
「やめて…こんなこと……んっ」
布の上からでもわかるほどに硬くなったそれを、乙羽の指が摘むようにこすり上げる。
「ふ…やっ……」
恥じるように顔を背ける千歌音は、乙羽をさらに昂ぶらせる。
「お嬢様……はぁ…脱いでしまいましょうね」
千歌音のネグリジェの肩紐を外そうとするが、両腕を拘束しているせいで腕を抜くことができない。
乙羽は自由な右手と口で肩紐を裂いてしまうことにした。
荒い息が肩口にかかり、千歌音はきつく目を閉じる。
ブチブチという音と、噛み切るような音が響く。
「ふふ、丁度良い」
ちぎった紐で、千歌音の両手を縛り上げてベッドの柱に結びつける。
両手が自由になった乙羽は、ゆっくりとネグリジェを脱がせていった。
「やめて…や……」
羞恥か、恐怖か、それとも嫌悪からか、千歌音の瞳に涙が浮かんだ。
乙羽は呼吸を荒げたまま、ネグリジェを脱がせてベッドの下に放った。
ショーツ1枚の白い肢体が月明かりに晒された。
「お綺麗です……とっても」
乙羽は中学生とは思えない千歌音の美しさに、ため息をついた。
着替えを手伝う度、入浴を手伝う度に、触れたいと思っていたものが目の前にある。
乙羽は千歌音の顎を掴んで千歌音に顔を向けさせると、唇を重ねた。
逃れようとするのを許さず、唇を舐めて舌を受け入れさせようとする。
歯を食いしばって拒絶する千歌音に、乙羽は薄く笑って千歌音の鼻を摘んだ。
「お嬢様、いつまで我慢できますか」
耐え切れずに酸素を求めて開いた千歌音の口に、容赦なく舌が進入する。
歯の裏、頬の裏、歯茎、上顎、全てをねっとりと舐め上げて、怯えた舌に絡む。
「ん…ふぅっ……んっ…」
千歌音が喉を鳴らして唾液を飲み込むのを見て、乙羽は唇を離す。
再び顔を背ける千歌音を放って、乙羽の唇は存在を主張している胸の先端に吸い付く。
ちゅっ…ぴちゃ…とわざと音を立てて攻め立てる。
「ぁっ…んっ……やだっ、乙羽さんっ」
乙羽の左手がもう片方の先端をこね回して、右手は背中からショーツに入り込んで臀肉を弄ぶ。
「お体が、熱くなって参りましたよ。お嬢様」
「っ……」
乙羽の舌が腹部をなぞって降下すると、千歌音の腰が跳ねる。
「ふぁっ…!やっ…!」
閉じようとする千歌音の膝を、乙羽は自分の膝で割って入り込む。
内腿を撫でさすって口付ける。
「お嬢様、下着が湿っておられますわ…」
言いながら鼻先でつつく。
「んっ……うっ…ふ…っく」
ショーツの上から、ねっとりと秘裂を舐め上げる。
「ん…おいしゅうございます……お嬢様…」
「はぁっ…!や、やっ……」
刺激から逃れようと暴れる千歌音の腰を抱えて、乙羽の手がショーツを取り去る。
「あ……」
最後の一枚を奪われて心細くなったのか、千歌音は枕に顔を押し付ける。
「ここも、お綺麗です。お嬢様」
つやつやと光るそこに吸い付けられるように、乙羽の舌が這う。
ぷっくりと膨れた突起を舌でつつくと、千歌音は泣き声のような喘ぎを上げた。
「乙羽さんっ!もうっ…やめて…やっ……!」
「はぁ…もう、我慢できませんっ……」
溢れるぬめりを撫で付けて、乙羽の指が奥へと進む。
「っ……!ぁあっ!」
入り口をかき回すように動かすと、中から愛液が溢れてくる。
舌先でそれを味わいながら、膨らみを舐め上げる。
「ふぁっ…!ああっ……!」
乙羽は指を曲げ、ざらざらとした上壁を引っかくように撫でる。
「くっ…ああっ!ふぅんっ……」
千歌音の高くなる喘ぎ声に答えるように、愛撫を強める。
千歌音が乙羽の指をきゅっきゅっと締め付け――
「ぃっ!…あ――――――――」
乙羽はぐったりとした千歌音に口付けると、にっこりと笑った。
「とても…よかったですわ。お嬢様」
姫子は時計を見て首をかしげる。
千歌音が約束に遅れるなんて、考えられなかったから。
時計台を見て、自分の時計が狂っていないことまで確かめてしまった。
――もしかして何か、あったのかな……。
千歌音の記憶は戻っていない。
もし、なぜ家を知っているのかと聞かれたら…。
しかし、それ以上に胸が騒いだ。
姫子は記憶に残る姫宮邸へと走り出した。